サササササイタマァなサイヤ人親子のヒーロー   作:逆ヴィーガン

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私がS級ヒーローでございます

『S級12位グレイトオヤジ。たった今B市で暴れていた災害レベル「鬼」の怪人を倒したとの情報が入りました!』

 

 TVではリポーターが現地で歓喜の表情のままカメラに吠えている。相当な被害が出たのだろう。背後には土煙と崩壊した建物の姿も見え、戦闘の激しさが窺えた。

 

 土煙が晴れて奥から現れたのは一人の中年男性。先ほどの戦闘で多少は埃にまみれているが怪我の様子は一切ない。黒髪の渋い男性の顔がカメラで捉えられると、そのことに気づいた男性もカメラに向かって手を振る。僅かに口元を緩めた自信に満ち溢れた男の顔。

 

「お父さん……カッコいい」

 

 TVに釘付けになってるのは2mを越えた黒髪の大男。成人女性の胴回り程の腕や太腿は分厚い筋肉の塊そのものだ。全身くまなく宿した筋肉はボディビルダーのような見せかけの筋肉ではない。興奮で僅かに身体を動かすだけで空気が大きく揺らぎ、床のフローリングが軋む。

 

「ブロリー! そろそろ行くぞ! 今日はお前をヒーロー協会の上層部に紹介すると言っただろう?」

 

「……あっ、うん。今行きます、父さん」

 

 

 

 A市、ヒーロー協会本部。特殊な建材で建造されたそのビルは黒くそびえ立ち、怪人の攻撃でもびくともしない強固な建物だ。その一室でヒーロー協会の幹部数人とS級12位のヒーローであるグレイトオヤジ、本名パラガスは向かい合っていた。

 

「それで君が紹介したいと言っていたのは彼かね?」

 

「ああ。俺の息子だ。ほらブロリー挨拶しなさい」

 

 パラガスの後ろに縮こまるように隠れていた男はしかし、その身長は2mを越えていた。協会員は先ほどから全く隠れきれてないその巨体が気になってしかたなかった。

 

「ブロリー、です……」

 

 上半身裸でその筋肉の総量は同じS級のクロビカリに匹敵するようにも見える。しかし、いくら筋肉が常人のそれと比べてあるように見えてもそれは怪人を倒すことが仕事のヒーローとして適性があるとイコールではない。

 

 基本的に怪人の力は常人のそれを大きく上回っている。人間の中で力自慢だとしてもそれは怪人を相手にして通じるわけではないからだ。

 

 今回はS級ヒーローのグレイトオヤジが個人的に推薦してきたヒーロー候補だとしても『はい分かりました』とすぐに頷けるような話では無い。実の息子だろうが身内贔屓の可能性は大いにある。数だけが増えてヒーロー協会の全体的な戦力が落ちていると世間から揶揄されている現状なら余計に中途半端な実力者は必要ないのだ。

 

「既にブロリーの実力は悔しいことに俺を越えている。正直こいつの潜在能力はこの俺も計れんほどだ」

 

「まさかっ!? S級の貴方ほどでもか?」

 

「うむ」

 

 大袈裟に驚く同僚を横目に協会員の一人、ナメーコは冷静だった。グレイトオヤジの戦闘力はS級だけあって高い。空を飛び、身体能力は高く並の怪人など相手にならない。おまけに気功波というエネルギーを放出することで遠距離にも対応出来る貴重な人材だ。

 

 実力は流石にS級上位には及ばないだろうが、気難しいタツマキよりよっぽど動かしやすく協会からしてみれば頼れる男という位置付け。

 

 そんな彼が自分より戦闘力が高いと称する息子。些か信じられなかった。

 

 戦闘に関しては今確認するにしても限界がある。とりあえずはヒーローについて基本的な質問でもして様子を見ようと男は口を開いた。

 

「その……ブロリーくん。君はどうしてヒーローになりたいのかな?」

 

「俺、父さんが怪人を倒すところ幼い時から見てた。みんながそれを見て父さんに声を送って、感謝してる。カッコいい、思った。だから俺、ヒーローになりたい」

 

「ブ、ブロリー」

 

 喋るのが得意では無いブロリーが途中詰まりながらも自らの意思を吐露するのを見て、感極まったようにパラガスはブロリーの背中を軽く叩いた。幼い頃よりヒーローとして忙しく活動していたパラガスは碌にブロリーに構ってやれなかったというのに。

 

