ノーブレスオブルージュ~その唇は吐息をしない~   作:雨居神宮

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227 息抜きの誘い

 

 

 シュバール国にはゴールドラッシュが訪れるだろうと、赤金髪の王女は悪役の様に声高らかに宣言した。それを聞いた勇者は結局金儲けかよとウンザリとした顔で溜息を溢す。

 

 すっかり悪女扱いなお姫を、まぁまぁと勇者から庇うのはイグニスである。別に違法な手段で金を手に入れようとしている訳では無いだろうと。何より、勇者一行の活動は国の支援があって成り立つものではないかと。

 

「うぐ。それは、まぁ」

 

 ツラツラと述べられる正論にフィーネちゃんは反論を失う。王女の後ろではイケメン執事がその通りだとばかりにニコニコと笑みを浮かべていた。

 

 確かに俺たちはこうして大使館でなに不自由無い生活を過ごさせてもらっている。それにレオーネ王女はタルグルン湖への冒険の費用なども賄ってくれているのだ。ひいてはランデレシア王国の利益と説かれては、王女の行いを否定出来る者は居なかった。

 

「でもこんなのは前提条件よ。勿論シュバールの貴族だって想定しているわ」

 

「自分の国なのだから当然だ。というか、でなければ今政権を奪おうなんて考えないだろう」

 

 そうだよなぁスティーリアと、魔女二人がグリンと首を動かし雪女を見た。名前を呼ばれた白藍髪の少女はビクリと肩を跳ね上げて、ええと、そのと、何とも居心地が悪そうに口籠る。

 

「おいおいスティーリア嬢、まさか自分だけ良い子ぶろうなんて気じゃあないよなぁ」

 

「うふふふ。分かっているのよ。お金儲け、貴方も興味あるわよねー?」

 

 仲間同士で酷い足の引っ張り合いがあったものである。悪役二人からお前もこっち側だろうとご指名を貰った令嬢は、泣く泣くハイそうですと自供した。

 

「ティア……」

 

 その様子を見ていたヴァンはやりきれない感情があるようで、そっと机に目を伏せていた。ヴァンはずっとティアと行動をしていたのだ。彼女が領の利益の為に動いていたのは承知だろう。

 

 では何が悲しいのか。答えは簡単だ。うへへげひゃひゃと悪魔の様な笑みで外道街道を行く奴らと同じレッテルを張られた事だと俺は思う。

 

(実際屈辱だと儂は思うよ)

 

「だよねぇ」

 

 価値観は色々だと思うし、領持ちの貴族として腹芸をする彼女達を俺は悪とは言わないが、一緒にするなと感じるのもまた仕方が無い事だろう。そんな気持ちを代弁する様に、スプーンを咥えたままの青髪ポニテのお姉さんが口を開いた。

 

「勇者派、ねぇ。そりゃ国相手ですから、勢力として力が無いと発言権が無いってのも分かります。でも、勝手に旗にされるフィーネの気持ち考えた? 金稼ぎの道具程度にしか思ってないなら私暴れるぞ?」

 

 冷え込む青い瞳に覗かれて、なおイグニスは強気にカノンさんを睨み返す。

 いや、強気では無いな。内心地雷を踏んだかと冷や冷やしていると思う。証拠に手がプルプルと震えている魔女である。ここでカノンさんがピクリとでも動けば、ひいと声上げ丸くなるのではないか。

 

「カノン。それは結果だ。元は私とツカサが襲われたという件だったろう。何も対策をしないで放っておける案件ではない」

 

 赤い瞳はどう?ダメ?と機嫌を伺う様に僧侶を見つめ、カノンさんは判断は任せるわとばかりにフィーネちゃんを見る。視線のパス回しを最後に受け取った勇者は、しょうがないなぁと、何もかもを飲み込み頷いた。

 

「それで、わたし、何をすればいいですか」

 

 もう諦めたよと棒読みをするフィーネちゃん。大丈夫、貴女の手は煩わせないわと王女殿下がパンと手を叩く。金髪の少女はそれが一番怖いんですけどと頭を抱えるも、突っ込む気力も湧かないのか、会議は解散する事となった。

 

 

 部屋からフィーネちゃんとカノンさん、ヴァンは退出した。残る王女様とイグニスとティアはまだ一緒に計画を練る様だ。机の上には何やら手紙がぶちまけられている。どうやら昨日夜会に参加した人達からの挨拶やお誘いらしい。

 

「げへへ。大量大量。アゴラさんから私の名前を聞きつけたな。是非エルツィオーネ領とも良縁を結びたいものだねぇ」

 

