Hello,Goodbye,Night City‼ 作:不落八十八
哀悼ライブとは、とツッコミたくなる様なロックなパフォーマンスに人々はノリに乗っていた。
そもそもの話、彼らはこの催しがローグによる主催だと勘違いしているため、アラサカへの日頃の恨みをぶつけられる機会であると認識していた。
「うぅむ……、ロックのノリに乗るのムズいな……」
『ジャグラ様は根がお優しいですからね、場末のスラムめいたノリは難しいでしょう。ですが、お任せください。データは取れました。完璧なノリに乗るタイミングをサポートします』
「はぁ、やっぱりデラマン、あんたはAIなんだねぇ。こんなのはそれっぽくやっておけば良いのさ。多少ズレても知らぬ顔でね」
「へぇ、やはりそう言うものなんだな。……だが、まだ直接的な姿は晒せないからなぁ。メロイックサインにしてくれないものか……」
ジャグラのそんな呟きを聞いた完璧な従者は即座に行動に移していた。
曲の終わりに合わせ、ギターから指が離れた瞬間にハッキングした強制受託ホロコールを飛ばし、中指禁止令をヴィンセントに叩き付けた。
『ジャグラ様に楽しんで貰うために開いたサプライズで、今後の行動に差し支えるパフォーマンスをするとはどう言う了見ですか愚か者め。中指は禁止です、通常のメロイックサインにしなさい。できないと宣うなら中指を切り落としなさい、パフォーマンスがお好きなんでしょう?』
『……ッス、ジョニー共々反省します』
ノリに乗ったテンションに突き刺さった無機質な殺意の込められた辛辣なホロコールによって、ヴィンセントたちは割と本気で反省した。
小さな箱なんて目じゃない観客数に酔いしれて当初の目的である、ジャグラに楽しんで貰う事を蔑ろにしていたからだ。
次曲はA Like Supreme、ケリーとヴィンセントの歌声がハーモニクスし、歌詞に込められた思いを曝け出す。
ケリーが己の殻を破り、ジョニーに向けてやってやるぞと決意したそれを破壊衝動によって表現するロックな曲だ。
ヴィンセントが、ジョニーが歌う事により、それがお前にできるか、と問い掛ける形になり、両者の問答がこの曲には込められている。
……のだが、先程の鉄杭めいた釘刺しによりヴィンセントとジョニーは少しテンションを下げていた。
それを見抜いたジャグラは猫の様な細目で隣を見やり、水を差してしまった事に内心で冷や汗を流すデラマンを察して苦笑いした。
一番が終わり、間奏に差し掛かるタイミングでヴィンセントに短文のメッセージが差し込まれた。
光学インプラントにより視界の端にそれは映った。
ーー好きにやれ、自由に。
瞬間、ヴィンセントとジョニーの心内はシンクロする様に同じ事を考えていた。
誰かに抑圧されて生きるのが俺たちの自由か?
迸る想いはギターに乗り、歌声に乗せられて、ロックとなって弾けた。
歌詞通りに殻を破ったヴィンセントは、ジョニーと言うショートカットを経て、ジャグラに背中を押された事で真にロッカーとして覚醒した。
「【Here we are now so entertained……】』
それは曲調に合わせた静かな覚醒だった。
この曲はケリーの魂の叫びの歌だが、全てを一度無くし、友人と言う掛け替えのない者の手を取ったあの頃をヴィンセントに思い出させた。
さぁ、殻を破れ、昔の自分なんてぶち殺して、新たな自分を魅せ付けろ……!!
