Hello,Goodbye,Night City‼ 作:不落八十八
五十六話
「……と、言う訳なんだが」
「なんだが、じゃねぇよ。とんでもない爆弾をよこしやがってからに……」
チームホロで情報を共有した結果、ホロで話す内容じゃねぇだろとジャックに言われてしまったので、二階のオフィスを使うのも憚かれ、エル・コヨーテ・コホのテーブル席にチームが集まっていた。
ママ・ウェルズの計らいでテーブル席の奥を占領して良しとされたので、ドリンクや軽食を取りながらランチも兼ねて話し合いをしていた。
……もっとも、チームの集まりだと言うのに俺の横にはパナムが、ヴァリーの隣にはジュディが座っていた。
お互いに見合わせて、意図を察して頷いて健闘を讃えておく。
……だからと言って対抗意識で俺の後ろの背もたれに座るなジョニー。
テーブルに足を掛けるな、見えてる俺にだけ効果覿面な悪戯を仕掛けるな、ガキかてめぇ。
【ちょっとしたジョークだ。固い頭をほぐしておけよ】
と言う軽い口調で脳天をノックされた。
……図らずとも少し肩の荷が楽になってしまい、溜息を返すしか出来なかった。
サンセット・モーテルでパナムの疑問によって一部が暴かれたリトルボスの野望について、先程改めて言ってみれば反応は様々だった。
先ずはリーダーであるジャックは、何とも言えない表情だった。
「ジャグならアラサカに喧嘩を売るのも必要ならするだろう。まぁ、特攻はさせないと思うが……」
次に古参のヴァニーに関しては火を見るよりも明らかな笑みを浮かべていた。
「だから? ジャグラさんが行けって言ったら行くのが仕事でしょ? ヴィットのそれ、ただの我儘だから。代わりになる奴を用意したら良いんじゃない」
次に続くサーシャはうんうんと頷きながらはにかんでいた。
「ヴァニーの意見に同じかな。ヴィットとその彼女さんの関係なんてジャグラさんが知った事じゃないよね? そもそもその報告もしてないんだからヴィット側の問題だよ」
……そして、元ノーマッドのヴァリーは神妙な顔で腕組みをしていた。
「……いやまぁ、恋人の大切な人たちが犠牲になるかもしれないって考えるのは仕方が無いかな。二人も言ってたけど、報告が先だと思う。ジャグラさんが聞く耳持たずに切り捨てる事はしないわよ、多分」
割と辛辣な意見もあったが、成る程、確かに俺が悪いなこれは。
ジョニーとぶわーっと勢い任せに会話していた熱も今は冷えている。
報告と相談前にする事ではなかったと反省すべきだろう。
「……だな。すまん、先走り過ぎてた。此処の支払いは俺が持つから、そのまま相談に乗ってくれ」
「やりー! ニコーラサンデーに、タマレ? 語感が可愛いからこれ!」
「おぉ、オフクロのタマレは絶品だからな。テキーラも開けちまおうぜ」
「三瓶までな、昼から飲むもんじゃないだろ」
「ツマミになりそうなのも頼んでおくわね」
「え、これ私居て良いの?」
「良いの、良いの。テッキーとしてジュディも《ジャッカルズ》に来たら良いのよ。《モックス》に入ってるのも付き合いででしょ?」
「まぁ、そうだけどさぁ……。エヴリンの借りもあるからやぶさかでは無いよ。ヴァリーも居るしね」
随分と姦しいパーティになったなと口角を上げつつ、俺も久々に此処で飲むテキーラが恋しくなったので一瓶確保しておく。
さて、良い感じに頭も冷えたし、やるべき事を考えよう。
俺がしなきゃならないのは、優先順位的に三つだ。
先ずはリトルボスにご機嫌伺いだ。
《アルデカルドス》を利用すると言ってもそのまま擦り潰す様な使い方をリトルボスはしないだろうからな。
パナムが恋人になった事を伝えて、消費損耗率を下げれるように交渉する。
最初からこうすべきだった。
ちょっと頭のおかしいサイコロッカーの感情に流されてたな……。
……いやまぁ、アレこそがジョニー・シルヴァーハンドの本領発揮と言う在り方なんだろうな。
糾弾者にして煽動者にして銀色の導火線。
インテリの字面だけは綺麗な騙り言と違い、鉄火に焼かれて燻る熱が込められているからこそ民衆に強く響き、共鳴してこだまする炸裂弾になる。
……俺とジョニーは別人だ、同じ向きを見るのは良いが、全て同じ感覚を持っては駄目だ。
「おぅ、取り敢えず、デイビッドに連絡してジャグのご機嫌聞いとけよヴィット。辛気臭い顔で飲んだら美味いもんも美味く感じられなくなっちまうからな」
「それもそうだな」
ジャックの気持ちの良い気遣いに頷いて、デイビッドにホロコールを繋げる。
数回のコールの後、疲れ顔のデイビッドがワイプに浮かんだ。
『おう、どうしたヴィット。ジャグラに進捗報告ってんなら俺にして正解だ。今、パシフィカのヴードゥー・ボーイズの地下アジトでネットランナー機材を回収してる最中なんだ』
