Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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六十五話

 俺たちのライブが切りの悪いタイミングで終わった事で、コンテナの空気は控えめに言って最悪だった。

 結局のところ《機龍》は抑えの効かない野良犬だったと言う事だ。

 本来であればライブが終わった後に宣戦布告し、大義名分の場をしっかりと設ける予定だったのだ。

 

【……いや、ちげぇ。俺らは間に合わなかっただけだ。一曲多かったんだ。あの嬢ちゃんはもう……、限界だったんだ】

「それは……、どう言う事だジョニー?」

 

 事情を知るケリー以外は怪訝な表情を浮かべたが、悪いが構ってられる余裕は無かった。

 ボスが限界だったってのはいったいどう言う事だ。

 ジョニーはアビエイターを胸に引っ掛け、苦虫を噛み締めた表情を浮かべて煙草に火を付けた。

 

【文字通りの意味だ。お前は初めてのライブで楽しかったから見えてなかったんだろうが……。あの嬢ちゃん、よりによってArchangelなんぞで涙を溢してたぞ。嗚咽も無く、鼻水も無く、ただ、涙だけを流してたんだ。Archangelだなんてテロリスト予備軍の曲に泣ける要素なんざ欠片も無ぇ。だから、アレはそれ以外の理由の涙だ】

「まぁ、確かに……。Archangelに泣ける要素は無いしな……」

【……あの日、アダム・スマッシャーに脇腹をエグられた俺を、モーガン・ブラックハンドは義理堅く援護に来て逃がしてくれた。零れ落ちる臓腑を押さえながら屋上に向かった時みてぇに、嬢ちゃんは死期を悟っちまったんだろうよ。全てが傷口から溢れて行って、死神にカウントダウンをされている様にな。ハッ、実際俺は屋上で胴体を千切られ、無理矢理延命させられながらソウルキラーに掛けられたしな】

 

 精神的な同調のおかげかジョニーは俺を使って記憶を徐々に思い出している様だった。

 あの時、屋上まで記憶が途切れていたのは死力を尽くして登っていたからなのだろう。

 じゃあ、予定よりも早く《機龍》を呼び寄せたのはボスの意思だった訳か。

 

「おい、ヴィット。ジョニーは何て言ってんだ」

「は? ジョニー? なんでジョニーの名前が出るのよ」

「あ゛ぁー、あの時のお前こんな気持ちだったのか、だから不法侵入からロックかましやがったのか……。まぁ、簡潔に言えばアラサカの秘蔵《Relic》でそいつの頭の中に記憶痕跡のジョニーが居るんだよ。俺も半信半疑だったが、見飽きる程見てきたジョニーのギターを息遣い含めて完コピできる上に身内話も出来ちまう。説明は以上だ、めんどくせぇ」

「……はぁー!? なら、今日のライブは完璧な再結成だったって訳!? 最初から言いなさいよそんな大事な事は!」

「ははぁ……、けどよ、聞いててもどのみちジャグラ様の前でやる事は変わらないぜ?」

「……様? アンタまさか……数字持ちな訳?」

「へへっ、あの人の支援が無きゃ、今もクズのままだったろうよ。……まぁ、ドラッグの根絶で仕方無く正気なんだがな」

「ええい、知った事か! それでジョニーは何だって?」

 

 ジョニーの事になると圧が強いなケリーは……。

 やや苦笑しつつ、先程の話を伝えた。

 世話になっているであろうヘンリーは膝から崩れ落ち、ニュース記事を書いてるナンシーは聞きたくなかったと頭を抱え、デニーは神妙な顔で溜息を吐いた。

 ケリーは真顔になり、深い、それはもう深い溜息を吐いた。

 

「……つまり、お前らが失敗したら俺たちはアラサカから追われる身って事だな」

「いや、それは無い。と言うよりも出来ないだろうな。今頃アラサカタワーに残った奴は《機龍》の恨み辛みをぶつけられてるし、どのみち俺がオルトをメインフレームから呼び込んだら脳を焼かれる運命だ。ライブが始まる前に逃げ出せた奴だけが生き残れる。どう転ぼうがアラサカは終わりだ。生命線の《Relic》の大本をこれから破壊しに行く訳だしな」

「……はぁ、もうお前ジョニー二世を名乗って良いぞ。とんでもない事に巻き込みやがって……」

 

 と、言いつつケリーは獰猛な笑みを浮かべて、アラサカタワーがある方向へ中指を立てた。

 ジョニーの一件があった事で風当たりはきつかった事だろう、それが今報われるとなればそんな態度も当然か。

 

