「相撲が強くなる秘訣ですか、簡単ですよ。朝起きて、稽古をして、チャンコを食べて、寝る。夕方起きて、稽古をして、チャンコを食べて、寝る。それだけです。誰でもできるでしょ」
─相撲取りの情熱より抜粋─
確かに簡単だ、だから難しい。何故なら人はとても知性的な生き物だから、つまりとても飽きやすい生き物だから……
四股ふみ、鉄砲、すり足、股割り。
そういった単純な努力の繰り返しに対して知性はあらゆる反論を並び立てる。
そんなことをしても時間の無駄だ、そんな単純な努力の繰り返しで強くなれるなら誰も苦労はしない。もっと上手いやり方がある筈だ、それを探そう。
四股なんて何時でも踏めるじゃないか、だから今日だけは、何かもっと意義のあることの探求に時間を使おうじゃないか、今日だけは、今日だけは……
「他に相撲が強くなる秘訣ですか?あったら教えてください。私が一番知りたいです(笑)」
─相撲取りの情熱より抜粋─
実際のところ力士にとっては、稽古だけが稽古じゃない。寝ることも稽古であり、チャンコを食うことも稽古なんだろう。
つまり彼らは、一日24時間、朝から晩まで稽古をしていることになる。
ただ相撲に勝つ、それだけの為に。
☆☆☆
簡単じゃねぇか、俺も同じことをすればいい。
メシを食うことも寝ることも、学校で授業を受けることも、バス停でバスを待つことも稽古にしちまえば良い。
ただトップアイドルに成る。それだけの為に。
ピッタン、ピッタン、ピッタン、ピッタン。
「またアイが四股ふみしながら笑ってる」
「まぁ彼女は天才アイドルなんだからそっとしておきましょう、私達凡人アイドルは稽古あるのみよ」
「拙者!親方と申すは、お立ちアイのうちに!」
「じゃあ私走り込みしてくる」
「とか言って途中でサボってアイス食べるんでしょ」
「その分走るから大丈夫、アスリートは一日カロリー摂取4000がデフォ!」
「いや私達アイドルだし」
「アイドルは顔が可愛いだけのアスリートよ!だからアイス!絶体アイス!」
「6時の衣装合わせまでには戻るのよ」
「アイス!」
ファーストステージまで1週間と迫った。
今日からは、実際に衣装を着て、練習用の舞台に立ち、立ち位置等の確認、微調整等を行い、後は実際に歌って踊るだけだ。
緊張?不安?勿論ある。
アイドルだって人間なんですよ!
個人的には百人を感動させるのも、全人類を感動させるのもたいした違いは無いと思ってる。
そこは問題じゃ無い。
百人の箱だろうが、5万人の東京ドームだろうが、俺は愛するファン(恋人)の為に自分の全てやをさらけ出すだけだ。
でも、でも、今さらこんな弱音を吐くのもなんだが。今の俺は星野アイ、リアルの俺のような平凡な顔立ちの青年じゃないんだ。
恐る恐る鏡を見る、そこには嘘偽りの無い、在りのままの自分の姿が写し出されていた。
駄目だ、ヤバイ、これは怒られる!これじゃあ俺がメンバーに嫌われるのも当然だと素直に納得出来てしまう。
思わず他のメンバーに謝罪したくなってしまう。
ごめんなさい!ごめんなさい!
私が可愛い過ぎてごめんなさい!
どうか怒らないで、こんなに無様な程に可愛い私を許して!こんなにあられもない程に可愛い私を許して!怒らないで!ママー!助けてー!アイ怖いよ~~~!
そう、普段人は自分の姿を見ないから忘れがちになるのだが。
鏡に写る俺の姿は、もうどうでしょうもなく、救いようも無い程に、どんな言い訳も許されない程に可愛いかったのだ。
「すみません壱護社長、やっぱり私だけサングラス掛けてるタモさん系アイドルってことじゃ駄目ですか?歌もダンスも頑張りますよ?」
「いやそんなアイドルいないからね?ステージ上はサングラス禁止」
「でも、それだと私ファンの人達に顔見られるじゃないですか?」
「ファンの人達に顔を見られるね」
「それでファンの人達から可愛いと思われたらどうするんですか?」
「その時はね、ニッコリ笑って応援有り難うって言うんだよ」
「マタアホノコガナンカイッテル」
「ホットキナサイ」
正直俺は星野アイを舐めてた、いや、正確に言うと星野アイの可愛さを舐めてた。
大丈夫なのか?こんな言語に絶する可愛い子を人目にさらして、この子の、いや俺だよ俺。俺は無事で済むのか?
平穏無事に生きていけるのか?
……もし、ステージに立った時に、みんなが私のことしか見てなかったらどうしょう……
いつかB小町がテレビに出演したとき、みんなが私のことしか見てなかったらどうしょう……
私は、本当に役者になんて成れるのかな……こんなに可愛いのに…
ファーストステージまで1週間。
俺は星野アイ(俺)の可愛さに打ちのめされ恐怖に震えていた。
でも恥ずかしい