「ねえイグニス、ちょっといいかな」

 

「うん、なんだい」

 

 これは伯爵、これは子爵と折角の手紙をカードゲームの様に扱うイグニス達へと声を掛けた。好意を粗末に扱いすぎだろうとも思うが、中にはお怪我はありませんかと心配する素振りを見せつつ口説き文句が書かれている手紙もある様なのであまり同情は出来ないか。

 

 ここだとちょっと話辛いんだよなと、王女様とティアを一瞥しながら言うと、もうと文句を言いながらもイグニスは部屋の隅まで付いて来てくれる。王女様の私室だけに部屋は広いので大声で無ければ会話は聞こえないだろう。

 

「これからフィーネちゃんを何か気晴らしに誘おうと思うんだけど」

 

「ああ、付いて来てって事だね。忙しくは無いし別に構わないよ。どこ行こうか」

 

 いや、出来れば二人きりになりたいのだと言うと、魔女はむっすりとした顔でなんでだと理由を聞いて来て。実は人気の無い場所に連れ込む予定があると口にしたら、この女は本気で首を絞めて来やがった。

 

「何考えているんだオイ!!」

 

(カカカ。お前さん、そりゃ言い方ってもんがあるじゃろ)

 

 ガルルルと狂犬の様に牙を向くイグニスを俺はドウドウと必死に宥める。王女とティアがこちらを向きひそひそと会話をしているのを見て失敗したなと反省をする。

 

「ご、誤解だよイグニス。確かに無理矢理になるけど、俺はフィーネちゃんの為を思って」

 

(はいアウトー)

 

「このケダモノがー!」

 

 ああ、ジグルベインの名前を出さずに会話をするのがこれ程に難しいとは。俺は口パクで必死にジグジグと連呼をし、やっと内容を理解してもらえた様だった。

 

「二人きりで、無理矢理。そうかアイツに修行を頼むつもりだね……」

 

 コクリコクリと頷くと魔女は一瞬深く考え込む。そしてバレないようにねと忠告をし、

首から手を放してくれる。

 

「やっぱり、バレるの不味い?」

 

 目を伏せ無言のままに首を振るイグニス。そうか。地球の事やジグの事をいつか打ち明けたいなと考えていたけれど、この共犯者がそう言うならば仕方あるまい。まだ暫く秘密は胸に抱えているとしよう。

 

 王女に痴話喧嘩かと囃し立てられつつも、お邪魔しましたと部屋を後にする。

 扉を閉める間際、「いつ仕留める」「あの催しを利用する」「なんとか手に入るかも」と不穏な会話を耳にしながら。気付けばハアとため息を零していた。

 

「さて」

 

 さて、である。出掛けようなんて言うのはコチラが勝手に決めた予定なので、お伺いを立てない事には始まらない。多少の時間差が出来てしまったので、自室に居てくれればいいなと思いながら別館に戻り、俺は勇者の部屋をノックした。

 

「は~い?」

 

 良かった居てくれたらしい。フィーネちゃんは不貞寝でもしていたのか、若干に間延びしたくたびれた声で返事をくれた。扉越しにツカサだけどと言葉を投げたら、何かなとひょっこりと金髪の少女が顔を見せてくれる。

 

「……おお」

 

「え、どうしたの?」

 

 思わぬタイミングで扉が開いたので咄嗟に後退ってしまった。反応が滅茶苦茶に早かったのだ。なにせツカと発音した時点でもうノブが動いていた。

 

「フィーネちゃん、これから時間あったら一緒に出掛けない? ほら、この前息抜きしようって話したじゃん」

 

「わぁ嬉しいな。行く行く、勿論行くよ。みんなにはもう声掛けたのかな?」

 

 イグニスとティアも来れるのだろうかと心配をする勇者に、他には誰も誘っていない事を告げた。「そ、そそそれはつまり」と猛烈な勢いで動揺するフィーネちゃん。俺は真顔で二人きりだねと事実を伝えると、分かりましたと、とても厳かに返事をくれる。

 

「準備するから少し待っててね」

 

 パタンと扉が閉まり、いつの間にか手に汗を握っていた事を知る。

 恐ろしい圧であった。まるで静かに死を受け入れる様で、まるで激しい闘志を抑える様。そう。勇者は決闘に向かう戦士に似た気配を纏っていた。

 

 え嘘。俺が申し込んだの死合いじゃなくてお出掛けだよね。

 

(カカカ。お前さん刺されなければいいのう)

 

「やめてよ。ちょっと心配になった」

 

 

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