Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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六十六話

 建設現場の採掘マシンが起動され、注意喚起の警報が鳴るが、そっと消されて静かになったのを咎める者は居なかった。

 何せ、そんな音よりも遥かに喧しい騒音が始まるからだ。

 重々しい音を立てて金属音と共に風切りの音がしたかと思えば、硬い地肌を抉りながら破砕音がけたたましく鳴り響く。

 採掘マシンに乗り込むは《ジャッカルズ》の五人と《エッジランナーズ》から四人。

 ジャッキーとメインは二人並んで腕を組み、採掘マシンの行き先を睨み付けており、リーダーらしくどっかりと仁王立つ事を選んだ様だった。

 

「作戦を確認する。俺たちはアラサカタワー地下中枢部に向けて穿孔している。恐らく、研究所か発電区画、または角度次第では地震対策の地下基盤に出る筈だ。先ず、メインフレームに俺がジャックインしてオルトの記憶痕跡を呼び込む。それからは《神輿》区画を目指し、誰でも良いから《神輿》のコピーを済ませる。最悪、ソウルキラーのプログラムさえ手に入れば良い。そして、アラサカの生命線である《神輿》を破壊する。その後は此方に戻って来て待機してる《アルデカルドス》の車に乗り込んでズラかる。以上だ、何か質問は」

「そのオルトって誰よ、あーしら聞いてないんだが」

「オルトはソウルキラーを作った半世紀前のネットランナーだ。アラサカにより記憶痕跡化され、ブラックウォールの先で身を潜めていたらしい。まぁ、最強のネットランナーだと思ってくれて良い。俺の頭に入ってる《Relic》の中身、ジョニーの元カノだ」

「りょ。だってさ、キーウィ」

『まさか、あのオルト・カニンガム? 当時、バートモスに迫ると言われた人物よ。バートモスは破壊を為したけど、オルトは逆に再生を為した。話題に出た記憶痕跡と言うブレイクスルーを生み出した。生死の足取りが辿れなかったのはそう言う事か……』

「因みにバートモスはゴミ捨て場の冷蔵庫に居たぜ、腐ってたぞ。サイバーデッキはジャグに渡した」

『はぁー!? あのバートモスのデッキを!? うっわ、後で見せて貰おうっと……』

 

 ジャッキーの合いの手にキーウィが驚愕を叫ぶ。

 ルーシーは非常に悪い予感がして視線を逸らし、此処に居ないピラルもまた頭を抱えていた。

 歩く核弾頭と化しているあのジャグラにバートモスのサイバーデッキが渡った、その事実にネットランニングを齧ってる者は悪夢を予期した。

 何せ、クイックハックの対策として自作の外部機器を用いる生粋のテッキーにして、誰よりも他人を信用しない人間不信の塊である。

 人間入力以上の速度でcrack&hackが飛んでくる恐怖をネットランナーだからこそ理解できるし、サイバーデッキとは彼らにしてみれば愛銃の様なものだ。

 さて、バートモスの愛銃たるサイバーデッキに何が入っているやら、だなんて憶測を浮かべて青褪めるのも無理は無い。

 

「……あーしらが失敗したらナイトシティが大変な事になる可能性があるってマジ?」

「いや、流石にしないだろ。デラマンが居るしな」

 

 レベッカの憶測に肩を竦めたジャッキーは最後に小さく多分と付け加えた。

 元々負けられない戦いだったが、地味にハードルが上がった瞬間であった。

 真夏の怪談よりも冷えた空気になったが穿孔は続いている。

 迅速な遂行のためオーバーロード状態で採掘マシンは稼働されており、ミッチたちの念入りな下拵えにより正常な運行が成されているが時間が掛かるのは仕方が無かった。

 肝心のヴィンセントを置いて先行する事も考えられたが、本来使うべき崩落防止のためのコーティング剤が注入されていない稼働のため万が一を考えてそれは採用されなかった。

 短い様で長い待機時間に若干ダレつつも彼らの闘志はキャンプファイヤーの様に燃え盛っていた。

 此処に居る面々はジャグラからの殲滅依頼で鍛え上げられた精鋭と言って過言ではなく、アラサカと言う大企業の中枢部へと向かうと言うのに平常心を保てていた。

 

