Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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七十三話 後日談②

 2079年某日、エル・コヨーテ・コホの一角にてニヤニヤ顔を隠せない男たちが集まるテーブル席があった。

 窓際の真ん中にデイビッド、左側にヴィンセントとジョニー、右側にメインとジャッキーが座っている。

 キンキンに冷えたビール瓶に天然食材に酷似しているデラマン印の合成食料を使った軽食が並んでおり、祝勝会の様な雰囲気だった。

 

「それじゃあ、デイビッドの念願成就を祝って」

「「「「「乾杯!」」」」」

 

 喉を唸らせてビールを飲んでいく五人は思い思いに満足気な息を吐き、良い感じに酔いのエンジンが掛かり始めてテンションも上がっていく。

 

「いやぁ、それにしても目出てぇな」

「何年想い続けてたんだ?」

「……待ってた二年に、居た頃の二年半だから……、四年半だな」

「ひゅぅー、やるじゃねぇか。あの嬢ちゃんを落すたぁ、大金星だな」

「どう言う経緯で告白したんだ?」

「その、ジャグが戻って来たって言う連絡をカグラから聞いて、全力疾走で会いに行って、その、後は流れで?」

「おいおい、恥ずかしそうにすんなよ」

「ぇー。……その、ジャグが転生者って話は聞いてるよな? 自分の事を世界の異物だと思ってたらしくて、幸せになる資格なんて、みたいな事を言いだしたから全力で肯定してから告白したんだ」

「ほほぅ、やるじゃねぇかデイビッド。いやぁ、あのインテリドロップアウトボーイが此処まで成長するとはなぁ」

「そういや、ジャグとはどう出会ったんだ?」

 

 ジャッキーの話題振りにより場のテンションがぶち上がっていく。

 二本目のビールが全員に渡り、つまみを食べつつもデイビッドの恋物語を肴にしようと言う魂胆が透けて見えていた。

 

「えぇと、時系列順で説明していった方が良いか。ジャグと出会ったのは今から五年前くらいで、俺がまだアラサカアカデミーの生徒だった頃だ。うちの母さんが仕事現場で死体からインプラントを盗んで転売してたのを知らずに居た頃の話だな」

「今しれっとやべぇタレコミ入らなかったか?」

「ビール飲んでるから炭酸の音で都合良く聞こえねぇな」

「んで、H4メガビルディングの一室に住んでたんだけど、生活はぎりぎりで、アラサカアカデミーに居る事が奇跡みたいな状態だったんで、アラサカの上役社員を父親に持つ奴に目を付けられててさ。貧乏人がアカデミーに来るなーって。……えぇと、誰だっけな。んー、正直その後の生活が色々と派手過ぎて忘れたな。まぁ、そいつからの嫌がらせが毎日あって、授業にはついていけてたけど、ネットに接続するためのデバイスとかがイマイチなのしか買えなくて……」

「あー、そりゃ辛いな。アカデミーでは常にアラサカの最新商品を前提に進めてるから、型落ち品ですら笑い者にされるんだよな」

「なんだそりゃ、結局は新製品への売り込みか?」

「アラサカ社員の子息がメインだからな、そっち経由で配給されてたりするんだよ。古いのは回収してデータを取ってな」

 

 元コーポで同じくアカデミーに通っていたヴィンセントがうんざり顔で思い出を振り返り、吐き捨てるように言った。

 

「そうそう、これ見よがしに見せつけてきてほんっとうざかった。で、だ。精神を安定させるためのリラックスルーム、だっけな? まぁ、そんな感じのに接続するためにデバイスをアップデートしなくちゃいけないんだけど、大分古いの使ってたから流石に駄目そうでさ。あの頃、俺も大分腐ってたから闇ドクから裏BDを買って、サイバーサイコを題材にしたエッジランナーズシリーズを見て憂さ晴らししてたんだ。その闇ドクにアップデートして貰うための金を工面するために、メトロじゃなくて歩いて帰った日の事だった」

「お、漸く出会いか、長かったな」

「前置きってのは大事だぜ、ソースの無いピザは嫌だろ」

 

 熱々のメキシコピザを頬張りながらジョニーはそう軽口を叩いた。

 

「アラサカタワーを見上げる様にして、路地裏に髪の短い男の子が立ってたんだ。あんな所に居たら絡まれるぞ、って思った矢先に絡まれててさ。今と違ってあの頃のジャグはマジで男のそれだったから暫く気付かなかったなぁ」

「あの頃のジャグラはマジで尖ってたからな。乗り込んで行った時は、マジで死を覚悟したからな」

「でもって、見て見ぬ振りをしようとしたんだけど、それを良しとする自分にはなりたくねぇなって思って、止めに行ったんだよ。そしたら、サンデヴィスタンでジャグがそいつらをしばいて、アカデミーの事で悩んでる俺をクリニックにまでデラマンで連れてってくれたんだ」

