ノーブレスオブルージュ~その唇は吐息をしない~   作:雨居神宮

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193 寄り道は計画的に

 

 

 橋を渡り小島を3つ程超えると、少し大きな島に辿り着いた。

 直径は2キロくらいはあるだろうか。他の草しか生えていないような場所とは違い、森林のある、まさしく島という外見の土地だ。

 

「「止まれ」」

 

 その島に渡る為の橋の入り口で兵士に止められる。

 左右からガシャリと槍でバッテンを作られて通行止めにされたのだ。俺もイグニスも素直にシュトラオスから降りて指示に従う。

 

「旅の者か。この先には町がある。橋を渡るならば通行料を納めてくれ」

 

「分かりました。幾らですか?」

 

 値段は銅貨3枚だと言うので俺は二人分まとめて銅貨を手渡した。

 入門料の様なものかと思ったのだが、お兄さん二人は道を開けるだけで滞在証等を手渡す事はない。どうやら言葉通りに通行料らしい。

 

「ねえイグニス、この国は滞在日数とかは無いの?」

 

「この辺りは無いね。ちゃんとした都市はやはりあるよ」

 

 少し気になったので橋を渡りながらイグニスに聞いてみる。

 どうやら商人除けの様だ。橋という特性上、重い馬車で何度も往復されると痛むのだとか。ほほうと納得をする。確かに商人ならば少額とはいえ通る度にお金を払うのは嫌がるだろう。

 

「おおー!!」 

 

(おー?)

 

 橋を渡りきり道なりに歩いていると町の様子が見えて来た。シュバール国最初の町だ。住居の様子はさながらに遊牧民の移動式住居か。骨組みに魔獣の皮を巻いて建てられたテントがズラリと並んでいる。

 

「生活の知恵だね。水から逃げる様に逃げる様に暮らした結果だ」

 

「なるほど」

 

 文化という奴だろう。最初は彼らもランデレシア王国と似た様な石造りの生活をしていたのかもしれない。けれど、人は環境に生きて、適応をする。何度も住居を捨てるくらいならばと、彼らの出した最適解は移動可能な住居だったわけか。

 

 ならば草原ではなく島に拠点を作るのも納得が出来る。

 要するに水が天然の町壁代わりなのだろう。魔獣を警戒するならば通り道である橋だけを見張ればいいという訳だ。

 

「今日はこの町に泊まるんだよね。楽しみ!」

 

「ふふ。この国は広いし色んな文化があるから、そんな調子だと疲れてしまうよ」

 

「えー。でも俺外国初めてだし、やっぱり楽しみだよ」

 

(お前さんにとってはどこも外国だろうに)

 

「まぁそうなんだけどさー」

 

 ところで宿ってどうなるのかなと魔女に聞く。

 赤髪の少女はそこに気付いたかと、やや複雑な表情をして、空いていなければ野営だと言った。やはりそうなるのか。テント方式だと部屋を準備するのも大変そうだもんね。

 

 どうやら、宿屋、というかキャンプ場は町の片隅にあるようだった。

 5~6人くらいで泊まれそうな大きなテントが30張りほど建てられていて、宿泊客で埋まっている場合は空き地を使っていいそうな。

 

 幸いな事にまだ空きがあった。二人だとちょっと割高なのだけど、折角だしという事で泊まる事にする。

 

「うーわー!!」

 

「君、あまり語彙力高くないよな」

 

(そこが可愛いとこじゃろに)

 

 テントの中は想像以上に広い。野営で使う様な仮設では無く、仮にも住居なのだという事が良く分かる。

 

 入り口の布を潜ると、中はフカフカの絨毯が敷き詰められていた。凝った刺繍が施されているのだけどドーナツ型なのが面白い。真ん中が繰り抜かれている理由は簡単で、建物の中心には囲炉裏が設置されているのである。

 

 部屋の中には普通にベットや机が置かれていて、机は懐かしきかな、ちゃぶ台に似た足の短い形だった。

 

「そっか。ここ土足禁止か」

 

「よく気付いたね。そうだよ。天井の高さに余裕が無いから」

 

 それで囲炉裏なのか。椅子に座るよりも床に座った方が空間を活用出来るのである。

 どの道俺は家で靴を履くのはいまだに馴染まないので、そういう事ならばと靴を脱ぎ捨て絨毯に寝転んだ。

 

「うーん。私はどうも床に座るのは馴れないんだよなぁ」

 

「安宿で散々床に寝てたじゃん」

 

「だからだよ!」

 

 そういいながらも郷に入ってか、イグニスも靴を脱いでテントに上がる。残念ながら靴下を履いているので素足では無かった。あれ、何が残念なのだろう。

 

 足裏をジーっと眺めていると視線を感じたのか、何を見ているのだと怒られたので、俺は別に何もと言い訳をしながら、ゴロリと床の上で仰向けになり天井を眺めた。

 

 うん?と首を捻る。こんな住居初体験のはずなのに、天井を見て何故か強烈な既視感を覚えたのである。いや、気のせいか。天井は支柱から骨が伸びて天幕を支える、ごくありふれた構造だからもしれない。

