Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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五十一話

 《機龍》の件は任せろ、だなんで啖呵切ったのは良いが、安請け合いしたのはまずかったかもな。

 だなんて事を考えながら、一階に降りた俺は居住スペースで時間を潰す。

 ジャグラはワンオペで疲れた身体を休ませるために三時休憩を取るので、それを終えた方が機嫌が良いだろう、と言う皮算用だった。

 時刻も15:30を越えたので、廊下から施術室の方へと歩いて行く。

 そして、扉の前の紐を引っ張って鈴の音の合図を送る。

 お客さんが女性だった場合の事を考慮して俺が取り付けたものだ。

 中から、入って良いぞー、と言うジャグラの声を聞いて、扉を開くと椅子に座ってリラックスしてるのが見えた。

 ……のだが、なんかピリピリしてね?

 

「て、手伝いに来たぜ」

「へぇ、時間に理解のある有能な助手は好きだぜ。……はぁ、それで隠してるつもりかアホ。何か聞きたいんだろ、言ってみろ」

 

 椅子の背凭れに背を任せ、顎を上げて此方に蠱惑な笑みを浮かべて振り返ったジャグラにちょっとドギマギしつつ、諦めて全部ゲロる事にした。

 これが一番早いし、何よりもジャグラはしょーもない嘘を嫌うからな。

 優しい嘘とハッタリの嘘は許すらしいけど。

 

「は、ははは……、ジャグラには勝てないな。ヴィットから《機龍》の調査を請け負ったんだ。……だってほら、黒幕じゃん?」

「黒幕と言う程の悪事はしてないがー? まぁ、大体の事は分かった。どうせヨリノブから《Relic》の事を聞き出す算段だったんだろ。……なぁ、デイビッド。様式美は大事だと思うか?」

「へ? 様式美? ……って何?」

「あー……、そうだな、サイバーパンクには銃が必需品だ、だから持っておこう、みたいな、これがアレだからこうしておこうって言う指針みたいな感じの概念だ」

「成る程? んー、なら大事なんじゃないのか? 要するにお手本って事だろ」

「ふむ、なら夜にでも聞きに行くか。アポを取っておいてやるよ。って事で神宮寺にスーツを買いに行くぞ?」

「……は? いやいや、リパーは?」

「知るか、明日だ明日」

「いや、明日水曜日で休日ぅ!?」

 

 最近のジャグラは何というか自由になった。

 こうして仕事を投げる事が増えた。

 前はリパードクである事を誇りに感じていた様な雰囲気だったが、今じゃ面倒だけど仕事だからやる、くらいにランクダウンしている。

 ……まぁ、明らかに金銭面で働かなくても良いくらいに稼いでるからだろうけども。

 正直リパードクしてるのってタイガークロウズへのメンツを潰さないためで、辞めて布団でゴロゴロしたいと思ってるんじゃなかろうか。

 そんなこんなで、緊急性のある患者だけを診た後、後はデラマン医療サービスの方へぶん投げた。

 

『お召し物はお取り替え致しますか?』

「いや、別に良いだろ。デラマン、車を回してくれ」

『畏まりました』

 

 執事メイド服のデラマンがカーテシーをして、ジャグラのお出掛けの準備をすべく戸締りをし始めた。

 ……成金坊ちゃんと従者の図だなぁ、この光景にも見慣れてきた感じがするな。

 ジャグラのクリニックはクイックハック対策にアナログを採用しているから戸締りに少し時間が掛かる。

 前は俺も手伝っていたが、デラマンが《デラマンズ》のメイドを使って完璧に戸締りしているので邪魔しないようにジャグラの隣に立って待つ。

 ……なんかたまにジャグラからふわっと良い匂いがするんだよな。

 前に一緒に冷麺を食べた時に乗っかってたレモンみたいな、爽やかでありながら渋みがあるような、何処か落ち着く匂いがする。

 俺の視線に気付いたジャグラが殺人的な可愛さの小首傾げをして心臓破裂で死にそうになる。

 ナチュラルにやるからなぁ、自分の容姿に無頓着と言うか相手から見た姿を全く計算してないと言うか。

 

「ん? あぁ、匂いか? これはデラマンから貰った香水でな。レモングラスの香りだ、中々良いだろ。心が落ち着く気分になれる」

「香水? ……あぁ、水に匂いを付けたあの高級な奴か。中々お洒落だな、良い匂いだと思う」

「そうか、なら暫くは付けてみるか。殺伐とした客共も少しは落ち着くだろ」

「……タイガークロウズの奴は無理じゃねぇかな」

 

 俺たちの姐さんが色気付いて!? このガキぃ! と難癖付けられるのが目に見えている。

 俺らの関係を邪推する奴多いんだよなぁ。

 リパの助手以外は護衛だっつーの、サンデヴィスタン付けてからモノ言えよな。

 

『お待たせ致しました。戸締り完了です、虫一匹も侵入は不可能です』

「ありがとう、デラマン。よし、行くか」

「ああ……」

 

