Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

71 / 78
七十一話

 ーー旧パシフィカ地区、現ジパング地区。

 ーーデラマンユニバース本社、地下区画。

 ーー西暦2079年某日。

 

 あの日、ワタシの片割れのお兄ちゃんがアラサカ社を下してから色んな騒動があった。

 《機龍》襲撃事件と称されたそれの記事にはジャグラ・カグラやデラマン社の文字は無く、明らかな偏向報道だったけれども誰も文句を付けなかったみたい。

 ……まぁ、あの日のアレを見て楯突こうとする人は居なかったみたいで、アラサカ社に代わりデラマン社がナイトシティの舵取りをする立場になった。

 回復ポッドの中で目を覚ましたワタシはデイビッドくんやヴィンセントさんにお兄ちゃんを止められなかった事を謝った。

 逆に謝り返されて困惑したけれど、デラマンが言うには死人みたいな虚ろな瞳をしてたみたい。

 お互いに追い詰められていたのだと、お兄ちゃんが二枚三枚も上手でしてやられたのだと、そう言う事になった。

 

 ーー『この映像を見てるって事は全てが終わった後だろうな。悪いな、随分と迷惑掛けたろ、お疲れ様。先ずは労わせてくれ』

 

 お兄ちゃんはデイビッドくんにだけ教えた秘密基地に遺言のチップを遺していたみたいで、色々と後の事を吹き込んでいた。

 

 ーー『悪いなデイビッド。お前の気持ちは理解していたが、オレは本来この世に居て良い存在じゃないんだ。色々と仕込んだお前なら理解出来るだろうが、所謂転生者って奴だったんだ。後から気付いたが憑依型の、な』

 

 十年前、いや、十二年前に、ワタシとママがアダム・スマッシャーのドールに襲われたあの日に、精神の奥で寝ていたらしいお兄ちゃんが覚醒し、そのまま表に出ていた事を初めに伝えていた。

 

 ーー『Cyberpunk2077だなんて言う神ゲーがあったんだ。そこで繰り広げられるストーリーは何というか、現実の厳しさと言うか、人生が選択の道であると教えられる様なものだった。……察しの通り、ヴィンセント、Vが主人公なんだ。因みにお前は前日譚のアニメの主人公だ。オレがお前に無条件で信用と信頼してたのはそう言う訳なんだ。……話せる訳無いだろ?』

 

 お兄ちゃんはデイビッドくんがアニメでどんな歩み方をして死んだのかを早口で臨場感たっぷりと語っていた。

 ……遺言の筈なのにこの部分で三十分も喋ってたんだよね。

 デイビッドくんはデイビッドくんで、道理で俺じゃない誰かを重ねてる視線だった訳だ、と苦笑していた。

 

 ーー『と、長々と話しちまったが勘弁してくれ。多分、今を逃せば忘れちまってる可能性が高いからな。もう既にオレは過去の、前世のオレを思い出せない。もしかしたら此処まで語った事もオレの中の妄想の類なのかもしれない。……いや、なんでかサブカルチャーだけは覚えてるんだよな、鮮明に。マジでなんでだ?』

 

 丸々エピソード記憶に保存されるくらいにCyberpunk2077及びにエッジランナーズが好きだったんだろうね。

 そのお陰でワタシたちは未来のある毎日を過ごせているんだから。

 

 ーー『まぁ、なんだ。お前の命を救ったあの日から、オレは満たされた日々を過ごしていたよ。お前がサイバースケルトンの中でアダム・スマッシャーに殺される未来を変えられた事実は、オレの中で大きな自信になったんだ。運命はオレたちの手で変えられるんだって事をお前は示してくれた。ありがとうデイビッド』

 

 個人に宛てた内容は終始デイビッドくんが主だった。

 次にデラマンだったけど、当主として部下に指示を与える感じで色々とお願いと言う感じで託していた。

 

 ーー『お前には沢山助けられたよデラマン。機械に愛される日が来るとは思って無かったが、オレはお前の感情を尊重するよ。好きにやりな、デラマンと言う個人のしたい様に過ごせ。……できたらワタシちゃんの世話も頼みたいが、無理強いはしないよ。あの子もある程度はオレの中で成長していただろうからな』

 

 ……お兄ちゃん、多分その一言でワタシはデラマン社関連事業を統括するデラマンユニバース社のCEOです。

 割と御飾りな感じで、結局デラマンが決裁とか全部してるし……。

 まぁ、そのお陰でこの地下区画でお勉強と実験が出来てるからお礼はするよ、直接ね。

 

