夏の猛暑も、朝ぼらけの今はその鳴りを潜めている。
水平線には朧げな太陽が浮かび、ひんやりとした潮風が微かに吹き渡っている。
ワンピース水着に付いているフリルが、そよそよと靡いていた。
自身のシルバーグレイの髪で、汗の滲む頬に清かに沁みるような風を一杯に受け止め、手を後ろで組み、目をつぶる。
「ミヤコ」
しばらくすると、名前を呼ぶ声が聞こえる。
低く抑えた声であるが、耳元で柔らかく囁かれたようにはっきりと聞こえた。
「おはよう」
「おはようございます、先生」
くるりと身を返すと、サーフパンツにラッシュガードを着た先生がそこにいた。
手を振りつつ、静々と歩み寄って来ている。
「寒くないかい」
「問題ありません」
二人は波打ち際と並行になった。
「何してたの」
「先生がいらっしゃるまで、朝のランニングをしてました。今は休憩ですね」
「そっか。待たせてゴメンね」
「…いえ、先生はお忙しく、お疲れなのは理解しています」
声のトーンが僅かに重くなる。
「先日も、サキと一緒にスキューバダイビングをしたそうですし」
「…」
「ミユとはフィッシングですか」
「…」
「モエは…まぁ、何かと二人きりで隠れて話し合いとかしてますよね」
「…あの」
気づけばミヤコはそっぽを向き、不満げに唇を尖らせている。
「先生は素敵な方ですから、引く手あまたですね」
「…ミヤコ」
「なんですか、私は別に」
突如、先生はミヤコを胸に抱き寄せた。
「…私は別に、気にしてませんよ」
「ミヤコのこと、寂しくさせてごめん」
「…寂しくないです、から」
抱き寄せたミヤコの体は温度が失われ、しんみりとした冷たさが残っているだけだ。
顔は良く見えないものの、唇の端が引きつっているのが目に映った。
「ミヤコ」
「…」
「ミヤコに、何をしてあげられるかな」
「…でしたら、もっと抱きしめてください。手をつなぐのも、頭を撫でるのも、キスをするのも、もっと、もっと、もっと」
声は震え、握り拳に力が入る。
すると、ミヤコは急に体を反転させ、頭を先生の胸に押し付けるようにして寄りかかった。
「あなたとの想い出を、もっと作りたいです」
「…ああ」
「私のことを愛していると、教えてください」
ミヤコは背伸びをし、唇を少しすぼめる。
それに応えるため、仄かに熱を帯びた肩を支えた。
「んっ…」
最初は優しく、割れ物を扱うようにゆっくりと唇を重ねた。
鼻息が、くすぐったい。
「はぁ…ん」
しばらくすると、ミヤコが舌で口をこじ開けてきた。
先生はそれを受け入れ、攻めも守りも無秩序に、舌と舌を絡み交わせる。
ざらざらで、一つ一つの動きごとに刺激が口内に迸る。
「んん…ふぅ」
籠った熱気を逃がしてやると、その熱気にあてられたのか、ミヤコはなんとも蕩けた顔で見つめている。
先生も久しぶりの呼吸で息を整えると、口の端を伝う激越な液体を拭う。
「ふふっ」
「…あ」
ミヤコがニマニマとにやけているのと共に、下腹部に柔らかい触感があるのを知覚する。
見やると、ミヤコの手が隆起したパンツの部分を覆っていた。
「我慢なんか、できませんよね」
欲情した先生を煽るように、しなやかな手の平で滾ったそれをなぞる。
「私の水着姿、ちゃんと目に焼き付けてくださいね」
ミヤコの笑顔が、水面に反射された無数の光によって照らされた。
朝日はすっかりとその顔を出し、生暖かい空気が二人を包み込んでいる。
そうして、お互いを支えあうように固く手を繋ぐと、泊まっている宿に向けて歩き出した。