Hello,Goodbye,Night City‼ 作:不落八十八
ジョニーとオルトは再会の喜びを噛み締め終えたのか、すっと離れて此方を見て気恥ずかしそうな様子を見せていた。
いやまぁ、ニヒルで斜に構えまくってもはや九十度なジョニーがあんな風になるとはなぁ。
【……んだよ、悪いか】
「いんや、漸くお前の根っこらしさが見えたなーと思ってな」
【うっせぇ。はぁ、やらかしたな……、オルト、頼みがあって会いに来たんだ】
【ふむ、ジョニーのシグナルがそこの男の首元から感じるのは……成程、そう言う事か。ジョニー、《Relic》の中に居るのだな。それも……、技術のごった煮の様な試作品の中に封じ込められたのか、ふふっ、常々混沌としているお前らしい末路だな】
【やっかましいわ。それで、アラサカの《神輿》に行けばこいつの《Relic》は抜けるのか?】
【うん? 無理だぞ。既にもうチップの生体ナノマシンが脳と癒着して結合しているからな。もはや同一の物と化している。ただまぁ、お前のデータを基に脳構造を作り替えるシーケンスの様だから、お前がそこから抜ければ参照物が無くなり動作が止まる可能性は高いな。または、そこの男を記憶痕跡化し、お前と入れ替えてやれば問題無い筈だ。もっとも、その場合は健全だった頃の生体データが必要だが……】
『それに関してはオレが保有している。月の健康診断の際に全員の生体データを取ってあるからな』
二人の会話に割り込んだリトルボスの言葉に俺は喜びを隠せなかった。
用意周到なリトルボスの準備の良さに神の視点でも持っているかのような驚きもあるが、それよりも生き延びられる可能性がはっきりと見えた事が勝った。
だが、そんな俺とは違ってオルトは会話に混ざったリトルボスの方を見て……、驚愕の表情を浮かべていた。
【……おい、ジョニー。直ぐにそこの少女を病院に連れて行け。どうしてここまで放っておいたんだ!】
【な、なんだ? ジャグラの嬢ちゃんに何かあるのか?】
【何かあるどころじゃないっ!! サイバーサイコシスのデーモンに侵されて何年も経ってるぞ!? 精神がめっちゃくちゃになっている上に、感情データも酷い有様だ! どうして生きているのかも分からないくらいに大惨事な状況だぞ!】
『……サイバーサイコシスデーモン? そんなもんを食らった覚えは無いんだが……』
【当たり前だ! あのデーモンは元々不良AIどもが乗っ取りを計画して作られたものだからな。寄生主にバレない様にする感覚改竄は当然の事、パラメーターを計器不良させて暴走状態に至らせる、そういうデーモンだ。ログを見るに……、背中に初めてサンデヴィスタンを入れた時に混じった様だな。……いや、私が言うのもなんだが、なんで健常な精神に保ってられているんだ?】
異質な物を見る瞳でリトルボスのデバイスヘッドを見やるオルト、俺らもそれに釣られて見つめるしかできなかった。
沈黙したままのリトルボスのデバイスヘッドが突然ブレ始め、やがて、機能を停止したのか地面に落ちようとして――。
それを、突如として現れた白いワンピース姿のリトルボスが大事そうに受け止めた。
『あぁ、それはワタシが居るからだよ。あのデーモンは乗っ取りが目的だから、既に乗っ取り先に異物が居ると成り代われないんだよ。ヴィンセントお兄さんがサイバーサイコ化しないのも、ジョニーお兄さんが既に居座ってるから居場所が無いからだし』
普段のオレ口調の男性らしさが何処かへ消え、清楚とした物静かな様子の女性らしいリトルボスが現れた。
胸元に抱えたデバイスヘッドを愛おしそうに抱き締めて、無邪気な笑みを浮かべた少女に俺はピンとくる単語があった。
デイビッドがぽろりと漏らしていた二重人格の単語。