 

(あれじゃの、まるで傘の下にでも居る気分じゃ)

 

「あ、あー!!」

 

 それだ。小学生の時、雨の日に見た傘の内側にそっくりだったのだ。

 という事はだ。この住居、要するに凄く大きいビーチパラソルではないか。そりゃ移動も簡単だと、俺はなんとも感心をした。

 

「さてと。寛ぐのは後にして晩御飯の支度しようか」

 

「あいあい」

 

 実は晩御飯は来る途中で前もって買ってきた。

 せっかくだし食べに出たい所だけど、このテントは鍵を掛けられないのだ。

 

 金目の物を手放さないのは当然として、荷物を持ってまで食べに行くのは面倒だ。だから最初から外食は諦めたわけである。

 

「わりと伝統的な草原の民の食事を選んだつもりだよ」

 

「ああ。ふーん」

 

「がっかりが顔に出すぎだ」

 

(カカカ! 致し方無し)

 

「そんな事はないんだけどね」

 

 イグニスの話では、今でこそ食事事情は豊かだが、伝統的な食べ物は質素な物が多いという。質素、というのはまた少し違うだろうか。貴重な食糧を無駄にしない。もったいないの精神を持っているのだと言う。

 

 今日の食事の内容は、水辺で採れたであろう魚や貝の煮込み料理。なんかドジョウ鍋的な物をメインに、羊の腸詰と血の腸詰。魚の骨を揚げた煎餅の様な料理とデザートにヨーグルトもどきだ。

 

 本当にこう、食べられる物は食べてやるという気概が伝わってくるメニューである。

 突然に住処を追いやられ、畑も無い草原に出たので食糧に苦労のだろう。

 

 ちなみだが、お店の人にドキドキで話かけたら言葉は普通に通じた。

 通じるのかよと思ったが、イグニスにフラウアでも言葉にも不便しなかっただろうと言われて、シュバール人ともうとっくに接触していた事実を思い出す。

 

 俺の覚えた言葉は大陸語というらしく、昔悪い魔王様が大陸を統一したせいで、この世界の標準語とも言える規模で使えるようだ。でかしたジグルベイン。

 

「確か南下して港町でフィーネちゃん達と合流だよね。あと何日くらい掛かるの?」

 

 羊の血が詰まっているという赤いソーセージを口にしながらイグニスに話題を振ってみる。ああ、うん。血だね。なんかゼリーっぽい食感だった。食べれなくはないかな。

 

 時間があったのでルコールの実を探しに行ったり、エーニイちゃんの冒険に付き合ったりしたけれども、今回の旅の目的は、エルツィオーネ領を出た時からずっと勇者一行との合流が目的だ。

 

 肝心のフィーネちゃんは確か水の精霊に会いに行くと聞いたか。いよいよ国外に出たので、またあのメンバーで冒険を出来るのが楽しみだ。

 

「シュトラオスの足なら7日くらいかな。真っ直ぐに直進出来れば良いんだけど、この国は少し進むにも遠回りしなければならないから」

 

 ああ、と頷く。入国してすぐに湖を橋で渡っているのだ。陸地を進もうと思うと水辺に阻まれるので、通れる道を探しながらになるのだろう。

 

 まあそれはこの国に限った事ではない。ランデレシアでも山を迂回したりしたし、最短の道を行くというのは中々に難しいのだ。

 

「7日か。あれ、約束の期間に間に合う? もうルギニアを出てから結構経っていると思うんだけど」

 

 これならば日にちをちゃんと数えておくべきだったか。相手に気にしないと言われようと、日本人の性か遅刻というものに非常に罪悪感がある。えっとと記憶を探り、経過した日数を数えようとした。けれども寄り道が多かった為に正確な数字は出て来なかった。

 

「ふふふ。実はそうなんだ。ルコールを取りに行ったのは完全に予定外だったからね」

 

「駄目じゃねえか!!」

 

 いや、思えばイグニスは最初から日数を気にしていた。なので近場のへグル山の探索で済ましたのだ。その後、エーニイちゃんと合流してペースが落ちたり余計な宿泊が増えたのも原因の一因だろう。つまり、後先考えず護衛を引き受けた俺も悪い。後悔は無いが反省だ。

 

「そう落ち込む事はないよ。私はシュトラオスの足ならばと言ったんだ」

 

「え、ボコを置いて行くのはやだよ」

 

「ああ。その上で君の喜びそうな案があるのさ。ちょっと危険だけどね」

 

 魔女が耳を貸しなさいとちょいちょいと手招きをするもので、お主も悪よのうと、ずずいと身を乗り出し話を促す。

 

 イグニスの計画は真っ直ぐに南下するのではなく、南下しつつ東を目指すというものだった。実に楽しそうなプランに、俺もイグニスもゲヘヘと笑いが零れる。

 

「なるほど。川下りか」

 

「川の民の元に行けば可能だ。君、こういうの好きだろう?」

 

「しゅきー!!」

 

 遅刻しないで済みそうだった。 

 

 

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