Hello,Goodbye,Night City‼ 作:不落八十八
アラサカ襲撃と言う課題を前に、俺とジョニーはぐったりとしていた。
……いや、正確には《アフターライフ》の女王ことジョニーの元カノであるローグの説得に疲れ切っていた。
据わった瞳で此方を見ながら煙草を吸うローグの機嫌は良さそうには到底見えない。
「……じゃあ、何だい。其処に本当にジョニーが居るんだね」
「あぁ、オルトの件で大分振り回した挙句に未解決で死んだから、さっきのメタクソなアレコレが胸にぶっ刺さってめっちゃくちゃ落ち込んでる」
「……はぁ、ブースターが入ってないジョニーはいつもそう言う感じだった。自分の弱さを曝け出し、うだうだと後悔しながらも前を向きな戯言を吐く典型的な女誑しのクズロッカー。……まぁ、そんな男に情が湧いちまったのが運の尽きだった」
【この真正面から言葉のナイフをブッ刺してくるあたり、変わってねぇな切れ味が】
《アフターライフ》の個室でサシで話している事もあり、ジョニーと言う共通話題はお互いのガードを下ろすのに十二分に役に立ってくれた。
……もっとも、同棲してた時やちょっとした時に蓄積したアレコレの愚痴は殺傷能力が非常に高く、数分でジョニーがテキーラの瓶を作って直飲みする程のダメージを与えた。
「……はぁ、数年振りにあの馬鹿の話をした気がする。アイツしか知らない私の黒子の位置を理由に、ジョニーの存在を証明しようとした時は撃ち殺してやろうかと思ったが……」
(やっぱりキレてたじゃねぇか)
【だが、それくらいしかねぇだろ。どうあがいても俺はシャバに出れないんだからな】
「まぁ、あんたの頭にジョニーが居る事を認めてやっても良い。本当は姿形を見せて欲しいもんだがね。そのレプリカの左腕じゃあ駄目だよ」
「いや、この腕はボスがコレクションで秘蔵してた奴らしいから本物だぞ。油田近くの倉庫の裏手に埋まっていたそうだ」
「ふぅん……、あの子が、ね。……レプリカじゃなくヴィンテージのSAMURAIジャケットを着て来る様な熱烈ファンだ。……なら、信じても良いか」
「……なぁ、フィクサーとして見たボスの印象って実際のところどうなんだ? ナイトシティのトップフィクサーと呼ばれてるローグからの見解は」
閑話休題の話題を振ってみれば、苦笑いを浮かべたローグは煙草に手を出した。
シラフではやってられないのかテキーラを直飲みした。
「ジャパンタウンの代表フィクサー、ワカコの後継者、だなんて世間一般の輩は思っているんだろうが、あの子はそんな肩書きで収まる人物じゃない。この街で成り上がるためには企業の影響は少なからずある。……私が見逃されているのはアラサカに憎たらしい首輪を嵌められてるからだ。トップ企業であるアラサカの依頼を優先的に卸している事実は消えない。……まぁ、此処にジョニーが居るって言うなら、その首輪から繋がる鎖を引っ張ってやるのも悪くない」
興が乗り始めたのか再びテキーラを口にした。
「あの子は、ジャグラ・カグラは革命家だ。政治家でも戦争屋でも救世主でも無い、何処ぞのアラサカ死すべしと叫んだギターロッカーの様な煽動者にして、稀代のテロリストさ。あんな無理のある金のばら撒きも、信仰染みたカルト集団も、流離のAIを誑かしたのも、全てアラサカ襲撃のための仕込みだ。鉄砲玉ならぬ核弾頭で終わるつもりなんだろうね。随分と過激派だ。慈善事業と宣っているが、ジャパンの御恩と奉公のシステムを組み込んだに過ぎない。恩を受けた時点で見えない首輪が嵌まるのさ、狡猾な詐欺の様でありながら偽善の皮で隠してね。慈善家だなんて称されているが、あの子の指差しで四桁の死体が積み上がっているのは、鉄砲玉であるあんたなら理解している筈だ」
「……全てボスの掌の上だった、って事か?」
