ノーブレスオブルージュ~その唇は吐息をしない~   作:雨居神宮

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409 扉の先は

 

 

 扉に大きく描かれた魔法陣。それは鍵の役割を持っていて、石の観音扉を固く閉ざさしている。このいかにも重要そうな代物が、次に調査隊の目のつけた場所だった。

 

 そこで開錠に挑むのが金髪ドリルさんだ。魔法使いの中でも、とりわけ座学が得意だという派閥の彼女は、簡単簡単と慣れた手つきで幾何学模様を指でなぞり。

 

 見事に失敗をした。

 魔力が満ち、赤く発光した魔法陣。だがそれは扉の開放ではなく、愚か者への罰として起動する。

 

「ふ、伏せろー!!」

 

 地下空間に魔女の声が木霊して。間髪入れず、上書きのように鳴り響く爆発音。

 あまりに突然のことで、俺では背後のフェミナさんを庇うくらいしか出来なかった。

 

 キンキンとする耳が爆発の強さを伝えてくる。パズルで防犯なんてどうなのかと思ったが、なるほど魔法錠。これは厄介だ。

 

「みんなは無事かな?」

 

 煙りがモクモクと充満するもので視界が悪い。手で仰ぎ、少しでも換気をする。

 まず見つけたのは傍に居たイグニス。あの一瞬で炎の壁を生成したようだ。舞う埃にケホケホと咽ていた。

 

 その腕にはリュカも抱かれている。二人して怪我は無さそうだけど、狼少女は爆音で耳をやられ、キューと目を回す。感覚が鋭すぎるのも考えものである。

 

「馬鹿め、と言いたいけれど、どうかな。今のは私も間違えそうだ」

 

(儂はこっちのほうが世代が近いので、金髪ドリルさんの答えのほうが分からん)

 

「話は後で聞くよ」

 

 まずは無事の確認からだ。他の人を探すのに煙が邪魔だなと思っていると、一陣の風がビュウと攫ってくれる。誰か魔法なのだろう。

 

「ご無事のようですね」

 

「ですわー」

 

 金髪ドリルさんはセリューくんの下敷きになり生還していた。流石はエリート騎士だ。魔女の言葉に即座に反応して救出したらしい。俺があんな助け方されたら恋に落ちてしまいそうである。

 

 そして学者のお爺ちゃん達は、少し離れて待機したのが幸いしたか。ずいぶんと悪質な罠だったけれど被害は0で済んだようだ。狼少女がオレを数えろと抗議してきたが無視をした。

 

「ご、ごめんなさい。間違えてしまいましたわ」

 

「いやーぶっちゃけ自分達も何度かやらかしましたんで」

 

「そうそう。鍵をこじ開けろって方が無茶なんすよね。ははは」

 

「お主らは笑うな!」

 

 魔導士団は金髪ドリルさんの失敗を責めるどころかヘラリと笑った。緩い態度だなと思っていると、老騎士に一喝される。

 

(面子もあるんじゃろうな)

 

「……難しいとこだね」

 

 魔導士団の内心としては、年下の女の子に解かれなくて良かったと安心している一面もあるのだろう。専門が違うとはいえ彼らは同じ魔法使いなのだ。

 

 少しばかり情けないプライドだなと思うと同時、金髪ドリルさんが認めて欲しいと成果を求める気持ちも理解が出来た。

 

「そしたら、次は私が挑戦しても?」

 

「いえ、残念ながらその必要は無いようです」

 

 イグニスは頭の中でパズルを考えていたようで、答えを閃いたか名乗りをあげる。だが金髪ドリルさんを起こすセリューくんがゆっくりと首を横に振った。

 

 見れば観音扉はすでに半壊をしていた。やはり年代物の遺跡。罠である爆発の衝撃に、扉自体が耐えられ無かったのだろう。一応開いたということで、「よっしゃい」とガッツポーズを決めるお嬢様。誇りはないのか。

 

 活躍の場を奪われ、ちぇと唇を尖らせる赤髪の少女。しかしこちらとしては、開けばなんでもいい。半壊した扉を完全に崩し、いざと先に進む。

 

「塞がっていますね……」

 

「上に瓦礫でもあるのか? ちょっとみんなで押してみるか」

 

 ここからは未知の場所という事で騎士の二人が先行してくれた。すぐに階段へ辿り着くのだけど、出口は蓋で塞がれてしまっている。

 

 手を貸してくれと、俺と老騎士も力作業に駆り出され。四人で渾身の力を籠めれば、重石がズレたか、頭上でドシンと大きな音がした。

 

「ゲホゲホ。なんか明るい場所に出たみたいだけど」

 