 ーー『取り敢えず、オレの持ってたアレコレ全部ワタシちゃんに相続するんで後宜しく。オレが君に贈れる最初で最期の贈り物だ。一生を過ごすには十分だろうからあんまり堕落して変な道には行かない様にな』

 

 お兄ちゃん名義のアレコレは同一人物であるワタシに全て引き継がれ、お兄ちゃん風に言えば強くてニューゲームみたいな心地でワタシは歩み始めた。

 

 ーー『まぁ、遺したい事は言い終えたかな。じゃあ、達者に暮らせよ。幸せにな』

 

 けどね、お兄ちゃん。肝心の見せ場で心の奥に隔離された事、めっっちゃくちゃ根に持ってるからワタシ。

 ワタシの幸せにはお兄ちゃんも欲しいんだから。

 フードファクトリー地下のお兄ちゃんの秘密基地みたいに、ワタシもユニバースの地下に作ったんだよ秘密基地を。

 お兄ちゃんがデラマンに治療して貰った時の生体データで調整したワタシのクローンが其処で培養ポットの中で眠っているんだよ。

 其処にはディーヴァ技術で生成された男性型のカイトシリーズに《Relic》を移したアダムさんとヨリノブクローンの少年体に差し込まれたサブロウさんが待っていた。

 二人の《Relic》はお兄ちゃんが確保したので、必然的にワタシに引き継がれた。

 なので、アダムさんには青年体の身体でワタシの警護をして貰い、サブロウさんには罰も兼ねて少年体でワタシの研究の手伝いをして貰った。

 サブロウさんはパパの仇だけど、話してみたら罪を償いたいと真摯に改心していた。

 お兄ちゃん撃墜率高過ぎない……?

 男誑しと言うよりかは人誑しの類だけども。

 

『おぉ、カグラ嬢来たね。今、最終の調整を終えたところだよ。シミュレーション結果は八割オーバーと言うところだ、本当にやるのかい?』

 

 サブロウさんは少し精神が身体に引っ張られている様で口調が若い。

 生身の頃を再現した身体に入っているアダムさんは軍人気質なのか、それともコミュニケーションに難があるのか沈黙を選ぶ事が多い。

 

「やるよ。二年も待たしちゃったんだから」

 

 お兄ちゃんの人格は厳密には消えていない。

 今も繋がっている感覚があるし、一年前くらいから時折夢に出て来て偏った食生活を直す様にお説教しに来たりしている。

 どうやら前までワタシが居た場所に入れ替わっただけで、元々そこで寝てた事もあって割と元気の様だった。

 ……ママの様なパパって感じですっごい過保護だけど、世界一のお兄ちゃんなので居てくれて本当に嬉しい。

 ヴィンセントさんもジョニーさんとこんな感じだったのかな、今度聞いてみよう。

 そうそう、ヴィンセントさんはパナムさんと結婚して、新しいノーマッドの部族ジャッカルズを作って楽しく過ごしているみたい。

 アルデカルドス族と盃を交わしているので、二大勢力としてバッドランズを牛耳っているのだとか。

 結婚のお祝いを兼ねてデラマンクリニックバッドランズ支店を建てたお陰か、今も元気に車で遊んでいるとの事だった。

 ヴィクトリアさんはジャッキーさんをセコンドに、ナイトシティのボクサーチャンピオンとして一財産を稼いで有名人になっていた。

 今は《ドラゴンテイル》の元締めとしてお兄ちゃん伝説の布教を続けてるみたいで、サーシャさんが秘書をしてるとか。

 ヴァレリーさんはクレアさんの伝手でカーレーサーとして活躍中らしく、ヴィンセントさんと一枚噛んでバッドランズワイルドレースのチャンピオンとして君臨している。

 ジャッキーさんはミスティさんと結婚して、エソテリカでマッサージ屋さんを営んでる。

 セコンド業で色々とスポーツマッサージを学んだみたいで、スピリチュアルな雰囲気で施術されるマッサージが密かに人気なんだとか。

 

『パーソナルリンクを繋げて、此れを被ってくれるかい。いやはや、昔は模型を嗜んでいてね。昔取った杵柄と言う奴だ。あの時使っていたデバイスヘッドに似せてみたんだ、案外上手いもんだろう?』

 

 そう言ってサブロウさんは四対の瞳が輝くデバイスヘッドをワタシに手渡して来た。

 ……ねぇ、これ正面から見たらめっちゃくちゃラスボスの仮面と言うか、マジで黒幕の奴なんだけど?