 不器用な父親が息子にしてやれた事と言えば、たまの休みに普通では虐待同然の厳しい訓練をつけてやることぐらいだった。サイヤ人にとって強さこそが絶対的な指標だ。かつてパラガスもそのように扱かれてきたのでそうすることが当然だとこの地球での暮らしに慣れるまでは考えていた。

 

 しかし流石にここの文化ではそれは家族の触れ合いでは無いと理解している。理解しつつも基本的な接し方の分からないパラガスは息子に急に接し方を変えれるほど器用な人間では無かった。

 

 だからこそこうしてブロリーが父パラガスを、否グレイトオヤジに憧れを抱いていると正面から伝えられて胸を揺さぶられない程薄情な存在でもない。

 

 

 親子の感動的なシーンだ。普通なら邪魔をするべきでは無い。しかし協会員は激務。この後の仕事も立て込んでいる以上、そこまで付き合っていられないのが実情。

 

「え、え〜ゴホン。グレイトオヤジさん直々の紹介という事もあり、協会としてはブロリーくんのヒーローデビューのランキングについて融通を利かせる事もやぶさかではありません」

 

「おおう! 頼むぞ! ブロリーもお礼を言いなさい」

 

「あ、ありがとございます」

 

 真っ直ぐな好青年のお礼に内心苦々しく協会員は応える。

 

「しかし、我々ヒーロー協会としても何の実績もない人間をおいそれと優遇する訳にもいかないのですよ。……有体に言えば彼の実力を知りたい」

 

「……ブロリーは災害レベル『虎』なら余裕で倒せるが、まぁその目で確かめて貰うのが一番早いか」

 

「そこまでの実力ですか……」

 

 災害レベル『虎』といえば不特定多数の生命の危機が予想されるレベルだ。敵の強さが不明で一般人への多数の被害が出たときに主にヒーロー協会が一時的に指定するのが虎。『虎』はA級ヒーロー一人でも対処出来ると公式では銘打っているが、その強さには大きな幅がありA級一人でも対処できるパターンとA級複数人でも対処できずS級に応援を呼ぶパターンもある。

 

 そんな事は十分承知のS級グレイトオヤジが『虎』なら余裕で勝てると発言する意味。彼の実力は既にS級クラスだと言うに等しい。

 

「ナメーコさん!! 今F市で災害レベル『鬼』の怪人が現れたとの情報が!?」

 

「鬼だと!?」

 

 災害レベル鬼は最早A級レベルでは対処できない。S級の動員が、それも複数人が望ましい。

 

「ちょうど良い」

 

「そうか! グレイトオヤジさんなら十分間に合う!」

 

「いや、私は行かない」

 

「はっ!? 何故ですか!?」

 

「決まっている。私が行けばブロリーでは無く私が倒したと言われてしまうだろう?」

 

「そんな事を言っている場合ですか!! 事は一刻を争う緊急事態なんですよ!!」

 

 ナメーコの大声に合わせて破壊音が周囲に轟く。驚いてそちらを見ると強固な協会本部のビルの壁が大きな横穴を空けていた。

 

「なッ!? 本部ビルに穴が!? ……敵襲か!?」

 

「いや、後で私が弁償代を払う。全くブロリーのやつめ……」

 

「ブロリー? ……そういえば彼の姿が」

 

 先ほどまでグレイトオヤジの後ろに立っていたあの巨躯の青年は、もうそこにはいなかった。ただ本部と同じ素材で出来ている筈の床は人の足の形に深くひび割れて抉られていた。

 

 

 

 

 F市。普段は賑やかな繁華街が昼間にも関わらず静けさに包まれていた。建物が丸ごと薙ぎ倒されている。まるで子供がジオラマの建物を悪戯心で薙ぎ払ったかのように、瓦礫の山と化した中心部に人型の異物はいた。

 

 5mを越す巨躯。真っ赤な体表に、顔の部分は大きな目玉が一つ。耳も鼻も無いように見える。口に当たる部分だけ裂けていてその中には真っ黒な闇があった。それだけでも異形。

 

 しかしより目立つ異形として……片腕がビルほどの大きさである事が挙げられる。軽くストレッチでもするようにその巨大な片腕を振り回すと、ジェット機の離陸音のような轟音で空気が掻き乱される。当然多量に粉塵が舞い──治まる頃にはそこに怪人にとっての異物がいつの間にか立っていた。

 

「お前……怪人、倒し、来た」

 

 男だ。怪人の大きさからしてみれば半分以下の大きさ。人間にしては大きく鍛えている方だが全く脅威になり得ない。この惨状を見ながら向かってきた所、恐らくヒーローなのだろう。

