ピッタン、ピッタン、ピッタン、ピッタン
あの後、何も言わずに俺達を焼肉屋に連れて行き、たらふく焼肉を食わせた後で、壱護社長はおもむろに言った。
《ビッタンッ、ビッタンッ、ビッタンッ、ビッタンッ》
約2ヶ月後に、俺達伝説のアイドルグループ、B小町のファーストステージが決定したと。
ピッタン、ピッタン、ピッタン、ピッタン。
曲は既に3曲出来ていて、衣装も発注済み。俺達のやることは、この2ヶ月の間に、歌、振り付け、簡単なステージトークをインストールすることくらいだと。
一日約3時間、週五で15時間、かける8で約120時間、普通に考えたら楽勝、アイドルの歌やダンスは、本職の歌手やダンサーのそれと比べたら、かなりのイージーモードだ。
ましてやプロの役者、例えば黒川あかねや有馬かなの演技と………ぐふふふ、これは少しはしたない発言だったな、忘れてくれ。
《ビッダンッ、ビッダンッ、ビッダンッ、ビッダン》
だけどな、簡単なレベルの歌やダンスは実は簡単では無い。分かるかな有馬かな。
ピッタン、ピッタン、ピッタン、ピッタン。
例えば陸上競技の100メートル走は実に簡単な競技だ。
ただ100メートルを速く走るだけ、誰でも今すぐルールを覚えて、今すぐ世界記録にチャレンジできる。
では誰でも今すぐ世界記録を作れるのか?答えは言うまでもなくNOだ。
簡単な競技ほど簡単に実力の差が出る。
これは誰にでも簡単に分かる事実だ。
複雑な競技は複雑さゆえに紛れを作りやすい。
簡単な競技は簡単であるがゆえにに紛れを作りにくい。
例えば野球は複雑なスポーツ故に日本人にも勝つ余地が生まれる。
陸上の100メートル走は簡単なスポーツ故に日本人に勝つ余地は生まれない。
残酷なようだがこれが事実だ。
シンプルなものほど素の実力(スポーツならフィジカル)がものを言うのだ。
《ビッダンッ、ビッダンッ、ビッダンッ、ビッダンッ》
アイドルの歌やダンスは素人でも頑張れば真似の出来るシンプルなものだ。
元々そういう風に作っているのだから当然だ。
つまりアイドルの歌やダンスで頂点を極めるということは、実質的にプロの歌手やダンサーに(細かいプロの技術を抜きにしたら)勝つということだ。
ピッタン、ピッタン、ピッタン、ピッタン。
「いい四股だなアイ」
「あっ、壱護社長、先般は焼肉ありがとうございました!」
俺が1ヶ月後のファーストステージに思いをはせて一心不乱に四股を踏んでいると、何時の間にか練習を見に来た社長が話しかけてきた。
《ビッダンッ、ビッダンッ、ビッダンッ、ビッダン》
「何、あれくらいでやる気を出してくれるなら安い投資だよアイ、それに他のみんなも」
ニィ、と社長が楽しそうに笑う。
《ビッダンッ!ビッダンッ!ビッダンッ!ビッダンッ!》
「ずいぶんとやる気があるようで何よりだな」
そう、あの焼肉会から2週間後、俺は社長直々にB小町のセンターに任命された。
誰一人異論を口にするものはいなかった。
毎日同じスタジオで同じアイドルソングを歌い、同じアイドルダンスを踊れば、いやでも実力の差ははっきりと分かる。
アイドルの歌やダンスは本職の歌手やダンサーの歌やダンスに比べたら遥かに簡単だ。
だから一切誤魔化しが効かない。
残酷なくらいに素の実力差が出る。
ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン。
俺が目指すのはアイドル王。当然だろ?こちとら天下の星野アイだぜ?
だから俺は、次のファーストステージで事実上、全ての歌手やダンサーを倒す!
俺と同じ歌を歌えば、俺と同じダンスを踊れば、この地球上で誰も俺に並び立つ者がいないところに最初から立つ!
そして、アイドル界に敵無しとなった俺は体力的な限界(嘘)を理由にアイドルを引退。
役者に転向する。
そして、ぐふふふふ、黒川あかねや有馬かなという神に選ばれた真の天才達との楽しい遊びの時間が始まる。
この夢が続く限り、そこが俺の最終到達点。
それは最初から一瞬もぶれて無い。
俺は役者だ!
待ってろよ黒川あかね、有馬かな、楽しく遊ぼうぜ、そして、お前らの才能で俺を絶望させてくれ!
お前達と会える日を首を長くしてまってるぜ!
とりあえずファーストステージまで残り30日。
こっからが勝負だな。
TSヒロインを可愛く書ける人は実質TSヒロインだと思います