ある程度星野アイ   作:パフリン

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これがガラホによる最後の投稿になります


若き獅子達

 

 

☆☆☆

 

 「芸歴の長い有馬ちゃんや、ララライの面々が演技出来るのは当たり前として」 

 

 劇団ララライにて、舞台『東京ブレイド』の読み合わせから入った稽古は、パートごとの演技入れ、合せの段階に入っていた。

 この段階で個々の役者は、既に役の大まかなアウトラインを描き出し始めている。所謂役作りだ。

 

 「メルト君も『今日甘』の時から不器用で荒削りながら、気迫のこもった、本気で演技に取り組んでると一目で分かる演技をしてたけど、あれから約9ヶ月、もうララライの劇団員と比べても、遜色のない役者に育っているなんて、若さって怖いね」

 

 「鏑木がメルト君をブレイドのキャストに推してきた時は、ちょっとひいき目が強くない?と思ったものだけど、彼はサムライだね、まだたてがみも生え揃っていない臆病な若き獅子だけど、彼はもう決して役者として立ち止まることは無いだろうね、あの目を見ていれば分かる」

 

 「それですよ、彼顔合わせの時は緊張してガチガチで、大丈夫なの?この面子の中でちゃんとやって行けるの?って感じだったんだけど、あれからまた一皮剥けた感じなんだよね、いったい全体何があったんだろう?」

 

 もはやメルトの中に、実力者集団ララライを前に気後れなど微塵も無かった。あの一見完璧で完全に見える無敵のアイドル星野アイが、実は施設育ちで両親の顔さえ覚えていない、誰かを愛した記憶も誰かに愛された記憶もない、孤独な少女だったという、余りにも重い事実。

 

 『だって、私には嘘しかないもの、嘘だけが私の唯一才能、嘘だけが私のたったひとつの味方、嘘だけが私の帰る場所だから……』

 

 嘘だ!嘘だ!嘘だ!

 だって俺の胸はこんなに痛い!君の過去がどうであれ、現に星の数ほどの人達が、君の笑顔に癒され、君の踊りに魅せられ、君の歌に勇気付けられている!

 それさえ嘘だなんて断じて無い!

 

 『だから私は『東京ブレイド』に賭けてるの、全部が嘘で出来た、お芝居の中に、もし嘘じゃ無い何かを見つけることが出来たなら、私は……私が生きていて良い言い訳を見つけられるかも知れないから……』

 

 だったら見せてやる!俺が本物を見せてやる!

例え全てが嘘で出来た芝居だとしても、そこで観客が感じる感動だけは本物なんだって、俺の演技で教えてやる!

 

 

 「彼は、この『東京ブレイド』の舞台を通じて、また役者として大きく成長するだろうね」

 

 「間違いなくそうなりますね」

 

 

 ピッタン、ピッタン、ピッタン、ピッタン

 

 

 

☆☆☆

 

 「有馬ちゃんとあかねちゃんの同世代新旧、若き天才対決も熱いよねぇ」

 

 ピッタン、ピッタン、ピッタン、ピッタン

 

 「舞台役者のあかねちゃん、映像役者の有馬ちゃん、今回は舞台だけに、あかねちゃんが慣れてる分有利な感じかな?有馬ちゃんにも映像役者の意地を見せて欲しいなぁ、実はけっこうファンなんだ」

 

 ピッタン、ピッタン、ピッタン、ピッタン

 

 「分からんよ、うちには姫川が居るからな」

 

 ピッタン、ピッタン、ピッタン、ピッタン

 

 「姫川ちゃんは別格だからねぇ、彼に勝てる役者なんて、日本はおろか、世界中探してもいないだろうね」

 

ピッタン、ピッタン、ピッタン、ピッタン

 

 「だろうね、ではなく事実だがね。実際ハリウッド関係者も当のハリウッドスター達も、姫川大輝に勝てる役者なんていないことは認めている、これは他の国々の演劇界でも同じ認識だよ」

 

 ピッタン、ピッタン、ピッタン、ピッタン

 

 「姫川の前に姫川無し、姫川の後に姫川無しってね。その姫川を相手に、随分楽しそうに演技してるね有馬ちゃん」

 

 

