Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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五十七話

 デイビッドの真摯な言葉に色々と思うところがあった。

 アラサカのコーポ時代では出来ていたのに、今はそれが出来ていなかった。

 いつから俺は流され主義になった?

 防諜部第三部門の副長として、現場を回していた俺はこんなに後手に回っていたか?

 出世するだけが目的の馬鹿共の尻を蹴り飛ばして、仕事をさせていたかつての俺は何処に行った?

 ……アラサカに居た頃の事を後悔していた訳じゃ無いが、状況がそれを成していた様にも思えてくる。

 プレゼンする側がプレゼンされる側になったとして、プレゼンしなくて良い訳じゃない。

 スゥーっと意識が冷たくなっていく、懐かしい心地だ。

 ストレスの解消に性行為を好んだ俺だが、勿論ながらサブプランも用意していた。

 自己暗示とも呼べるストレスマインドコントロール。

 一種のゾーン状態になる事で意識を調整し、トレーナーに言われた様に心が冷たくなって凍り付き、些細な事に揺らがない心境に達する。

 

「はぁー……、ふぅー……。久しぶりの心地だ。今の今までぬるま湯に浸かってて忘れてたな。指示待ちってこんなに楽なのな、入り浸る気持ちが痛い程理解出来た。悪かったなデイビッド。リトルボスの下が心地良すぎて平和ボケしてたみたいだ」

「……みたいだな。随分と顔がしゃっきりした。今のヴィットなら問題無さそうだ。さっきまで落魄れた場末のヤク中みたいな顔してたからな」

「おいおい、そこまで酷かったか? まぁ、そう言われるのも無理ないか。前の俺なら鼻で笑う体たらくだったからな。改めて相談を続けて良いか?」

「あぁ、ヴィットの懸念もこっちも理解出来たしな」

 

 ニッと笑みを浮かべたデイビッドが座り直し、仕切り直しをしてくれた。

 先程までの前哨戦と言える内容で、俺自身の身の振り方を見直す事が出来た。

 今の俺がすべき事はプレゼンの資料を作る事だ。

 

「擦り合わせておきたい情報がある。ジョニー、頭の同居人からの提供だ。アラサカには《神輿》って言う人格コンストラクトの貯蔵庫があるらしくて、其処にオルトが居るそうだ。半世紀前、アラサカにソウルキラーを使われて囚われているって話だ」

「……ん? ジャグラから聞いた事と違うな。オルトは既に記憶痕跡化してて人間性が磨耗してるから、元彼から引っこ抜いたデータでラブコールして、ブラックウォールから釣り上げるって話だったけど」

【……は?】

「半世紀も擬似AI生活してた事でブラックウォールを出入りできるらしくて、ヴードゥー・ボーイズがジョニーの人格コンストラクトを欲しがってたのはオルトと接触して取引をしたかったらしいぞ。何でもあいつらブラックウォールの先に自分たちの拠点を作りたかったんだってさ」

「……は?」

「んで、ジャグラ曰く、ネットウォッチは仕事する偽善者だからまだ良いが、軒下のシロアリみてぇなヴードゥー・ボーイズは残してても害悪だから駆除したんだとさ。ドッグ・タウンへの牽制も兼ねてるんだってさ」

「【何でんな事まで知ってるんだ……!?】」

「さてな、それは俺も知らない。だけど、言える事はジャグラは使い方を間違えないって事だけだ。実際そうだろ? ジャグラの指示で理不尽な目に遭った事あったか?」

 

 ちらりと紺碧の事が脳裏に浮かんだが、アレは完全に貰い事故だろう。

 誰が予期できるんだあんなもん、玉突き事故だ。

 

「……まぁ、確かに。じゃ、じゃあ、リトルボスは俺に何を求めてるんだ……? いや、そうか。リトルボスは情報だけは握ってる、のか。実行に移す手足を求めて《ジャッカルズ》を」

