【完結】友愛分かたれ恋となる   作:ワンダーS

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11話

 

 日向たちの住む上藁町は南を海に面した街である。

 日向や優希の家はこの地域の最北東に位置しており、周囲には山や水田などが多くみられる、そこから西南へと進むにつれて徐々に建物は増えていき、今回日向達が目的としたショッピングモールは、丁度海の見える駅の近くにあった。

 夏休みに入ったこともあり、モールは学生や家族など人で賑わっていて、店内のBGMと人の声が混ざりあっている。

 このショッピングモールには実に多くの店が入っていた。服屋だけで実に十数種類のブランドがあり、靴屋に本屋、小物や家具なんかも置いてあったりする。

 「うーん、こっちの方が組み合わせ易いけど…、でもこっちも可愛いから捨てがたい…」

 そんなモールのとある服屋の中で、美鈴は並べられた服の前で悩まし気に唸り声を上げていた。

 服を取り上げてみては戻して、そんな作業が幾度となく繰り返されている美鈴に、優希は恐る恐る声を掛ける。

 「み、美鈴ちゃん。そこまで真剣に考えなくても良いよ?どれも良い感じだと思うし…」

 「いいえ、ここで手を抜くのは乙女としての矜持が許しません。アタシには優希さんをプロデュースする義務があるんです。…という事で、優希さん。次はこれとこれとこれを試着してみてください」

 「うぅ、はい…。もう何着試着したのか覚えてないよ…」

 そうして差し出された、基押し付けられた数着の服を持って、優希は涙ながらに試着室へと入っていく。

 美鈴の選んだ服を優希が着る。如何にも単純な作業だが、前に訪れた服屋を含めこれで通算100着目の突破であった。泣きたくもなると言うものだ。しかし、それだけ試着をすれば着替えにも慣れてくるもので、優希はさほど時間も掛からずにカーテンを開ける。

 「きゃー、やっぱり可愛い!決定です、これも追加しましょ。アタシの持ってた服だけだと種類に限界があったので、こういう種類のある服屋だと最適解を追及できますね!」

 優希の服を選び始めてからの美鈴は見るからにテンションがぶち上がっており、優希もそんな彼女に翻弄されつつも、微笑ましさも同時に感じて、思わずと言った形で笑みを浮かべた。

 「そうだね…、美鈴ちゃんが楽しそうで、俺も嬉しい」

 「…さ、優希さん、次の服に行ってみましょう!この後で、服に合う靴も見ないとですから」

 美鈴に催促された優希は再び試着室へと入り、音を立ててカーテンが閉じられた。

 それからも優希は渡された服を試着して美鈴に見せてを繰り返し、やがて残るは一着となる。

 「美鈴ちゃん、これがラストの組み合わせ」 

 そう言ってカーテンを開けた優希の姿を見て、美鈴は目を輝かせた。

 「可愛い…」

 似合っていた、無意識に口から言葉が漏れ出る程に。美鈴の思い描いていた理想通りの光景が、そこにはあった。

 屈託のない誉め言葉を受けた優希は、少し照れたように頬をかく。

 「ありがと…、じゃあ、そろそろ着替えるね」

 「あ、待って下さい優希さん!」

 そそくさとカーテンを閉めて元の服に着替えようとする優希を咄嗟に美鈴が呼び止めた。

 「折角似合ってるんです、タグだけ取って貰ってそのまま着ていきましょうよ」

 手を取ってずいと寄る美鈴。その期待に満ちた瞳は、優希に断ることを許さなかった。とはいえ、優希自身既に女性ものの服を着ることに抵抗も感じなくなってきていため、断る選択肢自体が浮かんでいなかった。

 「え、まぁ、美鈴ちゃんがそう言うなら…」

 「やった!じゃあ、早速お会計しますか。兄貴も今の優希さんを見たらきっと驚きますよ!」

 優希がこくりと頷いて了承すると、その場で飛び上がらん勢いで美鈴は歓喜の声を上げた。

 

 

 