「はぁー……、デイビッドの奴が居れば楽出来たのになー」

「仕方が無いわよ。あの子に取ってデイビッドは正真正銘の頼れる味方なんだから。……だからってあんな歪んだ愛情はどうかと思うけど」

「……まぁな。何をどうしたらあんな恋愛怪獣が出来上がるんだかな」

 

 二人は共通の男の子に恋をしている乙女だからこそ、ジャグラの在り方に共感出来なかった。

 ジャグラのデイビッドに対する感情は、家族や身内に向ける愛情であり、原石から磨き上げた玉石に対する信用であり、コイツになら裏切られても良いと言う友情の信頼だった。

 

「流石にあんな顔されたら無理強いはできねぇよ……」

 

 傍目から見たジャグラとデイビッドの関係性はアンバランスだ。

 お気に入りのヒーローソフビ人形を誇らしく掲げる男の子の様であれば、打って変わって、大切なぬいぐるみを抱き締める女の子の様でもある。

 なのに、根幹にある感情はずっと大人で、もはや親心の様な過保護な愛情の様でもあった。

 そして、互いに向かっている筈の矢印は、二次元と三次元の様に致命的にすれ違い、お互いの気質のせいで急激な変化もせずに今に続いている。

 奇妙な共依存な関係とも言えるそれに、非常にやきもきする心地の二人からすればじれったい気分だった。

 愛犬を引き取られる飼い主の様な表情で、恋愛許可を貰っても二人の性格で、はい喜んで、と受け取れる訳がなかった。

 

「まぁ、事が終わったら話せば良いでしょ」

「……それもそうだな」

 

 だなんて果たされる事の無い計画を立てた二人は採掘マシンを、その先にあるであろうアラサカタワーを見やる。

 突入までの時間は十数分と短いようで長い。

《機龍》による突入で時間を稼げているとは言え、アラサカ側が体勢を立て直す時間としては十分過ぎる。

 緊張感を孕む時間が過ぎて行き、やがて採掘マシンは今日一番の金切り音を立てて壁をぶち抜き、重力に従い自重により頭を垂れる形で役目を終えた。

 アラサカに勤めていたヴィンセントが先行し、地下基盤のど真ん中をぶち抜いた事を皆に伝える。

 

「彼処の奥に点検用の梯子がある。この上は研究区画があって、ぐるりと遠回る形で中央に立ち入り禁止区画がある。多分、其処が《神輿》の筈だ」

「メインフレームは?」

「《神輿》の近くにある。見当はついてるから大丈夫だ」

 

 最低限の会話をした後、メイン、レベッカ、ジャッキーが前に立ち、斥候をヴァニーが務める。

 けたたましく警報が鳴り響く空間を走り抜け、上階へと梯子を登って行く。

 段々と聞こえてくる銃撃戦の音を耳にしながら、猫の様にヴァニーがしなやかな忍び足で先を進む。

 辺りを警戒していた警備兵を見つけると、にやぁーと笑みを浮かべた。

 壁を蹴って支柱に跳び、頭上を通り過ぎる前に天井を蹴り、警備兵の頭に逆立ちで着地し、同時に身体を捻る。

 小気味良い音を立て首を一周させられた警備兵を支柱の陰に捨てた。

 その鮮やかな手際にレベッカがサムズアップし、ヴァニーはニッコリと親指を立てた。

 そのステルスキルを見たメインは自分たちとは正反対の遣り方を好む事を理解し、役割を変えた。

 ヴァニーとヴィンセントを前にやり、グラップルとサイレントキルによる静かな進行を進めた。

《機龍》による派手な突入は、アラサカの警備兵たちに遭遇戦による対処を強要する仕込みになり得た。

 突然飛び出して銃を乱射してくると身構えている警備兵の背中を取るのは容易で、小隊を組む者たち以外は《ジャッカルズ》が処理を担当した。

 

「オラァッ!! 死ねッ!」

 

