サササササイタマァなサイヤ人親子のヒーロー 作:逆ヴィーガン
パラガスとブロリー親子が住むのはY市だ。危険な怪人が多数出現する事で近年ゴーストタウン化しているZ市の近くということもあり地価も安く、S級で稼いでいるパラガスにはそこそこの大きさの家と土地を買うには困らなかった。
そんな父パラガスの後押しもありA級ヒーローに任命されたブロリー。実力なら既にS級なのだが問題は、
「……難しい」
中学生程度の参考書を前に大量の汗をかきながら狼狽える姿。そこには災害レベル『鬼』の怪人を倒した偉丈夫の面影は無かった。
昨今のヒーロー過多ともいえるヒーロー協会でA級スタート出来たのは幸運。しかしブロリーは残念ながら学力の面に関して芳しくなかった。『鬼』の怪人を倒した直後に一応形式として学力テストを受けた結果、思わず協会員が自身の目を疑ったほどの点数を叩き出したのだ。
S級にもなれば要人の護衛任務を受けることも十分に考えられる。まともな計算問題すら出来ないブロリーをS級としてデビューさせることは協会の力をもってしても難しかった。本来ならばヒーローに求められるのは怪人を倒す戦闘力。
しかし根は純朴で真面目なブロリーは自分があまり頭が良くない事は理解しており、尊敬するヒーローであるパラガスに近づく為こうして勉学に励んでいた。
生粋のサイヤ人。それもベジータ王に生まれ持っての戦闘力を警戒させたほどのブロリーは平常時サイヤ人に似つかわしくないほどの穏やかな心の持ち主。──それでもやはり根っこの部分がサイヤ人なのも事実で、
「むぅぅぅぅぅ」
思案のあまり持っていたペンがへし折れる。身体的な疲労よりも精神的な疲労が大きくブロリーを追い詰めていた。暫くして、家中に響き渡るほどの腹の虫が鳴った。その主は一旦手を止めて冷蔵庫へ向かう。
普段ならパラガスに雇われた専用のコックが料理を作り置いてくれる筈だが、ブロリーの疲労に関して用意された量があまりにも少な過ぎた。直ぐに平らげてもお腹がくちくなるどころか、かえって空腹を意識させる結果となってしまった。
「ご飯……食べに行くかぁ」
まともな料理など作った事はない。精々猪を丸焼きにするぐらいしかブロリーには出来なかった。元々サイヤ人は料理に関して腹一杯食えればそれで十分という考えが強く、パラガスも戦略等の頭脳労働はかなり強いほうだが料理に関してはさっぱりだった。
地球の飯はそんな料理に関して興味なかった彼らですら、出来るならそちらで腹を膨らませたいと思う程には美味かった。
キュピッキュピッ
戦闘服のシューズが地面を踏み締める独特な音。足への負担を避け、低重力の星でも地面をしっかり捉えて戦闘面でも非常に有用な技術の粋が詰まっているのだが、
「見てお母さん。あのおっきなお兄ちゃん変な音ならしながら歩いてるよ。子供みた〜い」
「こらっ! 見ちゃダメよ……」
どうも地球では幼児用の靴からも似たような音がするせいで周囲からの視線は冷たい。しかしブロリーはそんな視線など特に気にしない。いつもより見られるのはA級ヒーローになったせいかと本人は軽い気持ちで考えているが、流石にA級に最下位で入ったばかりの新人の情報はよっぽどのヒーロー情報通でもない限り一般に認知されていない。
「……此処が良い」
ブロリーの目に着いたのは路地裏の小さな町中華料理屋だった。中から揚げ物の良い香りが外まで漂っている。店内はサラリーマンと一般客が数名と地元の人らしき集まりで賑わっている。
直ぐにやってきた店員のおばちゃんは2mを越すブロリーの姿に怯えもせずにこやかに席に案内してくれた。早速渡されたメニュー表を見ると写真付きの料理の数々がブロリーに視覚の暴力を訴えてくる。早々に選ぶことを諦めたブロリーは、
「ここに載ってるの全部5人前で、お願いしま……す」
と注文。直ぐに店内奥のキッチンが賑やかになった。暫く時間がかかると言われ、大人しく待ちながらも腹の虫は鳴き止まない。無心で店内で食事をする人が美味そうな料理を口にするのを羨ましそうに見ていると、その鋭い視線に堪え兼ねた客が次々と会計を済まして帰って行く。