「本当は一杯引っ掛けてから渡す予定だったんだがな……。ほらよ、餞別だ、俺の銃を持って行け。オーバーチュアARCHANGEL、カスタムモデルのリボルバーだ。EMP弾頭が撃てる仕様で、グリップに仕掛けがあって反動が少ない。護身用にしちゃ過ぎた銃だが、きっとお前の役に立ってくれるだろう」

 

 専用の弾丸が込められたケースと銃身を掴んで向けられたオーバーチュアを有り難く受け取る。

 俺のレキシントンカスタムよりも威力が出るし、何よりも後の事を考えるとEMP弾頭の弾丸は最高の贈り物だ。

 

「ありがとう、百人力だ。そろそろナイトシティ郊外だから、此処で降りてくれ。デラマン! 着陸用意を頼む」

『畏まりました。着陸シーケンス起動』

 

 高度を落として行くコンテナAVの中で重力を感じながら、これからの事を考える。

 既に建設現場への襲撃は終わっているらしい。

 ……パナムが掻っ払ってきたらしいバシリスクとか言う装甲輸送艇に加え、先日のヘルマン襲撃に使った武装車両にAVも加わって、それはもう一方的な蹂躙だったそうだ。

 採掘用のマシンの最終調整をしているとの事だったので、今からならば丁度良い頃に合流出来る筈だ。

 

「それじゃ、武運を祈るぜヴィット。それとジョニー。……ジョニー、俺は、ハジケ足りなかったみたいだ、お前の演奏を、歌声を聴いて、忘れ掛けてたロックを思い出せた。……ありがとう、お前とのロックは最高だった」

「【……ハッ、一丁前な事を言いやがる。だがまぁ、燻ってたスランプからは抜け出せたようだな。……お前の道を行け。俺はそうした、これまでも、これからも。達者でな、ケリー】」

「……だとさ」

 

 其処に居るのに見えないせいで、俺を介しての別れの言葉は何処か滑稽だった。

 折角良い事言ってるのにな。

 

「へっ、締まらんな。だが、俺たちらしい。明日のスクリームシートを賑わせてやれよ。よーし、こいつらの祝勝会をやるぞ。あのいつもの店でな」

 

 コンテナAVが着陸し、ケリーに背を押される形で俺は追い出された。

 やれやれ、ボスの言い分ではこれで別れって訳じゃ無さそうのにな。

 ジョニーがニヤァと悪戯な笑みを浮かべているので確信犯っぽいなこれは。

 コンテナ部分を外した輸送AVの運転席に乗り込んだ俺は、四人に見送られ再び夜の帷が下りた空を飛んで行く。

 

「最後に確認しておくぞ。俺たちの目標は《神輿》のコピーと破壊だ。コピーは記憶痕跡以外の物、特にソウルキラーが必要だ」

【建設現場にある採掘マシンをチョッパーして、タワーの根元までぶち抜く。そして可能ならメインフレームにオルトを呼び込み、タワーを麻痺させる。道中にアダム・スマッシャーが待ち構えているだろうからな。きっちり殺しておけよ。俺とお前の仇討ちだ】

「俺は生きてるけどな……。しかし、本当に上手く行くのかこれ」

【大丈夫だろ。半世紀前と違ってお前には仲間が居る。……それくらいだけだな勝ってるのは、それだけは誇って良いぜヴィンセント】

「うっせーわ。大体、《ジャッカルズ》も《エッジランナーズ》もボスのチームだろうが。お前と違って俺は結局、お膳立てされた道を歩いてるだけだ」

 

 実際、俺が企画した作戦はボスの掌の内だったようで、あれよこれよと《機龍》あたりの調整は結局ボスが指揮していた。

 サプライズライブも多分バレていたが、とても楽しそうにしてくれた事だけが救いだろう。

 

【……ヴィンセント、一つだけ無茶な事実を言ってやる。あの嬢ちゃんはもう駄目だ。恐らくこの山場を越えたら倒れる事は間違い無い。だが、俺たちがRTA宜しく速やかに、そして早ければ早い程嬢ちゃんの消耗を抑えられる。……最悪、お前だけでも《神輿》に辿り着く気概で居ろ。そうでなきゃ、また、心臓をぶち抜かれるのがオチだ】