 お兄ちゃんのセンスは何処かズレてるなぁと懐かしさもあって苦笑に留めた。

 此処二年でワタシの身体はすくすくと成長……しなかった、まぁ、そりゃそうだよね。

 殆ど変わっていないけれど、お兄ちゃんとの差別化のために髪を腰まで伸ばしてるくらいかな。

 この姿でデイビッドくんのクリニックに行くとめっちゃくちゃ神妙な顔されるけどね。

 あぁ、デイビッドくんはお兄ちゃんがやっていたクリニック、《グラッカー》を引き取ってリパードクをしている。

 一年程ヴィンセントさんの伝手でナイトシティでも古参のリパードク、ヴィクターさんに弟子入りしてたんだって。

 ジャグラが居た痕跡を少しでも残したいから、だなんて言ってたけど、お兄ちゃんが聞いたら……喜びそうだなぁ。

 週末はフードファクトリーの秘密基地で宇宙船を弄ってるみたいで、最近アラサカの重力制御コアを動力源にしたエンジンが作れたんだって言ってたなぁ。

 いつかお兄ちゃんと月に遊びに行くんだって、愛されてるねぇお兄ちゃん。

 ……因みにレベッカさんは未だにデイビッドさんを諦めてないみたいで、お兄さんのピラルさんと一緒にデイビッドのお母さんが経営しているガンショップのガンスミスとして働いてるみたい。

 ルーシーさんはしれっとそこで受付嬢をしながらデーモンチップの販売をしているとかなんとか。

 いやぁ、愛されてるねぇデイビッドくん。

 お兄ちゃんとの少しの別れがあってからデイビッドくんは少し大人びた表情を浮かべるようになって、グロリアさんも父親に似て来たって褒めてたなぁ。

 

「上手く行くと良いんだけどね」

 

 だなんて呟いてから培養ポッドの方を見やる。

 一応首から下はぼかしが入っているが、培養ポットの中身は胎盤を模した状態にしてあるので液体に浸かっている。

 お兄ちゃんが前にサルベージしてきたミュウツーって言う不思議動物が主軸のアニメ映画みたいにぷかぷかと浮かんでいる。

 頭には脳波調整のための機材が取り付けられている状態で後はすっぽんぽんだ。

 まぁ、万が一お兄ちゃんじゃなかった場合の事も考えての措置だから仕方が無いんだけどね。

 寝台に横になり、パーソナルリンクをサイドテーブルの計器にジャックインしてデバイスヘッドを被る。

 お兄ちゃんをあの精神空間から取り出すためのアプローチとしてソウルキラーはワタシごと剥がしてしまうので早々に却下された。

 検討に検討を重ね、一年程研究が低迷した時に、セコンド業を辞めた頃のジャッキーさんが良いアイデアをくれたのだ。

 カブキ地区に同じ脳波にした事により一人が二人になった変な双子が居る、と。

 ワタシたちはその二人の状態を研究し尽くし、漸く可能性の目途が立った時にはもう二年も経ってしまっていた。

 あの日、ワタシの身体をお兄ちゃんが使っていた時の脳波と今のワタシの脳波を比べたら全くの別物になっていた事が判明した。

 それにより、ワタシと瓜二つの生体データ99.9……%のクローンボディを作り出し、一度ワタシの脳波に直接接続して調整してからお兄ちゃんの脳波データに変えてみると言う大分賭けの強い作戦でサルベージを行なおうと計画している訳だ。

 

「……お願いだからお兄ちゃん擬きのヤバいのにはなりませんように……ッ!!」

『問題無いだろう。あの娘の事だ、出てくる手段が無かったから、だなんて誤魔化すに違いない』

「ずっと思ってたんだけど、何でアダムさんお兄ちゃんの理解度と言うか解像度高いの?」

『……それは、だな。マサヒロの妻子を匿ったと言うワカコ・オカダに色々と支援をしていた見返りに報告を貰っていたからだ。聞けば聞く程胸が痛むから止めろと何度も言ったのだが、あいつは聞く耳を持たなかったからな……』

 

 多分、報告と言う名目でうちの孫可愛いと言う感じで喋りたかっただけじゃないかなワカコさん……。

 昔の自分に似てるだなんて猫可愛がりしてたしお兄ちゃんの事。

 培養ポッドの方の調整も終わったようで、サブロウさんからスイッチを渡された。

 これを押せば脳波が此方から彼方へと送信され同調し、その後お兄ちゃんの脳波データを送る手筈になっている。

 

「……行きます」

 

 そして、ワタシは手元のスイッチを――。

 勝手に動き出す右手の親指に困惑してから、意味を察してワタシはそれに委ねた。

 何の躊躇いも無く押されたスイッチにより、脳波状態が同調され視界が明滅して意識が飛んだ。

 そして、誰かに背を押される様にして元の場所に戻されたかと思えば、その反作用で押した誰かが反対側へ行ってしまった感覚があった。

 正気に、現実に返ったワタシは培養ポッドの方を見て、デバイスヘッドを外してから涙を零しながら笑みを作った。

 何せ、其処には肩を竦めたワタシの最愛のお兄ちゃんがサムズアップしてウィンクもしていたからだ。

 ――こんなご都合主義な再会だなんてチープ過ぎやしないか?