『あー……、そういや準備をしてくれてるんだったな』
『あぁ、良く分からんが、ヴィットの頭に居るジョニー・シルヴァーハンドの記憶からオルトって奴の情報をコピーして、指向性って言うか、宛先みたいな感じにしてコンタクトを取りたいんだとよ。そのためのテックチェアーを作ろうとしてて……、その、大分ハッスルしてる。ジャグラのテッキーなあれこれは趣味の範囲だから、なんかこう、ふんすふんすと意気込んでて可愛いんだよな。作ってるもんは可愛さ皆無のガチ仕様のハイエンドモデルだけども』
デイビッドがはにかみながら遠い目をして苦笑していた。
……ふむ、ホロは動いている様子が無いので何か作業をしている訳では無い様だ。
となると暇しているこいつを此処に呼ぶのもありかもな。
最近は四六時中一緒に行動しているようだし、先程の議題に新しい見方を教えて貰えるかもしれない。
好きな子の近くに居たいだろうが、俺もリトルボスの交渉の為にも手数は揃えておきたい。
『だろうな、違いない。そうなると今お前暇じゃないか? 少し相談に乗って欲しい事があってさ、ランチ奢るぜ』
『へ? 俺に相談? 経験の深いメインとかの方が良くないか?』
『いや、今困ってる事を解決するにはデイビッドが適任なんだ。この世でお前以外に適任者は居ないくらいだ』
『……やけに持ち上げるな? コーポってのはやっぱりそう言うのが上手くないとやってられない感じか? 単刀直入に言えよ、水臭い。友人は見捨てるもんじゃないらしいからな、俺で良ければ力になるよ』
くっそ純粋無垢な思春期少年を騙してる気分になり、死にたくなった。
屈託の無い笑顔で放たれた若さの波動に罪悪感が積もる。
それから十数分後に、来店したデイビッドは相談と銘打っておきながら宛ら飲み会の光景に首を傾げつつも来てくれた。
「来たけど……、本当に相談か、これ。賑やかなランチに誘われたっけ?」
「いや、此処で合ってるぜ。少し狭いな、隣のテーブルに座るか。にしても早かったな。パシフィカからならそこそこ距離あるだろ」
「ん、あぁ、バイク買ったんだよ。クサナギ。ガレージに入れてたらいつの間にかジャグラにAKIRA仕様ってのに魔改造されてたけど。一人の時とか急ぐ時にニケツする時に使ってんだ」
「にしても……、そんなに仲が良いのに何で付き合って無いんだ?」
「は? ライン越えたぞお前、サンデヴィスタンで一方的に殴られる恐怖を教えてやろうか」
スゥッと目を細めたデイビッドが拳を鳴らしながら、対面の俺を殴ろうと立ち上がり掛ける。
「待て待て待て! すまん、俺が悪かった。だが、聞きたくもなるだろ、反対の立場ならどうよ」
「……チッ、命拾いしたな。事情があんだよこっちだってなぁ、片想いだって分かってんだよ。けど、無理なんだよ、あの笑顔が、俺を救ってくれた日の顔が忘れられないんだよ。ただでさえ二重人格やらで悩みが増してるってのによ……、次は無いからな」
そう言ってデイビッドは突如として現れた鞘に入ったカタナの鯉口切って、明確な脅しを掛けてきた。
……まさか光学迷彩か?
流石はリトルボスの懐刀だな、薄らながら殺気が俺の首を撫でた心地だったぞ。
で、だ。
今、リトルボスが二重人格って言った???
「いやー、その、俺の悩みの種がリトルボスでさ。お前の進展次第では相談が解決するかもと皮算用したんだ」
「ジャグラが悩みの種なのはいつもの事だろ。んで、相談ってのは?」
「あぁ、それなんだが、リトルボスはアラサカの襲撃を考えてたりしないか? 今受けてる依頼で少し引っ掛かる事があってな……」
と、本題に入り、俺の近況と先程の考えをデイビッドに説明した。
デイビッドは腕を組んで押し黙った。
明らかに何かしら思い至る点がある様だった。
そして、小さく溜息を吐いてから瞳の色を変えた。
話の流れからしてリトルボスへ確認を取っているんだろう。
「……今の推測だけど、当たりだよ。ジャグラはアラサカに明確な恨みがあるから襲撃の算段もしてる。それに《アルデカルドス》、だったか? ノーマッドクランの利用は検討段階だってさ。そもそもの話、他人面してるけどこれお前のために計画してるからな。むしろ、お前が《アルデカルドス》を利用してでも、ジャグラの力を借りるべき案件だろ。何でお前、自分の生殺与奪の権利を明け渡して、雛鳥みてぇに待ってる訳?」
「それは……」
「あぁ、いや、良いよ。気持ちは分かるから。俺も色々考えるまではジャグラ任せにしてたしな。……依頼達成率100%の看板を下さないためにお前の首から《Relic》を抜き取る選択肢もあったんだ、心臓を与えない事だってできた。けど、ジャグラは身内に優しいから、身を削ってまでお前を救ったんだ。少し、意識が薄れてないか? または、こうなってるのはジャグラのせいだ、だなんて心の片隅で思ってたりしないか? 俺には、今のお前がそう見えてる。ジャグラに任せとけば良いやって思考停止しておいて、嫌な事になりそうだからって動き出した様にな」
