ある程度星野アイ   作:パフリン

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ドーム公演予定日当日に人気アイドルが殺されて3日でマスコミが報道しなくなる、世間が忘れるは無理があると思います


今日は甘口で

 「とにかく、皆さん凄く真剣なんですね、それがヒシヒシと伝わって来ます」

 

 それは撮影現場を見た吉祥寺頼子の正直な感想だった。

 

 有馬かなの目から見ても、お世辞にもモデル組の演技は洗練された演技とは程遠いものだった。

 

 ただ彼らが少しでも良い演技をしようとしている熱意だけは充分に伝わって来る。

 「まずは私が演る演技を観て、最初は私の演技の物真似で構わない、ダンスや日本舞踊もそうだけど、習い事は何でも形から入るものよ?そうやって何度も真似をしているうちに、必ずこれだ、と気づく瞬間が来るわ、その時は私の演技は忘れて、自分の役を自分で演じるの、そうしたら一人の役者の卵、の誕生ね」

 

 『はい、分かりました先生!』

 

 僅かな撮影の合間や休憩時間、更に撮影終了後の時間が許す限りに於いて、有馬かなは自分が蓄積した演技のノウハウを、時間が許す限り、また彼らの現在のレベルで修得可能な限り、出きる限り伝えていた。

 

 勿論演技の実力は付け焼刃の演技指導だけで伝えられるものではない。

 

 演技の感覚自体は役者本人が何度も繰り返し稽古をして、試行錯誤を重ねて自分で掴み取っていく以外の道はない。

 

 だがそれは一月二月の短い期間では不可能だ、ある程度の段階以上に成ると才能の壁もある。

 

 今有馬かながやっている演技指導は如何に最高の演技をするか、という演技指導ではない、そもそもそんな演技指導は存在しない。

 

 如何に最低の演技をしないか。それが有馬かなが現在行っている演技指導であった。そしてそれは日を追うごとに確実に成果を現して来ていた。

 

 評価(演じ方)を決める、評価を決めたら迷わない、モメントを取る(対象者に対して実際に話しかける気持ちで台詞を話す)。

 

 無駄な間を置かない、無意味な抑揚を入れない。とにかく無意味な演技をしない。特に役作りはいらないから普段自分が話してる感じで話す。

 

 台詞を言うという意識ではなく、話すという意識で話す。

 

 日常生活に於いて、演技をしていない自分がどのように話し、どのように考え、どのように感じ、どのように動くのかを常に意識しておく。

 

 この演技をしていない状態の自分が全ての演技の基礎になる。

 

 この演技をしていない自分の状態を把握しておくこと自体が演技力の向上に繋がる。

 

 幸い今回の脚本にプロ仕様の難しい演技力を必要とする要素は何も無い。

 

 等身大の若者が等身大の若者のままに演じることで充分芝居として成立する脚本に成っている。

 

 有馬かなは如何に上手い演技をさせるかではなく、如何に下手な演技をさせないかを徹底していた。

 

 彼らが余計な演技をしなければこの作品は成立する、最初にテキストを読んだ時点で有馬かなは理解した。

 

 その理解は正しかった。

 

 有馬かなはあらゆる手段を使ってモデル軍団から余計な演技を削ぎ落とすということに専心していた。

 

 やがてモデル達が身に纏った、余計な演技というガラクタが剥がれ落ちて行くと、そこには等身大の美しい若者達が徐々に姿を現してきた。

 

☆☆☆

 

 「撮影も終盤ねアイ、どうやら貴女のお陰で良い作品になりそうで何よりだわ」 

 

 「あっ、不知火さん、そんな、私はただ一日中有馬先輩や共演者の皆さんを見てただけで何もしてませんよ」

 

 フリルは折り畳み式の椅子を広げてアイの隣に腰を下ろした。

 

 「ご謙遜ね、まず貴女が来た瞬間にこの現場の雰囲気が変わったわ」

 

