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「雷田さん、今から約1時間後に星野アイがララライに来るそうです」
「何!総員退避!」
「退避してどうする雷田君?君はこの公演の総合責任者、そして星野アイは我がララライのエース!黒川あかねの恋人にして恋人役の出演者!君が星野アイを避けていては『東京ブレイド』の成功が覚束ないことくらい分かるだろう?」
「分かってますよ、今のは一種の脊髄反射です。私もこの道のベテラン、おい!早くゴールデン・レトリーバー!シベリアンハスキー!ラブラドール・レトリバー!コーギーを連れて来てくれ、急いで!」
生の星野アイが来る、可愛い王者の襲来に、劇団ララライは戦々恐々としていた。
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「雷田君、この4頭の犬が今ここに存在する理由は何だね?」
ララライの代表、金田一敏朗は率直な疑問を口にした。
「可愛いからに決まってるじゃないですか!」
即答であった。
「いや、可愛いのは分かるんだが、今から我々は舞台の顔合わせをやるんであって、犬を見て和みたいわけでは……」
いぶかしむ金田一の言い分はもっともだ。
「金田一さんの言うことは正しいです。今から我々は舞台をやるのであって犬の散歩をしたいわけではありませやん」
コーギーをモフリながら雷田澄彰(らいだ すみあき)は真剣な表情で話す。とても冗談を言っているようには見えない。
「なら、犬は然るべき場所に連れて行ってはどうだね?」
重ねて言うが金田一敏朗の言い分はもっともだ、今ここにゴールデン・レトリーバーやシベリアンハスキー、ラブラドール・レトリバーやコーギーがいる必要性は何処にも見当たらない。普通ならばだ。
「だからこの子達は今ここにいるんです。おいみんな!もっとゴールデン・レトリーバーを見ろ!シベリアンハスキーをラブラドール・レトリバーをコーギーを見ろ!可愛いに対する精神的耐久性を高めるんだ!」
雷田澄彰は真剣であった。今から星野アイが来るのである。少しでも出演者達の可愛い耐久力を高めておかないと、全員星野アイの可愛さに骨抜きにされて、舞台が瓦解しかね無い。
今は少しでもキャストやスタッフ達を、可愛いに慣れさせなければならない。
この舞台の成否はまず出演者達が星野アイの可愛さに負けない意志の強さを持つことにかかっている。
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「アイ、大切なことはアイドル独特の作った可愛さよ、言わば表面的な可愛さ、つまりビジネスとしての可愛さが大事ってこと」
「ビジネス可愛い?」
ララライに向かいながらも有馬かなは、少しでもアイの可愛い度を下げる為に真剣にアドバイスを送る。
アイ自身が、普段からアイドル星野アイを意識的に演じることにより、自分の可愛さを何処か人工的なわざとらしいものにして、可愛い度を調整する努力を怠ってないのは充分に承知の上でだ。
『星野アイ可愛い問題』において、重要な議題のひとつに、如何にして星野アイの真の可愛さを隠し、人工的な嘘っぽい可愛さに変換するか?という問題があり、これは黒川あかねやB小町のメンバーを悩ませる大きなテーマであった。
もっともB小町のメンバーからすると黒川あかね自体、気を抜くと星野アイに匹敵する無間可愛いの領域に達する危険な存在ではあるのだが。
ただ天才的頭脳と、誰もが認める天才役者としての演技力を持つ黒川あかねは、星野アイに比べて遥かに隙の無い存在であることは事実であった。
更に星野アイの無間可愛いに対して黒川あかねの無間可愛いをぶつけることにより、可愛いを相対的に中和させることができる。という特技を持つ世界唯一無二の人間であり、これが黒川あかねに対してB小町のメンバーがアイの姉妹の座を譲っている理由でもあった。
そして星野アイの可愛い度を下げる為に星野アイ、黒川あかね、B小町のメンバーが出したひとつの答えが『嘘は最高の愛』であった。
その具体的な方法として、黒川あかねが提案したことは、星野アイに関するキャラ設定を作り、星野アイにそのキャラ設定を日常から真剣に演じてもらうことにより、星野アイの可愛い度を下げるというものである。