 量が量だけにお高めの会計を終えた二人は、店を出た後、少し先にあるベンチへと向かった。

 老夫婦や家族連れが座って休憩をしている中、優希と美鈴はすぐにいくつかの紙袋を手に下げたままベンチに座って寝息を立てている一人の若者の姿を見つける。

 「兄貴ー、終わったー」

 「…ん?」

 美鈴に声を掛けられた若者、日向はピクリと身を震わせるとすぐに目を開いて、辺りを見渡す。

 「おう、早かった…いや、早くないな。いつの間にか一時間経ってやがる、女子の買い物って怖いな…」

 寝ていたために時間間隔が狂っていたのか、時計を見た瞬間日向はぎょっとしてその表情を戦慄に染める。尚、美鈴にとってはこれでもかなり短い方であった。

 「それより兄貴、見て!優希さんの新しい服、可愛いでしょ!」

 「えっと、どう?」

 美鈴に押し出されるようにして日向の前に出た優希は、何処か気恥ずかし気に頬をかきながら日向に問いかける。

 「…」

 そんな彼女の姿を見た日向は、ぽかんと間抜けな顔で言葉を失い、無言のまま優希を見つめる。

 「あの…日向、何か言ってくれない?」

 次第に耐えきれなくなった優希が音を上げると、思い出したかのように日向が再起動する。

 「…あぁ、いや。うん、良いんじゃないか?可愛い可愛い。…それで、次は靴屋だっけか。さっさと行こうぜ」

 おざなりにそれだけ答えた日向は荷物を持って立ち上がると、そのまますたすたと歩いていってしまう。

 てっきり驚きはしなくとも、もっと大袈裟な反応をされるか、もしくはセクハラでもされるとばかり考えていた優希は、そんな予想の裏側な日向の反応に不思議そうに首を傾げた。

 「ね、美鈴ちゃん。日向、どうかしたのかな…、なんだか、疲れてる?」

 離れて行く日向の背中を視界に収めたまま、優希が美鈴へと問いかけた。

 こういう時、いつもの日向であればこんなに淡泊な反応はしない。それが分かるだけに、優希の困惑はただ増すばかりであった。

 すると、美鈴は何やら訳知り顔でくすりと薄く笑みを浮かべる。

 「さぁ、慣れない事でもして寝不足にでもなったんじゃないですか?あれは兄貴自身の問題で、優希さんはちゃんと可愛いですから安心してください」

 そう言った美鈴に軽く肩を叩かれて、優希はほっと息を吐くと共に、胸の奥がむずがゆいような感覚に襲われてその頬を紅潮させる。

 「別にそこが心配なわけじゃ…あと、あんまり可愛いとか言わないでよ。反応に困る…」

 「そういう所が可愛いんじゃないですか、もう!」

 あからさまに照れている優希に美鈴が抱き着く。傍から見れば仲の良い少女達の姿に、周囲からは暖かい視線が向けられていた。

 「おーい、置いてくぞー」

 「ほら、美鈴ちゃん。日向も呼んでるし、早く行こ?」 

 「はーい」

 先を行っていた日向に声を掛けられて、優希が美鈴を催促することでようやく美鈴は優希から離れる。

 少し名残惜しそうな美鈴だが、あくまで今日の目的は買い物であるため食い下がる事も無く、二人は少し離れている日向を追って駆け出した。

 

   

 

 それからも三人はモールに入った店舗を巡って着々と荷物を増やしていった。

 靴屋では二足ほど合わせやすい靴を見繕い、化粧品店では美鈴が試しにと優希に使ってみたサンプルがいたく気に入ったようで、二人は揃ってそのセットを購入した。

 そうして積み重なった荷物の総量は日向が両手一杯に持って尚有り余る量で、これ以上は持ち帰れないと、最低限の必需品も揃ったところで、予定よりは早くあるが三人は買い物を切り上げる事となった。

 「にしても、随分買ったな…、殆ど服だけど。なぁ美鈴、本当にこんなに必要なのか?冗談とかではなく?」

 改めて今日の一日だけで積み重なった荷物を見た日向は、自分が買い物に行った際の量とあまりにも差があるそれに信じ切れないと言った様相で美鈴に問いかけるも、彼女は軽く頷いてそれを肯定する。

