Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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五話

 初めて人を殺した感想は、だなんて問われれば、それよかバレないか心配だったと言わざるを得なかった。

 試運転はしていたものの、本来の出力で射出した右腕のモノワイヤーは非常に恐ろしい性能をしていた。

 振るっただけで引っ掛かる感覚の無いままサイバーウェアごと人体をぶった切れる代物だった。

 ……少しだけ、サンデヴィスタンの副作用と同時に高揚感があったのは確かだが、無双物の主人公はアレを毎日経験してるんだろうなと思うと正気に返れた。

 人目に映らないよう全力疾走で店内へと駆け、居た、見た、振るった、の三動作で惨殺し、他の客が入って来ないうちに事を終わらせるのに必死こいていた事もあって、感慨は割と無い。

 あぁ、うん、デイビッドは凄いな、ルーシーを守るために人を撃てたのだから。

 限界のエッジを越えて、守るために一歩足を踏み出せたあいつはすげぇ奴だ。

 八つ当たりのために、胸に燻る激情を冷やすためだけに、父の仇を討ったオレとは比べ物にもならない。

 そんな事もあり、オレは心的ストレスとサンデヴィスタンの副作用の余韻もあって不貞寝した。

 これ以上絶対に動いてやらんぞと言わんばかりの心地でベッドに倒れた。

 ワカコからのホロコールで起こされたんだけども。

 まぁ、監視か何か居ただろうな、ワカコの事だし用意周到に現地に残してたかもしれん。

 あれ、そうなると本来やるべき事を誰かから仕事を奪った可能性もあるな。

 追及されなかったし、まぁ、良いだろう。

 

「……しかし、原作でサイバーサイコシスの研究をしてる奴が居るって話だったが、オレに声が掛かるとはなぁ」

 

 レジーナ・ジョーンズからの依頼、サイバーサイコを生け捕りしろと言う割と無茶苦茶な原作にあるミッション。

 こうして銃火器に囲まれている生活を送っていると生き死にの薄さも理解できるため、割と本気で頭おかしい依頼であると断言できる。

 実の父親が頭を吹っ飛ばされてるしな、ははっ、ナイトジョーク。

 施術室から生活スペースの狭間にある重厚な扉を開くと、地下への階段が露わになる。

 元々、父が鬱を悪化させて自暴自棄や暴れ出した時を見越して、物置をこっそり改築したものだ。

 照明を点けると手術台と施術台が合体したようなごちゃっとした拘束台が鎮座しており、周りにある機材は全て分析と解体などの生命医療系機材ばかりだ。

 

「んー、我ながら秘密基地って感じだ。フィンの所に横流しした甲斐があったと言うもんだ」

 

 フィン・ガースタット、ジグジグストリートの奥に居る廃品でやりくりするリパードクの男性。

 うちに施術に来る奴らで取り換えを希望した者から引っぺがしたクロームの行き先でもある。

 ぶっちゃけ、他人が使ったサイバーウェアと言うのはゴミ箱に入った使い捨ての注射器と変わらない。

 それ故に分解して部品に代えて売っぱらったりするのが普通なのだが、分解する手間と売値が釣り合っていない事もあり、テッキーとして見るもの見たらフィンの所に売り払っていたのが現状である。

 あの見た目でフィンは気持ち悪がられ、けばけばしい趣味の悪さから敬遠される日々を送って来た。

 そんな処に自分の趣味を理解して受け止めてくれて、尚且つ廃材漁りで大当たりしないと出て来ない代物を卸してくれるリパードクの少女が現れたらどうなるだろうか。

 結果はこの通り、ずぶずぶのマブダチにして共犯者だ。

 うちの父を馬鹿にしてフィンガーズ送りにされたタイガークロウズのチンピラは、あいつのところで成人男性の肉体構造を目で見て検分するための教材と成り果てたとワカコが知ったらどうなるんだろうな。

 結局のところ、タイガークロウズは父を守ってくれなかった。

 そんな使えないギャングに囲われてしまっている以上、自分の身は自分で守るのが適当だ。

 

「変人には変人の良さがある、人には見えぬ何かを見える目はきっと面白い」

 

 軍用試験モデルのモノワイヤーをフィンがドヤ顔で拾って来た時は割と本気で驚いたものだ。

 闇リパーに流されていた代物で、受け子として腹部に入れていたらしいが銃撃戦で死亡。

 その死体からサイバーウェアを剥ぐためにフィンの所に二束三文で売られた事で発見できたらしい。

 そして、それをそっと取り置いて、オレへの誕生日プレゼントとしてくれるあたり地味に好感度が高い。

 まぁ、廃材品をやりくりするよりもグレードを高くできるし、品質が上がれば評判も上がる。

 変な死体や末期患者を送ってくるような企業の奴らよりもよっぽど貢献度の高いオレにくれた訳だ。

 ぶっちゃけ、オレとしては廃棄費の節約としてフィンに安値で卸していた事もあり、付属品の恩がたっぷりと売れていた訳だ。

 と、言う事で早速フィンにホロコール、仕事中で無ければすぐに取るあたり友人いねぇなこいつ。

 