食べかけで残された料理を涎を垂らしてブロリーは見ていた。不意に店の奥からゆっくりと立ち上がる人影が彼の視界に入った。空腹で料理にしか興味の無い今のブロリーをして注視させた人物。
それは光だった。中華料理屋の照明を一点に集中させたかのような光の反射。眩い頭に黄色と赤のヒーロー衣装を身に纏った男は死んだような目で会計に向かっていた。
(強い……)
内在するエネルギー。『気』が地球人とは比べ物にならないほど高い。ちょっとした遊び心でその力を解放すれば先日の災害レベル『鬼』など相手にもならないだろう。
その力は対人でも、対怪物でも無く、対“星”を想定しているような戦闘力。それだけの力をもちながら人の形をしているのが不思議に思うほどだ。
ブロリーをして今まで会った事もない強敵手の出現。或いはこの男は今の自分を超える戦闘力を有しているかもしれない。
自然界において自分の力を超えるかもしれない相手の出現。決して見過ごせない非常事態に──ブロリーは笑みを浮かべた。戦闘民族サイヤ人の血が沸々と騒ぐ。
「俺、ブロリー言う。……名前教えて欲しい」
会計を済ませた男が店から出て行くのを引き留めるように声をかけると男は、
「……いや、サイタマだけど。お前誰だよ?」
見るからに不審そうな人物に訝しんだ。
「ん? ブロリー、言った?」
そんな機微を理解出来ないブロリーは言葉をそのまま受け取り、逆に名乗った筈の自分の名前を繰り返す。変わらぬサイタマの怪訝な態度に自分は何かミスをしでかしたのかと考え込み、ようやく合点がいったと再びブロリーはサイタマと視線を合わせた。
「俺。A級ヒーローのブロリーと言う……ます。サイタマ……さんは有名なヒーローか?」
「ん? まぁ趣味でヒーローはやってるけど、有名では……無いな」
少し落ち込んだかのように頭を伏せるサイタマ。これほど強い男が有名では無いということにヒーローの奥深さが一瞬脳をよぎったがブロリーにとって肝心なのはそこではなかった。
「……俺、サイタマと闘いたい。サイタマほど強い男、見た事ない」
先程は出来た、さん付けすることすら忘れて真剣な表情でブロリーはサイタマと見つめ合う。ブロリーの瞳の奥で光が揺れているのがサイタマにも分かった。それは闘争心にしろ秘めた力にしろ、今でこそ蝋燭の灯のように揺れているがふとした切っ掛けで爆発的に燃え広がりそうな危うさを感じさせる。
サイタマのブロリーを見る目も変わった。
毎日の厳しい特訓の末にどんな怪人でも一撃で吹き飛ばしてしまえる力を身につけたサイタマ。ヒーローとして強くなれば市民を怪人から守れる筈と愚直な努力を続けて来たが、最近ではあまりの手応えの無さに感情すら薄れて来てしまった覚えがある。
そこに現る挑戦者。
2mを超える巨躯はヒーローにしろ怪人にしろ珍しくない。しかしブロリーの身を守る鎧であり、力そのものである筋肉は見せ掛けだけでは無いのが歴戦のサイタマには分かった。
寧ろ普通なら圧倒される筋肉を『小さい』とさえ感じた。ブロリーの内に秘めた力を考えれば見た目上の筋肉は控え目という表現の方が近い。否、詐欺レベルだ。
久しぶりにサイタマの心が動いた。怪人を処理する作業では無く、『闘い』へ意識が動く。そしてそれを何処かでセーブする自分の心の動きも。
期待する事で落胆するのを避けようとする無意識な防衛本能。どれだけ相手が強そうで期待を抱いてもその全てが一発で終わってきた経験上、期待したい反面期待に応えられなかった場合の事を優先に考えてしまうのも無理もない。
ブロリーはその間大人しく思考中のサイタマを待っていたが、
『グゥゥルゥゥゥゥゥギュルルルゥ』
野獣の唸り声のような腹の音が狭い店内に響いた。そこでサイタマもあまり深く考えすぎていたのが馬鹿らしくなったのか死んだ魚のような目のままフッと微笑んだ。店の奥から店員のおばちゃんの賑やかな笑い声が聞こえてくる。
「待たせちまったね兄ちゃん! とりあえず水餃子と焼き餃子5人前ね。焼き飯も今作ってるけど本当に全部食べられんのかい? ウチのは一人前多いからね」