「……分かってる。オルトを呼べばジャックインは誰でも良い。優先順位は間違えないさ」

【なら、良いんだがな。……二度目の生に意味なんかありゃしねぇ。俺も切り捨てる対象に入れろ、良いな?】

「……あぁ、分かった。そんときゃオルトに拾われててくれ」

【ハッ、案外それも良いかもしれねぇな。結局俺は記憶だけの偽物で、本物はもう死んでんだからな。テセウスの船……、いや、この場合はスワンプマンか。また、泥に戻るのも悪くはねぇ】

「ジョニー、辛気臭い事を抜かすなよ。お前らしくもない」

【……へっ、忘れるなよ、ヴィンセント。お前は一人じゃねぇ】

 

 そう言い残してジョニーは助手席から消えた。

 ……いや、今の台詞吐くならそのまま居ろよ。

 最終決戦に向けて消耗を抑えてくれたんだろうが、正直もう誤差だろ。

 輸送AVがバッドランズを横切り、既に占領が完了している建設現場へと降りていく。

 ……うーわ、蹂躙しましたって感じのクレーターが沢山あるなぁ。

 焚火を囲む様にして俺を待っていたのだろう《アルデカルドス》の面々と、デイビッドの居ない《エッジランナーズ》に、《ジャッカルズ》のメンバーが揃っていた。

 俺はメインたちに会釈してから《ジャッカルズ》の方へ歩み、ジャックの隣に腰掛けた。

 

「随分と早くに終わったみたいだな」

「おぅ、ライブ見てたぐらいには楽勝だったぜ。ジャグの武装車両様々だな」

「多分だけどジャグラさんミリテクに警備を薄くする様に言ってたみたい。現場に居た警備員たちも威嚇射撃であっさりと降伏して来たし」

「今日のお仕事おーわり! みたいな感じで皆帰ったよ警備員のおっちゃんたち。怪我させなくて良かったね」

「後数センチ照準がズレてたら酷い有様になってたけどね……」

 

 ……ほんと、頭が上がらないなボスには。

 恐らくアラサカ襲撃の下地を整えるために協力を呼び掛けたのだろう。

 邪魔したら皆殺しにする、だなんて物騒極まりない笑えない冗句を拳銃を突き付けて言ったに違いない。

 

【いや、ミリテクはアラサカの好敵手だからな。比較的協力しやすい嬢ちゃんが、もといデラマンがナイトシティを牛耳る方が都合が良いんだろ。あいつらの本部は新合衆国だからな】

 

 だなんて物知り顔で現れて説明したジョニーは、消え去り様に俺の尻を蹴って行った。

 分かってるって、今から話題に振るとこだよ。

 

「……で、準備はどうなってんだ?」

「一部配線に不具合があったけど修理済み。ジュディが居てくれて良かったわね。私じゃ流石に分からなかったわ」

「……ま、私が出来るのはこれぐらいだけだしね。突入部隊の人たちのサポートは任せて」

 

 パナムの褒める言葉に謙遜したジュディだが、初見の機械の不具合見抜くのは凄い事だろ。

 ヴァリーに視線をやって、もっと褒めとけと投げておく。

 

「今、最終の調整をミッチたちがしてくれてる。多分、そろそろ終わるんじゃないかな。あ、ほら」

 

 採掘マシンがあると思われる黄色い足場からライトで描く丸マークが見えた。

 ホロコールをしないのは後で証拠になりそうなものが残らない様にする配慮だろう。

 

「よし、俺とドリオ、レベッカとルーシーは突入部隊だ。キーウィとピラルは後方支援部隊に行け。此処からは迅速に行くぞ。《エッジランナーズ》、アッセンブル!」

「……はぁ、メインの奴張り切ってんなー。ま、あーしらに掛かればアラサカなんてちょちょいのちょいって事見せ付けてやんぞ!」

「また、戻って来る日が来るとはね。あの研究所では無いけれど、似た様なものだし、ぶっ壊してあげる」

「やれやれ、ウチの嬢ちゃんたちは血の気が強いな。俺様が見てやらねぇとまだまだ心配だぜ。なぁドリオ」

「ふっ、そのために私たちが居るんだろ」

「ま、ほとんど勝ち確定だけど、底に穴が空いたら客船でも泥舟と同じだし、しっかりやってね」

 

《エッジランナーズ》の面々が笑みを浮かべ、段々と仕事の顔に移行していく様はまさしくプロのサイバーパンクだ。

 キルスコア四桁の殺戮チームの名は伊達ではなく、アラサカと言う大企業が相手だとしても笑える自信を付けているようだ。

 メインがM2067ディフェンダーを肩に担ぎ、続くレベッカはカーネイジカスタムを掴み、ルーシーはモノワイヤー機構の調子を試し、ピラルは持ち込んだ機材に電源を入れ、ドリオは年季の入った金棒を肩に引っ掛かけ、キーウィはファラデー謹製のデバイスヘッドを被った。