 「楽しいさ、成長するにつれて、彼女の圧倒的な光に太刀打ち出来る女優は、一人、また一人と消えていった。どこのプロダクションの女優も、有馬かなとの共演を嫌がった、有馬かなという太陽の前では、自分達は皆影になってしまう」

 

ピッタン、ピッタン、ピッタン、ピッタン

 

 「やがて全ての女優を抱える芸能プロダクションが結託して、有馬かなを映像演技の世界から締め出した。有馬かなが居る限り、自分達のプロダクションからスター女優が出ることは決して無いと理解したんだね、彼らも生活がかかっているから必死だよ」

 

 「でもファンのガス抜きに時々超端役で出てたよね?最近では今日甘に出たり、アイドルやったり、また今回の舞台を切っ掛けに、女優有馬かなの飛躍が見れたら、ボク個人としては嬉しいんだけどなぁ」

 

 「それをやると他の女優さん達が、一斉に仕事のボイコットをやるから難しいだろうね、まぁ頭のおかしな少女の役や、人の悪口を言う、性格の悪い少女の役と言った、女優有馬かなのイメージを下げるような役ならくるかも知れないけどね」

 「きっと彼女はそんな役でも、少しでも良いドラマを視聴者に見せようと、全力で演じるのでしょうね」

 

 「そして、どんな役を演じても彼女の演技は必ず光を放つ、1クールに10秒でも映れば主役の女優を食ってしまう。そして自分達のスター女優を、有馬かなに食われたプロダクションから、番組製作サイドには猛烈な抗議が来る。気の毒だけどね、彼女は既に映像役者としては終わっているよ、その並び立つ者の無い才能故にね」

 

 「いいっすねぇ、日本一の嫌われ者女優!、日本演劇界の噛ませ犬!天性の負けヒロイン!負ける為に生まれた女優!死ぬことが他の女優達への最大のサービス!ますますファンになっちゃうなぁ、ムギュッ!」

 

 「私の前では良いがね、この業界では有馬かなの名前を口にすることさえタブーなんだ。絶対に人前で有馬かなのファンです。なんて言うんじゃ無いよ?全ての女優さん達に総スカンを食うからね?女優さん達って、君が思ってるよりも遥かに怖い人種だからね?マジで」

 

 ピッタン、ピッタン、ピッタン、ピッタン

 

 

 

☆☆☆

 

 「その日本一嫌われ者の役者と、世界最強の役者が、見てくださいよ、ここでは汚い大人の世界のしがらみ(色と金の問題)から逃れて、まるで水を得た魚のように生き生きと、自身の才能を恐れることなく、惜しみ無く発揮してお芝居(遊び)に打ち込んでるこの光景!此処に全ての演劇関係者が夢に見る理想郷がありますよ!ああ、これを見られただけでも、僕はブレイドやって良かったって心から思えますよ!」

 

 

ピッタン、ピッタン、ピッタン、ピッタン

 

 

 「それでは困るんだけどね、何しろここには演技が上手いとか演技が下手とか、そういった演劇界の枠組みに納まり切れない大怪獣が2頭もいるんだ」

 

 「もちろん彼女達の存在は忘れていませんよ、少しだけ現実逃避してたのは否定しませんけど」

 

 ピッタン、ピッタン、ピッタン、ピッタン

 

 「特にさっきから稽古場の隅で無心に四股を踏んでるちっちゃい方、彼女の可愛い制御の方は、君と黒川君に任せて大丈夫なんだろうね?私は正直怖いんだが」

 

 「大丈夫です、彼女の可愛い制御の方は、私と黒川さんとその仲間達で、全力でやり遂げます!」

 

 

 

☆☆☆

 

ピッタン、ピッタン、ピッタン、ピッタン

 

 スタジオの隅で無心で四股を踏む星野アイを、黒川あかねは腕を組み、どこか冷たい軽蔑の目差しで、後方師匠面をして見下ろしていた。

 

 そんな二人をゴールデン・レトリーバー、シベリアンハスキー、ラブラドール・レトリバー、コーギーが見守るように取り囲んでいた。

 

 

 

 此処に全ての可愛い関係者が夢に見る理想郷があった。

 

 

 

 

 

 

 




スマホを使えるようになったらまた投稿します
ではいつの日かまた
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