あかねの考えた星野アイのキャラ設定はこうだ。
星野アイは愛を知らない存在であり、愛を知りたくてアイドルをやっている。
嘘でもファンに対して『愛してる』と言ってれば、そのうち、本当の愛が理解できるのではないか?というのが星野アイがアイドルをやっている理由なのだ。
この黒川あかねの考えた星野アイのキャラ設定を、メールで送られて読んだ時のアイの反応は見事なものであった。
メールを何度も見ながら繰り言のように『凄い…凄い…あかね天才……凄い…凄い…』と、呆然とした顔で言い続けるアイの顔を、メンバー達は何枚もスマホに納め、『星野アイと黒川あかねのビジネスデートセカンド、大人への階段プロジェクト』で可愛い星野アイを見せてくれたお礼に黒川あかねに送り、黒川あかねをとても喜ばせたものである。
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星野アイは黒川あかねの考えた星野アイのキャラ設定を喜んで受入れて、あかねへの感謝の気持ちを込めて真剣に演じていた。
「かな、私には愛が分からない、私は全て嘘で出来ているの。私は頭の先から足の爪先まで全部嘘で出来ているの……」
まるで己の罪を告白するかのように、何処か自嘲的な笑みを浮かべて言う星野アイ、その横顔は今にも空気に溶けて消えてしまいそうなほどに儚い。
「天下の星野アイが、全て嘘で出来たニセ物だと知ったら、ファンの人達はさぞかし失望するでしょうね」
その告白に答える有馬かなは、冷たくもなく、庇うでもなく、ただ淡々と事実を告げる。
「いつか、私の嘘がばれて、全てのファンを失うとしても、私はその日まで命を削ってでも嘘をつき続けるよ?」
何処か諦めたように溢す星野アイ。
「その結果待つのが、破滅だとしても?嘘つきの最後は決まって惨めで悲惨なものよ」
破滅への道を歩むアイに対して、本当にそれでいいのか?と問いかけるかな。
「だって、私には嘘しかないもの、嘘だけが私の唯一才能、嘘だけが私のたったひとつの味方、嘘だけが私の帰る場所だから……」
人生で初めて本当のことを言うかのように、微かに晴れやかな、そして悲しみと諦めに慣れすぎた少女の顔はどこまでも美しく、どこまでも虚ろで痛々しい。
「まるで死ぬことだけが唯一の救いみたいなことを言うのね」
たんに思ったことが有馬かなの口をついていた。
「だから私は『東京ブレイド』に賭けてるの、全部が嘘で出来た、お芝居の中に、もし嘘じゃ無い何かを見つけることが出来たなら、私は……私が生きていて良い言い訳を見つけられるかも知れないから……」
フッ、と笑みを漏らして有馬かなが答える。
「もし見つけることが出来なくても心配しなくて良いわ刀鬼」
「……つるぎ……?」
突然の役名呼びに戸惑うアイ。
「その時は私が……」
まるで口付けするようにアイに顔を近づける有馬かなを、不思議そうに見詰めるアイ。
「骨は拾ってあげるから」
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アイは初めての本格的な舞台、有馬かなは久しぶりのまともな演劇の仕事。
テンション上げ上げの二人は、ノリノリで黒川あかねの考えた星野アイのキャラに基づいた、中二感てんこ盛りの即興劇を楽しみながら、ララライに向かうのであった。
アクアのプクーッを像したんだけど、これはもう犯罪レベルの可愛さですね
さすが主人公!
問題はアクアって性格的に絶対にプクら無いことですね
でも最近の不貞腐れたキャラは一周回って逆に可愛いまであります
あかねに癒しを期待しましょう
有馬かなは……恋愛脳過ぎてアクアを客観的に見れないから、アクアを理解して癒すのは厳いかな
アクアの嘘にころっと騙される有馬かな
アクアが自分を騙してることさえあっさり見抜く黒川あかね
この辺りでしょうね、黒川あかねと有馬かなの差は
有馬かなは演技上手いんだけど
それはあくまで子役としての演技の上手さで、いわゆる『上手な演技』なんだと思います
役に対する理解度の差は、アクアに対する理解度の差として、ちゃんと描かれてますね
これで東京ブレイドの後の黒川あかねと有馬かなの役者としての、実績の違いの謎が解けました