 

「さぁ、俺たちも負けられねえな。メジャーを降しに行くぞ!」

「にひひ、めっちゃくちゃのぐっちゃぐちゃにしてやんよ!」

「はしゃぎ過ぎ、まだ早いよ」

「ま、やれる事やりましょ」

 

 ジャックがヌエカスタムを二丁掲げ、ヴァニーがアームの拳を叩き付け、サーシャが苦笑いで猫耳カチューシャ型デバイスを被り、ヴァリーがブーリャカスタムのシリンダーを回す。

 

「アラサカに乗り込むぞッ!! 奴らにロックを見せてやれッ! 俺らサイバーパンクの生き様って奴をッ!!」

 

 ーー応ッ!!

 士気向上のために声を張り上げ、オーバーチュアカスタムを掲げれば、誰もが気持ちの良い返事を返してくれた。

 《アルデカルドス》のメンバーたちも此処からが本番だ、と気合いを入れ直し、各々のやれる事に向かっていく。

 ボスの集めた精鋭のチーム二つにノーマッドの集団、これを捌けるもんならやってみやがれアラサカめ。

 俺を捨てた事を、ボスを舐めた事を思い知らせてやる。




【Tips】


・アラサカ襲撃RTA
レギュレーションは一切無し、凡ゆる手段を用いて《神輿》をコピーしてから破壊するだけ。
やってみせろよ、V!
何とでもなるはずだ!
○○○・○○○○○○だとぉっ!?(ネタバレのため伏字)

・ジョニーのあれこれ
第四次企業戦争末期、ミリテク特殊部隊による旧アラサカタワーの破壊作戦に相乗りし、煽動ライブからの屋上から襲撃。
同時刻、ミリテク特殊部隊が地下から潜入。
ジョニーたちによる水素爆弾を乗せたエレベーターを自重落下させる地下爆破を合図に、本格的な侵入開始。
その後、ジョニーがICEブレイカーによりオルトに連絡を取ろうとするが失敗に終わり、逃げ出す最中にアダム・スマッシャーにより脇腹を吹っ飛ばされ気絶する。
その際に、宿敵を討ち果たさんとモーガン・ブラックハンドが参戦しトドメを刺されなかった。
怪獣大戦争中に目を覚ましたジョニーが腹を押さえてこっそりと屋上へ。
2.0.2.0世界線とは違い、モーガンは撃ち倒されアダムが屋上に追い付き、ジョニーをジョ/ニーする。
モーガンが倒された事でミリテク特殊部隊は熱核を仕掛けて脱出する。
インプラントの恩恵で奇跡的に瀕死だったジョをアラサカが回収し、ソウルキラーのある秘匿研究所(現アラサカタワー)でサブロウと対面して記憶痕跡化される。

……だなんて流れだったなら辻褄合うんですよねぇ。
DLCでモーガン復活!も無かったので改めて妄想をば。
2077はモーガンが負けた世界線だと考えるとアダム・スマッシャーが屋上に来れた理由付けにもなるんですよね。
(2.0.2.0だとアダムはモーガンにフルボッコにされる)
つまり、モーガンの死が世界線変動の原因だったのです!(ナ、ナンダッテー
2077でモーガンの生死が分かっていないのは、死体が見つからなかった=熱核でタワーごと吹き飛ばされたから、だなんて仮説も出来るわけで。
五十年も経って未だに噂止まりなのは、モーガンの名声を落としたくないミリテクの工作とかだったり(おや、誰かが訪ねて来たようだ

ただ、原作でオルトがあいつ法螺吹いてるぞとコメントしてくれやがったのであくまで作者の単なる憶測です。
前に色々と憶測しましたが、作者の最新の憶測は此方。
まぁ、2.0.2.0との乖離点を有耶無耶にするための台詞の様な気がしますがね。
ぶっちゃけ、オルトは記憶痕跡なので、ジョニーの記憶を見る際にジョニーフィルターの掛かったのを見ていただけの様な気がするんですよねぇ。
原作Vは走馬灯を見るかの様に追体験したから補正が掛かってない的な?
(V=ジョニー=ジョニーの記憶)無修正
(オルト→ジョニー→ジョニーの記憶)ジョニー補正

アダム登場、断線、屋上へ、の流れは多分ジョニーがモーガンに後を任せて逃げるのが悔しくて堪らなく思い出したくもなかったからなんじゃねぇかなと思います。
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