「《エッジランナーズ》を子飼いにした。……まぁ、正解だと思うぜ。実際、パシフィカみたく《デラマンズ》を派遣すりゃ事は片付くが、そうするとデラマンの立場が危うくなるからな。あれはあくまで市長とNCPDに伺い立てての謀略だ。誰もが困ってたからこそ実現しただけだ。まぁ、ジャグラの積み立てた功績があったのも確かだがな。だから、デラマンを使えるのは大義名分がある時だけだ」

「それと違い、俺たちは雇われの傭兵チームとしてある程度は自由に動ける立場にある。大義名分が無い分リスクは高いが、……ぁー、だからあんなにキルゼム依頼が多かったのか。鉄火場に馴染ませて死に辛くしてくれてた訳か」

「……へへっ、天国には行けないさ。まぁ、ジャグラはそもそも無神教だからなぁ。宗教関連の配慮は頭に入って無かったみたいだがな」

【……まぁ、嬢ちゃんの場合、根っからのゲリラ屋だがな。籠城戦からの前線空爆、退路に地雷を敷き詰めて、命からがら逃げ出した奴の足を水をたっぷり吸った泥が掬い、毒ガスと火炎放射に追い回される訳だ。森に逃げ込めば諸共焼かれ、海に逃げれば的撃ちにされ、陸に逃げれば轢き殺される。戦場を乱数と割り切って、数字を卓上では無く地図で動かすリアリスト。……こいつの居る戦場に居たくはねぇな】

 

 あっ、そうだったこいつ逃亡兵だったな。

 デイビッドの言った宗教の話題で何らかのトラウマスイッチを押されたらしい。

 先日のパシフィカの一件でも思い出したのか、ゲリラ屋と言うよりかは特殊工作部隊のそれの様な気がするが……、そっとしておこう。

 

「リトルボスのしたい事が、アラサカへ恨みを晴らすための襲撃って言ってたがどんな理由なんだ?」

「……俺も全部は知らないが、どうも両親がアラサカの研究者だったみたいで、何かしらの理由で幼少期にアダム・スマッシャーに殺されかけたらしい。父親のマサヒロ辺りが探りを入れるべき対象だな。……ただ、その全貌を知ってる奴が居るかどうかって感じだが」

 

 そんな奴居るか……? と首を捻ると、隣でジョニーは何処かで見た豪華なパンケーキを頬張っていた。

 ……いや、思い出したなら言えよ普通に。

 確かにトムズ・ダイナーでパンケーキ食ってたタケムラを思い出すには十分だがよ。

 

「……あー、居る。違う部署だったらしいが、可愛がって貰ってたらしい後輩が」

「マジ? なら、ジャグラの親父さんの情報はヴィットに任せる。……俺の推測だが、ジャグラは多分お前にアラサカタワー襲撃を考えて欲しいんだと思う。と言うよりも、人格コンストラクト及び《Relic》専用の機材である《神輿》に触れるためにはそれしか無いんだと思うんだ。《Relic》に使われてるナノマシンの論文は必要な所からぶっこぬけば良い話だが、《Relic》が《神輿》専用のチューニングをされている可能性を考えて襲撃を準備している節があるんだよな。じゃないと最初からアラサカ襲撃を計画してる理由が無いんだ」

「そもそもリトルボスが《Relic》を弄るのは難しいのか? ナイトシティの上澄みだろリトルボスの腕前は」

「はぁ、お前も勘違いしてんな。前に言ったろ、ジャグラは天才的な努力家だってな。基本的に積み重ねの産物なんだよ。新しい分野に手を出す時は、徹底的に勉強して理論を理解してからなんだよ。全部が未知の生体チップに手を出す訳ないだろ。お前が死んでも良いモルモットなら別だがな」