 ディフェンダーから放たれた銃弾の雨を浴びた五人小隊は、質の良いアーマーを信用して報復射撃するためライフルを構えた。

 だが、ガタイの良いメインの姿に視線が集中した結果、横合いからカーネイジを連射したレベッカに気付けずアーマーが引き裂かれて行く。

 十字砲火に晒された警備兵の一人が起死回生のグレネードに手を掛けるが、自分の意思に逆らう両手がピンを抜いて足下に転がしてしまった事に目を見開いた。

 ルーシーの放った強制自爆のデーモンによりグレネードは起死回生どころかオウンゴールとなった。

 

「さぁ、暴れるぞ!」

 

 メインフレームに近付いた事でメインを軸に《エッジランナーズ》の面々は陽動を開始した。

 ピラルが操るドローンにより弾切れを気にする事なくメインとレベッカはトリガーハッピー宜しく引き鉄を引きっぱなしに暴れ回り、その隙を埋める様にルーシーとドリオがカバーに入る。

 研究区画の広い空間がメインたちの陽動の邪魔をせず、研究員らしき者たちも含めて銃弾で薙ぎ払っていく。

 サイバーパンクと呼ばれるべき上澄みの傭兵たちの蹂躙劇はあっという間に終わった。

《機龍》の襲撃の方へ人数を割いているのが仇になったのだった。

 唯一場所を知るヴィンセントが指を向けて先導し、縦横無尽に跳びはねるヴァニーが先陣を切り、着実に前に進んで行く。

 

「其処がメインフレームだ! オルトを呼び込む! 援護は任せたぞ!」

「任せなブロダー! まぁ、こっちに来れる奴は皆ぶっ倒れてるけどな! やるじゃねぇか《エッジランナーズ》!」

「当たり前だァ! そっちも中々じゃねぇか《ジャッカルズ》!」

「「わっはっはっはっ!!」」

「随分と仲良いなぁおい……」

「見た目からして分かるでしょ」

「ほぅ、私にも飛び火したが買うべきか?」

「さぁーて、お仕事お仕事!」

「……気にしてたのかよドリオ」

 

 姦しい会話が響く程に《神輿》への道のりは楽なものだった。

《機龍》への対処に力割いた事も理由だが、初めから殺す気で来ているサイバーパンクの精鋭たちが相手なのが運の尽きだったと言えよう。

 

【アクセスポート解放、システム掌握開始……。天下のアラサカがこの体たらく、驕り過ぎだ】

 

 研究区画に響く館内放送からオルトの声が響き、回路がオーバーロードする音が幾つか聞こえてくる。

 音の発信源は迎撃ではなく隠れ潜む事を選んだ研究員たちだった。

 メインフレームから這い出たヴィンセントが額の汗を拭い、第一段階を終えた事に息を吐いた。

 

「漸く折り返しだ。《神輿》はあのゲートの先にある筈だ。オルト、合ってるよな?」

【……あぁ、だが、その場所は内部アクセス限定にされている様で隔離状態だ。ゲートまでは干渉できるが、その先はヴィンセント、お前を経由しなければ不可能だ】

「へっ、ボールは決まった、なら後はゴールにダンクするだけだ。急ぐぞ、時間は味方じゃねぇ」

「後方は任せろ、最悪ピラルのドローンを盾にする」

『いや、なら最初からシールド持ってけよ。一応積んでるっつーの。ミリテクのケンタウロス用のシールドを渡しておくぞメイン』

「助かる。二個無いか?」

『あるよ、ドリオの分だ』

「ドリオ、俺のディフェンダーを使え。俺は盾を構えて遮蔽物になっておく」

 

 これが本当のメイン盾だな、だなんて軽口はピラルは吐かなかった。

 分かる奴少ないだろうしな、と言う自己防衛でもあった。

 ネタが滑り、改めて解説するだなんて未来を回避したのだった。

 ドローンからケンタウロスシールドを二枚、その強靭な膂力で持ち上げたメインは、遮蔽物の無い《神輿》への廊下の真ん中に陣取り、盾を構えた。

 頼り甲斐のある殿を置いた面々は次々と開かれて行くゲートに向かい歩き始めていた。

 そして、最後のゲートが持ちーー上がらず、軋む音を響かせていた。

 

