Hello,Goodbye,Night City‼ 作:不落八十八
七十二話 後日談①
……戻って来れちゃったなぁ。
草案だけファイリングしていたジパング地区計画をデラマンがやっておいてくれた様で、業務統括する会社を中心に地区開発が進んでいるらしい。
そんな本社の屋上の手摺りに寄り掛かり、あれから二年経ったナイトシティを眺めていた。
アラサカ社はヨリノブがCEOに就任し、デラマン社と業務連携を経て再出発した様だ。
業務が主に暗躍のための暗躍……と言う感じで不透明だった事もあり、IT関係に方向性を決めてサイバネ研究のパイオニアになる道を進んでいるらしい。
人体に影響の少ない汎用性に優れたインプラントを掲げ、デラマン社のビッグデータを活用して平和路線に向かう様だった。
世界屈指の大企業だったアラサカ社が失墜した事で、ナイトシティの防衛力は著しく上がった。
……そう、上がったのだ。
デラマンが一晩でやってくれましたと言わんばかりに、NCPDと業務連携した監視カメラ付きタレットがあちこちにばら撒かれたらしい。
そのため、《ドラゴンテイル》の下地のあったナイトシティの治安は急上昇し、市長は万歳を繰り返したとかなんとか。
「おかしいな、残ってないと思ってたのに……。懐かしい光景だ」
眼下に広がる、かつての現代的な日本家屋の数々に哀愁を感じてしまう。
此処、ジパング地区は日本から誘致した企業が参画している様で本当の意味でのジャパンタウンが其処にあった。
高度な翻訳ソフトの普及で世界の言語に差異が無くなったとは言え、最初に聞こえてくる言語は多種多様だ。
けれども此処では慣れ親しんだ日本語しか聞こえて来ない。
……まるで、日本に帰って来た気分だった。
「まさか、再び表に出て来れるどころか、肉体を得られるだなんてなぁ……」
「実感が無ぇ、そんな顔してんな」
聞き覚えのある声に振り返って見れば、着崩したパンクロッカー姿のジョニー・シルヴァーハンドが、ズボンに指を入れて不敵に笑っていた。
身体のコントロールをジョニーに明け渡す節制エンディングを迎える以外では見られない光景がそこにあった。
何というか、若いな。無精髭も今はきちんと整えられており、落武者感が無くなり活力を感じられる容姿になっていた。
「安心しろ、俺たちも始めはそうだった。どうせ直ぐに慣れるさ」
「初めまして、と言うべきか? 会えて本当に嬉しいよ、ジョニー・シルヴァーハンド。いや、ロバートの方が良い?」
「おう、初めまして、だ。ロバート・ジョン・リンダーだった俺はもう死んでるからな、ジョニーで通してくれ。まったく……、礼を言う前にくたばってんじゃねぇよ。二年も待ったじゃねぇか」
軽口を叩きながら、手摺りに寄り掛かり電子煙草を口にしたジョニー。
「あはは、そりゃすまないね。オレとしてはマジであの時で消えたもんだと思ってたからな。合わせる顔が無かったのさ」
実際、オレがワタシちゃんの中で目覚め直したのは一年くらい経っての事だった。
多分、普通の二重人格ならあのままさよならだが、割と疑ってはいるが転生者の魂ってのが本当にあるのならば、それを核に人格を形成しているオレが消えなかったのは異物として残ったと言う事なのだろう。
とんだ御都合主義的な奇跡だな、と思いつつ、二度目の生を享受出来てしまった事を喜ぶべきなんだろう。
まぁ、生身の身体でサイバーパンク式ドンパチは勘弁なので適当に生きるけどな。
「ありがとうよ、新たな人生をくれて感謝してるぜ」
「なら良かった。ギター、続けてるのか?」
「あぁ、オルトと一緒に家借りてギター教室を開いて、未来のロッカーを育ててる。たまにケリーに誘われて《SAMURAI》のゲリラライブしたりもしてるぜ。この地区は穏やか過ぎるからな、たまに激しいのもあった方が良い」
「へぇ、それはまた……。見に行くのが楽しみだ」
「そんときゃ、最前列のチケットをくれてやるよ。何せ、俺たちの大ファンらしいからな。今度は最後まで聞いてくれよ」
「……そうだな。全部終わったし……、時間はあるからな」
手術衣姿のオレの背をバシバシっと叩き、じゃあまたな、とジョニーらしさ全開で去って行った。
……生ジョニーヤバいな、めっちゃ格好良いじゃねぇか。
にしても、ギター教室開いてるんだ。そう言えば節制エンドでも餞別に子供にギター買ってあげてたっけ。
らしいなぁ、と思わず頬を緩ませていたら、内部からC4爆弾で開錠したかの様な勢いで屋上への扉が開いた。
思わず振り返れば、やけに大人びて格好良くなったデイビッドが息を切らして立っていた。
オレの姿を見て段々と現実を噛み締めたのか、朝陽を浴びる向日葵の様な笑みを浮かべーーぐへっ!?