「……そうなのか? てっきり天才肌で感覚的にクリエイティブしてるのかと思ってた」

「……あいつの趣味は魔改造だ。既存品があっての改造なんだよ。それに忘れてるのかも知れないが、ジャグラはテッキーであってネットランナーじゃないからな」

「……そういやそうだ、な? え、じゃあ、あの依頼の詳細なやつは? あんなんネットランナーじゃないと出来ないだろ」

「ん? あぁ、もしかして《ジャッカルズ》は知らないのか? ジャグラは個人サイズの《メガコン》を所有してるからアナログ操作だぞあれ」

「【嘘だろっ!?】」

「ジャグラ曰く、アナログの極地ってらしいぜ。今みたいにネットランナーが脳みそ使い始める前は、キーボードでハッキングをしてた。それで人間の脳以上の処理能力と速度でゴリ押しするだけだ、ってさ。意外に感じるかもだが、ジャグラって割とアナログだぞ」

 

 だなんてとんでもをデイビッドはヘラリと言った。

 《メガコン》、《メガコン》だと!?

 第三次企業戦争でぶっ放された超弩級情報量爆弾発射装置じゃねぇーか、禁止措置はどうしたっ!?

 しかも個人サイズってなんだ?! 《メガコン》はビル一つ使った量子コンピューターが合体した怪物だろうが。

 隣を見てみればジョニーも心底驚いていたのか手に持った煙草を取りこぼしていた。

 何の冗談だ、ネットウォッチやらNCPDに知られたら確実に捕まる代物だろうが。

 

「……なんでんなもん所有して捕まってないんだよ」

「ジャグラ曰く、逮捕級の《メガコン》より規模が小さい上に、個人のスパコンと言い張れるスペックだからだそうだぞ。まぁ、繋げてないだけでそれがまだ複数個あって、まだ完全体じゃないってだけで捜査喰らってもノーダメらしい」

「法を味方に付けてるのかよ、ほんっとリトルボスは規格外だな……」

「と言うかジャグラはそういうところシビアだぞ。的確に法のハードルを潜り抜けるのがコツだって言ってた。法の抜け穴だと埋められるけど、ハードルなら摘発基準値じゃないから法の下ですよねって言い張れるんだと」

「……完全に質の悪い詐欺師のそれじゃないか。まぁ、リトルボスが問題無いなら良いか……」

 

 どっと疲れた心地でソファの背凭れに背を任せる。

 むしろ何ができないんだあの天才少女は。

 そんな俺を見たデイビッドは懐かしそうな様子で苦笑している。

 まぁ、リトルボスとの付き合いはデイビッドが一番長い訳だし、色々と経験してきたのだろう。

 

「取り敢えずジャグラの事は置いといて、だ。ヴィット、アラサカの敵って割と多いんだぜ? 《アルデカルドス》だけ使ったらそりゃ被害も集中しちまうが、母数が増えたら被害は分散するし、何よりも計画が成功しやすい」

「あぁ、成程。アラサカに恨みを持つ奴も襲撃に噛ませればいいのか。……この街全員じゃねぇか?」

「ははは、まぁ、そうだが。有象無象が居ても仕方が無いだろ。ある程度組織立っていて、此方で信用できる人手を増やせばいい。多分、《エッジランナーズ》と《ジャッカルズ》は強制参加。俺の方で《機龍》に取引しておくから、《アルデカルドス》と他に何処かあれば協力を仰いでみると良いんじゃないか」

「……居るなぁ、《ドラゴンテイル》の会員の奴らは喜んで手を貸すだろリトルボスのためなら」

「あー、そっちはデラマンの管轄だから話振っておく。他には?」

「他には、か」

【……ヴィンセント、ローグだ。ローグに話を付けろ。半世紀前の遣り残しを片付けるぞってな】

「……もしかしたら、《アフターライフ》のローグと話を付けれるかもしれない。あの人はかつて、アラサカタワーに襲撃を掛けたジョニーの仲間の一人だった」

「へぇ、良いかもしれないな。そしたらヴィット。マサヒロの事を知っている人物への聞き出しと、そのローグって人に話を付けるのを頼んで良いか?」

「あぁ、任せろ」

 