 「必要必要。言っておくけど、これでも抑えた方だから。兄貴が思っている以上に女子の世界は奥深いの」

 「深すぎだろ。さて、そんな深淵へと片足を踏み入れた優希さんや、感想をどうぞ」

 「一生分の買い物をした気分です。でも、美鈴ちゃんが色々教えてくれるから、結構楽しかったな」

 日向に振られ、優希は疲れた様に小さく息を吐くも、先ほどまでの買い物を思い返して、にこやかに答える。すると、美鈴はにんまりとした笑みを浮かべて得意げに日向を見た。

 「美鈴、貴様なんだその顔は、煽ってるのか?もしかしなくとも煽ってるんだろ」

 「煽ってませーん。…ね、兄貴。今日アタシも一緒に来てて良かったでしょ?」

 いつもの様に言い合う美鈴と日向であったが、不意に美鈴は日向に近づくと優希には聞こえない程度の小声でぼそりと呟く。

 「…あぁ、正直助かってはいる。俺は服も化粧品も、詳しいことは分からんからな」

 「それもだけど、もう一つの方。張り切るのは良いけど、程々にしてよ?」

 「分かってるって」

 痛い所を突かれて日向の顔が歪む。実際、美鈴の言う通りなのだから、日向も言い返しようが無かった。

 「二人共、何話してるの?」

 「いえ、何でもないですよ。それより優希さん、買い物も終わりましたし、早くクレープ食べに行きましょ!クレープ!」

 ぼそぼそと話している二人を怪訝に思った優希が声を掛ければ、美鈴はぱっと笑顔を煌めかせてはぐらかし、優希の手を取ってテンション高く第二の目的へと話を移す。

 「うん、でもお昼ご飯はどうしよっか。俺はそこまでお腹空いてないから、クレープだけで良いけど…」

 チラリと優希が見た時計の短針は1を、長針は6を指し示している。つい先ほどまで買い物に夢中になっていた為、三人はまだ昼食を取っていなかった。

 「アタシもクレープだけで大丈夫です。兄貴は?」

 「日向はクレープだけだと足りないよね…」

 二人の視線が日向へと集中する。

 健康優良児である日向はよく食べる。クレープだけで事足りる優希と美鈴とは違い、物足りなさを感じるかもしれないと優希は心配していたが、日向は手をひらひらと振っていらぬ心配だとアピールした。

 「俺は…まぁ、足りなかったら適当に食い足すから気にすんな。あの辺りよくキッチンカーが止まってるし、何かしらはあるだろ」

 ショッピングモールが近くにある事も有り、人通りの多い駅の周辺は何かと賑わっている。小さいながらも土産屋が有ったり、日向の言う様に基本的にキッチンカーが止まっていたり。

 そのため、別段昼食を何処かで撮らずとも、周辺で事足りるのである。

 「そう?なら、真っ直ぐクレープ食べに行こっか。美鈴ちゃんは何食べる?」

 「そうですね、苺系があればそっちに行きたいんですけど…。実はお店オリジナルのクレープもあるみたいで」

 「へー、オリジナルってどんなのだろう」

 きゃっきゃと楽しそうにクレープについて話す優希と美鈴。そんな二人を日向は後ろから眺めつつ、ふと一つ大きく欠伸をした。

 

 

 

 気温は太陽が最も高い位置に昇った頃ではなく、その後の昼下がりに最も高くなると言う。これは地表に溜まった熱により、空気が暖まるのに時間がかかるためと言われているが、そんな科学的な事実は当事者たちにとってはどうでも良い事だ。どんな理論が有ろうが、暑いものは暑いのである。

 そして、それは外へ出た日向達も同じことで、直射日光を素で受けている日向はうだるようなその暑さににより、完全に参ってしまっていた。

 「…あー、暑い。今すぐ氷河期でも来てくれ、或いは冷水の中に飛び込みたい、冬が恋しい」

 最早ゾンビの様にうめき声を上げる日向に、流石に心配になった優希が声を掛ける。

 「それ、冬に真逆の事言ってたよ。日向、大丈夫そう?日傘の中入る?」

 「そうするわ、悪いな優希」

 詫びを入れつつ、日向は身をかがめて優希の差す日傘の下へと入り込み、日陰によって感じる風の涼しさにほっと息を付いた。

 そんな二人を呆然と見つめていた美鈴であったが、目の前の光景を脳が処理するのと同時に待ったをかける。

 「ちょっ、何自然と相合傘してるの!?優希さん、兄貴とするくらいならこっちに来てアタシと相合傘しましょう!」

 「でも美鈴ちゃん、日向今両手塞がってるから日傘差せないよ」

 「そうだった…!」

 現在日向は先ほどの買い物の荷物のほとんどを持っていた。両手一杯のその荷物は、元はと言えば美鈴が必要だと言って購入したものであり、美鈴は自分で自分の首を絞める結果となっていた。

