ノーブレスオブルージュ~その唇は吐息をしない~   作:雨居神宮

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413 オリハルコンは傷つかない

 

 

「イグニス、起きて!」

 

「んぅ……外がうるさいけど、何かあったのかい?」

 

「大変なんだよ。レルトンさんが重症で運ばれて来た!」

 

 俺は眠るイグニスの肩を強く揺らした。寝ぼけ眼を擦る赤髪の少女は、重症人と聞くと毛布を跳ねのけ飛び起きて。向こうだな。そう調査隊の姿を確認するや、上着も羽織らずに駆け出していく。

 

「これはどういう事だ。一体何があった?」

 

「助かったよ。まずは礼言わせてくれ爺さん……」

 

 二人の治療はすでに始めているようだ。ペルロさんの方はそれほど深手ではないのか。手当てをされながら、老騎士に経緯を訪ねられていた。

 

 一方で教授は地面に寝かされて助手くんが神聖術を施している。白い光に包まれるレルトンさんは、まだ意識が無いようだ。

 

 俺たちは邪魔をしても悪いので、調査隊の作る人垣に混じり猟犬の話に耳を傾けた。

 

「草原を調査している時に襲われたんだ。金属の人形のような奴だった。これが硬くてな、俺ではかすり傷一つつけられなかった。レルトンは王白金(オリハルコン)とかと言っていたか」

 

「「王白金!」」

 

(ほう)

 

 皆が静かに話しを聞く中で魔女と学者が叫ぶ。視線が集まるやオホンと咳払いをして続きを促すのだが、ソワソワと興奮を隠せない様子である。

 

 いや、イグニスは寒いのもあるのだろう。これ使いなと俺は自分の上着を少女の肩に掛けた。ありがとうとお礼を言う顔は、鼻の穴を広げた、だらしのないものだった。もう少し興味を隠しなよ。

 

「ふーむ、面倒なことになってきたな。それで、その化け物はどうしたのだ?」

 

「……いいか、俺は別に後を付けられるようなヘマはしていない。アレの進路は最初からこの町を目指していた」

 

 犬の獣人は自分達は悪くないと予防線を張ってから、もうすぐ来るだろうと告げる。

 ザワリと広がる波紋。フェミナさんなんかは敵の襲来を知って、どうしましょうと大慌てだ。

 

 だが、調査隊は騎士団や魔導士団の集まり。戦闘のプロ達だった。情報を前向きに受け取り、対策を打つ時間が出来たと考えるらしい。

 

 確かに不意の遭遇とは雲泥の差だ。でも、俺はこう考えた。重傷者まで出てくると、いよいよ殺伐としてきたな、と。

 

「俺はもっと気楽な冒険を期待していたよ」

 

「私もさ。新種やお宝を見つけてウハウハする予定だったのに」

 

 嘆いていても仕方がない。緊急会議ということで、全員を集めて火を囲んだ。

 メイドちゃんが、このくらいしか出来ないけれどとお茶をみんなに淹れてくれる。緊張高まる空気の中で、温かい心遣いが嬉しかった。

 

「さて、敵は人形とのことですが。動くとは一体。これも魔法なのでしょうか?」

 

 老騎士と代わって纏め役をするセリューくん。動力は何かと突っ込んだものでなく。単純に金属が動くことを疑問に感じたようだ。中に人が入っているのではと疑っている。

 

 思えば調査隊は空から直接に神殿へ来ていた。草原の朽ちたモアイ戦士達を見ていないのだった。

 

「……どうにも、この浮遊島にはそんな魔法の技術が存在したようですね。私たちは道中に岩の人形が動くのを目撃しています。素材が金属ならば、考えるに上位個体でしょう」

 

 軽く事情を説明する魔女は、そういえば魔法陣を見た奴が居たなと金髪ドリルさんへ目を向けた。つられて俺も見る。

 

 話を振られると想定していなかったお嬢様は、優雅にお紅茶をおキメになっている。こちらも目覚めたばかりなのか、自慢のドリルがまだ巻かれていなかった。

 

「え、ああ私ですのね。確かに魔法陣を修復するにあたり解析はしましたが、ぶっちゃけなんであれで動くのか分からないのですわ」

 

 理解が出来ない。ではなく、動くはずが無い。体全体に魔力を流す程度の簡単な構造だったらしい。それで取り敢えず起動させてみたのか。

 

 イグニスも金髪ドリルさんの知識自体は認めているのだろう。役立たずとなじる事もなく、そうかと意見を受け入れていた。

 

「まぁ動く理屈よりも肝心なのは倒し方ですね」

 

(そりゃそうじゃ)

 

 真面目騎士セリューくんは意外と脳筋であった。小難しい魔法の話をさくりと流し、敵の弱点に論点が当てられるのだけど、参考を聞かれて俺たちは言葉を飲む。

 

 なにせ一撃で両断したので語ることが無い。真っ二つにすれば止まると言っても、なら超硬金属相手にやってみろという話なのだ。

 

「そういえばオリハルコンっていうのは?」

 

「「良くぞ聞いた!」」

 

 魔女と学者の言葉が被る。熱心に、そりゃもう熱く語る二人の言葉を纏めるならば、伝説の超金属といったところか。とにかく硬く、魔力の伝導率も良く、なにより美しいとべた褒めである。

 

 しかし過去に負けてばかりではない。人類は金剛(アダマンタイト)という超合金を作り出していると話が逸れだし、セリューくんが慌てて止めに入った。

 

