Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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六十七話

 アダム・スマッシャーの名はナイトシティだけではなく、ハバナのアギラルの様に世界に広まるビッグネームだ。

 世界屈指の大企業アラサカの地獄の番犬にして、最強の傭兵の名を握り締めた豪傑でもある。

 目の前の壁の様な巨体を見た時、その場に居た全員が背筋を震わせた。

 キルスコア四桁を一人で成す生粋の殺人マシンと呼ばれる風格は見た者全てに死の恐怖を与える。

 だが、彼らの中でただ一人、真っ向から立ち向かう人物が居た。

 過去の名前を捨て、シンプルにVと名乗った元アラサカコーポのサイバーパンク、ヴィンセントだ。

 頭の中にギャンギャン咆哮する黒い負け犬ことジョニー・シルヴァーハンドを宿し、同じくして獰猛な犬歯を剥き出す姿は瓜二つだった。

 片や新旧のアラサカタワーで殺し、片や胴体を心臓をぶち抜かれ殺された。

 死の淵にしがみつき、しぶとく蘇った二人で一人の半人前がオーバーチュアカスタムを構える。

 足下に転がっていたジャッキーを廊下の端に蹴り転がし、アダムは人差し指で自身の額をタップした。

 

「【野郎……ッ、一度勝ってるからって舐めやがってッ!】」

 

 二人分の感情は凄まじいが、根が激情家と冷静家のためコントロールが難しい。

 しかも初めての試みならば尚更の事だ。

 気持ちが先走りするジョニーの制御をヴィンセントは早々に諦め、この暴走ポルシェの行方を先導する事に専念した。

 暴れ回るエイムでタイミング良く引き鉄を引くかの様な難易度であるが、阿吽の呼吸で動きを先読みできるが故に可能だったからだ。

 

「後衛はメインの後ろに! ヴァニー!」

「あいよぉ!」

 

 デイビッドが居ないため、必然的に前を張れるのはヴァニーとドリオだけだ。

 しかし、ドリオは初見のアダム・スマッシャーの覇気に足が竦み、ヴァニーの後塵を拝する事となる。

 魔改造された強化腱により、常人からすれば一瞬で肉薄したヴァニーは気炎を吐きながら渾身のボディブロウをアダムの腹部へと放った。

 所詮は女の拳だと油断していたアダムだが、微かにヴァニーの右肘から聞こえた稼働音に違和感を感じ咄嗟に左手で受け止める。

 直後、インパクトの瞬間にゴリアテアームに搭載されたタングステン杭が中指の付け根から射出され、鈍い音を立てて左掌に窪みができた。

 

【……あの娘の作品か】

 

 アダムの警戒心が跳ね上がり、そのままヴァニーの右拳を握り、後から金棒を構えて走って来ていたドリオへと軽々しく投げ飛ばす。

 そして、明らかに精細を欠いているドリオへ向けてプロジェクタイルランチャーの思考トリガーを引くものの、サンデヴィスタンを使い咄嗟に距離を取ったヴァニーのフォローで遥か後方へと弾丸は流れて行った。

 サンデヴィスタンの稼働時間を節約したヴァニーは苦い顔で舌打ちした。

 このサンデヴィスタンはローグがロハで引き受けてくれた事で浮いたエディーで購入した物の一つであり、可能な限り秘匿しておきたかった手札の一つだった。

 

「使える様になるまで下がってろチキン!」

 

 言外に発破を掛けながらドリオをメインの並べる盾の裏に投げ込んだヴァニーを支援するべく、レベッカがカーネイジカスタムをぶっ放すものの硬い外装甲に弾かれ有効打は無い。

 

【女子供が男の戦場に入って来るなッ!!】

 

 居ても居なくても変わらないと吐き捨てたアダムは両肩にマウントしていたマイクロミサイルをトリガーし、前面の周囲一帯を吹き飛ばす面制圧を行った。

 このタイミングでサンデヴィスタンを限定稼働したヴィンセントが、発射直後でハッチの開いたミサイルポッドに弾丸を叩き込む。

 自動的に次装填されたミサイルを撃ち抜き、誘爆させた事でアダムの武器を一つ奪ったヴィンセントだったが、同じくしてサンデヴィスタンを起動しポッドの連結部を炸裂パージしたアダムにより直接的なダメージにならなかった。

 左右の壁に爆発の花を咲かすポッドを見る事も無く、背中にマウントしていたヘヴィマシンガンを構えたアダムはメインの盾に発砲した。

 盾の四隅をあえて狙う事で暴れ回る盾に振り回され、握力を失っていくメインが青褪めるが、恋人の危機に気を取り直したドリオが二人がかりで盾を抑え込み事なきを得る。

 

【ハッ、半世紀前よりかは楽しめる催しだ】

 