「だろうね。だが、もしも、それらを考えずにやっていたのだとしたら、恐ろしい程に人間不信のリアリストだね。あの子は医療と食糧を握った、これだけでナイトシティの生殺与奪を得たに等しい。だが、あの子はそれをせずに善策を築いた。……その方が民衆を管理しやすく、そして動きやすい。考えてごらんよ、アラサカ社員とあの子のシンパ、どっちが多いと思ってるんだ。昔、ワカコが言っていた諺がある。将を射んとする者はまず馬を射よ。あの子はそれに従い、馬を射るどころか飼い慣らしたんだ。いつでも主人を振り落として蹴り殺せる様に、ね。……いったい、何年掛けて練られた構想なんだかね」
背筋が段々と凍り付いていく心地だった。
あの日、糞上司の陰謀に担がれてなかったら、この事実を知らずに仕事に忙殺されていて巻き込まれた可能性が非常に高い。
アラサカはナイトシティの中で最大級のタワービルを持つ自他共に認めるトップ企業だ。
故に、金を使って暗躍し、良い装備で圧倒的に有利に運んできた積み重ねがある。
……あの頃の俺だったとして、ボスの情報なんて今よりも遥かに少ない量しか得られない筈だ。
徹底的で熾烈なまでの秘密主義に似た情報防衛網を築き上げている上に、《ドラゴンテイル》だなんて信奉者集団が関わってくるんだ、碌な情報は入って来ないだろう。
果たして、今のアラサカに其処までの要塞を抜ける人員は居るだろうか。
今更ながらに、俺は漸くローグの言いたい事を魂で理解できた。
最初から、ボスはアラサカを肉片の一欠片すら残さないくらいに徹底的に潰す魂胆だったのだ、と。
「しかも、風の噂じゃ《機龍》にヨリノブが生きてるって話じゃないか。振り下ろすためのマチェットにハンマーまで用意している訳だ。ヨリノブがアラサカの不正を暴くと言う大義名分で襲撃を開始したら、止められる組織なんて無いだろう。NCPDは市井の警察だ、軍人じゃない。核の落ちる場に居たいだなんて奴は居ないだろうさ。一握りの可能性があるとすれば、マックスタックだろうね。あそこはNCPDの虎の子だが、資金提供はアラサカだ。サイバーサイコ案件として処理して飛んできても不思議じゃない」
「マックスタック……、元サイバーサイコの精鋭部隊か。あれが乱入してくるのは避けたいところだが……」
「まぁ、無理だろう。対抗馬のミリテクは漁夫の利を得るためにだんまり決め込むだろうしね」
第四次企業戦争の二大派閥の片割れにして、軍人気質の体制により強固な力強さを保有する大企業。
ミリテク・インターナショナル・アーマメンツは、新合衆国を牛耳る軍事企業であり、ナイトシティにおけるアラサカの様な立ち位置だ。
もし、ボスのアラサカ襲撃が完遂された場合、ミリテクがナイトシティの実権を握ろうとするのは明白だ。
「まさか、だからデラマンを此処までの大企業に……?」
「アラサカが潰えてもデラマンがナイトシティを牛耳る、か。成る程、保険の掛け方も上手いね。何なら《機龍》って言う新興勢力をぶつけて良い訳だ。ミリテクもアメリカの企業だからね、火種は十分だ。リスクを考えたらナイトシティの実権はデラマンが、あの子が取る訳だ。……はぁ、とんでもない麒麟児が産まれたもんだ」
「ボスはアラサカの研究者夫婦から産まれたからな。聞く話だと、研究室で父親が自殺していてその現場を母親と目撃してしまった事で追われたそうだ。同じチームに居たヘルマンの証言だが、母親が殺して研究成果を強奪して逃げた、と当時は伝えられたらしい」
「……成る程。恨み骨髄どころかそれを煮込んでた訳だ。用意周到な訳だね、あの子からすればこうなる様に整え続けただけだ。未来を見ていた訳じゃなく、そうなる様に首根っこ掴んでた訳だ」
ローグの言葉に俺もシラフで居られなくなったので、センツォンの瓶を直飲みする。
恐ろしい爆弾を起動してしまったもんだなアラサカも。
二人して無言で瓶を呷る。
「で、それを踏まえてどうするつもりなんだい」
「ジョニーのアラサカタワー襲撃の遣り方を真似る。《SAMURAI》を復活させてロックを叫び、前例を警戒させて地下からメトロ計画の廃線をアラサカ地下に繋げる。同時に《機龍》が大義名分を突き付けて屋上から侵攻させる」
「それはまた……、盛大にやるじゃないか。私には場を整えて欲しいと言う事か。高くつくよ」
「無論だ。今、うちのメンバーが稼ぎに出てる。アラサカ以外の被害は極力抑えたい。零が理想だな」
