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星野アイが単独で行動することはまずない。
例えば今、星野アイはアリバイ作りの為に、ビジネス彼女である黒川あかねと偽装デートの真っ最中だが、星野アイを対角線状に挟んで約10メートルの距離に、有馬かな、アクアマリン、不知火フリル、ルビーが居て二人に危険がないように警備している。
更に二人のテーブルの隣のテーブルには、然り気無くMEMちょと寿みなみが居て周囲を伺っている。
全員帽子とマスクとサングラスで然り気無く変装しているが、僕の目は誤魔化せない。
アイドル集団であるB小町のメンバーだがなめてはいけない、やつらは全員ベンチプレスで70㎏以上を挙げる力があり、足も100メートルを12秒台前半で走れるくらい早く、1500メートルを4分30秒以内に走れるくらいにスタミナがあり、垂直ジャンプで70㎝以上を飛ぶくらいには身が軽い。しかも全員空手の有段者で、手刀でビール瓶の首を飛ばし、正拳突きで耐火レンガ三枚を重て粉砕する。
ひとつひとつの能力では専門のトップアスリートには及ばないが、総合力は高い、体力テストでは余裕で1級取れるくらいには高い。
僕もそれなりに鍛えてはいるが、残念ながら元々ひ弱な体質なのか、ベンチプレスは40㎏がやっとだ、先天的に筋肉が付きにくい体質らしく、それ以上はいくら努力しても延びない。
僕がB小町のメンバーの一人と正面から戦っても結果は目に見えてる、10秒持たないだろう。
そんなB小町のメンバーが星野アイには常に二人以上付いていて彼女をガードしているのだ。
更に星野アイのビジネス彼女である黒川あかね、コイツが最高に厄介だ。
星野アイの弱点と言えばあまり頭が良くないことなのだが、コイツは凄まじく頭が良い。コイツが星野アイの参謀役になることで、事実上星野アイの弱点は消える。
月に一回の劇団シリアスとの合同稽古の時、コイツが明らかに星野アイを意識していたのは直ぐに分かった。
黒川あかねは常に星野アイを観察して、星野アイという存在を深く知っていった。
星野アイの趣味嗜好、平日の過ごし方、休日の過ごし方、好きな食べ物から好きな漫画、本、映画その他諸々、いったいどんな手を使ったのか僕でも見当がつかないくらい、徹底的に調べあげていた。
常に虎視眈々と星野アイを狙っていたこの天才ヤンデレストーカーは、今ガチ競演というチャンスを掴み、天才の演技力と天才の智略を用いて、星野アイのビジネス彼女という地位を掴んだ。
勝負ありだ。
黒川あかねはもう絶対に星野アイを手放さない。その為には彼女は打てる手は全て打つし、やれることは全てやるだろう。
自分の正妻としての立場を守る為なら彼女は、比較的信頼出来るB小町のメンバーを、言葉巧みに星野アイの愛人として与えることすらやるだろう。
それでB小町の結束が高まり、使える手駒が増え、星野アイの安全性が高まり、自分の正妻としての地位が磐石になるなら、彼女は躊躇わない。
黒川あかねは頭が良い。だからこそ自分の限界を冷静に見極めている。星野アイという存在は、自分一人で支えるにはあまりにも巨大な存在であることを理解している。
彼女は自分が星野アイを独占することに、世界が納得しないことを理解している。
もし、黒川あかねが一人で星野アイを独占し続けようとしたら、やがて必ずなんらかの方法で、星野アイを失うことになることを理解している。今はまだ自分と星野アイを守っているB小町の剣が、やがては自分に向けられた時、星野アイを独占しながら、B小町のメンバーを相手に抵抗することは、自分にも星野アイにもリスクが高過ぎることを理解している。
。
そして、自分以外には星野アイを守り抜ける人間がいないことも知っている。
自分が居なくなれば星野アイの心は壊れてしまうことを知っている。
