アイドルとしても輝く未来像を想像したファンも沢山いるでしょうね
☆☆☆
「それにしても私生活で恋人を演じてる私達が、舞台上でも恋人を演じるって面白いね」
ソーダで甘いキスの味を飲みほして言った私に、あかねは少しだけ不満そうに答えた。
「でも鞘姫のヒロインの座は安泰じゃないの、最近は刀鬼の相棒キャラの『つるぎ』に出番を取られてる感じで、カプの人気もつるぎ×刀鬼が上みたい、正直に言っちゃうと、鞘姫は負けヒロインって感じかな?『名探偵コナン』で言うと、鞘姫が毛利蘭でつるぎが灰原哀くらいの感じ?」
それは辛い。
「何その情報聞くと私ですらつるぎを応援したくなって、ツノ引っ込んでろ、って思っちゃうんだけど」
「まぁ作者が狙って無いヒロインが人気でるのって漫画あるあるだよね、キャラ自体は陽のつるぎに対して陰の鞘姫で、どちらかと言うと、鞘姫が灰原よりなんだけどね」プクーッ
あかねのプクーッをスマホで写真に納めながら私は会話を続ける。
何かもっともらしい演劇論を語って、あかねとのビジネスデートに花を添えよう。
どうも私はあかねに対しては役者として黒川あかねに勝ちたい、という感情より、一人のファンとして黒川あかねを見ていたい、という感情が強い。舞台ではあかねに見とれてしまわないように気をつけよう。
「特に舞台だと静の演技より動の演技の方が観客の印象に残りやすいから、あかねも大変かもね、ところで動のつるぎ役の人は決まったの?」
「あっちもそろそろ決まるはず、誰になるんだろうね?」
「私よ」
あかねの声に応えたのは有馬先輩だった。サングラスとマスクは外して、今日は黒のワンピースに黒の帽子、ちょっと怒ってる?
「あっ、かな先輩こんにちわーー、わーー、かな先輩が私の相棒役のつるぎを演じてくれるんですか?スッゴい楽しみです!私に色々演技のこと教えてくださいね!」
「今回は舞台なんだから私より」
有馬先輩の手をとり、全力で機嫌を取る私に、しかし有馬先輩はそっけ無い。すっとあかねの方へと視線を向ける。
「そこにいる劇団ララライの若きエース様に、色々教えてもらった方が賢明な判断ね」
一見謙虚とも取れる発言と裏腹に、その視線はどこまでも冷たく、まるで敵を見ているかのようだ。事実上宿命のライバルなんだから、こんなものなのかな?
「わーー、B小町の有馬かなさんだ!私大ファンなんですサインもらって良いですか?」
有馬先輩の手を取っていた私の手を外して、有馬先輩にファンとして振る舞うあかね、何となく話し方がわざとらしく感じてしまうのは気のせいだろうか?
だって今まで何度も顔会わせてるんだよ、この二人?
何このお互いを牽制しあってる感じ?
あっ、分かった!これっていわゆる女の戦いってやつだ!
だったら鈍感主人公やってる場合じゃない。目指すはソフトランディング!ソフトランディング!
有馬先輩は無表情で、あかねが取り出した色紙に『有馬かな』とごく普通の字体で書くと、無表情であかねに渡した。
うん!これは地獄だね!でもあかねとビジネスカップルをやる以上は、これは避けては通れない道。嫉妬や羨望どんと恋!
私は無敵のアイドル星野アイ!可愛すぎて同じグループのアイドルからも恋されちゃう究極のアイドルなんだから!
頑張れ私!頑張れ星野アイ!頑張れアイドル!
「今日はかな先輩も、たまたまこっち方面にお出かけだったんですね?でも思わぬところで先輩に会えてうれしいなぁ、今日はあかねと仕事で、デートしてたんですよ、私とあかねってほら、表向き付き合ってるじゃないですか?そのアリバイ作りしてたんですよ」
少し媚を含んだ上目使いで答える、可愛いでしょ?怒る気も失せちゃうでしょ?