 そして、ぐぬぬと唸り声を上げる美鈴に、勝ち誇った様な笑みを浮かべる男が一人。

 「ま、そういう事だ。残念だったな美鈴、優希ちゃんとの相合傘はこの日向様が頂いた。良いだろう、羨ましいだろう!」

 「このクソ兄貴…!」

 懲りずに煽り合う兄妹であるが、間に立たされている優希はというと最早気まずそうに苦笑いを浮かべる他なく、一番の被害者は彼女と言っても過言では無かった。

 「という事で優希ちゃん、俺達は一つ傘の下で共にクレープ屋まで行こうじゃないか」

 「次優希ちゃんって言ったら離れるからな」

 「おっけ、ごめんなさい。全力で謝るからそれだけは勘弁してください優希様」

 どうやら再びこの炎天下に放り出されたくはないようで、優希がそっと距離を取るそぶりを見せれば、日向は今にも土下座をして縋りつきそうな勢いで頭を下げた。

 優希がこうもちゃん付に反応するのは普通に気恥ずかしさもあるが、日向のそれは学際の悪夢を思い起こさせるためでもある。

 忌まわしき記憶が掘り返されてため息をつきながら、ふと優希は隣を歩く日向の手に一杯の荷物を見た。

 「もう…。…日向、荷物重くない?俺もまだ持つ余裕あるけど」

 「ん?あぁ、大丈夫大丈夫。量は多いけど、所詮服だからな。かさばるだけでそこまで重くは無いんだ」

 「そう?でも、無理はしないでね。言ってくれたらいつでも持つから」

 問題ないと答えるも、尚も気に掛けてくる優希に日向は思わず目を瞬かせる。

 「どうしたんだよ、そんなに心配して来るなんて珍しい」

 日向が頑丈で体が強い事は優希も良く知るところだ。風邪もひかない、体調も崩さない。故に他人からここまで気に掛けられること自体珍しいことで、日向は意外そうに優希を見やる。

 「だって、日向なんか疲れてるみたいだから。買い物中も寝てる事が多かったし」

 「あー…」

 思い当たる節があり、日向は納得しつつ失敗したとばかりに唸り声を上げる。チラリと美鈴を見る日向だったが、彼女は我関せずとばかりに肩をすくめるのみだった。

 どう説明したものか、しばし考え込む日向だったが、そう時間も経たず顔を上げる。

 「んー、まぁあれだ。ちょっと今日は早く起きすぎて、その分の眠気が来てただけ」

 「本当?」

 「本当本当、日向、嘘つかない」

 優希は疑わし気に再度確認するが、日向がしきりに頷きながら肯定した事で、何処か腑に落ちない点を残しながらも一応は納得の姿勢を見せた。

 その事に日向は安堵しつつ、しかしこれ以上隙を見せてはいけないと気を引き締める。

 「…あの、そろそろアタシも会話に混ざって良いですか?」

 横合いから響いてきた控えめな声に日向と優希が振り向くと、そこにはぷくりと頬を膨らませた美鈴が、二人を不満げに睨みつけていた。

 「良いも何も、勝手に入れば良いだろ。なぁ、優希」

 「うん、今更気にしなくても良いよ?」

 「…はぁ」

 キョトンとした顔で顔を見合わせて答える二人に、美鈴は呆れたようにため息をついた。

 「分かってない。兄貴も優希さんも、偶に他が入り辛い二人だけの雰囲気になってるんです。仲が良いのはいいですけど、今はアタシも居る事忘れないで下さいよ」

 そう言ってぷいとそっぽを向く美鈴は完全に拗ねていますと言わんばかりで、そんな彼女に年上組の二人は泡食って弁明を始める。

 「あ、えっと別に美鈴ちゃんを忘れてた訳じゃないんだよ?さっきはちょっと日向と話してただけで…!」

 「そうそう、俺と優希が美鈴を忘れるわけ無いって。だからほら、機嫌直せって」

 つかつかと歩いて行く美鈴を追いながら何とか宥めようとする二人。

 結局、美鈴の機嫌を収める為の大小として、日向はクレープ屋でトッピングマックスのクレープを買ってやる事となった。

 

 

 

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