ノーブレスオブルージュ~その唇は吐息をしない~   作:雨居神宮

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412 天使の像

 

 

 ピッキングツールでガコンと扉の鍵を開け、ドヤ顔を披露するフェミナさん。

 だがそんな彼女をよそに、俺たちはすかさずに円陣を組んで頭を突き合わせる。

 

「なぁ、アイツやっぱり兵士に突き出したほうがよかったんじゃねぇか」

 

「ちょっと手馴れすぎだよね。絶対常習犯だよ、あれ」

 

「んー。だがこの冒険でツカサの件は打ち消す約束だからな。さりげなく自首するように勧めるか」

 

「聞こえてるわよ~!」

 

 プンスカと怒るものの援護するものは誰もいない。むしろ冷めた目で見る。特技がスリと錠開けで褒められると思うほうが間違いなのである。

 

 まぁ蹴り壊す手間が省けたのも事実。気を取り直して、扉の奥を覗き込んで。俺はありゃと口をへの字に曲げた。

 

「残念。行き止まり」

 

(一応、上に出れそうじゃがな)

 

 言われれば確かに天井からは日が差し込んでいた。部屋というよりも、ここも通路なのだろう。奥の床には木材が朽ちていて、もとは昇り降り用の梯子だったのだと思われる。扉も木材だけど、材質や厚さで耐久力の差がでたか。

 

 つまらないと思い、引き返そうとした。けれど魔女が、せっかくだから登ってみようと言い出す。天井までは3メートルほど。まぁジャンプで楽勝な高さだ。

 

 上を眺めていたら、リュカがお先とぴょんと跳ねた。しょうがない、行くか。どうやらアイツもだいぶ身体強化が馴染んできたらしい。

 

 俺は面倒なので残りの二人を抱えて飛び上がってしまう。

 周囲の景色はと言えば、瓦礫の山だった。日が入っていただけあり、青々とした空がよく見える。ここは天井や壁もほとんどが崩れてしまっていた。

 

「これ、あの絵のやつかな……」

 

 狼少女は、そんな建物の中にある青銅の像に目を奪われていた。

 女体の丸みを帯びつつ、どこか男性を思わせる骨格と筋肉。中性的ではなく両性。その証拠に、胸も股間も膨らみを帯びている。

 

 なにより印象的なのは背中だろうか。鳥のような大きな翼が6枚生えていた。瓦礫の中で唯一そそり立つ天使像は、威厳どころか神々しさすら放つように思えた。

 

「まさか……教会なのか?」

 

 魔女がそう言い、天使像に駆け寄る。なるほど、ここが教会であるならば天使の像もおかしくないか。地下道に通じていたのも、なんとなく理解が出来る。

 

 ふむふむと頷いていると、フェミナさんはそういうものかと首を捻った。淫魔で盗人じゃあ、あまり信心深くはないよね。

 

「教会ってあまり行かないけれど、普通は三柱様の像じゃないのかしら」

 

「え。あ、そうか」

 

 馬鹿なのは俺であった。天使が神の使いというのは地球でのイメージに他ならない。この世界では魔族の種類に過ぎないのである。

 

 では教会では無いのか。飾りの像にしては立派なので余計に不思議に感じた。イグニスも疑問に思ったからこそ、赤い瞳で六翼の天使を睨みつけるのだろう。

 

「どっちだろうね」

 

「それを確かめるんだよ。君も残っている物を探しなさい」 

 

 へーいと返事をし、崩れた建物の中をバラけて捜索した。範囲はそこまで広くはなさそうか。元はちょっと大きめの一軒家くらいの面積だと思う。

 

 一応は散らばる石に混じって家具らしき物も落ちているのだけど、その殆どは原型を留めていない。

 

 影に落ちていたネックレスのようなものを拾い上げるが、自重だけで崩れるほどに痛んでいた。いつの年代のものか分からないが、やはり雨曝しでは劣化が激しいようだ。

 

 しばらく瓦礫を除けながら物色をしていると、少し離れた所で調査隊の姿を確認出来た。流石に当たりの道ばかりではないのか、同じように建物の跡を捜索している。

 

 おーいと手を振ると、気づいた魔導士団のお兄ちゃんが手を振り返してくれた。うふふ、そっちも頑張ってね。

 

「はい、では成果物を出しなさい」

 

「私は像に楽園へと彫られているのを見つけました」

 

「オレは羽の書かれた模様を見つけたぞ」

 

「ありません」

 

 少し遊んでいただけにジトーと三人の視線が刺さる。イグニスだって発見無いじゃんと不満を漏らせば、魔女は軽く無視をして天使像を撫でた。

 

