Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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六十九話

 時は少し戻り、アラサカタワー前。

 サンダユウ・オダ、特殊部隊の長にしてハナコ・アラサカの付き人を担うアラサカのエースの片割れ。

 その名を知る者は少なく、サイバーニンジャの一面もあるためと噂されている。

 《ビャッコ》を上段に構えたデイビッドに肉薄する速度は視界に掠める事すら怪しいレベルだ。

 故に、その奇襲を避けられたのは研ぎ澄まされた経験から基づく勘のお陰だった。

 

「はっやっ、ッ!?」

「むっ、……やるな」

 

 マンティスブレードのアームを最大まで伸ばし、グンッとリーチが伸びる秘剣の突きと化す。

 オダの初見必殺の技であったが、中空から繰り出された上段からの振り下ろしにしては角度が浅いと見抜いたデイビッドは跳ね上げる様にして払い上げる。

 浅く跳び、上段から両腕を振り下ろす形で放たれた秘剣を払った勢いを操り、遠心力を働かせる様に返す刀を振るう。

 オダはバッタが跳ねるかの様に膝を曲げて後方へ下がる。

 

「こいつの異名ーー知ってるか?」

 

《ビャッコ》と銘打たれたが故に、それに纏わる話は付きものだ。

 刀身の先に重心が偏る様に打たれたカタナ故に、必殺に用いられる振り下ろしに遠心力が乗りやすい特徴がある。

 素人であればカタナに振り回されるが、機敏を身に刻んだ持ち主であれば、そのカタナの振り回しに身を委ねる事を可能とする。

 カタナ特有のしなりのある構造に力学が加わり、その先端はさながら獲物に跳び掛かる人喰い虎が如く喰らいつく。

 カタナの重心移動に自身が乗り、其処に強化されたサイバーレッグの踏み込みが加われば、縦の一閃は鋼すらも喰い破る一撃となる。

 故に、目の前に瞬間移動したかの様に近付いて放たれた振り下ろしを紙一重で避けれたのはオダの技量あっての事だ。

 しかし、サイバーメンポの下で冷や汗を一滴流す程にそれは刹那の幸運と言って過言では無い。

 片やシノビ術を叩き込まれたイニシエのニンジャ。

 片や現代に蘇った人斬りサムライ。

 互いに血を吸わせた得物を構え、呼吸すらも技法として殺意で火花を散らせた。

 喰らいつく《ビャッコ》の剣戟をマンティスブレードの側面で添える様に受け流し、それすらも絶たんと時折混ざる必死の一撃を紙一重で避けていく。

 これまで培った技量のみで行われた一メートル以内の殺戮空間で二人は笑みを浮かべていた。

 

「中々の業物と見た、それを使い熟すとは見事也っ!」

「流石はエリート、上澄みは強いなァッ!」

 

 彼らの技術のルーツは奇しくも日本の古武術であり、片や一族に伝わる秘技であり、片や素人に教わった漫画のとんでも技法である。

 満面の笑みで自信満々に漫画の技法をBDシミュレーターで披露され、さぁやってみろ、と好きな女の子に言われた男の子はそれはもう頑張った。

 夢に見るレベルで積み重ね、生死の掛かった鉄火場で見様見真似で実践しては、持ち前のセンスで技法を磨き上げ、無理矢理研磨された技術は本物に近付いてしまった。

 縮地と呼ばれる足捌きの技法をサイバーレッグで無理矢理に解決し、カタナ特有の流れる様な振り方を水流に喩えて理解し、牙突擬きを練習して踏み込みを極めた。

 のだが、ジャグラの趣味で薩摩剣術を組み込まれ、ニの振り要らずな蜻蛉斬りが性に合ってしまい、《ビャッコ》の特性も相まって斬鉄に至る始末。

 レベッカに、スマイリーが出番皆無で泣いてんぞ、と言われてしまうくらいにデイビッドはカタナが馴染んでいた。

 故に、剣豪なんて居る筈も無いサイバーパンクな世界で、形は違えど技術で打ち合えるオダとの闘いは楽しいものだった。

 

「ニンジャのジツを馳走しようぞっ!!」

 

 煙幕玉を叩き割ったオダが距離を取り、白い煙に身を隠す。

 そして、風切り音により刃を察したデイビッドが払うが、あるべき姿が其処には無かった。

 超高速の足捌きによる歩法に、見破りの難しい光学迷彩の透明化が加わり、見えぬ刃の暗殺術が毒牙を見せた。

 

「悪いが、とっておきがそれならーー」

 

 背後から迫り来るオダは、見えないが故に重なる筈の無い視線が重なって、驚愕の表情を浮かべた。

 ジャグラの移動する鞄ことウェポンズラックを使うのは何も持ち主だけでは無い、と言う事だった。

 ジャグラ、デイビッド、デラマンのキロシには光学迷彩スキャナーがインストールされており、微弱な電磁波を視認できる様になっている。

 故に、白い幕の上に赤いシルエットがはっきりと浮かんでおり、オダの奇襲殺法を打ち破る事は容易な事だった。

 

「俺たちには通用しないぜっ!」

 