 弾切れになったヘヴィマシンガンを二枚の盾の上に放り投げ、メインたちの頭上でランチャーで撃ち抜いた。

 中心に着弾し、パーツが手榴弾さながらに弾け飛んだ事で細かい傷を負うメインたちから視線を外し、好敵手成り得るヴィンセントとヴァニーを見やりーー。

 瓦礫に隠れ潜んで居たヴァリーのノヴァCOMRADE'S HAMMERの炸裂弾が脇腹に着弾し、基準量よりも遥かに火薬を詰め込まれた弾頭が盛大な爆発を引き起こした。

 余りにも衝撃が強かったのか強靭な足腰を持つアダムでさえ踏鞴を踏む程の威力が炸裂し、これ以上無い隙が生じた瞬間だった。

 

「行きなさいヴィンセント! アンタのやる事を忘れるなッ!!」

 

 その言葉にハッとしたヴィンセントはサンデヴィスタンを起動し、アダムが破壊したゲートの穴を潜り、データベースのモノリスが並ぶ空間へと躍り出る。

 その様子を数瞬後に知覚したアダムは肩を竦め、目の前に立ちはだかったヴァニーと対峙し、穴を塞ぐ様にして位置取りを変えたヴァリーに挟まれる形となった。

 

【ふむ、存外にやるものだな。……時代、か。最強の看板を降ろせるものなら降ろしてみせろ、やれるものならな】

「上等ッ! ジャグラさんから貰った手足でお前に勝てば、紆余曲折なんやかんやでジャグラさんが最強って事で良いよなぁッ!!」

「……あの子既に最恐あたりに就任してるんじゃないかしら」

 

 その特殊な弾頭を撃ち出すためだけに作られたノヴァカスタムの焼き付いてひしゃげたシリンダーを捨てて、新たな装填済みのシリンダーを嵌め込んだヴァリーは安堵の息を吐いていた。

 今現在、最強火力と言って過言では無いノヴァカスタムの一撃ですら有効打成り得ていない事実に全滅の二文字が浮かんでいたからだ。

 しかし、此度のゴールは《神輿》のコピー&クラッシュ、それを唯一成せるヴィンセントを送り出す事が出来た。

 この場に居る全員で完了まで足止めしなければならない、とヴァリーは気炎を吐く。

 ノーマッドの気質の一つに、追い込まれた時の精神の強さが挙げられる。

 彼らの日常に車は当たり前で、乗る事も呼吸に等しい。

 故に、腕前を競うカーレースは最後の最期までアクセルをベタ踏み出来る奴だけが勝てるのだ、と勝利への渇望が染み付く。

 心ではなく魂に刻み込まれた宿命を果たすべく、ヴァリーはヴァニーにアイコンタクトを送り、強敵へ挑まんと集中を高めて行く。

 

「さぁ、ストリート仕込みの喧嘩殺拳を味わいなァッ!!」

 

 改造強化腱を瞬時に起動したヴァニーはサンデヴィスタンすらも起動して、最高速度の立体機動に身を踊らせた。

 ーー良いか、ヴィクトリア。人はな、殴れば死ぬんだ。

 ジャグラの極論とも言える心構えを脳裏に浮かべ、殺意のスロットルを全開に吹かしたヴァニーの殺人キックが放たれ、アダムの頬に鈍い音を立ててぶち込まれる。

 常人であれば脳震盪どころか頭蓋骨が粉砕される威力であるが、アダムに有効打を与えている様子は無い。

 が、脚を戻す動作に合わせて下腿部から展開されたマンティスブレードが追従し、超高速で振動する刃が顔のプレートに深い切れ込みを入れた。

 ヴァニーのサンデヴィスタンが稼働を終了し、一連の流れを察したアダムは驚愕を口にした。

 

【貴様、二つも軍用規格品をインストールしているのか!?】

「残念でしたー! アラサカの古臭くて微妙な試作品からジャグラさんがしっかりと完成させたハイエンド品でぇーす! ……にしても硬過ぎない?」

 

 ゴリアテアームとバニーホッパーはグレードで言えばレジェンダリー品質の逸品だ。

 しかし、アダムの装甲が妙に硬い印象が感じられ、ヴァニーは首を傾げざるを得ない。

 

「オルト! どうにかならないの!?」

【……どうにもならないな。だが、仕組みについては考えが浮かんだ。アダム・スマッシャーは私やジョニーと同じ、記憶痕跡で動いていると言う事だ。人の処理速度を遥かに越えている上に、私のハッキングを尽く弾いているのは異常だ。故に、人では無い存在、今のデラマンの様な存在であると仮定するのが妥当だろう】

【……まぁ、バレるだろうな。そうだ、俺は十年前にソウルキラーを用いて真に機械の身体を得た。マサヒロは止めたが、人間の脳にも消費期限がある。後は老いて朽ちるだけ、そんな身体を捨てる事に躊躇いは無かった】

「だから、ジャグラさんの父親を殺したの?」

 

 オルトの言葉に反応したアダムから少しでも時間を得るために、ヴァリーは時折アダムが口にするマサヒロの名から話題を広げた。

 効果は覿面であり、アダムは赤い眼光を弱め、マサヒロを悼み想う素振りを見せた。

 

【……いいや、マサヒロを殺したのは俺では無い。サブロウだ。アイツは俺にアラサカ特製の鎖と首輪を嵌めるために《Relic》を無償で提供したのさ。俺の抜け殻をドール技術で動かし、マサヒロの妻子を殺そうとしやがった……ッ!! 無論、それを後で知った時サブロウを八つ裂きにして脊髄を引き摺り出して脳味噌を踏み潰してやろうとした。……失敗したが】