 

『オマオマオマエ。アソアソアソベベベベベベベベベベベベベベベ!!!』

 

 怪人の剛力で振り回された腕は竜巻を起こしてなお加速。S級クラスですら反応出来るか怪しい程の速度で叩きつけられた。この一撃でF市の繁華街を崩壊させ、数多くの犠牲者を生み出し怪人を災害レベル『鬼』にヒーロー協会が速攻指定したほどだ。

 

 アスファルトが捲り返り、振り下ろした直線上に破壊が伝播する。ブロリーはその一撃を受けて──

 

「なんだぁ?」

 

 粉塵が収まった時、一撃を受けて後方に押されつつも無傷な姿の男が立っていた。確かに己の一撃は当たった筈。しかし怪人の疑問は直ぐに好奇の感情に変わる。自らの遊び相手になり得る直ぐに壊れないオモチャの登場。

 

『イイッ!! タノシイナ!!』

 

 怪人はその巨体に似合わない速度で真っ直ぐブロリーに向かい、その巨椀を振り下ろす──かとブロリーでさえも身構えた。

 

 しかし実際に行われた怪人の攻撃は前蹴り。両者の距離では当たらない筈の攻撃が確かにブロリーに直撃した。

 

「……なんなんだ? 今のは?」 

 

『ビックリ? ビックリ? タノシイナァ!!』

 

 怪人のビル程の大きな巨腕は今既に無く通常(それでも大きいが)サイズに。その腕にあったはずの質量はそのまま片脚に移動し、巨大な脚でブロリーを蹴り飛ばしたのだ。

 

 どういう仕組みでそのような挙動が出来るか考える意味は無く、そも考えるだけの専門的な知識はブロリーにない。だからブロリーは──飛んだ。

 

 舞空術。一定以上の気の使い手なら誰しも身につけることが可能な基本的な技術。ましてや戦闘民族サイヤ人の中でも特に才能に恵まれているブロリーならその速度も凄まじい。

 

 瞬時に怪人との距離をゼロにし、お返しとばかりに顔面を殴りつける。『虎』レベルの怪人なら今までパラガスの監視の元今まで何体も倒してきた。それらはどれも図体ばかりデカくて一撃で何の苦労も無く討ち滅ぼされていた。

 

『──メギャアッッ!?』

 

 ブロリーの一発で口のように裂けた穴が広がり、顔面がひしゃげながらもまだ生きている怪人。ダメージは相当だがブロリーは自らの一撃を喰らってまだ生きている怪人に口の端が弛んだ。

 

 サイヤ人は戦闘民族。普段は温厚なブロリーだがその本質は闘いによって血を震わせ昂揚するバトルジャンキーの一種だ。そんな彼が初めて出会う一撃で死なない怪人。一撃で敵を倒すのは戦闘では無く、最早『処理』だ。目の前を飛ぶ煩わしい羽虫を叩いて落とすのが『戦闘』なわけがない。

 

「楽しい……」

 

 ブロリーを中心に気が放出されて周囲の瓦礫を吹き飛ばす。ボヤッとした優しげな表情に笑顔が浮かぶ。

 

 笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙を剥く行為が原点。人並外れた力を手に入れて本能に忠実な怪人にはその笑顔が決して友好的な笑みではない事を本能的に理解した。

 

『クルナッ! クルナッ! クルナッ!』

 

 片脚に集めた質量を今度は四肢に分散させて、ブロリーに向かって蹴りも交えたラッシュを繰り出す。分散させた分だけ一発一発の破壊力こそ落ちるが、連射速度は比べ物にならない。ブロリーという初めての強敵を前に怪人がただ単純に力をぶつけるのをやめて、“理”にそった動きを行い出した。

 

 脚で踏ん張り、その力を腰を捻らす事で加速させて上半身に伝えラッシュはますます加速してゆく。拳大の瓦礫が次の瞬間には複数に砕かれて砂塵の大きさまでに粉砕される超高速のラッシュ。コンクリートもアスファルトも鉄塊でさえもその例には漏れない。

 

──ただ一人、ブロリーを除いては

 

 目にも止まらないラッシュに微動だにせず、ブロリーはゆっくり片手を振りかぶった。全身の筋肉を、気を込めた一撃は振り下ろすまでに通過するモノ全てを消しとばしながら──振り抜いた。

 

──空が割れる

 

 

 その日、新たなA級ヒーローが一人誕生した。

 

 

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