ある程度星野アイ   作:パフリン

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このアイちゃんは策略家ではありません。
本編の主人公アクア君みたいに頭が切れる主人公ではないです


本音と建前

 「それで、その有馬さんが出演するドラマってどんな感じのやつなんですか?」

 

 1日2時間の苺プロの通常レッスンが終わり、今日は俺と有馬、アクアの三人で有馬救済の為の作戦会議をすることにした。

 

 余程せっぱ詰まった事情が無い限り、主人公は困ってる仲間を見捨ててはいけないのである。

 

 というのは建前で、俺は単にドラマ出演が決まった有馬が羨ましかったのである。

 

 こいつは欠点らしい欠点の見つからない役者で、昔は10秒で泣ける天才子役と言われていた、今でも映像役者の中では事実上トップだと俺は思っている。

 

 俺は有馬かなみたいに涙を流す演技というのが出来ない。俺の演技というのは全て小手先の演劇テクニックを寄せ集めた表面上のものだ。

 

 だから俺は有馬かなを尊敬しているし、有馬かなに憧れているし、有馬かなに嫉妬しているし、有馬かなを恐れている。

 

 その有馬かなが俺の知らないうちにドラマ出演のオファーを受けていた。

 

 そして、俺ではなくてアクアに助けを求めた。

 

 その事実に俺は静かなショックを受けていた。俺より演技の才能がある有馬かなが、俺より演技の才能を認められているという事実にどうしても納得出来ない俺がいた。

 

 昨日の夜ベッドの中で、そのどうしようも無い事実は俺の心をジワジワと責めさいなみ苦しめ続けた。

 

 辛い!苦しい!妬ましい!自分が役者として有馬かなに敵わないという事実がどうしようもなく悔しい、悲しい、有馬かなが憎らしい。胸を焼き尽くす嫉妬と羨望と憧憬と絶望の黒い炎。

 

──私では有馬かなに勝てない─私では有馬かなに届かない──

 

 最期は涙の流しすぎで体力が限界を迎えて意識を失った。

 

 朝起きたら一晩で体重が3㎏減ってて、慌てて水をがぶ飲みした。

 

 なんとか体重を1㎏戻したけど、少しフラフラする、とりあえずビタミン、ミネラル等の錠剤を飲み、涙とともに失われたかも知れない栄養分を補給しておいた。

 

 涙の後もバッチリメイクで隠してるから、これなら私が泣いたことは誰にもばれない、私が有馬かなに嫉妬してることもばれない。私は天才役者、無敵のアイドル星野アイ。よし!きょうもアイドルロールでみんなを騙してやる!

 

 ☆☆☆

 

 「原作吉祥寺頼子による『今日は甘口で』、数年前に連載が終わった人気少女漫画の実写化よ」 

 

 「あっ、私その漫画の大ファンです!面白いですよね!今日甘!」

 

 「やる気になった?」

 

 「なりました!」

 

 くっ!アクアが羨ましい!私だって有馬かなと共演したいのに~~~~~!!!

 

 「…二次元の実写化とかただでさえ叩かれ易いのに大変ですね」

 

 嫉妬心を押し隠し、有馬さんを心配してるふりをして、それとなく会話に加わる。この二人に混ざりたい、この二人に混ざりたい、この二人に混ざりたい…… 

 

 「そうなのよアイ、ただでさえアニメ化と実写化の間には超えがたい次元の壁があるのに、よりにもよって、あの超人気漫画今日甘の実写化よ!」

 

 「しかもキャストは今人気の若手イケメンモデルばかりとなっては、視聴する側の期待もさぞかし期待が高まるでしょうね」

 

 「んもう!メッチャクッチャ高まるわね!」

 

 「きっとドラマの製作サイドもそのあたりを押してくるでしょうね、素敵なラブロマンス今日甘、それを演じるイケメンのモデル達、想像するだけでうっとりしゃう感じです」

 

 「私も見たいですよ、有馬さんをヒロインとしてイケメンモデル達が演じる今日甘、もの凄く面白そうですから」

 

 「そして期待が高ければ高いほど、それを裏切られた時のショックは大きいのが人の性ですものね、この状況は有馬さんにとって、約束された、地獄への片道キップというわけですね」

 

 「そうなのよ、破滅の時が刻一刻と迫っているのよ!」

 

 「まったく鏑木さんの考え方も謎ですね、わざわざ人気モデルをドラマに出して、その破滅的な演技力で視聴者を落胆させて、モデルとしてのイメージダウンも良いところじゃないですか、今後あの人達一生大根役者のイメージがついて回るんですよ、こんな誰も幸せに成れない企画よくやる気になしましたね」

 

 私じゃなくて、私より演技の才能のある有馬かなを選んだ鏑木さんへの恨みからつい皮肉なことを言ってしまう。うん、私はおかしい。最低の人間だ。

 

 「鏑木さんは顔面至上主義者なのよ、顔さえ良ければ、演技は二の次ってタイプね」

 

 「……へ~~演劇関係者にしては珍しいタイプですね」

 

 だったら私がヒロインで良いじゃん!

 

 「ちなみに主演は誰だか決まってるんですか?」

 

 「鳴海メルト、ほらこの雑誌の表紙の子、イケメンでしょ?」

 

 「イケメンですね、こんなイケメンを地獄に叩き落とすなんて鏑木さんも罪な人ですね」

 

 「本人は全然罪と思ってないわよ。イケメンは全てを解決すると思ってるルッキズムの化身だもの」

 

 「……イケメン……そう言えばこの現場、圧倒的に男子率が高いですね」  

 

 「メインキャストは私以外全員男子よ、全員演技素人の、私としてはせめて主役をアクアに変えて欲しいんだけど」

 

 「それは言っちゃ駄目なやつですよ、芸能界は義理と人情とパワーバランスの世界、お金が動く以上よそ様に恨まれることは絶対に駄目です」

 

 「それは分かってはいるんだけどさ、でも私はもちろん、原作者の吉祥寺先生にも今日甘のファンにも、何も知らないモデルの人達にも、鏑木さんにだって確実に黒歴史が待ってるのよ、悪あがきしたくなるのは私の傲慢かしら?」

 

 「人情だと思います、それで現場の様子はどうなんですか?」

 

 「ビックリするくらい緊張感ないわよ、回りがみんな素人だからか自分達が如何に酷い演技をしているのか分からないのよ」

 

 「ならせめて、私が現場に毎回顔を出して、有馬さんや他の役者さん達を応援します」

 

 とくに深い考えはない、ただ俺は有馬かなの演技を間近で見たかった。プロの現場を直に体験したかった。

 

 本音はそれだけだ。

 

 今日甘の成功とか失敗とか心底どうでもいい、俺はただプロとして演じる有馬かなを身近で見たいだけなんだ。




このアイちゃんは涙を流す演技ができません
涙を流さない演技もできません
自分を演じることもできません
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