『はいはい、どうしたんだいジャグ。何の要件だ、また荷下ろしの準備を手伝えば良いのかな』

『おっすおっす、いやなに、面白い案件を受ける事になったからさ、少し手伝ってくれないかなーって』

『ふぅーむ、その様子だと危険性はあんまり無さそうな様子だ。して、内容は?』

『生きたサイバーサイコ弄ってみたくねぇ?』

 

 まるで悪ガキが悪戯に加担するように提案するかのような気軽さで、オレはフィンにそう言った。

 

『……へぇ、随分とまぁ、変な趣味をしてる。ジャグらしいが』

『お前と友人の時点で類友だろー? んで、どうだ。基本的にこっちの地下でやる予定なんだけど、最初の患者は二人でやらね? 一応、サイバーサイコシスの治療っていう題目だから』

『治療? 治療と言ったか今。あのサイバーサイコシスの治療? ははは、できっこない。我々の機材よりも遥かに上等な企業でさえ実態を掴めていない症例じゃないか。やるだけ無駄だ』

『いんや、こればっかりはオレらの領分さフィン。あいつらは医療がメインで、テックの事にはド素人だ。毎日患者の接合部を弄り回るオレらだからこそ分かる事だってある。サンデヴィスタンの装着が医療行為になると思うか?』

『……それはまぁ、確かに。流石に遠隔で手伝わされた身からすれば、なるほど、確かにと言わざるを得ないな。反射神経ブースターなどと銘打っているが、あれは正しく医療に唾を吐いた副産物だろうしな』

 

 お互いに悪い笑顔を浮かべ始めていると自覚しながら、天然珈琲のインスタントを淹れながらオレは笑う。

 この街に産まれてしまった以上、手を汚さずに綺麗に生きていく事なんてできやしない。

 だからこうして、汚れた手を差し出しては握り返す、損得を度外視した友情を探したくなる。

 

『……良いだろう。此方の定休日に合わせてくれると嬉しいが、早めに教えてくれるとありがたい』

『おっけー、機材はもう色々と作ってあるから安心してくれて良いぜ。治療と言う肩書きで目を瞑ってくれている訳だから、好き勝手しねぇと損だからな。楽しみにしてるぜー、フィン』

『ふっ、君ぐらいだからな私の名をちゃんと呼んでくれるのは。ご期待に添えるよう尽力しよう』

 

 ホロコールを切ってから、珈琲を口に含む。

 前世で味わった酸味と苦味のコントラストが見事に調和している。

 やーっぱこれだよこれ、人工合成珈琲とか下痢みてぇなもんだもんあれ。

 一口舐めて捨てたからなあんなゴミ商品、絶対に外では飲まん。

 

「さて、日頃サイバーサイコシス手前の患者を扱ってるフィンの手伝いが得られたのは僥倖だ。まぁ、原作では結局サイバーサイコシスの研究は進んでいないし何も分かってない状態な訳だし、オレらが分からんでも問題はあるまいて」

 

 サイバーサイコシス。

 それはサイバーウェアが普及し始め、全盛期を越えた頃から症例が上がり始めた奇病の事だ。

 不可能が可能になり始めた昨今ではあるが、人の身体はそれについていけるだけの進化が進んでいない。

 サイバーウェアを取り付けた事により免疫機能が働き、インプラントを異物であると排除しようとする動き。

 神経に直接繋いでいるようなテックにより脳機能が異変を起こし、副作用などによって重症に陥る動き。

 そして、人工部品への依存。これは文字通りの意味で、免疫機能がヨシっした部品を取り換えようとして、取り換え先が異物として判定されてしまう事例が確認されている。

 世間一般的にこれらがサイバーウェア社会における問題として挙げられており、更なるインプラントで無理矢理適合させたり、欠陥と分かっていながらも持病の如く受け入れて使用したりして、無茶を通そうとした。

 その結果、人格の変貌や自暴自棄によって暴れ回ったり、衝動に突き動かされる人形の様になってしまう者も居た。

 それこそがサイバーサイコであり、サイバーサイコシスの発症者とされている。

 事例としては躁鬱状態に似ており、破壊衝動や殺人思考などの鬱的な破滅願望を持ち得ながら、周囲を壊して殺して回る活発的な躁状態がミックスされていると分析されていたりもする。

 

「故に、未だにサイバーサイコシス症例の研究は進んでいない。そのメカニズムを誰も解き明かしていない」

 