同時に、星野アイがB小町の仲間達をとても大切に思っていて、彼女達一人一人の幸せを心から願っていることを知っている。
そして彼女達の幸せは星野アイ以外の何ものでも無いことを知っている。
彼女にはその気持ちは痛いほど分かる。仮に星野アイが有馬かなと、ビジネスカップル等とふざけたことを始めたら、自分は正気を保てる自信が無い。なにがなんでも星野アイを自分の物にしようとするだろうと。
そしてこう思う、自分でもこれは間違った感情だと思う。星野アイの気持ちを無視した醜いエゴの声だと思う。決して美しく純粋な愛なんかじゃないと。
どこまでもどこまでも醜い女の自分勝手な情念でしかないと。
星野アイを自分の満足の為に利用する最低の在りかたでしかないと。
分かってる。分かってる。嫌になる程分かってる。なんて醜い私の心。
それでも確信してしまう。自分は絶対に星野アイを諦めないと。綺麗なヒロインなんかには成れないと確信してしまう。
そして、B小町のメンバーも自分と全く同じだと理解出来てしまう。
自分達は星野アイという太陽の周りを回るべくして生れた惑星なのだと。
自分達がどうしようもなく星野アイに惹かれてしまうのは、宇宙の法則と同じなのだと。
そこには人間の小賢しい知性や自由意思や倫理観など、最初から介入する余地などないのだと。
ならば導き出される結論はひとつだ。自分達は星野アイを中心とする、家族のメンバーとして、お互いに折り合いを付けて行くしかない。
星野アイには私を第一の恋人として、他の6人の恋人を平等に愛してもらうしか無い。
いずれも癖の強いメンバーだから苦労は目に見えてる。
だから私が彼女を支える杖と成ろう。
だから私が彼女を守る盾と成ろう。
だから私が彼女の困難を断ち切る剣と成ろう。
僕の読みでは黒川あかねはそんなことを考えている。
だから黒川あかねはアイとの蜜月を出来る限り楽しみ、引き伸ばそうとしながらも、やがて自分が正妻だと納得させた上で、アイにもそのことを理解させた上で、B小町のメンバーを家族(手駒)として受け入れるだろう。
マリンはやがて決断を迫られる可能性がある。男性として生きる為にB小町を去るか、身も心も女の子になってB小町に残るか?その場合、マリンは何の迷いもなく女の子になることを選ぶだろう。
性別を変えること自体はそれほど難しく無い。
費用は20万円ほどかかるが、悪の秘密結社が面白がって開発したTSマシン、「おにまい」を使えば、誰でも1時間程度で異性になれる。
ただほとんどの人間は、特に性別を変えたいと思わないので(性別はかわっても、容姿は基本的に元のままだというのも大きな理由だろうが)使わないだけで、芸能界ではマリンのような男の娘キャラが女の子になるのはさほど珍しいことでは無い。
可能性があると言ったのは、僕はもうマリンが、男の子でいられる時間はそう長くないと見ているからだ。
これは男の娘には珍しくない事例で、女の子として振る舞ってるうちに、いつしか肉体的にも女の子になるのだ。
人は自分が思っている自分になる。
これは宇宙の法則だから仕方無い。
この前合同稽古の後、最近ますます女の子らしく可憐に、可愛く綺麗になってきたマリンが気になって銭湯に誘ってみた。
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その結果彼、いいや彼女は、自然TS症候群が進行中だと理解出来た。それもかなりの最終段階だ。
16歳の少年にしては骨格が細すぎる、肩幅が細すぎる、ウエストが細すぎる、手足が指が細すぎる、声が細すぎる、喉仏が見当たらない、ウエストに比較して骨盤の幅が広い
、既に袋は見当たらず、僕の小指の第二間接から先程度の物が申し訳程度に付いているだけ。
胸には少年にはあり得ない微かな膨らみが見られ、それに呼応するようなまろやかな曲線を描く臀部。