「H4ってぇーと、パシフィカ寄りのセンター地区の所じゃなかったか? 思いっきり逆だな」

「そうそう、初めてジャパンタウンに行って、所謂色町ってのに初めて行ったから緊張したなぁ。……今思えば、ジャグの恋愛観が壊れたのジグジグのせいじゃね?」

「多分な。加えて両親も居なくて一人暮らしだったんだろその時、そりゃぁ価値観の物差しが狂うわな」

 

 ビールのお代わりを頼んだメインが苦笑しながら同情していた。

 

「それで、クリニックでアカデミーの事を相談して、デバイスもめっちゃ良いのに交換して貰って、めっちゃくちゃ良い友人ができたなぁって嬉しかったんだ。……その翌日に母さんが帰って来なくて、その喜びも掻き消えたけどな」

「あっ、あの時のか……。こっちだってグロリアがスカベンジャーに捕まるだなんて思わねぇさ」

「あん? あぁ、メインが御袋さんの取引相手だった訳か」

「そんで、その時一番頼れると思ったのがジャグだったから、ホロコールして……、あれよこれよとお膳立てされて母さんを救出しに行ったんだ。そん時にメインたちと出会ったんだよな。正確にはレベッカだけだったけど」

「目的のブツを受け渡す場所で待ちぼうけにされてよ、調べて見れば其処への途中で拉致された痕跡が残っててな。面子潰されたから報復のために向かったのは良いんだが……、地味に面倒だったな、その後が特に……」

「ははは……、ジャグのクリニックに怒鳴り込みに来たもんな。ワカコさん直伝の任侠節にバチクソにしてやられてたけど」

「そりゃあお前、当時のタイガークロウズはナイトシティのトップギャングだぞ、そんなとこのお抱えリパードクだなんて誰が分かるよ」

「因みに、その頃からジャグはメインたちの事を、情報も精査できない脳筋二流サイバーパンク共、って扱き下ろしてたよ」

「HAHAHA! そりゃぁ駄目だぜメイン。俺ぁ馬鹿だから分からねぇけどよ、出来る奴にそう言うのを任せて喧嘩売らなきゃ死んじまうぜ。今はもう違うけどな」

「うっせぇーわ、あの頃から少しずつ直していったと言うか、ジャグラに矯正されたと言うか……」

 

 ジャッキーに大爆笑されたメインは苦虫を噛んだ顔で当時の苦い思い出を思い返していた。

 尚、その苦い思い出は当時《エッジランナーズ》に派遣されていたデイビッドも同様だった。

 

「そっからジャグはフィクサーも兼業し始めて、メインたちを傘下にしたんだよな。んで、俺は駆け出しサイバーパンクとして其処に派遣されて手伝ってた」

「成程、そこでレベッカとルーシーを射止めちまった訳か」

「ははぁ、今時坊主みてぇな日本人らしさのある若いのはそうそう居ねぇからな。そういう優しさにコロっと転がっちまったんだろうよ」

「へぇ、流石は女遊びに一家言有るジョニー大先生のお言葉だなぁ?」

「うっせ、経験人数はお前の方が化け物だろうが、発展途上国で何百人食ってんだてめぇは」

「さてね、日に一人か二人くらいだった気がするが……、まぁ、良いだろ、今はしてねぇんだから」

 

 ヴィンセントとジョニーの遣り取りに、経験人数の少ない三人が黙り込む。

 けれども今はデイビッド以外は既婚者であり、昔の事は忘れたと今の嫁や恋人に想いを馳せる事にシフトした。

 

「そういや、ジャグラとの同居生活はどうなんだ? クリニックで寝泊まりしてるんだろ?」

「おぉ、らしいじゃねぇか。なぁ、どんな感じなんだ?」

「聞きたいなら自分の事から先に言えよ……」

「オルトは記憶痕跡化して今の身体になったから殆ど万能だな。まぁ、俺が他の女に色目見せたり見せられたりすると、すぅーっと近付いて牽制するんだ。いやぁ、昔懐かなかった猫が家猫になったみたいで可愛いもんだ」

「ばっちり尻に敷かれてるって事じゃねぇか。夫婦仲が良いのは良い事だがよ。うちのミスティとは前と変わらずって感じだな。あぁ、結婚を機にうちの御袋と仲良くなってな、此処の味を勉強してくれてるんだぜ。将来安泰だ」

「そりゃぁ良いな。此処の味は昔から美味かったからな。俺とパナムは基本的にバッドランズだからなぁ、ヴァリーみたいにクランを抜けてナイトシティに行こうとしている奴らの駆け込み寺みたいな感じで集まってるから、肝っ玉母さんって感じだ。若いのが狙ってくるのを叩き潰したり、色々と冷や冷やしてるよ俺は」