「オルト?」

【……無理だ。開閉機構を破壊されているのか、または何かが挟まっているのか。其方で抉じ開けてくれ】

「おぅ、そう言う事なら任せな。力には自信があるからよ」

 

 ジャッキーが朗らかな声で僅かに開いたゲートに手を入れようとして、指を這わせた瞬間だった。

 ヴィンセントの左腕が独りでに動き出し、ジャッキーの上着の首を引っ張ったのは。

 同時に、動かぬ筈のゲートが勢い良く床に落下し、鈍い金切り音を響かせた。

 

【……間抜け、相棒の指を潰すところだったぞ。居るに決まってんだろ、其処にな】

「ジョニー? ……まさか、アダムーー」

 

 ヴィンセントがその名を言い切る前に目の前ゲートが内側から弾け飛んだ。

 分厚いゲートだったおかげで飛散の速度は落ちていたが、チンピラのボディブロウ程の威力はあった。

 正面に立っていたジャッキーが壁になった事で被害は少なかった。

 だが、そんな事は意味が無くなる可能性が高いとその場に居た者は察した。

 全身鈍色に光るサイバーボディにその身を委ねた最強の傭兵、赤い眼光を輝かせたアダム・スマッシャーのエントリーはド派手に決まった。

 

【まさか《Relic》で現代に甦るとはな、勘が冴えてるじゃないかジョニー坊や。随分と良い依代を得たようだ】

「【アダム・スマッシャー!! 此処で会ったが百年目だ! お前を倒して俺は、俺たちは前に進む! あの日の借りを返してやるぜッ!!】」

【やってみろ、半人前共。その力、示してみせろッ!!】

 

 ジョニーがヴィンセントの精神に乗っかる形でシンクロし、二人で一つの身体を動かし始める。

 本来なら足取り合わぬ荒業だが、お互いの事を記憶で知り合う二人だからこそ息を合わせる事が出来た。

 半世紀前の因縁を、自身を死に追い遣った復讐を果たすべく、ヴィンセントとジョニーはロックを叫ぶ様に吠えた。

 ナイトシティ最強の傭兵、アダム・スマッシャー。

 ナイトシティ最凶のタッグ、ヴィンセント&ジョニー。

 未来を掴むための激闘の火蓋が今切られた。




【Tips】

・バートモスのサイバーデッキ
原作ではアフターライフの奥にいるニックに手渡し、なんやかんやあって中身が露呈するが、仕事用のノーパソみたいな使い方をされていた。
……が、真のネットランナーがそんな使い方してる訳無いので、何処ぞのハガレンの錬金術論文宜しく解読必須の代物と化していた。
デラマンによりスパコンスペックで精査され、アイコニックデーモンが抽出出来た。
(クラッキングを勝手にしてウェルカム状態にする電子恐慌の立役者。このデーモンにより凡ゆるICEが破壊され、マルウェアやデーモンなどの侵入を容易くさせた)
ジャグラくんちゃんはこのクラックデーモンを用いてクラッキングを成しているため相手のICEは死ぬ(直球
昨今セルフICEの様なサイバーウェアで保険を掛けれる様になったので時代を感じるデーモンである。

・開かないゲート
後ろでアダム・スマッシャーが足の爪先をめり込ませて押さえ込んでいた。
原作と違い、ちょっとした茶目っけを出した(十指圧壊
潰された指が押さえ込まれている所を蹴り飛ばし、先制を決める予定だった。
空いた穴から見たら予想以上にめっちゃ居たが、ジョニーの左腕を付けたヴィンセントを見つけて会話を開始した。
……デイビッドが居ない事に少しだけがっかりしてたが、ジョニーらしき人物が居たので気を取り直した。





もしや、そのままサブロウ戦までやってアダム戦してた方がウケが良かった?
(感想少なくて不安になった奴
足並み揃えておかないと後でダレるかなぁと言う配慮だったけれども要らんかったかな……、小説難しいなぁ(素人感
今後の参考のためにアンケ置いときますので、良かったらポチってね。

V側の描写を入れずにサブロウ戦まで進めた方が良かった?

  • 流れを切るな、そのまま続けろ派
  • 足並み揃えないと後でダレるからヨシっ派
  • そもそも場面を分けずに書き進めろ派
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