ノーブレスオブルージュ~その唇は吐息をしない~   作:雨居神宮

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208 ハイタッチ

 

 

 デデン!

 地下深くに眠るお宝を求め伝説の迷宮に挑むスティーリア探検隊。

 我々は数々の苦難を乗り越え、見事暗号を解き果たした。さあ財宝は近いのか! 追え、古代の謎!

 

(お前さんはまたしれっと嘘あらすじを)

 

「てへっ。でも気分的にはそんな感じなんだ」

 

 ようやくこの蟻の巣、いやドワーフの巣から脱出する目途が立ったのである。さあ、あとひと踏ん張りだと思えば気合も入るというものだ。

 

「あ、あったわよ。上の矢印と〇、行先は4の32だって」

 

 カノンさんが目印を見つけたらしく、おいでおいでと手を振った。俺とティアも早速に駆け付け数字を確認する。

 

 矢印は道の進む方向。〇は開通しているかどうか。数字は恐らく番地だろうと予想をしている。この周辺には3が頭になっている数字が多いので、ほぼ間違いは無いだろう。ここは3階であり、発見した道は4階に繋がっているのだと思う。

 

「いや、本当に法則が分かって良かった。ティアのおかげだね」

 

「そ、そんな事はないのだわ」

 

 雪女は手をパタパタと横に振り謙遜するが、そんな事あるのだ。

 何せカノンさんが目印を発見した道は既に一回確認している。その時は道が崩落しているので駄目だと諦めた通路であった。迷わず道を選べる。迷子の俺達にこれ以上ありがたい知らせは無いではないか。

 

「でも、この道は通れないのよね。他の道を探した方が良くないかしら」

 

「塞がっているなら抉じ開ければいいわ。フェヌア教の聖典にはこんな言葉があります。『蹴って開かない扉は無い』」

 

 そりゃああんた等が蹴ればどんな扉でも開くだろうよと思いながら、まずは蹴らない努力をしましょうねと通路を塞ぐ壁にそっと手で触れる。単純に岩が崩れたのだろうか。補強用と思われる木材を下敷きに大きな岩が道を塞いでいた。

 

 それこそ一枚岩程度ならば筋肉教の僧侶が蹴飛ばせば容易く道を譲るだろう。肝心なのは、この通路が完全に埋没していないかという点だ。なので俺はジルグべインにお願いし、先の様子を見て貰う事にする。

 

 霊体である魔王はこういう時に強い。俺から3メートルしか離れられないという縛りはあるが、塞ぐ岩を物ともせずにフヨフヨと身体を沈み込ませて行った。

 

(案外岩は薄いな。ここさえ通過出来れば道は普通に使えそうじゃ)

 

 ジグの持ち帰る朗報に俺はパアと表情を明るめ、行けそうですよと二人に報じる。

 見れば木材のおかげで岩と地面には隙間があり、頑張ればギリギリ人が通るくらいは出来そうだ。まずは明かり魔法持ちの俺からという事で、地面に這いつくばりながら岩の下に身体を滑り込ませてみた。

 

 なるほど照らして見ればジグの言う通りに大規模な崩落では無さそうだ。岩の厚さはあって2メートルくらい。これならばと身を捩じらせながら強引に突破をする。

 

「出れた! 大丈夫、通れますね!」

 

「分かったわ。次は私が行くわね」

 

 どうやら雪女が挑戦するらしく通って来た穴を照らして待つ。俺より小柄なだけあり、狭い隙間なのにスルスルと進んできた。岩下からひょこりと細い手が見えたので、お疲れ様と引っ張り出して。

 

「……あれ? カノンさん来ないね」

 

「ええ、そうね」

 

 様子がおかしいと思い、ティアと一緒に穴を覗き込んで見る。そこにはぬぉぉと苦悶の声を漏らし穴の中で必死に藻掻く僧侶の姿があった。

 

「……ああ」

 

 雪女はそう声を溢し、何もかもを悟った顔で自身の胸をそっと隠す。

 どうもカノンさんは胸部の厚みにより突っ掛かっている様で、俺は地面との間でムニムニと変形する双丘に頑張れ頑張れと応援をした。後ろから最低ととても冷たい声がした。

 

「ぷっはー。お待たせ」

 

 少々時間が掛かったがよいしょと上半身を岩の隙間から出すお姉さん。俺はお疲れ様と声を掛けるも、何故か再びに苦虫を噛み潰したような顔をしていて。

 

 一番窮屈そうな所が脱出したのに何をもたついているのかと考えた時、衝撃的な閃きが脳内を駆け巡る。尻か。まさかこの僧侶、尻までもが引っかかったと言うのか。

 

「違います」

 

「…………」

 