メイクを落としてなお白い極め細やかな肌にボツリと浮かぶ朱色の唇。
その場にいる全員からの視線を一身に浴びせられて気不味いのか、 伏せられ睫毛は濃くて長い。
何故か裸の星野アイを目の前で見ているような興奮を、そして、奇妙な共感を僕は覚えた。
周りから聞こえる生唾を飲み込む音を聴いて、僕は理解した、これ以上彼女をここにいさせてはいけない。
「出よう」
僕が彼女の肩に大きめのタオルを掛けて言うと、彼女は大人しく従った。
「悪かった、二度と銭湯には誘わない」
気まずさを隠して言うと彼女は鈴の音のような声で答えた。
「ならあなたも、こういうことは止めた方がいい、いつか後悔する」
そして慣れた手つきでショーツに足を通し、ブラを付け、白いワンピースを着てバックを肩に掛けて。
「お先にヒカル、直ぐ外で待ってる」
そう言って湯にぬれた艶やかな金色の髪を揺らし男湯を出ていく彼女を見て。
「もう、長くはないな」
僕は呟いていた。
背後ではまだ生唾を飲み込む音が聴こえていた。
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僕が気が付く程度のマリンの変化を、あの黒川あかねが見逃す筈が無い。
持って1年、早ければ3ヶ月。
マリンちゃんの完成に必要な時間は、それくらいだと黒川あかねは読んでいるだろう。実際に彼女の裸を銭湯で見た僕からすると、その読みは正しい。
彼女のちんちんはもう虫の息だ。もう長くない。
これは勘だが、恐らく黒川あかねがファミリー作りに動くのはマリンちゃん完成の後だ。
そして現状非力な中学生に過ぎない自分では、星野アイには手も足も出ない。
黒川あかねとB小町のガードが堅すぎる。
実際マリンちゃんにも腕力で勝てない僕は男である意味があるのか?
そもそも星野アイを彼女に出来ないことが確定している現状で、男であることになんのメリットがあるのだろう?
他の女の子で我慢しろ?出来るわけがない!
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クソ!こうなったら僕もヒカルちゃんになって星野アイファミリー入りをワンちゃん狙うか?
やるなら装置に頼らない自然TSだな、これは出来る自信がある。
15歳にもなって声変わりもせず高いガールズソプラノの声しか出せず、街を歩けば男にナンパされ、学校に行けば男子に告白され、女子には白い目で見られ、敵認定される。いくら鍛えても筋肉の付かないこの身体はTSする素質充分だ。
でも黒川あかねが怖いんだよなぁ、アイツには何をやっても勝てる気がしない。
知力、体力、才能、技術、可愛さ、美しさ、カリスマ性。完全に僕の上位互換なんだよな。
あんな黒川だけど、星野アイを知る前は本当に演劇が好きなだけの純朴な少女だった。
今でも星野アイに関係無ければ彼女の素の性格は変わってない。
星野アイと一緒にいる時に見せる笑顔やプクーッは演技ではない、元の純朴な彼女のままだ。
しかし星野アイの隣にいる為なら、星野アイを守る為なら、彼女は一瞬でヤンデレストーカーの顔を現し、権謀術策に長けた策略家になる。
あの純朴な少女をここまで変えたのは星野アイだ。しかも、本人には何の悪気も自覚も無いのだから質が悪い。
星野アイを初めて知った頃に、彼女を殺してやろうと思った僕は、星野アイの危険性を感じ取っていたのかも知れない。
完全に星野アイの恋の奴隷となった今となっては、星野アイを守る為ならこの命なんて安いものだとしか思えないけど。
何の駆け引きもなく人を完全に変えてしまう、考えて見れば怖い存在だけど。
それが星野アイならそれを受け入れるしか無い。としか思えない。
どうして僕は星野アイを殺したいなんて思ったんだろう?
桑田佳祐が好きです