歌詞を魂で理解したヴィンセントの歌声は素人ながらも力強く、ジョニーと言う下地のおかげで様になっていた。
明らかに調子を戻した様子を見てジャグラはにんまりと笑みを作った。
それでこそVだ、と。
突き抜ける意思の弾丸にして、自由の信奉者。
……首輪を付けて過保護に守ってしまった自覚はあれど、今のヴィンセントなら何も問題は無いだろうとジャグラは息を吐く。
そして、眩しい星の輝きを発揮した姿は引力の様に惹きつけられた。
「……あぁ、安心した」
ジャグラのその呟きは他の誰よりも温かで優しい口調だった。
会場のボルテージは最高潮に達し、誰もがこの瞬間に酔い痴れて夢を見ていた。
曲が終わり、燃え滾る意思の表れか湯気を燻らせる《SAMURAI》メンバーたちが速やかに水分の補給をする。
それはケリーが普段愛用している、ライブ用に成分調節された飲料であり、確かに効果を発揮させメンバーの熱気は消えやしなかった。
次曲はBlack Dog、自身を蔑ろにした企業に対し、闇に潜んで鎖から解き放たれた猟犬の如く首筋に牙を突き立ててやると言う反企歌だ。
この曲が始まった事でジャグラは曲構成があからさま過ぎて苦笑いを浮かべた。
次とその次の曲が何が来るのかが透けて見える様だった。
実際、このライブは半世紀前のそれとは違い、煽動を促すものではない。
アラサカの注意を引けるだけ引ければ作戦は成功なので、此処ぞとばかりに危機感を煽る構成になっている。
段々とライブの熱気が恐ろしさを伴って行き、アラサカ警備員たちの肝を握り締める有り様だった。
「多分次はArchangelだろうな」
ジャグラは彼らの胃のキリキリ具合なんて知った事ではない、とライブを楽しんでいた。
記憶に残るは小さな箱で再結成する《SAMURAI》のA Like Supremeのシーンくらいで、生のライブは初めてだった。
しかも、ヴィンセントの言い分では日頃の恩返しに企画したとも聞いている特別なライブだ。
罅割れてとっくに底が抜けた器に染み渡る様な心地に、ジャグラは静かに感動の涙を溢していた。
……分かっていた、既にタイムリミットを越えている事は。
深い眠りに就いてしまえばそのまま深海に沈んでいく様に意識が消えるだろう、と何となく予感がしていた。
けれど、もう、問題無い。
このライブはあくまで時間稼ぎであり、採掘マシンを奪い取って地下へ貫通させるための誘導に過ぎない。
故に、もう我慢をし続ける理由は無くなっていた。
感動の涙をきっかけにぽろぽろと涙が溢れていく。
「もう少し……、後……少し……、漸く、終われる……」
言葉にならない呟きで唇を震わせたジャグラの涙が溢れ切ったのと同時に、次曲であるArchangelが始まった。
ジョニーが戦争から帰って来た日に、ナイトシティに対して抱いた憎悪の破壊衝動を歌詞にした歌はアラサカタワーへと向けられた敵意を更に煽った。
会場は反企業の手先一歩手前の熱狂に脳を焼かれており、アラサカに恨みを持つ者はその怒りを思い出し、中指を立ててタワーへ向け始めた。
観客と警備員との緊張感は張り詰めた糸の様になっており、何かしらの起爆剤があれば大爆発を引き起こす手前だった。
「【これが最後の曲だ。アラサカの悲劇によって生じた哀しみに、この歌を捧げる…… Never Fade Away】」
受け取り方によってはアラサカが引き起こしたアレコレを糾弾する様な言葉選びに、ヴィンセントのアラサカに対する想いが込められていると観客たちは知る由も無いだろう。
そして、今までの熱狂を鎮火する様なレクイエムの様なバラード調で曲が始まり、全員の度肝を抜いた。
だが、唯一、初披露のNever Fade Awayを知る者が居た。
幾度も聞いた、何度も繰り返した、新たな発見を知った、知らない一面を見た、馴染み深いそれが流れたのだと気付いた時、もう駄目だった。
「……そっか、もう、終わった、のか。終われたんだな。漸くオレは……楽になれるのか。なら、もう、いいか。ーー終わらせよう、全てを」
心此処に在らずと言った様子で呟いたジャグラは、光学迷彩により見えないウェポンズラックが差し出していた、起爆装置を改良した無線送信機を手に取り、親指でボタンを押し込んだ。
オルトとの別れを悼む真のNever Fade Awayが歌われている中、遠くから聞こえてくる騒音があった。
空路はエアリアル・ビークルが主流になった今、聞こえてくる筈の無い旧世代のざわめきに人々は騒然となる。
何せ、つい最近その音を聞いていた者が居たからだ。
「《機龍》だ!! 武装ヘリの音だぞアレは!」