 必殺が故に鋭く伸ばされたマンティスブレードによる突きの切先を横に入り込み叩き落とし、その衝撃で立ち往生したオダの顔に痛烈な肘打ちを叩き込む。

 サイバーメンポのスクリーンに緩和されつつも、鼻っ面に叩き込まれた一撃は意識を濁らせるには十分だった。

 

「チェストォッ!!」

 

 仮に距離を取って腰のシンゲンをフルオートで放っていたとしても結果は変わらなかっただろう。

 咄嗟にケレズニコフを稼働させ驚異的な速度で避けたオダだったが、デイビッドのとっておきであるサンデヴィスタンの加速により追い付かれる。

 日頃暗殺を軸にしていた事が仇になり、正面から相手を分析して打ち破るパワータイプのデイビッドに軍配が上がるのだった。

 いつか見たあの時の様に、デイビッドはオダのマンティスブレードの結合部分手前、二の腕の半ばで一閃を振るい両腕のクロームアームを切り捨てた。

 

「……見事ッ!!」

 

 両腕が地面に転がった事で死を悟ったオダは首を差し出すが、デイビッドは脳天にチョップを与えるだけで殺しはしなかった。

 予想外の頭の痛みにオダが困惑していると、デイビッドは苦笑顔で真意を口にした。

 

「そもそも俺たちはお前とタケムラを殺す気はさらさらねぇんだよ。サブロウの野望が潰えた後の事を任せるためにな。だからほら、あっちもデルがタケムラで遊んでるだろ。そもそもの話、俺たちの装備はグレード5+って具合に魔改造品だ。そこらの市販品よりも良い程度の装備じゃ敵わない逸品。腕の良いテッキーの差が勝敗に繋がった訳だな。それに……」

 

 デイビッドは目を見開いているオダから視線を外し、辺りを見やる。

 彼らの視界には映っていないが、デイビッドの光学迷彩スキャナーは周辺一帯にずらりと並んでいるドローンたちの姿が見えている。

 そもそもの話、オダとタケムラを殺すつもりであるなら最初から終わっていたのだ。

 ジャグラはデイビッドとデラマンを信用しているし、信頼しているが、リアリストな一面がそれを否定し万が一を考えて保険を二重三重に掛けている。

 周囲には四脚重装型ドローンやマイクロミサイルを搭載したホバードローン、ガトリングを搭載した設置型ドローンなどに加え、対物スナイパーライフルのグラードをテック改造したオーバーグラードを屋上で構えた《デラマンズ》が待機している始末だ。

 光学迷彩スキャナーを使っているからこその安心と恐怖がそこにはあった。

 くだしたオダや視界に入れていた光学迷彩で隠れた保険たちから視線を外し、タケムラで遊んでいるデラマンの方を見やる。

 

『随分とダンスがお得意の様ですね、よくもまぁ避けられるものです』

「……くっ、此処で屈する訳にはッ!!」

 

 デラマンが用いた両手十指の先から伸びるモノワイヤーは鞭の如くしなやかに、そして熱、電気、化学の三種類の色を帯びてタケムラに振るわれていた。

 それをマサムネで立ち向かうタケムラだが、致命的な敗因が存在した。

 弾薬の有限、つまりは補充する予備マガジンの少なさのせいで節約を余儀無くされているという事だ。

 襲撃側のデイビッドたちと違い、オダとタケムラは緊急避難のため、サブロウの提案に従い正面玄関から出てきてしまった経緯がある。

 何かしらの意図があるとは言え、数少ない物資で立ち向かえる程、デラマンの機体は安くはない。

 何せ、タケムラが持つマサムネカスタムでは、デラマンの肌スキンは抜けるがその下の防護装甲を抜けない。

 狐が小動物を狩るために嬲り痛め付けていると言う光景が広がっており、タケムラのスーツはズタズタでありながら、その類稀なる才覚で掠り傷で済んでいるのが奇跡的な綱渡りを成功させている証左だった。

 やがて、直撃する物だけを選んで撃ち落としていた迎撃も弾切れにより不可能になり、タケムラは十本のモノワイヤーで左右から包むように拘束され、電撃でミディアムレアに焼かれた。

 電撃によりサイバーウェアも軒並みダウンしてしまった事でタケムラの逆転の芽は潰えてしまった。

 ぐったりと膝をついたタケムラはデラマンにより拘束され、回収用ドローンによりオダ共々搬送されたのだった。

 

「へっ、天下のアラサカがザマァ無いぜ」

『……では手筈通りに』

「デル? ちょ、ま、何でっ!?」

 

 別の回収ドローンへと隣に居たデイビッドを蹴り込んだデラマンは、同じくしてホバー型のドローンに乗り、その場を離れた。

 取り残されたジャグラとサブロウは、漸く邪魔が消えたとばかりに各々動き出した。

 アラサカタワーのロゴマークが開かれ、サブロウの前に飛び降りる様にして静かに着陸したそれは、かつてサイバースケルトンと呼ばれていた試作品の完成品だった。

 本来ならアダム・スマッシャーが装着し、運用するためのパワードスーツである。

 しかし、AVに用いられているジェットエンジンを小型化したものを搭載し、新技術により生み出された反重力テクノロジーを組み込んだ結果、起動状態じゃないと自重を制御出来ない代物と化してしまう。