目の前にざっと餃子が並べられる。自家製の皮を使っているせいか水餃子はプリッともちもち。焼き餃子はカリッと焼かれていた。食欲を誘うニンニクの香りがブロリーの腹の音を更に大きくさせる。直ぐ様頬張りたいところだがサイタマを待たせることに罪悪感があり、口の端から涎を垂れ流しながらどちらを優先させようか視線がいったり来たりを繰り返す。そのブロリーの純真な様子にサイタマは『憎めないなコイツ』と一人ごちる。
「闘ってもいいけど……とりあえず俺の事はいいから食えって」
本人から勧められると、待てを解除された忠犬のごとく勢いよく貪り始めた。大皿いっぱいに並べられた餃子をあっという間に食べ終えたブロリーに店員も急いで厨房に向かいコックを急かす。
既に昼食を済ませたサイタマでさえ少し空腹を覚えてしまう程、美味そうな食いっぷりだ。
「……そういやさっき言ってたA級ヒーローとかって何のことだ?」
そんなサイタマの疑問に運ばれてきたチャーハンの山を消したところで不思議そうにブロリーが首を傾げた。頬にはいくつもご飯粒を着けたまま、自慢げに語る。
「A級ヒーローは協会の決めた2番目に高い順位。俺のお父さんは一番上のS級ヒーロー……俺の憧れ」
「へぇ〜そんなのあるんだな。なんか順位高いと良い事あんの?」
「当然。S級は強いし、みんなの憧れ。怪人倒すとお金もたくさん貰える……サイタマはなんで入ってない?」
「……いや、知らなかったから」
心底不思議そうに麻婆豆腐を口へ運ぶブロリー。確かにヒーロー協会の歴史は浅い。ここ数年で、比較的最近ヒーロー協会とそこに所属するヒーローという形で昨今のヒーロー業界は完成された。しかし、TVでは日夜怪人の襲撃報告とそれを退治する為に出動するヒーロー達が報道されている。現代においてヒーロー業界を知らないというのはにわかに信じがたい。
「サイタマ……テレビ見ないのか。お前程の男なら絶対入った方がいい」
ブロリーはそこまでの思考に至らなかったがサイタマがヒーローとして活躍するのは好ましく思えた為に誘う。当然強さ=ヒーローの適正があるという訳では断じて無い。しかし生粋の戦闘民族であるブロリーにしてみれば無意識、否本能レベルで強さこそがヒーローとしての最低条件だと信じている。ついでに同じヒーローになってしまえばサイタマと闘いをするチャンスが増えるという思いも薄っすらあった。
「ん〜まぁ考えとくわ。じゃあな」
返答するのも忘れて目の前の料理に集中するブロリーを見てサイタマは帰路へつく。暫くしてそういえばブロリーとの闘いを受けたんだとふと思い出した。今更戻るのもなんだかなと少し悩んだ後結局家に帰る事にした。本当に強くサイタマと本気で闘いたいならまた会って闘う事になるのだろう。だからそれまでの楽しみということにしておこう。そういうことにしておいた。
同時刻、ようやく腹を満たしたブロリー。当初の注文分は軽く完食した後も追加で注文したのか山のように積み上げられた皿がその量を物語っている。ブロリーの体内時間ではごく僅かな時間、しかしサイタマとの出会いから実質1時間後にようやく目の前にサイタマが居ない事に気づいた。
込み上げていた闘争本能を吐き出す術を求めて、ブロリーは支払いを済ませ舞空術で空に飛び出す。膨大な気の持ち主であるブロリーはしかし気を探るのが人一倍苦手であった。自身の強すぎる気が索敵の際に邪魔になってしまうのである。サイタマは目の前だと誰よりも強く気を感じ取れるのだが、気を隠すのも得意なのだろうか? 一般人モードに気を抑えたサイタマを見つけ出す程の技術は元々苦手な事もありブロリーは結局サイタマを見つける事が出来なかった。
「うぅうぅぅぅぅうぅぅぅううぅぅうううううおおおおおお!!!!」
街の上空で哀しげに、そして雄々しく吠えるブロリー。怒りはそれ程まで無いが悔しいという気持ちが大きかった。
次は、次こそは必ずサイタマと闘う。秘めた思いを胸に──
「サササササイタマァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」