 オレが思うに、サイバーサイコシスと言うのは解離現象と言えないだろうか。

 暴れ回るサイバーサイコたちの在り方は誰も彼も正気を失っており、被害者面して自己防衛を過剰している。

 生身の自分と冷たいサイバーウェアとの境目が混線し、機械の方へと自意識が偏ってしまい、藁をも掴む一心で掴んだそれが防衛反応だったとしたら。

 原作のチャットログを見るに、誰も彼もが盲信状態にある事が窺える。

 自分を守るために、殺される前に殺す。

 あいつが悪いから、殺さねばならない。

 自分はそう言う存在だから、そう在らねばならない。

 どれもこれも思い込みの産物であり、それこそが掴んでしまった藁であるとすれば。

 

「では、軍用試験モデルのサンデヴィスタンを過剰使用していたデイビッドと、全身をインプラントしているのにも関わらず自身を保ち続けたVとの差異とは何か、と言えば必ず上がるのがジョニーの存在だ」

 

 ゲームだから、アニメだから、と決めつけてしまえばそこで終わりだが、何らかの意味があったとすれば。

 ジョニー・シルヴァーハンド、五十年前のアラサカファッキンロッカーボーイにして希代のテロリスト。

 または、《Relic》に眠る人格コンストラクト。

 サイバーウェアをインプラントする事により、人間と機械の境目が、いや、天秤が傾くとすれば、それを横合いからちょいっと天秤を押して人間の方に戻せるのが原作のジョニーの存在だ。

 言うなれば遊戯王の遊戯とアテム、遊馬とアストラルであり、悪落ちしかけた所を頬を叩いて精神分析してくれるような存在が居た、と言う事だ。

 頭の《Relic》が自己修復を促して治してくれてるんじゃねぇのとも思ったが、あれって実際ジョニーの身体に作り替えているだけで要らなくなった部分を取り換えているに過ぎないんだよな。

 短小デショーン、ネットウォッチデリート爆弾、ラインのウイルスBD、といい割と死に損なっている原作Vだが、間一髪を救われていると言うよりも、自身の残りを対価にジョニー変換をして生き延びているだけに過ぎないので過分な期待はできない。

 故に、オレの見立てでは離人感・現実感消失症に躁鬱病がミックスされ、精神を自立できなくなった事での暴走ではないかと憶測したい。

 サイバーサイコになってしまう最後の階段を踏み外さない仕組みを考えるとなれば、サイバーウェアに偏った精神をビンタするような装置を作ると言うのがテッキー目線での治療法、と言うか予防策だな。

 ……痛み、とか? 痛いのは生きている証拠だ、的な。

 サイバーサイコシス発症の予兆が見られたら電流が流れて人間部分痛いっと正気に返らせる的な?

 自分で考えておきながら大分適当だが、割と間違っていない気もするんだよな。

 一つの方向に思考が偏っている時に、それ以上の何かで思考が途切れたら案外どうにかなる気がする。

 夢の内容を思い出そうとしている時に、友人と別の話をし始めたら夢の残滓を追えなくなるように。

 なら、サイバーサイコシスの発症予兆って何よ、となるのだが、これがさっぱり分からん。

 ぶっちゃけ全員カウンセラー付けてセラピストもセットで診断した方が予防策になりそうではある。

 ただでさえこの街は孤独になりやすい場所なのだ。

 最低でも一人、隣に居てくれる誰かを信じられる事が出来たなら踏み止まれるのが人間と言うものだ。

 デイビッドがサイバーサイコ化し始めた原因も心の支えになっていたルーシーが離れたせいのようなものだし。

 自分が人間じゃなくなっていく不安を分かち合う人を作る事、多分これが最適解なのだが、割と難しい。

 このナイトシティでは尚更に、愛情や友情と言ったものは手に入り辛いから。

 

「……だからまぁ、アダム・糞スマッシャーの選択肢も正解っちゃー正解なんだよな」

 

 人間である事を手放して、人間の形をした機械になる、と言うのはある意味極端な例だが正解でもある。

 非日常に触れる程、自身の出来る事が人間から解離していけばいく程、サイバーサイコシス発症の危険性は高まる。

 一部のインプラントだけの者は前者であり、常日頃から異物を抱えていると言う違和感が膨れ上がっての事だろう。

 インプラントが馴染む馴染まないの問題では無く、人の身体から掛け離れる行為だからこそ解離が進む。

 故に、非日常を日常とすれば、天秤の上を乗り移る事で落ちるのを防げたりもするだろう。

 

「サイバーサイコシス、またの名を人間解離忌避症ってところかね。レポートのタイトルにしよーっと」

 

 ……または、オレの様に非現実的なそれらを現実に落とし込み、そういうものであるとメタ張るのも手だ。

 憶測や予想は揺れ動くが、知識になれば動かないし俯瞰できる。

 弱い波が強い波にぶつかって揺らぐのが悪いのであって、であれば凪の様に最初から静かであれば受け流せる。

 ――良いかいジャグラ、施術の時は精神をフラットに、何事も受け止めれるようにしておくんだ。

 そんな、元気だった頃の父さんの残した言葉をふと思い出し、奥歯を噛み締める事しかできなかった。

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