 本来の月面陸上両用の設計を見直し、陸上利用に限定する事で最適化を施し、専用スーツAIによる思考補助により欠陥性を排除した最新モデル。

 此方はアダム・スマッシャーによる運用ではなく、完全に無人機として開発され直し、自重の制御問題は躯体を巨大化させる事で小型エンジンを一つ増やし、エネルギーゲインを増加させるデザインとなった。

 外部からのハック対策として専用の送受信機のみのシステムを採用しているため、使用者が限定されるのが欠点と言えば欠点であるが、専用機として見れば何も問題は無い。

 サイバースケルトンよりも出力が上がっているが故に取り回しに不安が残るが、この特殊炭素繊維製の傀儡を操るのが記憶痕跡のサブロウ・アラサカであるならば問題も無い。

 

「サイバースケルトンの発展型か……?」

【左様、これこそが地を平す破壊を齎す兵器、サイバーエクリプスだ】

 

 対するジャグラの背後に仁王立つデラマンカスタムがトランスフォームしたパワードスーツは小さかった。

 エクセルシオール規格の従来品よりも装甲が分厚く設計されており、グラードの弾丸すら弾く高性能な外装であるが、浪漫を求めて車から可変する事を優先したからかパワードスーツに留まっていた。

 しかし、カスタムされたデラマンカーを利用しているため、彼方此方にスラスターが増設されており、地を歩く事での運用を考えていないのが分かるデザインをしていた。

 

【では、最後の決着を付けようではないか。マサヒロの娘、我が野望を邪魔した事を悔やむが良い】

 

 サブロウは片膝をついてしゃがみ込んだサイバーエクリプスの胸元を開き、神経ポートに挿入されていた己自身を取り出して差し込んでみせた。

 

「お父様……? ……分かりました、泥を啜ろうとも、アラサカ家に繁栄を」

 

 サブロウのコントロールから脱したハナコが主人格を取り戻し、辺りの様子を見て全てを察したのか、言葉を残してその場を離れた。

 が、物陰に隠れ潜んでいたローグによりあっさりとグラップルダウンされ、逃亡できずに捕虜の一人として捕まるのだった。

 そして、長年の経験から嫌な予感がしたローグは、エメリックにハナコを担がせてその場を離れた。

 その様子を見ていた二人は何とも言えない表情を浮かべていたが、結果的にこの場から去ったから良いかと心境を同じくしていた。

 

「……はぁ、締まらねぇな」

 

 サブロウに顔を向けたまま遠隔操作でデラマンカスタムを近付かせ、左手をタラップ代わりにして胸元の操縦席へと座り込む。

 そして、被っていたデバイスヘッドを指定の位置に嵌め込めば、そのまま外部のつるっとしたデラマンの頭に被さる様に可変し、後頭部へ幾多のケーブルが接続されていく。

 神経ポートにコードを差し込んだジャグラはダイレクトリンクにより、デラマンカスタムを立ち上がらせた。

 デラマンカスタムはバンブルビーをスーパーロボット風にした様なデザインをしており、周囲に浮かんでいたドローンが武装パックを取り付けていき、何処ぞのフルアーマーモビルスーツの様な外装となっていく。

 FAカスタムデラマンに換装を終えたジャグラをサブロウは不意打つ事はしなかった。

 生粋の日本人だからこそ、変形シーンでのアンブッシュはキンジテである事を理解していたからだ。

 そして、本当に手段を選ばなくなるとジャグラの方に軍配が上がるのでサブロウはそれを予期して律儀に待っていたのだった。

 

「さぁ、ラストバトルと行こうじゃないか。あんたの野望、此処で潰えて貰うぜ」

【ふん、小娘風情がそれを成せると思うたか】




【Tips】

・サムライビルドデイビッドカスタム
ジャグラくんちゃんの悪いところが出た結果、薩摩サイバーパンクが爆誕した。
実際、ビャッコの飛び掛かりに示現流の蜻蛉は最適解であり、チェストされたスカベンジャーは多い。
(此処だけの話、こっちを先に書いてたのでアダム戦で披露されてしまった)
 
・サイバーエクリプス
サイバースケルトンが宇宙用なら、此方は地上用。
ただでさえでかいのに更にデカくされたらしい。
デイビッドが乗らなかった事で実戦配備の機会が無く、シミュレートの結果から開発が進められていた。
サイバーエクリプスとFAカスタムデラマンのサイズ比はコンボイとバンブルビーぐらいである。

・サブロウ戦(ベリーイージー)
多分サブロウ側はベリーハード。
デイビッドとデラマンがこの場に居ない理由は次回判明(お察しの通りである

V側の描写を入れずにサブロウ戦まで進めた方が良かった?

  • 流れを切るな、そのまま続けろ派
  • 足並み揃えないと後でダレるからヨシっ派
  • そもそも場面を分けずに書き進めろ派
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