ノーブレスオブルージュ~その唇は吐息をしない~   作:雨居神宮

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234 勇者派

 

 

 シュバール合衆国。今この国では政権争いが行われていた。

 貿易が主産業であるシュバールは代々川の民が政権を握って来たのだが、勇者が訪れた事を転機に草原の民が次は我々の時代だと主張を始めたのだ。

 

 本来は部外者の立場な俺達ではあるが、国の未来という大きなものを扱っている為か中にはなりふり構わない人間もいる様で、勇者一行が襲撃を受けるという事件まで起きてしまっている。

 

 一度目はタルグルント湖で。二度目は夜会。そして三度目はフィーネちゃんが外出中に襲われたそうである。銀髪金眼の謎の魔族だそうだ。まったく、一体何処の魔王だっていうんだ。

 

 そんなこんながあり発足されたのが勇者派である。

 川の民と草原の民に割り込む第三勢力。襲撃されたという事実を盾に、特異点破壊の決定権を武器に、肝心の勇者が知らない内に結成されていた派閥だった。

 

 この派閥の目的は言わば存在感の向上だ。公約などを謳い実際に政権争いに参加する訳ではないが、ランデレシア王国の顔として支持者を増やせば発言権が増し、相手も表立って大きな動きは出来ないだろうという牽制行為である。

 

 というのは勿論表向きの話。この作戦の背後に居るのはランデレシア王国の王女レオーネ殿下。彼女は立場があるのであまり公に動くと国の意志として捉えられてしまう。襲撃の件などは正式に抗議してくれているそうだが、積極的に手を出せないのは国として対立する可能性をいつでも孕んでいるからだった。

 

 そこまで行くと流石に越権行為というか、戦争の引き金を引きたくは無いのだろう。

 けれども彼女は動きたい。特異点破壊の後に経済が大きく動く事を予想し、しかも今は首都ラメールにはお偉いさん達が挙って集まっているからだ。なので勇者を隠れ蓑に、王国への間口を広げるというのが勇者派の裏の目的なのだ。

 

「後ろから見てるとやる気がハッキリしてますよね」

 

「そらそうよ。正直フィーネなんて全然乗り気じゃないでしょ。見なさいよ、あのぎこちない笑顔」

 

 カノンさんが顎で示す先を目で追えば、純白のドレスを纏った金髪の少女は自分の元に集う人達にどうもどうもと乾いた笑みを浮かべ対応をしている。

 

 ランデレシア王国でも勇者として人気のあるフィーネちゃんであるが、やはり女の子が勇者というのはインパクトがあるのだろう。若い男共はなんてお美しいと花に集う虫の様に集まるし、女性からも凛々しくて素敵と熱い視線を受けていた。 

 

「それに比べあっちは……」

 

 魔女と雪女。領主の娘として社交の意味を知る二人は参加者に積極的に会話を持ち掛け愛想を振りまいていた。ヴァンはまるで番犬の様にティアの隣に立ち、下心のある連中を威嚇している。

 

 今日は勇者派の初活動という事で勇者一行で揃って食事会に出席していた。先日熱を出し寝込んでいた俺だが、既に三日が経ち調子は万全だ。今日までに回復が見込めないなら最悪はマーレ教で治して貰う事も出来たのだけどね。

 

「そういえばさツカサ。フィーネを連れ出してくれて、ありがとうね。あれから元気出たみたいだから安心したわ」

 

「そうですか。それは良かった」

 

「なんか妙に空回ってる気もするけどね。この前もお風呂で急に……いえ、この話はやめましょう」

 

「え、続きが超気になるんですけど!?」

 

 俺としても最近のフィーネちゃんはどこか情緒不安定に感じている。俺はヴァンにだけチャーハンを振舞ったのだが、あの馬鹿が美味しかったと自慢したらしく八つ当たりを受けたそうだ。具体的には朝練でボコされたらしい。

 

「ガハハハハ。すげえ嬢ちゃんだな、こりゃ負けちゃいられねえぞ。おい、もっとこっちに酒を持って来い。今日は会場の酒を飲み尽くしてやる!」

 