 あの高級志向な神宮寺で買い物をすると言う事は、ドレスコードのある店に行くと言う事他ならない訳で。

 地味に胃が痛くなってきた。

 ジャグラに言えば、お前の背中に入ってる奴の方が高価だぞ、なんて言われてしまうんだろうなぁ。

 デラマンがカスタムデラマンの後部座席のドアを開き、ジャグラが乗ったのを確認してから運転席へ移動する。

 ……何とも言えない気分で後部座席に座り、ドアを自分で閉めた。

 地味に辛辣と言うか、デレるのはジャグラだけだと言い付けられてる気分になる。

 まぁ、そんなコント染みた事でジャグラがくすくす笑ってくれてるからマシか。

 

「なんだデイビッド。何か言いたげだな」

「いんや、別に。最近ジャグラが楽しそうで良かったな、って思っただけだ」

「ふぅん? そうか? 自分では分からんなぁ」

「笑ってくれてる方が良いよ俺は。顰めっ面してるよりかはさ」

「あー……、気付いてたのか。ヴィットの野郎、三時の休みに起床五分前にホロコールしてきやがったんだよ」

『万死に値しますね。給料カットを推奨します』

「しないしない、そこまでの事じゃないさ」

 

 ゆっくりと発進したデラマンの運転は丁寧かつ静かで、隣のジャグラの息遣いが聞こえる程に上手い。

 ジャグラの専属運転手でもあるデラマン。

 タクシー業で蓄積した運転データを元にしてるからこその技量と言うべきか。

 すいすいと流れるスモーク越しの風景を見送りながら、僅かな時間を使って考えてみる。

 最近のジャグラに違和感を感じる理由を、だ。

 ヴィットが心臓をぶち抜かれたあの日の後、手術を終えて蘇生が完了して眠りについた頃からだ。

 目を覚ましたジャグラは普段の完璧さを少し崩す様になった。

 具体的には今日みたいにリパードクの仕事を投げる事が増えた。

 作業内容的には変わらないのだが、積極的な営業を止めて、テックの勧めを止めた。

 三時の休憩は前も取っていたが仮眠を取る様になったりもしたな。

 後はデラマン医療サービスの設営に伴って、サイバーサイコシスの研究を完全にデラマンに投げたのも衝撃的だった。

 ……いや、それはバイオテクニカ製の薬の影響を抜くところから始めないといけないと分かったから、待つのが面倒になっただけか。

 そして……、なんか、俺への接し方が一段階甘くなったと言うか、フレンドリーになったんだよな。

 男として意識していると言うよりは、仲の良い友達として認識し始めたと言うべきか。

 今回の件だって前のジャグラならホロか何かであっさりと片付けた筈だ。

 いや、相手にオフィスに来させるくらいはした事だろう。

 まるで、人格に何かが混ざったかの様な……。

 悪い感じではなく、純粋に善良な感じの変わり方なので、遅過ぎる思春期に入ったみたいな……、駄目だ、上手く言えない。

 外を眺めるジャグラは何処か楽しそうで、まるで出掛ける事に楽しさを見出している様にも見える。

 まぁ、兎も角良い変化をしていると言えるのは間違い無い。

 以前までのジャグラはキンキンに冷えた水の様だったが、今のジャグラは体温くらいにぬるくなった。

 

『目的地に到着致します』

「あぁ、運転ありがとうデラマン。ほら、行くぞデイビッド。さっさと覚悟を決めろ」

「あ、あぁ、一張羅くらいあるべきだろうしな」

「……それもそうだな。ふむ、買うつもりは無かったが……、オレもドレス買っておくか」

「ジャグラがドレスを? ……めっちゃ似合うと思う」

「そうか? あまり女らしいのは好みじゃない筈なんだがな……。何故だか、買わないといけない気がしてな」

 

 外に出たデラマンに後部座席を開けて貰ったジャグラが出る前に、護衛の仕事をこなすため先に出る。

 辺りを見回し、サンデヴィスタンで対処出来ないくらい近かったりする奴を探すが見つからない。

 狙撃ポイントになりそうな場所にも視線をやるが、それらしいシルエットは無かった。

 デラマンに問題無しの視線をやり、頷きを返された。

 ……まぁ、俺よか高性能な目玉をしてるだろうしな、望遠は流石に負けるし。

 普段の格好のジャグラが何の躊躇いも無しに神宮寺に向かったのに合わせて隣に寄る。

 俺らの格好を見た紳士スーツ姿のアニマルズっぽいガタイの良いのが訝しげに見てきたが、目を見開いてから背筋を伸ばして深々とした綺麗な一礼をしてきた。

 ……やっぱジャグラの知名度やべーな。

 機械油や塗料の臭いのするオーバーオールにヴィンテージジャケットを着た奴は普通叩き出されるだろうにな。

 神宮寺の店員はアニマルズの男の突然の行動に困惑していた様だが、視線に入ったジャグラを見て納得がいったのか揉み手をしながら近づいて来た。

 近付き過ぎず、護衛側に寄る事で不埒な真似はしない、と言う意思表示なのだろう。

 多くの著名人も利用する神宮寺だからこその、高級な接客術と言う訳だ、素直に感心してしまう。

 