こ、こいつ、感極まってサンデヴィスタン起動しやがったな!?
視界が真っ黒なインナーに染まっており、背中に回された太い腕の感触から抱き締められているらしい。
……はぁ、仕方が無いな、サービスだぞっと。
再会を喜ぶ様にオレもデイビッドの腰辺りに腕を回してやった。
頭上から聞こえてくる噛み締めた嗚咽に肩を竦め、宥める様に背を叩いてやる。
数十秒後、漸く心の整理が終わったのかデイビッドが腕を緩めてくれたので抜け出した。
「よぉ、元気してたみたいだな。嬉し恥ずかしながら帰って来たよ、久しぶりデイビッド」
「あぁ! おかえりジャグラ!」
「ん、ぁー、それなんだが、ワタシちゃんと被るからジャグって呼んでくれ。本来はあの子の名前だからな」
「……分かった。おかえりジャグ、本当に……会いたかった」
……身長差三十センチはあろう細マッチョ系イケメンの破顔一笑の破壊力やべーな。
随分と良い男になったみたいだ、レベッカたちと宜しくやってんだろうからなぁ。
邪魔しちゃ悪いしスキンシップは程々にだな。
……にしては近くねぇか距離。
「悪かったな。別れの言葉くらいは直に言いたかったんだが……、チップは見たか?」
「……あぁ、ジャグが転生者だとか、俺がアニメの主人公だったとか、の奴だよな。聞いたよ。けど、別に良いんだ。今の俺はその俺とは違うだろうしさ」
「まぁ、そうだな。アニメのお前はメインの両腕をインストールしてゴリマッチョ系だったからな。オレとしては今の細マッチョなデイビッドの方が優しい印象で良いと思うな」
「そ、そっか……」
小声で、あっぶね、って聞こえたが、スルーしてやる方が良いんだろうか。
「そう言えば、オレのクリニックを受け継いでくれたんだって? ありがとうな。あそこは父さんに扮した母さんとの思い出の場所だからな」
「あ、あぁ。その、もしも戻って来たら帰る場所が必要だと思ってさ。まだまだ駆け出しだけど、評判はあんまり落としてない……筈だ」
「ははは、別に構わんよ。そうか、帰る場所か……」
何処か懐かしさを感じる風景だったが、そうか、此処が帰る場所だとは思っては無かったな。
あの場所が、あのクリニックが、オレの家だからだ。
「ジャグが良ければさ……、俺もクリニックに住んで良いか? やっぱり職場は近い方が良いしさ……」
「ん? 今なら二階のオフィスが空いてるんじゃないか? あの住居スペースだと狭く無いか? と言うか隣が実家だろお前」
ふと疑問に思った事を口にしてしまったが、ぁー、もしかして、そう言う感じ……?
見やれば此方が意図を察したのを理解したのか、耳まで真っ赤な顔を晒していた。
え、二年あったのにデイビッドを攻略出来なかったのかレベッカ……ッ!?