 一体何て言葉を掛ければいいのかと思量していると、ピキンと甲高い音が通路に響く。

 はて何の音だと意識を現実に持ってきた時、俺は見た。鬼の形相で奥歯を噛み締め、腕に力を籠めるカノンさんの姿を。

 

 変化は直ぐに目に見えて現れる。ピシリパシリと大岩に亀裂が走り始めたのだ。

 僧侶が穴からずるりと身体を引き抜くのと、岩がバラバラに砕け散ったのはほぼ同時の事であった。

 

「いいツカサ。けして私が太っているわけでは無いのよ。そこ覚えておくように」

 

 ニコリと微笑むカノンさん。俺は反論すればこの岩の様な結末を辿るのだなと理解し、ただ首を縦に振る事しか出来なかった。

 

(カカカ。この女の場合は壁なぞ壊した方が早かったようだの) 

 

 

 兎にも角にも、俺達は目論見通りに上階への移動に成功する。

 イエーイとハイタッチを求めるも悲しきかな文化の違い。ティアもカノンさんもノリでやってはくれたけど首を捻っていた。いつか流行らせたいものだ。

 

「うん?」

 

 この調子で上行きの目印を探して行こうと進み、5階、6階と順調に階を跨いだ。

 そしてさあ7階を目指そうという時、通路に風が吹いた。気のせいかと立ち止まると、今度は確かに吸い込まれる様な感覚があり、そしてヒューと笛の音にも似た風の音が響き渡る。 

 

 おやおやこれはとティアと目を合わせると、ええと力強く頷くもので。全員で駆け出し風の出所を探る。結果、何やら岩の壁に亀裂が走り、そこから空気が流れているのだと判明した。

 

「どっせい!」

 

 出番の様ねと意気揚々と前に出た僧侶は壁に向かい躊躇なく拳を叩き付ける。まるでビスケットでも砕く様に岩石を粉砕しやがった。恐ろしやフェヌア教。

 

「なんだろうねこの空間?」

 

 明かりを突き出しながら壁の先を覗き込んで見る。

 そこもやはり鉱山の中なので岩に囲まれた空間だった。ただ、今までの景色と相違点もある。

 

 まず天井が高い。通路以外の採掘場と思わしき場所ではそんな空間もあった。けれどもここは天然と言った雰囲気を持つ場所だった。天井から石のつららが垂れ下がっているのだ。中には地面とくっついて柱の様に成った物まで生えているではないか。

 

「なるほど鍾乳洞ね」

 

 なにやら一人納得する雪女。しかし俺も僧侶もさっぱりである。

 聞けば、地質に石灰が混じっていたのだろうという事だ。なんでも石灰岩というのは、条件が揃えば雨水などでも溶けてしまうようで。

 

「不思議な事ってあるもんですね」

 

「そうね。岩って溶けるのね」

 

(鍾乳洞ってそうできとったのかー)

 

「ホントに分かったのかしら?」

 

 まあ別に分かる必要も無いのである。今大事なのはこの鍾乳洞から空気が流れているという点なのだから。釈然としないとばかりに頬を膨らませる雪女をまぁまぁと宥め、俺達は急遽進路を鍾乳洞に変更した。

 

「結構長いわね。二人とも体力は大丈夫? 疲れたら無理せず言いなさいよ」

 

「だ、大丈夫なのだわ!」

 

 どれくらい歩いただろうか。確かに道は長かった。それも天然であるせいか足場はかなり悪い。しょうがないのだろう。ドワーフが道として作っていた場所と違い、現状は進めるから進んでいるだけなのだ。

 

 鍾乳洞というものを歩いた経験は無いが、地球でもこうなのだろうか。

 滴る石のツララ。キノコの様に伸びる石。ツルツルツヤツヤにコーティングされた岩壁は、無機物のくせにやたらと艶めかしく、まるで巨大な生物の体内でも探索している気分にさせる。ワクワクしちゃうね。

 

「やったわ、あった。あると思ってた!」

 

 その光景を見たティアは、昂ったのか俺にガバリと抱き着いて来た。俺はおっととたたらを踏むも、もう光球は必要なさそうだと魔法を消す。空だ。上を見上げ、やっと俺達は、地下迷宮を脱したのだなと感慨に耽る。

 

 鍾乳洞の行き着く先は、地底湖だったのだ。ポッカリと開いた巨大な空間に何処からかジョボジョボと透き通った水が流れ込んでいる。そして天井に走る大きな亀裂から眩い光が差し込み、天使の梯子を作り出していた。

 

 けれど、下を見下ろし頬が引きつく。

 透明な湖の底で、日の光を受けキラキラギラギラと光を反射する黄金色の砂。砂金だ。

 そりゃあこれだけ穴だらけになるほど掘るよねえ。ここ、金山か。

 

 

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