 だなんて軽口を吐こうとしたお兄ちゃんだったが、周りが100%液体なので声にならずに唇の動きだけになっていた。

 

「ふふっ、別に良いんじゃないかな。だって――」

 

 沢山の出会い(Hello)別れ(Goodbye)がある街、それがこのナイトシティ(Night City)の在り方なんだから。

 

 

【挿絵表示】

 




【Tips】

 
・カブキ地区に居る変な双子
「「二つの身体で何でも一緒にやる。何でもな」」
実はジャグラくんちゃんたちのモチーフと言うか、こいつら理由にしてオレくん復活のオチにしようと最初から考えてました。
ペラレス夫妻のコンディン計画も似た様なもんなんだろうけども、地味に脳波を題材にした作中のイベントの中で一番しっくりくるんですよねこの双子の話が。
一人の脳波を身体の組成や遺伝子の似ている双子で同調して一人が二人になるのなら、一人の中に二重人格で脳波パターンが違うのを二つに分けても似た様な結果になるのでは?と。

因みにジャグラくんちゃんのモチーフは、皆大好き遊戯王こと武藤遊戯とアテムだったりします。
OPにある、闇がもう一人の自分を作る、の部分で陰陽(男性と女性の二重人格)を表現するのを閃いた形になります。
なので、裏遊戯であるオレくんは不良っぽい口調で、表遊戯のワタシちゃんはふわっとした感じの口調になるよう意識していました。

・あとがき
……貧乳ボーイッシュテッキーな主人公がデイビッドくんの思春期な恋心を弄ぶ作品を書きたかった筈なのに、どうしてここまで路線が外れた上に暴走列車宜しく斜め上な展開をし続けたのか……、此れが分からない。
多分、原作死亡者回避ルートとタグ付けたのが脱線の理由な気がするなぁ!
見切り発車でプロット無しで書いていくとこうなるぞって言う一例という事で一つ。
 
此処だけの話、デイビッドはレベッカとくっつける予定でしたが、何故かノスタル爺が感想欄で現れていたので「ジャグラくんちゃんとのカプも割と需要あるのか、へぇ?」と言う感じで今の関係になりました。
基本的に一話書いたら投稿の流れで進めていたので、感想欄のそう言う反応が今作の細かい所の軌道変更に繋がっていたりします。
批評な感想も幾つかありましたが、作者からすれば「ん? 確かにそうだな」と新たな知見を得られる機会となり、説明が足りて無さそうだからもう一話足すか、みたいな時もあったりしました。
そう言う意味でも感想と言う読者の反応は作者からしたら値万金の金言と言って過言ではありません。
なので、改めて今作をご愛読していただき、感想やここすき、評価やお気に入りに入れてくれた方々に感謝を。
そして、誤字脱字報告で訂正してくれた人たちマジでありがとう。
基本的に通勤の行き帰りの電車でスマホで八割くらい書いてたりしてたので、疲れと眠気やらで変な感じになってた部分多かったみたいで、訂正されて「ぅーわ、マジじゃん」な箇所が色々とあったのでほんと助かりました。
 
お気に入りの作品があったら少しでも良いので感想を送ってあげると長続きしますよ。
そう、ジャンプの応援はがきみたいなものです、ある程度来ないと打ち切られ(エタり)ますよ……、いやマジで。
後半の方なんて割と義務感や惰性で書いてたりする人多いと思うので(ry
サイバーパンク2077はこんなにも面白いんだぞ!DLCが来るから皆やろうぜ!と言う感じのノリで書き進んで参りました。
感想欄でも原作を買ったと報告してくれる人も居てにっこにこでした。
後日談をちょろっとやって完結の看板を掛けようかなと思います、ではでは。

V側の描写を入れずにサブロウ戦まで進めた方が良かった?

  • 流れを切るな、そのまま続けろ派
  • 足並み揃えないと後でダレるからヨシっ派
  • そもそも場面を分けずに書き進めろ派
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。