 「あれ?不知火さん当日現場に居ましたっけ」

 

 「後でマリンに聞いたのよ、聞かなくてもだいたい想像つくけど」

 

 「そうなんですか?」

 

 「それにしても大したものね、あの地獄絵図のような現場をよくぞここまで立て直したものだわ鏑木プロデューサーも驚いてたわよ?」

 

 私の質問に答えず不知火さんは話を進める

 

 「確かに有馬先輩の思いきった発想の転換と演技指導がなければ今のクオリティーはありませんでしたね」

 

 「言うほどクオリティーは高く無いわよ」

 

 「…まぁ高校の文化祭で演る学芸会レベルには成ってるじゃないですか、そこにプロの演出と有馬先輩の演技力によるフォロー、その辺の中学生が演じても、そこそこ絵になる簡単で魅力的な脚本

、鏑木さんの目にとまった役者さん達の美貌、トータルで見ればこの短期間でそれなりのエンタメ作品に仕上がってると思いますよ、それに……」

 

 「それに、何かしら?有馬先輩の救世主様」

 

 「これが一番大事なことなんですけど……今回『今日甘』に出た人達、みんな本当にお芝居を心から楽しんでました。みんな難しい顔して台本と格闘してたけど、休憩時間すら余り笑い声も聞こえてこない現場だったけど、あれだけお芝居に対して真剣になれたのは、あれだけ真剣になれるだけの価値をお芝居に見つけることができたからなんです」

 

 「多分それは貴女がいたからよ?」

 

 「それは私には分かりません、私にはっきりと分かることはですね………」

 

 「分かることは何かしら無敵のアイドル様?」

 

 「私は今度の撮影期間中、一瞬も退屈だと思った瞬間がなかったということです。ずっと楽しかった、毎日面白かった。毎日夜眠る時に、明日になるのが待ち遠しくてたまらなかったんです」

 

 「彼らの演技を観るのが楽しかった?」

 

 「はい!演技自体はまだ絶賛初心者なんですけど、なぜか引き込まれました!」

 

 「なら今回の仕事は成

功ね」

 

 「そうなんですか?」

 

 「そうよ!」

 「有馬先輩!」

 

 「かなで良いって言ってるでしょ」

 

 気がついたら有馬先輩が傍にいた。

 

 「お疲れ様ですかな先輩、今日の演技も最高でした!」

 

 「ありがとう」ゴクゴクゴク

 

 私が差し出したよく冷えたミネラルウォーターを一気飲みする有馬先輩。

 

 「とりあえず今回の仕事の目的は若手モデルの顔売り、アイが彼らに引き込まれるということは、他の人達も引き込まれるということ。したがって、今回の仕事は成功、任務終了!」

 

 「おめでとうございます有馬先輩、ちなみに今回のエチュード大作戦はアイの入れ知恵ですね」

 

 「何で分かったの?」

 

 「先輩は演劇の基礎をぶっ飛ばしていきなり最終到達地点から演技を始める天才ですもの、そんな先輩に『間違った演技を削ぎ落とす』という発想が生まれること自体あり得ません」

 

 「だからこそ私はここ3年間アイから演技の基礎をガッチリ学んできたのよ、それが今回役に足ったわ」

 

 どうどうと胸を張って言う有馬先輩。

 私が役に足ったのなら良かった。 

 

☆☆☆

 

 『今日は甘口で』は、荒削りな演技ではあるが、真剣に演技に取り込む役者さん達に好感が持てる。

 

 やっぱり有馬かなは天才だ、など概ね好評だった。

 

 私もちょっとだけ友情出演で出して貰って、ドラマの再生数が一気に20倍まで伸びたお礼に、鏑木さんに焼き肉をおごって貰って得しちゃった。テヘペロ




アクアは乙女のキスを軽く扱い過ぎ
自分の娘やルビーが同じことされたらどう思う?

お前キレるだろ?
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