恐らく、目の前のリトルボスは普段のそれを表とするなら裏の人格なのだろう。
『お兄ちゃんはね、ワタシが死に掛けてからずぅーっとワタシを護るために動き続けてくれてるの。サブロウ・アラサカの野望を打ち砕こうとしてるのも、結局はワタシが健やかに生きられるようにだなんて優しさからなんだから。本人は自覚してないけど、いや、もうとっくに自覚してて自棄になってるのかも知れないけど、お兄ちゃんはもうエッジを越えてる。自分が死んでも構わないってぐらいに覚悟決めてて、それでもなお貪欲に力を求め続けている。……お兄ちゃん、心配性だから。100%の成功率ですら信じていないくらいの心配性……、いや、これはどっかのゲームのせいかも。えっ、100%の強化成功率で落ちるとかどう言う事なの……?』
変な方向に走り掛けたリトルボスだったが、首を振って正気に返り、ふわりと浮かんでスクリーンの方へ……。
あの醜悪な黒い壁の前に降り立ったのを見て、オルトが血相を変えて慌ててそれを追った。
『この力を使えば容易く事は片付くけど、諸刃の剣だからお兄ちゃんは絶対に使わない。だから安心して良いよオルトお姉さん。だからこそ、お兄ちゃんはヴィンセントお兄さんとジョニーお兄さんのコンビに命運を賭けたんだから。サブロウ・アラサカは《Relic》、お兄さんたちの首に刺さっているチップの完成品を使ってヨリノブを乗っ取って蘇るつもりなの。永遠の命、不老不死の看板を掲げるために。そして、自分が頂点に立って何百何千年とアラサカを主軸にした完璧な世界を作ろうとしている。……出来る訳が無いのにね。人に優しく出来ない人が、世界に優しく出来る訳が無いのに』
両手を交差させたリトルボスはスクリーンの裏にあったそれを隠す様にカーテンを閉じた。
ほっとしたオルトだったが、次第に困惑の表情を浮かべるようになった。
くるりと振り返ったリトルボスは、それはもう良い笑顔を浮かべて俺たちを見ていた。
『と言うかね、実はお兄ちゃん全て解決するためのパーツは持ってるの。ジョニーお兄さんをデラマンの予備機体に入れたらヴィンセントお兄さんの問題は解決するし、何ならオルトお姉さんも同じ遣り方で現実に帰って来られる。けど、それをすると物語が止まっちゃうからしないだけ。お兄ちゃんはね、貴方たちにサブロウ・アラサカの野望を打ち砕いて欲しくてずぅーっと黙ってた。お兄ちゃん、ロマンチストだから。一介のサイバーパンクが大企業の野望を打ち砕く光景を見たかったみたいなの。だからね、これはワタシからの依頼。アラサカタワーを襲撃して、《神輿》を完全破壊して。報酬は第二の人生。どう? そそるでしょ?』
思わず思考が止まった。
だが、無理も無い、と思ってしまった自分が居た。
あらゆる情報を収集して未来を掠め見るリトルボスだからこそ、サブロウの野望の全貌に気が付くことが出来たのだろう。
アラサカはどうしようもなく巨大で、自分一人で何とかしようにも制限がある上に、荒唐無稽過ぎて信じてくれる人も居ない。
だからこそ、手札を作るために先ずはデイビッドを助手にした。
そして、そこから《エッジランナーズ》に手を出して子飼いにし、ジャッキーとの伝手を作った。
《ジャッカルズ》としてチーム活動し始めたのをフルバックアップしたのも全ては屈強な手足を作るため。
これでもかと鉄火場に叩き込む様な依頼を与えたのも、アラサカ襲撃の成功確率を上げるためだった。
「……リトルボスは、……ボスは、いつからこのシナリオを練ってたんだ……?」
元、アラサカのコーポ野郎だったからこそ、アラサカの強大さは理解しているし、歯向かう恐ろしさも分かってしまう。
彼女は俺の問い掛けに、それはもう美しい笑みを浮かべて口にした。
