「お願いアクア、力を貸してよ、アンタしか頼める人がいないのよ」
「え~、でも私演技下手だし、アイさんに頼んでみたら?」
「アイみたいなクッソ可愛い女の子女の子したタイプじゃ無理なのよ、お姫さまの役じゃないんだから」
有馬かなは例の鏑木とかいうプロデューサーからドラマの話を振られたらしい、最初は意気揚々と引き受けたらしいが、ざっくり顔合わせで行った演技力テストで、そこに集まったメンバー達の、その余りにもレベルの低い、くそ雑魚なめくじ大根役者ぶりを見て瞬時に爆死を確信、顔を青くしてマリンに助けを求めて来たというわけだ。
多分この前の不気味な案内人の演技でマリンに負けたと思いこんでいるのが原因だろうな。
断言するが決して有馬かなはマリンに演技で負けてはいない。そもそもマリンは演技なんてしていない。マリンがやったあれはエチュードだ。
エチュードというのは要は素の自分のまま演技するという演技のことだ、リアルな俳優で言えば木村○哉等が有名だな。
後、お笑い芸人さん達がドラマに出ても彼らは普段の芸人のままだろ?エチュードというのはそうゆう役作りをしない演技のことだ。
いっとくけどエチュード舐めんなよ、エチュードだけで月9の主演やる役者さんもいるからな、エチュードだけで通用する自分になる。それも立派な役者の戦い方だ。どんな天才役者でも本人以上に本人を演じることは出来ないからな、本人が魅力的なら本人で充分。
俺は決して自分以外の誰かにはなれない。
俺は、自分じゃなくなることはできない。
俺は、ただ俺であることしか出来ない。
だが、それで充分だ。
何故なら、俺にとって最大の力は、俺が俺自身であること以外の何ものでも無いからだ!!!
カッコイイイイイ~~~オレ様キャラ大好きオーレ♪
話がそれたが、俺や黒川あかねは泣きじゃくる有馬かなにそのことを説明した、マリンがやったことはただのエチュードであること、そもそも演技などしていないこと、有馬の演技は表情や声の作り方、台詞のテンポや抑揚の付け方、相手役との呼吸の合わせ方、視線の動かし方から微妙な身体の動き、相手との会話の間の取り方など、全てが洗練されたプロの役者の演技であったことを説明した。
俺や黒川の実演入りの説明は、正直誠始めマリンもララライの劇団員も全員が大筋において納得してくれた、カミキヒカルでさえも異論は唱えなかった。
ただ黒川と二人で、有馬をなだめる為に実演(黒川との演技はメチャクチャ気持ち良かった!)する俺をカミキヒカルがひたすらジ~~~と見詰め続けてるのだけは気持ち悪かった。
いや、役者が演技を人に見られて気持ち悪いって終わってますけどね。
それはともかく、俺と黒川の懸命な説明にも
関わらず、有馬かなは頑として自分が役者としてマリンに負けたと言って譲らなかった。
有馬の余りにも頑なな態度に遂に根をあげた俺と黒川や他のメンバー達は、有馬の意志を尊重することにして、遂には今回の演技に関してはマリンの勝ちで有馬の負けであることに同意することにした。
劇団シリアスの正直誠だけは、最期まで納得いかないのか首をひねっていたが、可哀相に一番当惑していたのは有馬かなに謎の勝利をしたマリンだろう。少し怯えたような顔で有馬かなを見ていた。
必死の努力の上ようやく自らの敗北を勝ち取ると、有馬かなは一瞬小さく謎のガッツポーズを決め、カッと目を見開くとツカツカとマリンの元に近づき、足を肩幅より広めに開いて立ち、左手を腰に置き、右手の人さし指をマリンの方に向けると、まるで舞台女優のように館内に朗々と響きわたる声で言った。
「今回は私の負けということにしといてあげる、でもこの屈辱は必ずや返すわ、いい?忘れないで、アクア、貴方は今日から私有馬かなの宿命のライバルよ!覚えておきなさい!絶対にギャフンと言わせてやるんだから」
「ギャフン…」
思わず漏れたマリンの一言に館内は爆笑の渦に包まれ、次いで盛大な拍手と歓声に包まれた。
───
「でも私、演技の経験なんてほとんど無いし、不知火さんのほうが」
「いいからこれを観て」
そう言うと有馬は何やらメモリーカードのようなものを取り出しパソコンにセットした、先日の顔合わせで行われた演技テストの様子を見て欲しいらしい。俺達は観た。
☆☆☆
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「酷いな」
「でしょ?酷いの」
「地獄ですね」
「地獄なの」
「自分から黒歴史を作っていくスタイルですか?」
「作りたくないからこうして相談してるのよ!」
「でも絵面は綺麗ね、視力が0.5くらい上がりそう」
「代わりに私の胃に穴があくわよ!」
「ダイエットには良いかも?」
「ダイエットで胃潰瘍発症して死にたく無いわよ!」
「でも自分で引き受けた仕事でしょう?諦めて死になさい10秒で死ねる天才役者」
「アクア助けてお願い私を一人にしないで!」
「ダメだよアっ君、その女一度でも甘やかすと、とことん依存して来るわよ、そのうち『アクアが居ないと私演技なんて出来ない』なんてメンヘラ女の本性剥出しの台詞を本気で言ってる未来が見える見える」
「言うわけ無いでしょ!」
「ど~~~だか?この前のララライとの合同練習の時も、アっ君とのフラグ立てる為に涙まで流して、謎の敗北宣言からの宿命のライバル宣言。見ていて痛々しかったなぁ~、ララライのカミキさんなんて思いきり冷めきった目で貴方を見てたわよ?黒川さんやアイみたいなウブな子達を除いた人達は、皆居たたまれない空気に笑いを噛み殺して耐えてたのよ、最期のアクアの『ギャフン』でとうとう皆腹筋崩壊しちゃったけどね」
「あっ、あれは変に小手先のテクニックで上手い演技が出来てしまう自分自身への戒めの意味があって、私の初心忘れずべからずという初心表明の意味があるのよ!」
「まぁそう、ならもう一度演技の初心者達と初心に帰って一から演技を学んでいくには、今度のドラマは良い機会ね、応援してるわよ、重曹を嘗める天才役者」
───
クーラーが利き過ぎてるのだろうか?
俺は何故か身体がぶるぶると震えだし、何時の間にか隣にいたマリンと身を寄せ合い、お互いをかばうように抱き締め合いながら、謎の冷気に二人していつまでもガタガタと震えていた。
聖母子像