「だからと言って物理的に叩き潰したのをうち経由で始末しようとするな……。デラマンから卸した養殖肉を取り扱う精肉店をドリオと営んでるんだが、場所が近いからって気軽に粉砕機を借りに来るんじゃねぇよ。アレは骨を細かくして廃棄するための奴なんだから。人肉を出してるだなんて噂が立ったらジャグラに依頼出して潰して貰うからな」

 

 自分の事を棚に上げつつ、各々の近況を語り合いビールを飲んで頭をふわふわにしていく五人のテンションはいい塩梅に高かった。

 アラサカ社が牛耳っていた頃よりも今のデラマン社の牛耳るナイトシティは平和そのもので、時代の停滞が漸く進み出した様な経済成長を迎えている真っ最中だ。

 特に天然に近い養殖技術によって卸される食料の需要は非常に高く、これのお陰で軒並みのギャングが大人しくなったぐらいだった。

 デラマン社に手を出したら最後、またあの糞不味い肉の様なナニカを食べる羽目になるのだと、誰もが理解していたからだ。

 基本的にデラマン社の経営方針は下地を固めてより良い生活基盤の構築を主にしているので、かつての圧制は存在しない。

 なので、その暗黒期の負債を払う者たちも多く、今のナイトシティは自浄作用で回っている状況だった。

 

「はいはい、俺の番だな。ジャグは……最高なんだよ。前世が男だったらしくて、男心ってのを理解してくれてるから凄い生活がしやすいんだ。お互いに寄り添う生活って言うか、ほんと、温かい毎日を送ってるよ。ジャグは元から一人暮らしで料理が上手いんだけど、天然食材が廃棄されるくらいに飽和してたりする世界の住人だったみたいでレシピも充実してて、毎日違うものを食べてる気がするなぁ。どう言う所が良かったって感想すると、次から俺の舌に合った味に調えてくれてたりして、いやぁ、愛されてるなぁって」

 

 それはもう恋人の同衾を通り越して新婚夫婦のコメントじゃねぇか、と聞いていた四人の心情がシンクロし、甘くなった口にビールを突っ込んだ。

 

「基本的にジャグは甘えたがりで、人目が無いとくっついてくるんだ。それが本当に可愛くて、小動物みたいな背丈も相まって、あぁ、この子を一生護れる俺って幸せ者だなぁって思ったりしてんだ。クリニックでの仕事も俺をメインに置いてくれて、時折指導もされながら頑張ってやってるんだ。いやぁ、ほんと……幸せだなって」

 

 真面目で根の優しいデイビッドの全力の惚気に、四人は苦笑しつつも微笑ましい気持ちを抱いていた。

 一番の付き合いのあるメインは勿論、ジャグのフィクサー業に付き添っていた頃からの付き合いであるヴィンセントたちもデイビッドの頑張りをしっかりと見ていたからだ。

 ウェイトレスが熱々のタマレを運んできた事で、ビールの消費が進んで行くのだった。




【Tips】


・エル・コヨーテ・コホでの男子飲み会
後日談第二弾「それぞれの近況と嫁の話」です。
デイビッドの恋愛話と過去を掘り下げて、飲み会らしく仕上げました。
これをやりたくてデイビッドの念願成就をさせたまである。

レベッカ派の人多過ぎィ!いやまぁ、自分もレベッカ派だけれども。
作中で散々ジャグ匂わせし続けておいてレベッカに行くってのは今作のデイビッドが誠実じゃない軟派野郎になっちゃうので無しです。
誰かレベッカが救われるSS書いてくれないかなぁ(チラッチラッ

書くとしたらエッジランナーズ再構成物かなぁ。
流石にオリ主と付き合う展開はアレだしね。
と言うかレベッカルートだとそもそもルーシーが必殺仕事人しないだろうから、ただのサイバーパンクチームのお話って感じで終わりそうだな……。
そこを曲げて軍用サンデヴィスタンの行方を追う形でアラサカと関わる……のかぁ?
だって、原作Vがサブロウ殺しのレッテル貼られてる上に、クレド上げてめっちゃくちゃ有名になってるのに一向にアラサカから刺客来ないしなぁ……。
せめて時折アラサカから刺客が狙いに来る演出があれば話は別なんだけども。
うーむ、そうなるとまるっきりオリジナルストーリーになるよなぁ。

あ、次回は飲み会の続きをお送りします。

V側の描写を入れずにサブロウ戦まで進めた方が良かった?

  • 流れを切るな、そのまま続けろ派
  • 足並み揃えないと後でダレるからヨシっ派
  • そもそも場面を分けずに書き進めろ派
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