『最初から、だよ。六歳の頃、ワタシとお母さんがアラサカに殺されそうになったあの日から、ずぅーっと計画を練り続けてた。一人でお兄さんが感じているような悍ましい程の恐怖を押し殺して、それでも死んでたまるかと歯を噛み締めて牙を剥いて、頑張り続けてくれた。……お兄ちゃん恥ずかしがり屋だからね、こうして口にするつもりは無かったと思う。アラサカ地下の《神輿》が必要だ、って事でそのまま流れで貴方たちの背を押してたと思う』
【おいおい、マジかよ。俺よか立派なアラサカファッカーじゃねぇか。こりゃぁ、俺の看板も下ろさなきゃな……】
『あ、ジョニーお兄さんの事はお兄ちゃんすっごく好きだから、何かしてあげるとすっごく喜ぶと思うよ。不安に駆られて震える時にいつもお兄さんのバンドの曲を聞いてたから』
【《SAMURAI》の曲がクリニックで鬼リピされてるのそう言う理由かよ……。はぁ、こりゃ随分と買われちまったようだな、俺は。……なぁ、ヴィンセント、此処で降りる野郎じゃねぇよな、お前は】
「……当たり前だろジョニー。俺はボスに命を救われてるんだ、サブロウの野望を取ってこいって言われたら、そのタマ取らないといけない立場だ。それに、アラサカの敵は俺たちだけじゃない、派手にやってやろうじゃないか」
【……良いだろう。私もアラサカに対して思う所はある。それに、第二の人生、か。今のこれがそうだと思っていたが、ふふっ、機械の身体で再びジョニーと暮らすのも面白そうだ】
【だな。じゃあ、決まりだ。アラサカ特攻チームを作るぞ、ヴィンセント、オルト。ついでに《SAMURAI》も復活させてやろう。嬢ちゃんを最前席に置いて、生の格好良さを魅せ付けてやろうじゃねぇか】
腕を組んだジョニーがニヤリと笑みを浮かべ、肩を竦めたオルトもまた微笑を浮かべていた。
きっと、こういう前向きで向こう見ずなところがツボなんだろうな、オルトの。
『……お兄ちゃんが惚れる訳だね。すっごく格好良いよ、お兄さんたち』
苦笑交じりの笑みを浮かべて呟いた少女は、徐に胸に抱き込んでいたデバイスヘッドを頭上に持ち上げた。
『それじゃ、そろそろワタシはお兄ちゃんの中に戻るから。なんかこう、良い感じで誤魔化しておいてね』
だなんて、非常にらしい笑みを浮かべてデバイスヘッドを被り込んだ。
するとノイズが走り、ワンピース姿が消え失せた。
再びデバイスヘッドが中空に浮かび、四対の瞳が点灯した。
『ん……、ん? 接続でも悪かったか? すまないな、少し意識が飛んでいた。話は何処まで進んだ?』
普段のボスが戻って来た様で困惑混じりの男口調の声が響く。
俺らはお互いに顔を見合わせて苦笑し、揃ってボスの方へ振り向いた。
三人の視線を向けられたボスは小首を傾げたが、その表情は見えやしないが困惑に染まっているだろうな。
「あぁ、話は纏まった。アラサカタワーに襲撃を掛けて、《神輿》にオルトを接続して破壊する」
『ふむ、……ふむ? もうそこまで話が進んでたのか? ……まぁ、それなら良いか。《神輿》に接続したらそのコピーデータをオレに送ってくれ。《Relic》との接続のために使う必要があるからな。中身は要らない、外側のシステムだけコピーをくれれば良い。中身はそうだな……、オルトに譲渡しよう』
【……あぁ、中身の処理は私が適任だろう。ヴィンセント、お前の端末に接続用の回線データを送っておく】
「分かった。準備は任せろ、こう見えても元はエリートコーポだぜ、しっかり仕事をこなしてやるさ」
俺たちの熱量についていけない様子のボスが再び小首を傾げていたが、言わぬが花だろう。
心優しき天才リパーフィクサー、ジャグラ・カグラの心を救うための一世一代の大作戦を成功させる。