アラサカの終焉を誰よりも夢見た処刑人が哀悼の場を乱し、混沌と硝煙の血の雨を降らすべく登場したのだった。
武装ヘリは一機ではなく、タワーを四方から囲む様に四機が旋回し始める。
Never Fade Awayは武装ヘリが引き起こした旋風により中断され、ホバリングの騒音により会場は台無しになった。
隣で奇行の一部始終を見ていたローグが口を開く前に、ジャグラは動き出していた。
デラマンに目線をやり、輸送AVを遠隔操作させてヴィンセントたちをコンテナに閉じて、予定通り建設現場へと直行させた。
そして、護衛の一人から拡声器を受け取り、パイプ椅子の上に乗り、口元を当てた。
『この場に集まった者たちに告げる、緊急事態につきライブは終わりだ。無駄死にする前に家に帰れ。以上、解散!』
反論を許さない力強いジャグラの言葉に、誰もが顔色を変えて速やかにパークから出ようと動き始める。
前を押したり怒鳴る事は一切無く、観客たちは訓練されたかの様に何事無く出て行く姿は異様に尽きた。
だが、彼らは理解している、誰もが身体の何処かに数字を入れているからこそ、此処でやらかした時の方が酷い事になる事を。
幸い、パークの中心でライブが行われていたため出口は複数あり、観客たちの撤収は速やかに終わった。
「最初からこうするつもりだったのかい?」
何処か怪訝な表情でジャグラに問い掛けたローグだったが、一向に返事が返って来ない事に表情を変えた。
意図的に無視されていると眉を顰めたローグが痺れを切らして顔を覗きーー冷めた表情の無機質な瞳に貫かれた。
「……あぁ、なんだ、まだ居たのか。此処からは片道切符だ、来るのは構わないが自衛は勝手にしてくれ」
高熱に侵されたかの様な虚ろな瞳がローグを一瞥し、アラサカタワーへと歩みを進めて行く。
事実、その足取りは不安定で、CPUが100%になったHDDの様な不安定さを感じさせた。
階段の手摺りを使って降りていく姿はもはや病人のそれだった。
驚愕や怒りよりも、戸惑いや困惑に天秤が傾いたローグが心配から手を伸ばそうとするが、突如として影が差した事で頭上を見てしまった。
空中でホバリングするカスタムデラマンカーから、ジャグラの後ろに片膝と片手を突いて着地する少年の姿があった。
特徴的なNCPD附属医療機関の黄色いジャケットの背には、エッジランナーの黄緑の稲妻シンボルが入っていた。
空中浮遊していたカスタムデラマンカーはホバリングを止め、自由落下しながらトランスフォームし、二足歩行のパワードスーツに早変わりし重低音を鳴らしながら着地する。
執事メイド姿のデラマンがパワードスーツのリンクをジャグラに明け渡し、八対の瞳を宿したデバイスヘッドをそっと被せた。
「スーパーヒーロー着地で来るだなんてな、流石はオレのガーディアンだ」
「へっ、当たり前だろ。ジャグラは俺が護るんだ、なってやるさヒーローにな」
『残念ながらお前の出番はありませんよ、真のガーディアンはこの私ですから』
普段通りの軽いじゃれあいでデイビッドとデラマンが互いに睨み合い、ジャグラが一歩後ろに下がった事でそれは中断された。
『我ら《機龍》は度重なるアラサカの非人道な行いに誅するため、此処に宣言する! 今までの罪を暴き曝すため、武力による強制執行を行う! サブロウ・アラサカの野望をこのヨリノブ・アラサカが食い止めてみせると言うのだッ!! 総員、着剣! 天誅であるッ!!』
上空からシティセンター全域に届く様なヨリノブの宣戦布告が響き渡り、武装ヘリの機関銃が屋上のタレットや警備員たちを薙ぎ払い、特殊部隊《朱雀》《白虎》《玄武》の甲冑を模したサイバースーツを着込んだ者たちが降り立つ。
その光景を見ていたローグは半世紀前の自分たちのやった事を思い出し、歴史が繰り返されたのだと深く感じていた。
あの日と違い、ジャグラはアラサカ社員たちを皆殺しにする事に躊躇いは無い。
そのために、ある程度の社員を見逃していたのだから。
欲深き魑魅魍魎のタワーに住まう人の形をした外道共を一掃すべく、《機龍》の憎悪から来たる殺意を肯定し、こうして地獄を作り出した。
正面玄関から逃げ出そうとする社員は誰一人として居なかった。
誰もが一縷の可能性のある地下駐車場へと逃げ出し、搬入経路や避難経路へと向かい、待ち伏せしていた《青龍》部隊により切り伏せられていく。
上と下を押さえられた社員達の逃げ場は無く、何故自分がこんな死に方を、と怒鳴りながら呆気無くその命の灯火が踏み躙られていく。
やがて、タワーの正面玄関が開き、三人とそれに続く形で精鋭警備員が現れ、ジャグラたちの前で足を止めた。
