Ataraxia -セブンスドラゴン2020- 作:湯瀬 煉
2021年、冬。
竜災害から一ヶ月が経った。
東京都庁の四階。酷く質素な部屋に、かつて人類を救った英雄が住んでいた。
ムラクモ13班の部屋である。
あるのはベッド、後は連絡に使うパソコンと、食事をする為の椅子と机と簡易キッチンのみ。
せっかく世界を救ったのだし、豪邸に住みたい──という願いも、もはや潰えつつある。
ここにはもう一年以上住んでいて、もはや住めば都状態というか。そもそも天下の欧米様も日本の企業も悉く瀕死状態なのに、自分たちのためだけに働かせる訳にはいかないだろう。
自分たちはあくまでムラクモ機関の所属であり、無辜の市民たちを守るために戦ったのだ。権力、富、地位、名声……そうしたものは求めていないし、求めちゃいけないだろう。
『狩るもの』とは、そういう目に見えた現世利益とは乖離した存在なのだから。
有名な政治家たちからの必死な勧誘、接待、懐柔をのらりくらりと回避したのも、それが理由である。
とはいえ。
「あ”ーーーー、お腹が空きましたわーーーーーーー!」
衣食住が満たされないと、ちょっと揺らぐ。
政治家の皆さんが美味しい肉を食べてる間、自分たちは簡易食料だけとか精神的にキツすぎる。
たまに一般市民の居住区で「お前らだけ贅沢出来ていいよな」という言葉を投げられる度、自分たちの食生活を配信して見せてやろうかと思う。
一日三食。
干し芋。
サバ缶。
ビーフジャーキー。
以上三点からお選びください───。(※たまにシェフのご好意でパイナップル缶が付きます)
どういうことなんですか?
もう一度言いますね。どういうことなんですか?
ちなみに政治家の皆さんは一日三食、ステーキだのハンバーグだのである。ちなみにその食材は私たちが集めている。
一般市民の皆さんも、一日二食、冷凍食品のホカホカご飯とレンジでチンするだけで作れるシューマイやらギョーザやら……。
もっかい言いますね。どういうことなんですか?
「唐揚げ弁当はーー? 私の幕の内弁当はどこーー?」
ベッドの上でジタバタしていると、隣のベッドからフードを被った男の子がひそひそ声で話しかけてきた。
「あんまり騒ぐなよ、班長。腹が減るだろ」
「じゃあクラフトはいいんだな? 一日に三回、一口二口なんか食えればいいんだな!?」
「うん」
即答しやがったこいつ。
「俺はもともと、闇深いところ出身だぜ。お前みたいな軟弱JKと違って、一週間何も食わず過ごすくらいまで余裕だ。
なんなら無飲無食耐久してやろうか」
寝てないんだぜ自慢のような自然さで食わなくて平気自慢された。
しかし、まあ動けば動くだけ腹が減るのは真理だ。下手に疲れて任務に支障があってはいけないから、私も大人しくベッドに寝転がることにする。
すると今度は、クラフトの更に隣のベッドから声がした。
我らがサムライ、ムサシくんである。
「つーか、理不尽だよなァ。唐揚げ弁当とか幕の内弁当は
「「わかる」」
思わず私もクラフトも起き上がってしまった。
確かに、唐揚げ弁当を食べたら何故か攻撃力が上がるし、幕の内弁当を食べると身体が丈夫になるが、だからといって食べさせないというのはどういうことなのか。
不公平だ。理不尽だ。横暴が過ぎる。
いや、私たちが武力で国家転覆をするのを恐れてるんだろうけど。
だからといって、こんな分かりやすく削りに来るだろうか。警戒されすぎてて、全く無かった叛逆心がムクムクと湧くレベルである。
むー、と唸りながらベッドに突っ伏していると、通信が入る。
可愛らしい、少年の声だ。
『13班。新しい任務だ。ムラクモ本部に来てくれ』
その一言で、弛緩しきった空気が変わる。
私たちはそれぞれの装備を整えていく。
『俺たちの制止を振り払って自宅に戻ってった国会議員の一人と連絡が取れないらしい。そいつの家族も同様。
細かい話はお前たちが着き次第するよ。
フルベ、ムサシ、クラフト、行けるか?』
「当たり前。誰に言ってんのよ」
準備完了。不敵な笑みと言葉を返して、部屋を飛び出す。
これが、私たちの日常。ムラクモ13班の今。
名乗り忘れてたね。
私が誰かって? それはね。
「ムラクモ機関、機動13班班長、フルベ。ただいま到着!
ナビ、任務の説明よろしく頼んだ!」
こ、細かいキャラ紹介は後ほどやりますんで………