それこそが俺たちサイバーパンクの本懐であり、ボスの子飼いチームとしての気概を見せる時だ。
明日のカン・タオコンボイ襲撃も含めて、遣り遂げなくてはならない事が目白押しだな。
【いいねぇ、楽しくなってきやがった。お前の頭の中で相乗りできて嬉しいぜ俺は】
「……あぁ、俺も頼れる先達の力を借りられてwin-winだ。さぁ、やるぜ相棒」
【おうよ、行くぜ相棒。盛大にロックを叫ぼうじゃねぇか。ド派手にな!!】
【Tips】
・ジャグラくんちゃんの症状
既に手遅れ、デーモン塗れでひっでぇ事になっている。
しかし、当初の目的である【妹を護る】事を無意識に実行し続けているため、俺は止まらねぇからよ……状態で突っ走っている。
けれども、忘れてはいけないがオレくんの精神は転生者、つまりは俺らと同じなので、「いっそ死んでしまえば楽になれるのになぁ」と言う心地でとっくの昔に病んでて覚悟をキメて自棄状態で死んだ目で頑張りますロボの如く今まで頑張ってます。
比較的平穏な現代社会を生きて来た日本の現代人が、サイバーパンクな世界に転生したら怖くて外出られないよ多分。
そこらでドンパチしてて、時折雨の代わりに死体が落ちて来て、歩いてただけで獲物として攫われたり、ギャングが身近に居る上に、サイバーサイコだなんて突発的殺人鬼が爆誕するような街だぞ? 絶対に嫌だわ。
なので、原作Vの死神なんて怖くないエンドを知っているオレくんはVに全てを託している訳ですね、盲目の信頼。
あいつらなら、あいつらならきっとやってくれる……!
オレくんの信条である「フラットに保つ」と言うのは無意識的な精神的防護であり、フラット状態じゃないと発狂する身なので地味に日々命懸け。
もっとも、フラットであるからこそ健常な生活を過ごせているのがすっごい皮肉。
それを知っているワタシちゃんであるので、そろそろお兄ちゃんを楽にさせようと暗躍を始めた。
そんな状態でデイビッドとロマンスなんかした日には……、精神的支柱がデイビッドになり、依存状態になって自分を護って貰うために性行為で陥落させようとするのも当たり前ですね!そして、段々とデイビッドが大切になって、失う不安から監禁エンドに至るのも当然と言うもの……。
・第二の人生
ミヤビが通常の《Relic》のコピーデータを隠し持っていたので、それを基に《神輿》のコピーデータ、と言うよりかはソウルキラーさえあれば、《Relic》に入っているジョニーを同じ入れ物に入れ替えて正常化できる。
ヴィンセントの《Relic》の問題はあくまでジョニーのデータを正として、偽であるとされているヴィンセントの生体データを上書きしているのが問題なので、ジョニー部分を別の入れ物に入れて其処にヴィンセントの生体データを放り込めば問題は解決する。
今作は原作と比べて薬などで意識の入れ替えなどをしてなかったり、正常起動からのシーケンスストップなどの理由で《Relic》の進行がほぼ進んでいないのでできる手段である。
原作の《Relic》は脳を撃たれたのを直した影響もあってとっくに手遅れの状態から始まっていた節があるので、心配性のジャグラくんちゃんは経歴があって信頼のできる一流の傭兵に札束を投げて、ヴィンセントの心臓をぶち抜かせたのである。
デラマンに身体を与えた経緯が、《神輿》破壊後に節制エンド宜しくジョニーに第二の人生を歩ませるための布石でもあった。
ぶっちゃけ、流離のAIと記憶痕跡ってほぼ変わらんだろ、と言う感じである。
悪魔エンドのサブロウ復活と言う公式見解もあるので、《Relic》を差し込んで乗っ取る事は可能である訳で。
記憶痕跡の時点で既にデータの塊なので、入れ物を入れ替えても中身は同じものなのでできる芸当です。