ヴァニーはボクサーとしてリングを周り、ジャックがセコンドについた。
ヴァリーはジュディの応援を受けながら野良カーレースにクレアの依頼に乗っかってかっ飛ばしている。
サーシャはネットランナーのちょっとした小遣い稼ぎと称してアクセスポイント巡りに出掛けた。
パナムは《アルデカルドス》に戻り、メトロ廃線の建設現場の襲撃の算段を立てている。
そして、俺は《SAMURAI》を復活させるための足掛かりとして、ケリー・ユーロダインの連絡先が欲しい訳だ。
……ローグにやったようなジョニー問答をやらないといけないと考えると外れくじ甚だしいな。
「《SAMURAI》を……? あぁ、だからあの嬢ちゃんから予算が下りてないのか。サプライズとは粋な事をするじゃないか。なら、これは餞別だ。……私も少し興味がある、楽しみにさせて貰うよ」
そう言ってケリー・ユーロダインの連絡先が送られて来た。
……そういや、ローグってジョニーの元カノだったな。
当時のライブを見た事があるだろうし、思い出として焼き付いているのか。
「ありがとうローグ。……はぁ、最初のアレコレをまたやらないといけないのか……」
【いいや、アイツ相手ならもっと冴えた遣り方があるぜ。今から《Relic》を経由して俺のギター技術をぶち込んでやる。お前が、俺の代わりをするんだヴィンセント。アイツにロックをぶつけてやれ。それでお前の頭に俺が居る信憑性が上がる筈だ】
「……は? いや、待て、待てジョニー!? うぐぁっ?! 頭が……ッ、割れッ!?」
カリカリと焼き付く音が聞こえてくる様な、鮮烈な熱さが脳髄にぶち込まれて煮えたぎっていく。
だが、身体はまるで精神の俺を置いていく様に幻想のギターを掻き鳴らす。
一曲、二曲、三曲と立て続けに技術と熱意と誇りが俺の身体に刻み付けられていく。
視界がバチバチと明滅するが、段々と暗闇の先に光が見えて来た。
「はぁーー……ッ、はぁーー……っ、死ぬかと……思った……。ジョニー、お前っ! 殺す気か!?」
【ハッ、良い指捌きだったぜヴィンセント。まるで俺の指みてぇだった、HAHAHA!!】
「自画自賛かよ万年ナルシストがよ……、くぁー……っ、頭がクッソ痛ぇ……。はぁ、これで懸念は解消か。せめて心構えくらいはさせろよな」
「あー……、大丈夫かヴィット?」
「悪い、たった今十数年分のギター講座を圧縮受講させられたんだ……。ギターとかあるか?」
「……ふぅむ、なら、これを使え。何処ぞの馬鹿が忘れて行った最期の相棒だ」
施錠されたロッカーからローグが取り出したのは、記憶に焼き付いているあの扇動ライブに使われていたギターだった。
それを受け取り、自然と腕と指がギターのチューニングを始めて準備をし始めた。
何年経っても忘れない、身体に刻み込んで慣れ親しんだ動きで、あっという間にピンと来るチューニングが完了する。
そしてーー、一切コードや譜面を見た事も無い筈の俺の指は迷い無く動き出していた。
これは……、よくボスがオフィスで流していた曲、NeverFadeAwayの旋律だった。
……これ、オルトの死を悼んで作った曲だったのか。
ギターに込められた静かな哀悼を読み取れてしまう。
思わず涙が溢れたが、それでも指を動かすのを止めなかった。
今は、この哀悼を尊重して奏でていたい、そう思えたからだ。
「ーーWe'll never fade away……」
……良い曲じゃないか、ボスが鬼リピしてる理由が分かったかもしれない。
ギターの弦が震える余韻を感じながら、産まれて初めてのギター演奏を終えた。
ローグは唖然とした顔で暫く呆けてから、くしゃりと笑みを作り微笑んだ。
「やるじゃないか。そのテクならあのジョニーの代わりを務めても良さそうだ。私でこれだ、隣で聞き続けたであろうケリー・ユーロダインなら確実にお前の言い分を聞くだろう」
「其処までか?」
「あぁ、昔を……、火傷跡が疼く様な心地だ。……あんたのサプライズ、良い席を用意しな。それで手を打ってやるよ」
「は? いや、それは……、あんたの立場でそれは良いのか?」
