朝起きたらまず5分間の瞑想。ウォームアップにランニング2㎞、それからストレッチ、四股踏み鉄砲すり足、また割り。
腕立て腹筋背筋スクワット20回3セット。
ダンスのかわりに空手の型を行い、ヨガをやった後瞑想10分。
発声練習をして朝の自主練は終る。
いつも通りのルーティンワークをこなして、軽くシャワーを浴びたら朝食を食べて、そのままスタジオに向かう。
今日は私達のファーストステージ、完璧に健康なアイドル星野アイが晴れの舞台に立つ日だ。
☆☆☆
7時半にはスタジオに着いた。
ピッタン、ピッタン、ピッタン。
まず何度か四股を踏んで、体を温め緊張をほぐし精神を落ち着かせる。
意識を臍下丹田に落とし込む。臍下丹田というのは要は腹だ。
そのまま開脚して上体を床に着ける。
上体を起こして足の片方を前、片方を後ろにした状態にして上体を前に伸ばした脚にピッタリ着ける。
次に上体を起こし、今度は背中側を後ろに伸ばした脚にピッタリ着ける。身体の筋が伸びていく感じが気持ち良い。
「あーーっ!あ~~っ!あ────っ!」
ストレッチで身体を温めた後は発声練習で声を作ってゆく。いきなりマックスにはしない。6割から7割くらいの発声で調子を調えていく。
個人的にはボイストレーニングは週2回、1回2時間くらいで充分だと思う、やり過ぎても変な癖がつく。間隔が中2日か3日なら、大体8割の状態を維持できる。
このスタジオは私がマックスの声を出しても硝子や鏡が割れたりしない特別使用になっている。
ボイストレーニングが出きる場所があるというのは有り難い。そのことで壱護社長には心ら感謝している。
私はレッスンスタジオが好きだ。レッスンスタジオでレッスンするのが好きだ。
レッスンスタジオでストレッチしたり、発声練習したり、ボイストレーニングしたり、するのが好きだ。
ただの「あ」という声を出すことにすら感動を覚える。いったいどれだけの「あ」が有るのだろう、興味は尽きない。
マイム、エチュード、歌、ダンス、没入型演技、俯瞰型演技、ロールプレイング……
いくらやっても飽きることは無い。
レッスンは常に楽しい、レッスンは常に面白い、レッスンは常に新しい。
私は今まで一度も同じ歌を歌ったことが無い。
これからもそうだろう。
歌はいつだって新しい。
☆☆☆
ファーストステージは大成功に終わった、と思う。
最初は見馴れ無いアイドルに少し戸惑っていたオーディエンス達も、私が大きな声で「みんな愛してるよ~~~!」とシャウトしてからは、タガが外れたように乗って来てくれた。
握手会の時に調子に乗った私が好きなロックバンドの曲をアカペラで熱唱すると、会場は再び熱狂の渦に包まれ、後で社長にちょっと怒られたけど楽しかった。テヘペロ
ただひとつだけ、会場の片隅で一人、私と同じ歳くらいの金髪頭の少年が、私のことを静かに、じっと見ていることに気づいてからは、少しだけ胸の奥に、ポツンと小さな不安の影が産まれた。
いやいやあれ間違い無くカミキヒカルだろ?
ただひとつだけ、会場の片隅で一人、私と同じ歳くらいの金髪頭の少年が、私のことを静かに、じっと見ていることに気づいてからは、少しだけ胸の奥に、ポツンと小さな不安の影が産まれた。
とか言っとる場合か!
いやマジで怖かったわ、リアルホラーじゃんアレ。
あれは人間が人間に向けて良い目じゃないし、まして子供が子供に向けて良い目じゃネェよ。
なんかアイツの周囲だけ空気が異世界?それもホラー系の、テレビから髪の長い姉ちゃんが出て来て主人公最後死んじゃうやつみたいな。
そんなホラーな彼氏 がただずっと俺をみてるんだぜ?
ずーと、ずーと、静かに身じろぎもしないでただただずーと俺だけを見てるんだ………ただただ怖かったよ、ただただ怖かったよ……
なんていうのかな殺意とも違う、「あっ、良いの見つけた」みたいな?その見つけたはやつの中で手に入れたと同義であり、手に入れたは何でも自分の好きにして良いと同義であり、そこには俺の人権とか自由意思とか、なんなら生きる権利?そういうのが一切含まれて無いの。
それが俺を見つめる奴の顔だけでヒシヒシ伝わってくるのよ。
俺はアイツにとって人間では無い。
ただの愉悦の対象でしかない。
俺の夢とか情熱とか好きなこととか、それはアイツにとっては、アイツを楽しませるスパイスでしかない。
何で今、アイツが出て来るの?まだ出番は2~3年先のはずだろ?
確か原作では星野アイが鏑木というプロデューサーに劇団ララライを紹介されて、そこで奴とアイがネンゴロになって星野アイが妊娠してアクアとルビーを産むんだろ?
俺はララライは愚か、まだ鏑木とかいうプロデューサーにもあって無いんだぜ?
おかしいだろ!これ俺が星野アイとしてアイドル王になって将来役者に転身、黒川あかねや有馬かなとキャッキャッウフフする話じゃなかったの?
何で突然主人公が命狙われてるサスペンスサイコホラーになってんだよ!
大成功に終わった晴れの舞台のファーストステージの後。
俺の心には高揚感の欠片も無く。
有るのはただ、カミキヒカルに対する恐怖と混乱だけだった。
愛してるよ~~~!