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「ちょっとショックだった?」
「うん、私は子供の頃から劇団にいたから、お芝居をしたりするのは普通のことだと思ってた、良い演技をしたら、みんなを喜ばせることが出来て、それで私も幸せになれて、みんなも幸せになれると思ってた」
如何にも黒川あかねが言いそうなことを言う黒川あかね。いとおしいなぁ。
「それも間違いでは無いよ、劇団ララライのような舞台なら、あるいは映画やドラマでもそうかも」
「じゃあどうして私は今ガチだと叩かれているの?」
不思議そうな顔で問い掛けるあかねがアホ可愛い。
「単純に客層の違いよ、わざわざ劇場に足を運ぶ人達は元々演劇というコンテンツが好きな人達なの、そういう人達が良い演技をする黒川あかねを叩くことはまずないわね」
「あっ」
俺の言いたいことを察したらしいあかねがポカンと口を開く 。
「映画やドラマもだいたいそう、そこでは役者に求められるのは演技力。でもバラエティは違う、特に『今ガチ』みたいなドキュメンタリー仕立てのバラエティの場合、視聴者は出演者に演技力なんて求めていない、視聴者は他人が恋愛して、ああだこうだ生々しく生きてる姿を安全圏から眺めて楽しみたいのよ、あかねって今まで恋愛とか経験したことある?」
「……無い、かなぁ、少なくとも異性に特別な感情を抱いた記憶は無い」
過去を思い出して話すあかね。
「なら普段学校で友達と恋愛の話とかしたりする?」
「それもないなぁ、そもそも私は学校に友達がいないから……」
友達がいない美少女っていいよね!
「劇団では?」
「お芝居の話とかはすることもあるけど、あそこはストイックに役者としての自分を磨く場所というイメージしか無い」
パーフェクト!みんな大好きロンリーガール!
「そんなあかねが、いきなり全国放送される恋愛リアリティショウに出て、素の自分のまま、可愛い女の子として恋をして人気が出たら奇跡的だよね?」
「奇跡だね」
「でもそんな奇跡は起きなかった、こういうところで人気が出るのは元々自分を演出するのが上手いタイプか、素で面白いタイプかな、普段地味で大人しくて真面目で内向的な努力家で、恋愛経験もなくて、友達もいなくて、プライベートであまり人と話す機会のないあかねは、これ系の番組に一番向いてないタイプだよ」
「……うん、向いてないね、でもマネージャーさんに知名度を広める為に、また役者として演技の幅を広げる為擬似的な恋愛をする為に出ないか?って言われたら断り辛くて……」
うつむいて話すあかね、うつむきありですね!
そう言えば本編の黒川あかねのやってたことも疑似恋愛だったなぁ懐かしい。
「なら知名度を上げるって目的は達成したね、あかねは歴史に名前を刻んだよ」
「でもネットで叩かれてるし、悪目立ちかも?」
初期あかねのオドオドキャラを味わい愛でながらあかねを励ます。
「全然平気、今回あかねは何にも悪いことなんてしてないから、燃料不足で叩きは続かないよ、まぁ一定数のアンチは残るけど、それは有名税って言って芸能人はみんな払ってるよ?」
「そうなの?」
「そう、私星野アイも一定数のアンチは出て来てるけど、私は叩かれたりするのも役者として、ありがたい経験だと思ってる」
「アイは強いね、そっか、叩かれるのも役者としての経験になる、その視点は無かったな……」
少し、あかねが元気を取り戻す、雨に打たれる花は、ただ辛いだけじゃ無いんだ。
「それに、擬似的な恋愛で良いなら、別に相手が異性である必要もないよね?だからこの私星野アイがあかねのビジネス彼女になってあげる!いつかあかねに本当に好きな人ができるまで、私があかねの嘘の恋人になってあげる」
あかねはキョトンとした顔で俺を見つめている。可愛い、俺は精神的には男だ!
「………………いいの?私で?」
俺の真意を探るように見つめるあかね。良いに決まってるじゃないですか!
「いつかあかねに好きな人が出来ても、私の友達でいてくれるならね」
そう言って俺はあかねの膝に乗り、右手をあかねの後頭部に回して安定させてから、左手であかねの顎を少し上に向けて角度を調整する。
自分がこれから何をされるのかを察したあかねは薄目にして俺を見つめ返し、唇は薄く開いている。
その唇に自分の唇を重ねる。考えてみれば正真正銘のファーストキスだ。
1秒2秒3秒4秒5秒
頭の中でカウントしてから、ゆっくりと唇を離す。その間あかねは薄目を開けてずっと俺を見つめている。
「これは誓いの儀式だよ?これで晴れて私とあかねは公式カップル、表向きはね!」
ちょっとイタズラっぽく笑ってウインクする俺を、あかねはぼんやりとした顔で見つめていた。
とにかく推しの子はフックが多くて無視できません