「ようこそおいでくださいました、貴女程のお方にご来店頂き、光栄の極みで御座います。宜しければお召し物の相談に乗りますが、如何致しましょうか」

「……ふむ、そう畏まらなくても良いぞ。お前はオレの部下って訳でも無いしな」

「いえいえ、大事なお客様に最大限の礼節を振る舞うのは当然の事でございます」

「そう言うもんか。分かった。今日はこいつの紳士スーツとオレのドレスを買いに来た。護衛を兼ねているので動き易く、あるなら装甲付きの物を仕立ててくれ。オレのは暗色で背中が隠れる奴なら何でも構わない」

「畏まりました。では、お連れの方とお隣になる様に試着室へとご案内致しますね。VIP用のブースがありますので、どうぞそちらへ」

 

 受付に居た店員が目配せすると、奥から女性店員が現れてジャグラと俺に華麗な一礼をした。

 配慮もばっちりな訳だ、流石神宮寺。

 女性店員の案内で店の奥へと向かうと、高級な試着室……と言うか接待部屋の様な場所に通された。

 机の上にはホログラム装置があり、女性店員はそれを操作して起動した。

 いつのまにかスキャニングしたのか、ホログラムにはマネキンめいた俺らが浮かび無表情な顔を晒していた。

 

「当店自慢のフィッティングシミュレータです。お客様の身体情報等は身長と輪郭のみ使用されております。必要であればシステムデータの開示も行なっておりますのでお気軽にお申し付けくださいませ。これからお渡し致します端末で、お好みの商品データを此方に反映させてお選びください。試着をご希望でしたら試着室がそちらに備わっていますのでご利用くださいませ」

 

 女性店員は説明を終えると入り口の壁近くに立ち、待機の姿勢になった。

 ……受け取った端末でホログラムの俺を着飾ってみるが違いが全く分からない。

 どうしたもんかと隣を見やれば、思考操作でスロット宜しく商品データを切り替え続けるジャグラの姿があった。

 時折気になったドレスがあったのかホログラムを回転させるが、背中側に不満があったようでまた高速ホロ試着が始まった。

 再び端末と向き合った俺は、条件検索に手を出した。

 先程ジャグラが言っていた項目をチェックしていくと、それっぽいのが出た。

 ……うん、まぁ、これで良いか、と値段を見てそれなりの額に一応納得しておく。

 良いもんは高いもんな、美味いもんがカロリー高いのと同じだ、うん。

 ジャグラは結局、シックな黒いロングドレスに赤いストールを組み合わせた様だった。

 一応試着してみる事になり、アカデミーの制服よりも高いスーツに腕を通す。

 可動域は……十分だな、動き易く、要所に装甲生地が使われていて防御力もある。

 試着室から出て、隣を見て……思わず見惚れた。

 大人なドレス姿のジャグラは名画の様に美しく、すっぴんであるのに関わらず透き通る様な綺麗さを保持していた。

 

「……綺麗だ」

「ん? あぁ、デイビッドも良い感じだな。って、ネクタイ曲がってるじゃないか。良いスーツだからな、少し違和感があるとすぐ目に付くぞ」

 

 そう微笑んでジャグラが近付いてネクタイを直してくれた。

 ……前屈みになった事でストールの間からジャグラの胸元が少し見えてしまい、薄っすらとある谷間に悩殺され直立不動を強いられたが何とか耐えた。

 やばいな、破壊力が高過ぎる。

 デラマンがこの姿を見たらオーバーヒートして壊れてしまうんじゃ無かろうか。

 裾直しなども必要無いくらいに完璧な商品を出された俺たちは即金で買い上げて、着ていた衣服を神宮寺ロゴのある紙袋に入れて持ち帰る。

 外に出たらそこそこ時間が経っていたようで、夕暮れ近かった。

 ……案の定、着飾ったジャグラを見たデラマンはその場でオーバーヒートし、耳飾りから高熱の蒸気を吹かした。




【Tips】


・黒幕ジャグラくんちゃん
概ね間違ってはいないがジャグラくんちゃんに悪気は一切無い。
あるのはアラサカの地下にあるモノへの殺意だけである。
壊したかっただけで、死んでほしい訳では無い、だなんて呟いており……。

・ジャグラくんちゃんの変化
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・ジャグラくんちゃん(夜のドレスの姿)
思春期の少年に見せると確実に初恋キラーな艶姿。
恐ろしい事にジャグラくんちゃんはまともに化粧をした事が無い。
ので、デラマンが寝ているジャグラくんちゃんに美貌ケアをこっそりとしている。
そのため、最近のジャグラくんちゃんは傾国の美少女と化しているが本人は全く気付いていない。
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