「私は、祀られているならば始獣のほうだと思ったんだよ」

 

(聞いてもいないのに語り始める)

 

「しっ。いつものことだろ。矛先が逸れたならいいよ」

 

 浮遊島には神殿があり、壁画にも始獣の姿はあった。それに神として崇められてもおかしくないだけの能力を、あの獣は秘めている。

 

 灰になろうと蘇る不死性。時間が経つごとに進化をして耐久を得る強さ。控えめに化け物だ。その姿に神を見出す者がいても不思議ではないと思う。

 

「それに、あんな実験跡を見たらね」

 

「ああ。人を魔族に変貌。いや進化させるなど、始獣の存在が無ければ、まずあり得ない」

 

 だから過去、この土地に始獣が居たのは間違いない。だが住人は天使を崇めた。なぜと自問する魔女は、壁画に書かれていた天使の名前。アイリスという響きを呟く。

 

「ただの支配者だったならいいんだけどね」

 

 ここからは推論だけれどと、魔女は今まで得た情報で作った仮設を聞かせてくれた。

 浮遊島に文明があったのは、今から500~600年くらい前のようだ。いつの間に年代を把握したのかと思えば、魔法陣の世代から推測したのだと言う。

 

(ほおん。ちょうど儂が生まれた時くらいまであったのか)

 

「そんなもんなんだ」

 

 イグニスは俺と初めて出会った時も、服の素材やデザインで混沌の遺産と判断していた。技術などは時代のいい目安になるのだろう。

 

 ただジグルベインの配下の人達。400年前の生き残り達と出会ってきたからだろうか、そこまで古いと感じなかった。

 

「十分古いだろーよ」

 

「まだ生きている人達が居るって凄いわね~」

 

「ツカサの感覚はズレているが、あながち間違いでも無いんだ」

 

 どういう事かと言えば、文字や言葉らしい。そうか、大陸語はジグが魔大陸から侵略した時に広めた言葉だ。時代で若干の差異はあるだろうけれど、いまでも普通に通用する。

 

 そうなると、手帳に残された古代文字はなんなのか、ということになった。

 

「少し時代が合わない。これだけ大きな都市がありながら、魔法の発展に比べて言語が遅れすぎている」

 

 そこで浮遊島を作った魔王の名前を思い出せと言われた。確か、【箱舟】の魔王。二つ名は能力などから付けられることが多いらしいが、この島自体が箱舟だと言いたいのだろうか。

 

 つまり文明が滅びる当時には、もう浮いていた。いや、古代文字が一般言語として使われ続けるくらいには古くから空を彷徨っていたのだろうと考えているようだ。

 

「えっと。天使アイリスが【箱舟】の魔王で、この浮遊島だと神のように崇拝されていたと」

 

(おお、さすがイグニス取り扱い二級よな)

 

「ツカサの言ってることだけ分かった」

 

 イグニスはやや不貞腐れながらも、そうと肯定する。どうだろう。辻褄は合っている気もするけれど、断定するほどの材料ではないように思えた。

 

 特に、世の中と隔離されていたという点。魔法が独自に発展したのならば、年代が当てにならないのである。

 

「ハハ、願望も入っていた。少し嫌な要素が揃い過ぎていてね。本物の神じゃなければいいな、と思ったのさ」

 

 リュカの見つけたシンボルマーク。フェミナさんが解読した「楽園へ」という文字。ここが神殿と同じ宗教施設と認めたうえで、魔女は真正面から神を否定する。

 

 だって、それはあってはいけない事だから。

 三柱教の神たちは、初代勇者と共に魔王を退治した人達と聞く。もし四柱目が。アイリス教というものが存在したならば、意図的に人類史から抹消されたということだった。

 

「カノンさんが聞いたら怒りそうだ」

 

「ああ。けれど成り行き次第では、シェンロウ聖国に行ったら教皇を問い詰めねばなるまい」

 

 結局、今日はコレといった成果は挙げられずに終わる。それは金髪ドリルさん達も同じようで、夕食時に残念ですの~と愚痴りに来ていた。

 

 明日に期待か。進展が無くモヤモヤを抱えたまま毛布に包まって。

 

「調査隊だな。頼む、助けてくれ。怪我人が居るんだ!」

 

 大きな叫び声を響かせながら、隣の拠点に飛び込んでいく人影。何事かと上半身だけ起こして覗き込めば、自身も怪我をする犬の獣人が、血に塗れぐったりとするレルトンさんを抱えていた。

 

 

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