「ぇ、えぇとぉ、幾つか質問するぞ?」
「あ、あぁ」
「レベッカたちと恋仲には……?」
「なってないし、そう言うのもしてない」
「る、ルーシーも?」
「勿論だ。俺は……」
デイビッドは意を決した様子でオレの手を取り、四角い箱を懐から取り出して乗せた。
……し、死にそうなくらい心臓が高鳴っているんだが、そ、そっかぁ……、そこまでオレの事を……。
「ジャグが好きなんだ。結婚を前提に付き合って欲しい。俺が君を幸せにしたいんだ」
開かれた箱の中には所謂婚約指輪って奴がペアで入っていた。
オレは震える手で箱を受け取り、レベッカやルーシーを押し退けてその位置に立って良いのかだとか、何これ何コレナニコレ嬉しいんだけど感情の整理が付かないだとか、原作キャラと付き合うとか許されざる事では、だとか、だとか、だとか……、感情がグルグルと渦巻いて訳が分からなかった。
「……元、いゃ、擦り切れてるけど前世多分男、だぞ?」
「それでもだ」
「愛とか恋とか分からないし、愛せるかも分からないぞ?」
「俺が一緒に探すから大丈夫だ」
「この身体で、あ、赤ちゃん作れるか分からないぞ?」
「ジャグが居てくれるなら問題無い」
「ぇ、ぇと、あ、後は……、オレで良いの?」
段々と優しい顔になっているデイビッドは頷いて、オレを抱き締めた。
何処にもやりたくないと言う感情が伝わって来る様な優しい抱擁に、オレは……。
「こんな、オレが幸せになってーー」
「ーー良いんだよッ! 文句を言う奴は俺が叩き斬ってやるさ! 俺はジャグが良いんだ、誰でもない、君が良いんだ」
「……そっか、なら、安心だな」
元男で、転生者で、オリジナルのクローン体で、世界の異物なオレが良い、のか。
……なら、仕方がない、か。
この世界の一人として一から歩む人生に、デイビッドが居てくれるなら安心だ。
箱から銀色のリングを引き抜いて、左手の薬指に嵌めて……、嵌められないなぁ。
これデイビッド用の方か。締まらないなぁ、ならまぁ、付けてやるか。
「ジャグ……? ッ!?」
「ほら、これでお揃いだ。誓いのキスでもしてーーんっ」
軽口を言い終わる前にデイビッドの唇が重なった。
左手の薬指に嵌めた婚約指輪の感触が少しもどかしい。
けど、良いものだな、心が満たされる心地だ。
唇が離れ、お互いに顔を真っ赤に染めたオレたちは恋仲になったのだと強く実感したのだった。
【Tips】
・恋愛糞雑魚カップル爆誕
後日談第一弾「デイビッドの恋の行方」でした。
正直「くそっ、焦れってぇな……ッ!」と言う遣り取りをずぅーっと続けさせたかったですが、片思いをしていたデイビッドへのご褒美と言う事で一つ。
今作ではレベッカルート及びルーシールート、そしてハーレムルートには向かいません。
おや、今書いて欲しいと思った方、物書きの素質がありますよ。
基本的に物書きって書きたいものを書いて満足する生き物ですので、アーマードコア構文の如く最終的に自分で書く事になるのですふふふ。
需要と供給って一致しないからね、自分で書くしかないのよ……。
ぶっちゃけ次に書く後日談のための仕込みなので、レベッカ&ルーシー過激派の方々申し訳無ぇ!
ジョニーの台詞が『』表示じゃないのはサブロウたちと違って《Relic》を差し込んで身体を動かしていないからです。
ジョニー化が進行していたヴィンセントのクローン体を作り、それを生体《Relic》で完全乗っ取りしているため、既に癒着して普通の人と変わらない感じになっています。
言うなれば節制エンドのジョニーです。
V側の描写を入れずにサブロウ戦まで進めた方が良かった?
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流れを切るな、そのまま続けろ派
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足並み揃えないと後でダレるからヨシっ派
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そもそも場面を分けずに書き進めろ派