 上品な場に似合わない豪快な笑い声が響いた。飲み比べでもしたのか、一人の小人がもう駄目だと倒れたのである。勝者と思わしき赤い髪の少女はまだ涼しげな顔だ。ドワーフが飲み負けた。これはドワーフと会場中の酒飲みに衝撃を与えたらしく、奴は我々の中でも一番の雑魚よと言わんばかりに酒豪が募る。

 

「なんであそこは酒盛りしてんのよ」

 

(いいのう。こんな辛気臭い場所より宴会の方が楽しそうじゃ)

 

 隣でカノンさんの呆れ声が聞こえる。疑問はごもっともだが、これはルコールを売りつける流れなのだなと察した。知らぬ少女に凄い酒があるよと言われるより、酒飲み仲間に凄いのあるよと勧められる方が説得力があるもんね。ドリャーと早くも二人目を倒した魔女から俺はそっと目を逸らした。

 

「やあツカサくん、先日はどうも。今度は町の外で襲われたらしいね、大丈夫だったかい?」

 

「え。ああ、こんにちはアゴラさん」

 

 そう声を掛けてきた来たのはスーツを筋肉でパンパンに膨らませた男だった。舞踏会でお世話になったアゴラさんである。俺はどうもと挨拶をすると、赤髪の中年男性はすっと顔を近づけ周囲に気を付けた小さな声で言う。

 

「あれから俺なりに情報を集めているんだが、君たちを襲った魔族には心当たりがある」

 

 なんだってと大きな反応をしそうになるが努めて声は潜めた。夜会を滅茶苦茶にされた事から警戒をしてくれたのであろう。長話は怪しまれるかもと手短に纏めるアゴラさんは、詳しくはエルフに聞くといいと言い残して、すっと背を向け去ってしまう。

 

 俺はどういう事だと顎に手を当て考えこんだ。フィーネちゃんと戦ったのはジグルベインなのである。なのに何故他に目撃談があると言うのだろうか。

 

「あの男性、中々良い筋肉ね。身のこなしからしてかなりの猛者と見たわ」

 

「あの人アゴラさんって言うんですけど、魔導士の方らしいですよ」

 

「あら、魔法使いが身体を鍛えてもいいじゃない。筋肉は全ての者に平等よ」

 

 貧弱よりは余程良いと。ならばああいう筋肉達磨が趣味なのかと聞くと、以外にも答えはノーだった。完熟した筋肉に興味は無く、少年の成長過程の筋肉が好きだそうである。ヴァンも俺もかなり良いよとお褒めを頂いた。

 

「どうする、フィーネ呼んできましょうか?」

 

「いえ。今騒ぐのは良くないと思います」

 

 アゴラさんはわざわざ俺に伝えに来た。こんな情報を渡すなら普通はフィーネちゃんかイグニスだろう。二人とも忙しそうで俺が暇に見えたから?それはあるかも知れないけれど、前回の時の様に監視されている可能性を警戒していたのではないか。

 

 ならば派手に動くのは悪手だ。むしろ話は持ち帰り、後でエルフとアポを取るのが正解ではなかろうか。そんな事を考えていると会場にざわめきが起こった。何事だと思うも、悲鳴などは聞こえないのでトラブルでは無いのだろう。

 

「ああ、勇者よ。やっと貴女と出会う事が出来た。今日という日を三柱になんて感謝すればいいのだろう」

 

 一人の男がフィーネちゃんの前で跪いていたのだ。周囲の目もなんのその。まるで女神でも見つめる様な恍惚の表情だった。そして困惑する勇者の手を取りながら、恭しく首を垂れて。

 

 誰でしょうねとカノンさんに聞いても、返ってくるのはさあと曖昧なもの。やがて男は名乗る。自分はディオン・ラーテリアという者だと。その瞬間、勇者も僧侶も固まった。もしや知っている名前、それも反応からかなり偉い人なのではと予想を付ける。

 

「いや、ちょうど調べてたから知ってるんだけどね。ラーテリアってこの国に4人居る公爵家の名前なのよ。つまりあの人、草原の民の代表だわ……」

 

(おお、なんとそれは)

 

 わお。この政権争い起こした張本人様じゃねーか。 

 

 

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