「何ばかなこと言ってるのよ、あんた自分が誰だか分かってるの?星野アイよ星野アイ?完全で究極のアイドル星野アイなのよ?それ理解してる?その意味分かってるの本当に?」
全然機嫌取れなかった。
「……まぁ何となく、ふぁ~~と、分かってるような気もします」
あんまり有馬先輩が厳しいので涙が流れて来た……星野アイって何なの?
「ちょっとかなちゃん、そんなキツイ言い方しなくても……私達は仕事で恋人を演じてるだけだよ?これも擬似恋愛を通じて、役者としてお互いを高める為に、必要だと、判断して、お互いに納得してやってることなの、つまり私とアイの関係は、極めてビジネスライクな、プロの役者同士の仕事上の関係なの、かなちゃんならそれくらい分かってるでしょ?」
愚図る子供に言い聞かせるように、平坦な声で淡々と言って聞かせるあかね。
「分かった上で言ってるのよ、まずプロならリアルタイムの投稿は止めなさい」
有馬先輩の口調が幾分柔らかくなってる。何故かそれが嬉しくて、また涙が大量に流れてしまう。
「こういう投稿から悪質なファンに追いかけられて、ストーカー被害に会うこともある。外での写真は全て予約投稿が基本、アイ、後でメイク治しときなさいよ?素っぴんのあなたは絶対に人に見せちゃダメよ」
言いながら自分のハンカチでさっさと私の涙を拭くと、それを私に手渡す先輩、私は「はい」と小さく返事をして素直に受け取った。
「もう既に、周囲は万を超えるファンに囲まれてるのよ、黒川あかね、そのファンの99.99%が良い人達でも、0.001%のおかしなファンがいるだけで、星野アイが死ぬには充分なのよ、黒川あかね」
「アイの警備態勢は万全でしょ?今日はSPが20人以上付いてて、ドローンが100台以上飛んでてアイを守ってる、オマケに朝からB小町のメンバーも総出でアイを警護してるじゃない、もちろん私も今日のビジネスデートの為に、事前にSPの人達と、デートの径路から、安全対策まで入念に打ち合わせをして、今日のデートに臨んでるんですけど?もちろん特殊軽量防護ウエアは装備してるわ」
何それ全然知らなかった、あかねはそんな素振り全く見せなかったから、デートって物凄く大変なんだ。
私も今後あかねの負担に成らないように考えないと。
「それでもよ、星野アイが星野アイだとモロに分かる姿で街をつれ回すなんてもってのほかよ、今回みたいなのはこれっきりにしなさい!これは命令よ黒川あかね!」
これは私のせいだ、私が自分のこと何も分かってないから……ごめんなさいあかね……
「もちろん次回からは変装は必須ね、今回はどうしてもアイに普通の女の子の気分を味わって欲しかった、私の我が儘よ、悪かったわね、でも壱護社長の許可は取ってあるのよ?」
「次回からは、私の許可も取って欲しいものね」
あかねに対しては有馬先輩は厳しい態度を崩さない、本気で怒ってる。
「前向きに検討させてもらうわ、これで良いかしら?」
あかね、こんなに不敵な顔もするんだ?ちょっとかっこ良くて胸がきゅんとした。
「アイ、次からはあかねとのお仕事デートは必ず、私の許可を取ってやること?良い?約束出来る?」
あかねに対するより、かなり柔らかい口調で私に話しかける有馬先輩、私の返事は決まっている。
「………はい……」
二人に申し訳無くて、私にはそれ以外の選択肢は無かった。
こんな時に泣くしかできない自分が情けなかった………
私のどこが無敵のアイドルなんだろう?
こんなに弱くて情けないのに………
結局この日のデートは先輩の手配したタクシーで事務所に送られて終了、私は自分の認識の甘さを思い知らされて、一晩中泣いていた。
そして原作へ