「……良いんだよ。どのみちあんたらの作戦が行われたらアラサカはお終いだ。あの子が勝てばパレードで、負けたら敵討ちの血の雨だ。……あの子の成した事は誰もがしようとしなかった人道的で暖かな懐柔策だ。裏を返せば悍ましい冷酷な非道策だと言うのに……。アラサカの、バイオテクニカの遣り方に慣れてしまった市井の連中は気付きもしないだろうね。稀代のアジテーターだよ、本当に……」
ローグは話は終いだと言う様にテキーラを飲み干した。
【Tips】
・ジャグラ・カグラと言う革命家
ジャグラくんちゃんそこまで考えてーーたよ(豹変
デーモンによる狂気の中、アラサカを殺すための十全な計画を考えて実行していた。
ナイトシティの王を殺すためには、民衆を味方につけて勧善懲悪的な下剋上を成すのが一番手っ取り早い。
お金をばら撒いてフォロワーを増やすアカウントめいた社会的システムを実現させ、貧困に喘ぐ市井から蜘蛛の一本の糸宜しく分かりやすい恩を売り、今や日常の当たり前になったシステムを通じて無意識的なレジスタンス予備軍を作り上げて、十全な医療と食糧によって盲信的な信用と信頼を勝ち取った。
彼らは言うだろう、あのジャグラ・カグラが言うんだから本当の事なのだ、と。
彼らは動くだろう、あのジャグラ・カグラがやろうとしているんだ自分も加わらねば、と。
ーーそうしたら、またお金を、利益を得られるかもしれない。
人間を信用していないからこそ、人の動かし方を熟知していた。
人は利益無しに動く社会に生きていない、故に、利益を餌に誘導すれば欲深き者が先導者となり、やがて列を成して集団的バイアスから誰もが自然に列に並び始める。
デラマンを懐柔したのはAIの有能性と効率性を信用していたから。
一番最初に人の従業員を切り捨てたのを知っていたからこそ、真に信用と信頼を置ける人物であると認知していた。
ビジネスパートナーとしてこれ以上の人物は居ないとデラマンを評価していたので積極的に接した。
……もっとも、恋慕に似た執着の対象に選ばれるとは欠片も思っていなかった。
ジャグラくんちゃんの誤算の一つ。
デラマンに密告制度的金策システムの草案を投げたのは態とであり、オレにはできないなーできるやつ居ないかなー(チラッ、と自身への献身を逆手に取った。
ファラデーに院長を投げたのは死に往く予定があるので自分がなる訳にはいかなかったし、死なせるには惜しい有能さを持ち合わせていたから。
ヘルマンはついで。
オレくんの終活はデイビッドと出会ってしまったあの日から始まった、と言っても過言では無い。
実際、ジャグラくんちゃんが市井の懐柔策を考え付いたのはデイビッドの振り絞った勇気と優しさがあったから。
デイビッドはジャグラくんちゃんにとって、宿命を打ち破った生き証人にして、懐柔策の記念すべき一人目である。
(グロリアさんは二人目)
デイビッドを救った過程を簡略化してシステム化しただけに過ぎない。(貧困層への金のばら撒き支援)
故に、違う出会い方をしていたら今の遣り方をしていない。
それこそ、原作でヴィクターがVに高級品のキロシ光学をツケにしてでもインストールしてくれた様に、リパードクのお得意様で地味な支援だけをしていく展開も有り得た。
なお、その場合ベリーハードな苦難が待ち受けていたし、介入できないのでジャッキーは死んでいた。
ヴァニーも路地裏で死んで、サーシャも助からず、ヴァリーもパナムみたいにひっそりソロになってたので、ヴィットがVを一人で名乗る展開になる。
ファラデーは展開を知るジャグラくんちゃんにひっそりと暗殺され、ルーシーが必殺仕事人にならず、デイビッド、ルーシー、レベッカ、ファルコのチームが結成されていたに違いない。
ある程度、原作通りの道筋に沿って、物語が進んでいく展開になるIFもあった。
今作の難易度? 見ての通り、ベリーイージーだよ。
と言う感じで辻褄合わせです。
プロットらしいプロットを作ってもオリチャートでゴミ箱行き、DLCもまだだった頃に始めたので大目に見てね。
ぶっちゃけ一話書いたら投稿してるから先の事考えてないからさ。