「よぉ、ご機嫌如何だハナコ・アラサカ……いや、実の娘の脳に寄生したサブロウ・アラサカの名で呼んだ方が良いか?」
【貴様が……、貴様があの愚息を死地に駆り立てたのか。……ジャグラ・カグラ。マサヒロの娘よ……!】
実の娘たるハナコの身体を《Relic》によって奪い取ったサブロウが、オダとタケムラの護衛を伴いながら口を開く。
怒りの感情が感じ取れる声色に、ジャグラは冷笑によって切って捨てた。
「アラサカ様、此処は我らにお任せください。やるぞ、オダ」
「無論だ、タケムラ」
アラサカスーツに身を包んだ特殊部隊長オダと警備主任長タケムラが前に出て、それぞれの得物を取り出す。
アラサカ社製のマンティスブレードを構えたオダに、《ビャッコ》の鯉口を切ったデイビッドが対峙する。
アラサカ社製アサルトライフルのマサムネカスタムを握り締めたタケムラに、十指の先からモノワイヤーを伸ばしたデラマンが対峙した。
「此処が正念場だ、行くぜデル」
『……仕方がありませんね、その呼び方を許してあげます、やりますよディヴィー』
双方の殺意が視線によりぶつかり合い、精鋭である筈の警備員たちが固唾を飲む。
先制はーーデバイスヘッドの八つの瞳を赫く染めたジャグラのクラッキングだった。
精鋭警備員たちはICEを一瞬でズタズタにされ、援護の一発も撃てずに脳のシナプスを焼かれて崩れ落ち、対策済みだったオダとタケムラだけが動き出せた。
左右で激闘が開始された戦場に立ち尽くすジャグラとサブロウの姿をローグはエメリックの肉盾越しに見る事しか出来なかった。
ナイトシティ随一の大企業アラサカのトップ、サブロウ・アラサカ。
ナイトシティの覇権を握るトップフィクサー、ジャグラ・カグラ。
互いの因縁を清算すべく、全てを賭けた闘いの火蓋が今切られた。
【Tips】
・Vの覚醒(ロッカーのすがた)
自由に生きて飛んで行く鳥の様に翔んだ。
彼、彼女のナイトシティでの生き方は自由の一言に尽きた。
《Relic》で死に掛けてるのにNCPD案件を処理したり、ファストトラベル探しに駆け回り、壁の棚を埋めるためにアイコニックを探したり、ロマンスも二股上等でジョイトイに手を出したり、と実に自由である。
ゲームだからと言ってしまえばそれで終わりだが、エンディング次第で様々な道を選べるVは自由に生きたと言えるだろう。
悩みに悩み、人生の選択肢を選んだその先に後悔は無い筈だ。
・オレくん
壊れ掛けのHDD宜しく物理的な破損音が聞こえている。
分かる人には分かる絶望感。
電源落としたら次は起動しないあの兆候が引き起こされている。
後はもう突っ走ってゴールを決めるだけ。
尚、本命は此方じゃないので負けても勝つ。
だが、負けてやる気は更々無いので初手必殺の一手を打った。
エンディングの曲を直で聞いてしまったため、オレくんは今度こそ終わるために精神の食いしばりを解除した。
死神ルートの死に掛けVの精神ver。
普通の方なら最後まで聞いてから事を始めたが、エンディングの方だったのでカットされた。
各ライフパスの変化のせいで十数回は聞いてるからね、流石に飽き(ゲフンゲフン
・《機龍》
ずっと海岸沿いに停めた《空母くじら》でスタンバッてた。
無線機からの合図を受信し、ヨリノブの宣戦布告により万歳突撃した。
ローグと行くルート宜しく激しい銃撃戦が行われ、血で血を洗う激闘がそこにある。
・ディヴィー&デル(D&D)
近くでカスタムデラマンカーの中でライブを見ながら窓を開けて生の音を聞いてた。
愛称を言い合ったのはこの場が初めてであり、多分最後(後のトラウマワード)
お互いに此処が最終決戦の場であると自覚していたのでテンションが上がっていた。
その分後の出来事のダメージが深刻になる未来が確定している。
・ジャグラくんちゃんの先制攻撃。
初手必殺、シナプス焼却。相手は大概死ぬ(クリティカル五桁ダメージ)
本気で殺しに掛かっている必殺ハック。
化学汚染宜しく範囲内の繋がったネットラインを通じてシナプス焼却がアップロードされる恐ろしいデーモンだがクールダウンが伸びている。
クラッキングによってブリーチプロトコルを踏み倒し、無対策の者を始末するのに非常に使い勝手の良いクイックハック。
原作風に言うなら、デバイス経由のPINGで赤い輪郭を晒している奴らに打つともれなく全員にアップロードされるアイコニック、こっわ。
2.0になるまでは一撃必殺のデーモンだったが、なんか増えたサイバーウェアのせいでサイレントナーフされた、悔しい(ビクンビクン
多分あれ通常のICEとは別口の保険なので、ブリーチプロトコルで突破した後にも使えると思うんだよね……。(予備心臓的な)