 デイビッドの提案に頷き、了承する。

 流石にタケムラの番号は此処では明かせないし、ローグはジョニー次第だしな。

 パナムに《アルデカルドス》の事を頼んで、それにジャックたちを付けるのがベストか。

 ……先行きの見えないトンネルに居た気分だったが、外の光の差し込みが見えた心地だ。

 デイビッドを呼んで相談したのは正解だったな。

 にしても……、リトルボスの両親がアラサカの人間だったとはな。

 マサヒロ、マサヒロか……、いや、引っかかる記憶は無いな。

 工学部門が極秘テックを開発してるだなんて法螺みたいな噂はあったが……。

 

「因みに、デイビッドの方でマサヒロの情報は何かあるか?」

「えーっと、十年前くらいにアラサカの研究室で自殺した、って話だけど状況的に大分怪しいらしい。ジャグラの母親のミヤビって人がそれを見つけた後、アダム・スマッシャーが追いかけて来たらしいから他殺の可能性も高いんだ。あ、ミヤビさんはもう亡くなってるから聞きには行けないぞ」

「……そうか。十年前か……、その頃はアカデミーに通ってた頃だから知る訳無かったな」

「へぇ、そういやヴィットって元アラサカコーポだもんな。……因みに、俺もアカデミー行ってたって言ったら信じる?」

「お前が? ……まぁ、七割くらいは信じて良いかな。デイビッドの言動の節々に若干アカデミーっぽさを感じるし」

「例えば?」

「地頭の良さだな、さっき俺がKOダウンするくらいに言葉で殴れる力強さはストリートじゃ出せない。ストリートの成り上がりは暴言混じりの下げから始まって格付けまでしたがるからな。喋り方、話し方、言い方、これらは人を定規で見る時に非常に便利な尺金だ。勿論、ある程度は演技はできるが、それを常にやれる奴は仕事でやってる奴だけだ」

「ふーん、そういうもんなんだ」

「あぁ、気になるなら教えようか? 防諜部仕込みの見分け方とか」

「酒の肴にしようぜ。今やる事じゃないだろ」

 

 それもそうだな、確かにこんな話素面じゃやってられないな。

 ……アラサカに居た頃を思い出しちまうからな、はぁ。

 

「取り敢えず、ランチ食って良いか?」

「ぁー……、そうだな、すまん。此処はタマレが絶品だ」

 

 そう言えばランチを奢る約束で相談していたんだったな、つい長話をしてしまった。

 デイビッドがウェイトレスに割と量を頼み始め、そぉーっと俺は財布の具合を見やるのだった。

 ……今日はデジタルで支払うか、ママ・ウェルズは札の方が好みなんだが、今日は勘弁して貰おう。




【Tips】

・【……は?】「……は?」
悪いなその情報、半世紀ぐらい古いんだ。
ジャグラくんちゃんの情報収集と言う名の原作知識ドーン。
この時の二人は宇宙ニブルズ(猫の名前)してた。

・ジャグラくんちゃんの子飼いチーム
《エッジランナーズ》計7名。
(メイン、ドリオ、キーウィ、ピラル、レベッカ、ルーシー、ファルコ)
《ジャッカルズ》計5+2名。
(ジャッキー、ヴィンセント、ヴァニー、サーシャ、ヴァリー)+パナム、ジュディ。

計十四人も養ってる十六歳の天才リパーフィクサーの少女が居るらしい。
デイビッドとデラマンはチームでは無く身内扱い、家族枠。
《ドラゴンテイル》……? 知らないチームですね!
《機龍》……? ペット枠です。玩具枠でも可。






仮初の自由くんバグ多くね……?(ボソリ
はよ直してくれ、パッチ2.01はよ……。
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