 階段からひょっこりと頭を出してみれば、どこかの床だった。出口には石柱が倒れていたらしい。その事実に納得するくらい、建物の中はいまにも倒壊しそうだ。

 

「こりゃあ外から調べようって気にはならないだろうな」

 

「そうね~。私なら近寄りもしないわ~」

 

 リュカとフェミナさんの言葉がすべてだろう。ここが何処かはまだ分からないけれど、遺跡を外から調べても辿り着けなかったと思う。

 

 階段の影から目視で安全を確認して、ぞろぞろと皆で表に出る。部屋には朽ちた家具などが残り、人の居た痕跡が見えた。

 

 地下道があるくらいだ、ただの住居ではあるまい。どんな場所なのか把握する為にも、手分けして調査をしようとする。

 

(お前さん、石柱の影を見ろ)

 

「これは……人牛さんかな」 

 

 見れば、床には砕けた遺骨が散らばっていた。かろうじ残る頭部で魔族か獣人だと判断する。恐らくは石柱に潰されて亡くなったのだろう。状況を見るに、地下へ逃げ込もうとしていたのではないかと想像出来た。

 

「骨が残る? ああ、そうか。浮遊島にはスライムが居ないのか」

 

 俺が手を合わせる横で、イグニスは顎に手を当て考えこんでいた。確かに自然ではあまり死骸を見ない。腐肉喰らいのスライムが溶かしてしまうからだ。

 

 そういう意味ではスライムは糞も食べる。お尻ほじり虫が生息する時点で察するべきだったとね魔女は口にした。

 

「……妙ですね。この方が地下に逃げようとしたのならば非常時だったのでしょう。けれど地下では遺体を見つけて無いんですね、はい」

 

「となると、戦いは地下に逃げ込むまでもなく一瞬だったか。あるいは、何者かが動かしたとかですかね」

 

 学者と助手くんも遺体の傍に来て考察をしていた。スライムが居ないならば遺体はどこにと。ふと気になったのは、助手くんの動作。死者に祈る姿が勇者一行の僧侶と被って見えたのである。

 

「シトニクはダングス教ですからな」

 

「彼の恰好を見て気付かなかったかい?」

 

 聖言を呟く彼の横で、そう言われる。白い上着をみて学者っぽいとは思っていたが、聖職者だとは思わなかったなぁ。ムッツリそうだし。

 

「オイ、誰かこっちに来てくれ!」

 

「っ!?」

 

 俺たちが足止めをしている間にも調査は続いていたらしい。建物の奥から、調査隊の声が響く。切迫した声色に、みなが駆け足で男の元へ向かった。

 

 そして、これはと広がる光景に立ち尽くす。牢屋、だろうか。分厚い石の壁と、錆びた檻の名残がある。

 

「お嬢さんたちは見ない方がいい……」

 

 遅れて来た、金髪ドリルさんとメイドちゃんを、老騎士が止めた。

 中に繋がれていたのは、人馬や人蛇だったようだ。人骨にしては異形な骨が崩れて積み重なっていた。

 

「魔族が、魔族を檻に?」

 

「当時の犯罪者という線もあるかな」

 

 俺の疑問に答えたはイグニスは、こんな光景にも怯むことなく牢へ近づく。ここは刑務所か何かだったのだろうか。現場を学者達へ引き渡し、調査隊は再び、捜査に散って。

 

「これは、人馬の子供でしょうかね」

 

 子供までもが繋がれていた事実に、助手くんが再び祈りを捧げようとした。

 けれど学者は、引き攣った顔で違うと言葉を否定する。

 

「それにして骨が太すぎるんですね。この骨格は成人の物。おそらくは……小人(ドワーフ)かと」

 

「えっ?」

 

 何を言ってるんだと頭が混乱した。相手が骨だから別人の上半身と下半身を間違えたのだろう。俺はそう結論づけようとして。

 

「この国のやつら、どこまでも腐ってやがるな!」

 

 赤髪の少女は現実を直視し、赤い瞳を炎のように燃やしながら憤っていた。

 目を瞑りたい事実だった。檻の中に居るのは、きっと犯罪者か奴隷で。人権も与えられずに、人体実験を施されたのである。

 

「嘘よね、嘘って言ってよ……」 

 

「フェミナさん……」

 

 服をぎゅっと掴まれた。薄緑の髪の女性は、いまにも零れそうなほどに、目に涙を蓄えている。俺は思わず、彼女を抱きしめた。

 

 嘘だよと言ってあげたい。実験の内容は、どうみても魔族への強制進化だ。

 そしてここには。浮遊島を故郷だと思いやってきた女性は。出来損ないの淫魔なのであった。

 

 

 

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