「分かりました。もう分かりました。それで対処法は?」

 

「ふむ。王白金を壊する方法ですね。加工出来るので壊せないとは言いませんが、ドワーフが剣を作るのに一年掛かると言われるほどの強度ですぞ、はい」

 

 どの立場からの発言か。無理無理と肩をすくませる学者爺。若い騎士はそうですかと真面目に対応するが、右手がコイツ殴りてえとばかり怒りに震えていた。

 

「まぁ厚さにもよるのですが硬度は本物です。真正面から相手にするより、いっそ浮遊島から突き落とすとかどうでしょう」

 

「下にはラシアスの町があります。騎士団として市民に脅威を近づけられませんね」

 

 俺は良い案だと思ったのだけど、男は魔女の提案を迷わずNOと言い切る。騎士としても貴族としても、その選択肢は無いと。

 

 代案の無い中で随分と頭が固い。けれどもイグニスは彼の誇りを汲み取り、失言だったと言葉を取り消した。

 

「しかし物理的に壊せぬならば、動きを封じ込めるというのはありじゃのう」

 

「っすね。魔導士団の魔法を見せてやりますよ」

 

 老騎士が出来るかと魔導士団の面々を見ると、3人の青年は任せろと頷く。どうやら魔法錠に苦戦していた汚名を返上する機会とみたようで、やる気は十分らしい。

 

 

「あれか……」

 

 作戦の方向も決まり、俺たちは打って出ることにした。大規模な戦闘が予想されるので、戦場をキャンプ地から離すためだ。

 

 怪我人を含め、非戦闘員は置いてきた。戦うメンバーは騎士団3名、魔導士団3名、そして俺とイグニスである。リュカは自分も戦うとうるさかったけど、「みんなを頼む。お前だけが頼りだ」と言えば渋々と納得した。ちょろいぜ。

 

「うぉおお。本当に王白金だ。凄いぞ。あれだけの塊、滅多にお目に掛れない!」

 

「イグニス、声大きいって」

 

(まるで恋する乙女の顔じゃな) 

 

 廃墟の町に金属の重々しい音が響く。前情報の通りに、全身を金属に包むそれは、月明りを反射しながらゆっくりと町を目指していた。

 

 相手は想定よりもずいぶんと小柄だ。希少な素材を使うせいか、1メートルも無い、子供のような大きさである。

 

 しかして返り血に濡れる敵。加工の難しさからか外見は洗練とは程遠く、まるで積み木を重ねたような角ばったデザインで。それがむしろ全身を凶器へと変貌させていた。

 

「良し、標的は射程圏内に入った。攻撃を開始しろ!」

 

 セリューくんの合図と共に、魔法使い達による魔法が炸裂する。第一撃はイグニス。魔力収斂により圧縮された火炎槍が標的に突き刺さった。

 

 ヒィと魔導士団の自信が折れる音がする。劫火の槍は辺りの積雪を即座に蒸発させ、石さえも溶かして見せたのだ。けれど沸き立つ溶岩の川を、チャプリチャプリと平然と歩む敵。

 

「くぅ駄目か。会心の一撃だったんだけどな」

 

(いや中々よ。胸元がわずかに変形しとるぞカカカ)

 

「うわ本当だ。あんまり怒らせないようにしよ」

 

 もはや洒落にならない威力である。魔女は破壊に至らないまでも、初撃で見事にダメージを与えた。

 

 行けるか。士気の上がる魔導士団。次に飛んでいくのは螺旋に渦巻く水柱だ。地面を切り刻む水圧からも威力が伺えるが、本命はそこではない。

 

 イグニスが生んだ熱を根こそぎ奪う為の大瀑布。急速に冷やされた溶岩は、大量の蒸気を発しドカンと爆ぜた。金属は熱により膨張し、冷やすことで収縮する。或いは精密機械ならばと動きを阻害出来るかもと試みたけれど、駄目かな。

 

 大地を刻む激流が、さながら高圧洗浄機だ。オリハルコンは傷付かない。血が洗い流されて、冷たい光沢がより一層に輝いていた。

 

「ここまでは予想範囲だ、続け続け!」

 

 イグニスが作った大地の窪み。そこに相手を押し込み、水で満たす。元よりこの状況のための布石。魔導士団は二重詠唱をしていた。水の刃は属性を切り替え、氷の刃へと姿を変え。

 

 ガキン。振り撒く水飛沫が空中で固まる。まるで時間が止まったかのように、荒れ狂う水が全て停止した。

 

 氷漬け。この作戦の大本命だ。そして駄目押しとばかり、土魔法で生み出す魔鉱石が

金属兵を捉えた氷塊を覆う。

 

「や、やったかねぇ」

 

(馬鹿者、それは!)

 

 皆が緊張を保ち見守るなかで魔導士団の一人が呟いた。

 はい、フラグでした。用意した牢獄にはビシリと亀裂が入り、中から力任せにこじ開けて来るのが分かる。

 

 大魔法の詠唱には時間が必要だ。前衛の出番だなと俺は黒剣を構えるのだが。

 

「おいおい、ジグ。これはどういう事だい」

 

(そんなん儂が聞きたいわい)

 

 魔王さえ言葉を失う光景だった。壁をブチ破り出てきた敵は金色の光を纏っていたのだ。

 あれはただの魔力反応では無い。同じ技を使うからこそ直感する。なんでコイツが闘気法を使うんだよ。

 

 

 

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