「なら、今あたしたちと戦ってるのは嫌々って事?」

【……否、だ。俺は傭兵、アダム・スマッシャーだ。依頼を熟せずに居て何が傭兵か。あの娘には悪いが、仕事を優先させて貰う】

「ハッ! ならアイツを行かしたのは失敗だったな! あーしらの中で唯一《神輿》に触れられる奴なのによ!」

 

 既にコピーには十分な時間を稼いだと判断したレベッカがアダムを扱き下ろすため中指を立てた。

 しかし、アダムはそれを鼻で笑った。

 彼らは思い出すべきだった、アダムが何処から現れたのかを。

 同時刻、電源の入っていないゲートを気合で抉じ開けて《神輿》のある場所に辿り着いたヴィンセントは目を見開いてその光景を見て呆けていた。

 完膚なきまで叩き壊され炎上している巨大なモノリスーー《神輿》の哀れな末路が其処にあったからだ。

 

【あぁ、貴様らの目当ては《神輿》だったのか。ならば、残念な事だ。既にサブロウからの依頼により《神輿》は破壊してある。サルベージ出来ぬ様にしっかりと、な】

 

 アダムの冷笑の込められた言葉に誰もが驚愕と悔しさが込み上げた。

 しかし、一人だけ冷静だったヴァニーはアダムに問いかけた。

 

「どうせ、別の場所に移すために、とかでしょ。持ってるんでしょ、《神輿》のコピーデータ」

 

 獣の勘が囁いたのか、ヴァニーの視線は鋭いままだった。

 アダムはクツクツと笑い始め、《Relic》ルームに居たヴィンセントにも聞こえる様な呵呵大笑をした。

 そして、再び赤い眼光を強め、自身の首筋をトントンと叩いた。

 

「上等ッ、アンタの首ごとジャグラさんの手土産にしてやるよ」

【ハッ、吼えたな小娘。良かろう、この首落とせるものなら落として見せろッ!】

 

 両腕両脚を稼働させ、全身から熱を発し始めたヴィクトリアはその名に恥じぬ獰猛な笑みを浮かべた。

 サンデヴィスタンのクールダウンの時間も稼げた事もあり、やる事をするだけだ、とヴィクトリアは両拳を突き合わせて犬歯を剥き出しに嗤う。

 それだけが自分の存在価値だと自嘲するかの様に。

 ヴィクトリアのストレートとアダムの迎撃のストレートが放たれ、甲高い第二ラウンドの鐘が鳴り響いた。




【Tips】

・真・アダム・スマッシャー戦(ベリーイージー)
実は記憶痕跡の喋る時だけ【】にしてたと言う伏線を此処で回収しておく。
記憶痕跡化で機械の身体に《Relic》でパイルダーオンしている状態なので人間性コストを度外視で色々と盛れる。
そのため、全体的に躯体は更に頑丈になりハイエンドモデルと化している。
加えてオルトのクラッキングも弾いているので全盛期に近いアダム・スマッシャー。
尚、今作はベリーイージーなので一部武装を使用を自ら禁じている。
具体的にはロイスとかサイバーサイコが持ち出すあのパワードスーツの極太ビーム発射装置が取り付けられており、ベリーハードだと初手で使って来て仲間が全滅し、運良く生き残ったVだけで戦闘開始する事になるでしょう(地獄絵図

ぶっちゃけVを三人にした理由は何らかのイベントに使えるやろと言うくっそ軽い理由でしたが、此処に来てオリチャーに使えて作者的には大満足です。
因みにエッジランナーズのキャラでアダムに匹敵できるのはデイビッドのみです。
あいつだけジャグラくんちゃんにあれこれ魔改造されてアダム戦を想定した強さにされてるからね……。
愛されてんなっ!!

 



アンケートにお答えいただき誠にありがとうございます。
三人称にしたのが失敗だったかなーと思いつつ、後先考えずに書いてる弊害ががががが。
という事で本当は映画みたいな感じで戦闘を交互に差し込もうと思ってたのを取りやめてアダム戦です。
なので、大分オリチャーしました、いつもの事だったわ、何も問題はありませんね。
六十五話をぶちこんだのは、色々となんやかんやあってジャグラくんちゃんにあれこれが終わった後に、ライブ後のシーンからアダム戦までやるとクッッッッッソダレるな、と思ったからでしてぇ……。
あったか~い感想をありがとうございます。
ぶっちゃけ、物書きの冷める瞬間って感想の切れ目よ(承認欲求モンスター
感想とかここすきとかが少なかったり、皆無だったりすると「あぁ、もう自分の作品需要無いんだな」だなんてマイナス方向に舵切るのが物書きの生態なので。

V側の描写を入れずにサブロウ戦まで進めた方が良かった?

  • 流れを切るな、そのまま続けろ派
  • 足並み揃えないと後でダレるからヨシっ派
  • そもそも場面を分けずに書き進めろ派
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