……ぐぅの音も出ない鋭い正論だった。
それは俺だけではなく隣に座っていたジョニーも同じだったようで、めっちゃくちゃバツの悪い顔をしていた。
いやまぁ、そうなんだよな、歳下の女の子に命救われた挙句にアフターフォローもしてもらってるのに、このザマだ。
本来なら心臓移植に掛かった莫大な医療費や、依頼失敗のペナルティなどの負の借金を抱えるべきなんだ。
なのに、俺たちは探偵ごっこ宜しく野望を暴いた気になって浮かれていた。
「まぁ、それも含めてジャグラに少しずつ返していくしかねぇよ。俺だってそうだ、ジャグラへの恩がもう限度額を越えた借金染みてる。なのに、あいつは俺が楽しく健康に生きてくれているなら別に良い、なんて微笑んで許してくれちまう。俺だってジャグラに返したいのにさぁ……。まいっちまうよ、本当に」
心の奥から出てきた吐露だと分からない訳がない。
それ程までにデイビッドのリトルボスへの感謝の念と恋慕の熱が伝わってくるようだった。
【……なんでこいつサイバーパンクだなんて人生のスラムに居んだ。普通に学生して明るい青春送ってるタイプの少年だろ。あの嬢ちゃんも罪だな、こんな純粋な奴を落としちまうんだからよ】
ジョニーが眩しいものを見る目でデイビッドを見つめており、それを得られなかった自分を慰めるかの様な吐き捨て方だった。
まぁ、確かにデイビッドの在り方はサイバーパンクの中でも随一の尊さだろう。
風邪を引くよりも鉛玉に当たる回数の方が多いナイトシティで、よくもまぁこんな少年に仕上がるもんだ。
【よっぽど良い親が居たんだろうよ。身を切って我が子を護り育てるような、ナイトシティに居ちゃいけないタイプの奴がな。宝くじで当てるようなもんだろ、そんな確率】
……違いないな。
ネグレクト気味の幼少期を過ごして来たから分かるが、こう言う感性が良い親の条件なんだろうな。
無性に煙草が吸いたくなったが、相談している手前吸うのもアレかと思い、ジョニーの作った煙草を受け取って咥える。
これならデイビッドには見えないから問題無いだろう、と思ったのだが。
「……おい、ヴィットが煙草中毒になってないか? 突然見えない煙草を吸う素振りを始めたんだけど、これ大丈夫? 正気?」
だなんて失礼な事を後ろに振り返って、ソファ越しにジャックたちに投げかけていた。
……そうだった、伝えているから奇行に意味が生まれてるが、知らない奴からすればただの奇行でしかない。
「あー、心臓ぶち抜かれた後の後遺症みたいなもんだ。本人は煙草を吸ってるつもりだが、本当には吸って無いけど幻覚では吸ってるんだとよ」
「頭こんがらがるんだが? いや、普通に吸えよ、此処禁煙?」
「いや……、あー……、デイビッド。そろそろ相棒が居た堪れないからそのへんにしといてくれ。そいつ、頭の良い馬鹿だからよ」
と、ジャックに気遣いの上でフォローと閑話休題までさせてしまった俺は静かにテーブルに突っ伏して死んだ。
……禁煙すっかな、ジョニーに目の前で吸われて煽られそうだけども。
【Tips】
・ママ・ウェルズ特製タマレ
タマレはメキシコあたりの祭事料理で、トウモロコシを擦り潰した物にラードを練り込み皮にし、肉や野菜を挟んでから、バナナの葉などで包んで蒸して作られる。
もちもちした生地はしょっぱくも甘さにも対応し、肉野菜で主食にしたり、砂糖やシナモンを混ぜてバナナなどを入れておやつにしても美味い。
・AKIRA仕様のクサナギ
さんをつけろよデコスケ野郎、でお馴染みのあの赤いバイク。
因みに台詞は映画版で原作の漫画では、なンか用か、である。
手持ち無沙汰のジャグラくんちゃんに悪戯され、AKIRA仕様に外見を変えられた挙句に緑の稲妻めいたシンボルを貼り付けられた。
・ジュディ&パナム
《ジャッカルズ》行き、無慈悲。
ぶっちゃけパナムはエンド中にも絡むが、ジュディは太陽エンドのエピローグだけなので追加しておく、特に意味は無い。
サーシャたちの負担が少し減る程度。
・ヴィットと他のメンバーの温度差
真実を知る読者側だとマッチポンプであると知れるが、彼らにとっては突然の奇襲で下手打ったヴィットが心臓ぶち抜かれて、ジャグラくんちゃんの神技で蘇生してもらったラッキーボーイであるのに愚痴ってる図に見えている、そりゃ辛辣にもなる。
しかも、この場に狂信者と信奉者が居る不運により、言葉で滅多撃ちにされた、かわいそう。
けれど、デイビッドが全て掻っ攫って行った、流石主人公の片割れ。