ノーブレスオブルージュ~その唇は吐息をしない~   作:雨居神宮

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414 白金の戦士

 

 

 魔導士団の放った渾身の魔法により、白金の戦士は氷塊と土壁に飲み込まれた。

 場には一瞬の静寂が訪れるのだけど、ゴリゴリと拘束を力任せに砕く音が響き渡り。やがて何事も無かったかのように姿を現す金属人形。

 

(そうか、肉体の凌駕。モアイ共が作られた目的はそれか)

 

 子供の程度の小さな体は輝く魔力と不気味な圧力を纏っていて、ざわざわと肌が粟立つの感じた。

 

 これまでの経験が何か危険だと訴えてくるのだ。しかし勇敢なる3名の騎士は、背後の魔導士達を守るべく駆け出す直前で。

 

「まっ、コイツは!!」

 

 ヤバそう。叫んで伝えようと思った時、異常はすでに起こっていた。今まさに突撃しようとしていたセリューくんの前に、腕を振り上げた敵が既に現れている。

 

 油断は無かった。戦闘態勢だった。一瞬とて目を離していなかった。奴は、それでも反応するのがやっとなほどの超速度で移動をしてみせたのだ。

 

「うぉおお!?」

 

 突如の絶体絶命。紺色の髪をした青年は、迫る拳を見ながら声をあげた。攻めるべく踏む出した故に身体が咄嗟の防御に追いつかないのだろう。

 

 そんな若い騎士を猫でも掴むように首を引く老騎士。縦に走る拳は、ヒュンと空気を裂いて。勢いのままに大地を割る。

 

 まるで爆撃でもされたかのように陥没する地面。石畳が走るヒビと共に砕け、浮遊島にあった本来の土がパラパラと宙に旅立った。

 

 一秒に満たぬ攻防は、しかし皆を絶句させるのに十分な時間であった。

 

「ペルロ殿がやられるわけだ。なんという膂力」

 

「くっ。まさに化け物か」

 

 出鼻を挫かれた騎士たちは人形の持つ脅威の戦闘能力に慄く。そして俺も無意識に警戒した意味を理解する。

 

 オリハルコンだ。人間の身では闘気の出力に悲鳴を上げるが、全身が強靭な金属ならば、天井知らずに何処までも力を引き出せるのである。少し羨ましいけれど、敵に回せばまさに最悪の相性と言えるだろう。

 

「くそったれがよぉー!」

 

「落ち着けルニマン!」

 

 茶髪の大柄な男が恐怖を払うかのように、力任せに剣を叩きつけていた。敵は小さい。その身長差に、ただの薙ぎも頭部へと直撃する。

 

 だが夜闇に響くのはペキンと無情な金属音だ。へし折れた剣先が明後日の方向へクルクルと飛んでいく。

 

 やはり硬い。叩かれたほうは当然のように無傷で。こりゃまずいと、俺は慌てて騎士団の援護へと飛び出した。

 

「出し惜しみしてる場合じゃないな、ジグ魔力をくれ!」

 

(おっ闘気勝負であるな。どっちが本物か教えてやれい)

 

 走りながら闇式を纏う俺。だが白金の戦士も止まってくれず、お返しとばかり破壊の拳を振り回す。やばい、これは間に合わないか。

 

 剣が折れ茫然とする騎士を襲う魔手。させぬと援護に動くのは隣に居た老騎士だった。再びに鳴る金属音だが、今度は結果が違う。パリイ。なんとお爺さんは超速の攻撃に合わせ、剣で弾いて見せたのだ。

 

「腕は衰えていませんね、団長」

 

「とっくに元じゃい。老骨に無茶させるでないわ!」

 

 接触を皮切りに激しさを増す攻防。白金と鋼が触れ合い火花散る。

 舌を巻く光景だった。身体能力に物言わせ、弾雨のように放たれる凶器の拳。ならば老人は傘でもさしているのか。構える二刀の小剣が攻撃を寄せ付けない。

 

 おそらくは技術と経験則。人形のパワーは英雄にも劣らぬだろうに、動きを先読みすることで凌いで見せるのだ。

 

「すんげえ」

 

(関節の可動域が狭いから動きが単調なんじゃ。あんなん欠伸が出るわい)

 

 達人というのは何処にでも居るものである。まさかお爺さんがこんなに凄腕だったとは。

 いや、そもそもと自嘲する。俺は騎士団の強さを知っていたはずだ。いつから守ると言えるほど偉くなったのか。

 

 俺は戦士。彼らも戦士。だから、これは共闘だ。老騎士が敵を引き付ける隙を狙い、腹部へと重斬撃を叩き込む。

 

 闘気の超パワーに加え、闇の魔力で加算した重量。今出来る渾身なのだが、剣が折れた瞬間を目撃したばかりなので、内心は折れてくれるなと祈りながらの攻撃だった。

 

 しかし流石は魔王の愛剣。伝説の金属を相手に、欠けるどころか刃を食い込こませ。両断出来ぬまでも人形を大きく吹き飛ばす。よかったー。

 

「おおっ、ツカサ様!」

 

「お見事。噂違わぬ実力ですな」

 

「そちらこそ。微力ですが、お手伝いしますよ」

 

 仕切り直しだ。魔法使い達の壁となるべく、四人で剣を構えなおした。

 白金の戦士はあんな外見だけに痛みも感じないのだろう。腹の傷もなんのその。突っ込んだ瓦礫の山をガラガラと崩しながら起き上がり。

 

「――!」

 

「なんだよ。ああ、喋れないのか」

 

 闘気を使う俺を見て、吠えるような動作をした。

 無機物な相手から、わずかに感情のようなものが覗いた瞬間だった。そして、声帯も無い金属の人形は行動で示すべく、前のめりになる。

 

「来るぞっ!」

 

 それはさながら獣。敵意を剥き出しにして一直線に命を刈り取ろうとして来た。

 自分意外には荷が重いと判断したか率先して前に出る老騎士。

 

 卓越した技量で小さく素早い敵を食い止めるのだが、人形はそこで不思議な動きを見せる。まるで威嚇でもするように、強く地面を踏んづけたのだ。

 

「今更そんなのでビビるかよ」

 

 俺は援護に回り黒剣を振るう。ヴァニタスの強度は学習済みか、白金の戦士はここで初めて回避行動を見せた。一歩退いた相手へ逃がすかと間合いを詰めて。

 

「いかん!」

 

「えっ」

 

 ドンと背中を押される。驚愕に目を見開けば。何があったのか、そこには全身が血だらけになって崩れ落ちる老騎士の姿が。

 

(石じゃ。アイツ、さきほど浮遊島の地面を砕きおった)

 

 浮遊島は土地そのものに浮力が宿る。敵はその性質を利用し、老人の足元に時限爆弾を仕込んでいたのか。

 

 セリューくん達が慌てて助けに入るけれど、お爺さんは馬鹿者と声を張り上げた。心配している余裕はないだろうと。

 

「前を見ろ!」

 

「っは!?」

 

 白金の戦士は俺の剣をするりと避けて、背後の二人に狙いを変える。

 今度は遅れをとるまいと茶髪の騎士が前に出た。彼は折れた剣を投げ捨てて、奇妙な技を使う。魔盾とでも言うべきか。固めた魔力を左腕に展開してみせたのだ。

 

「うおお、セリュー頼んだぞ」

 

「任せろ!」

 

 激しい衝突だが拮抗すらしない。闘気による圧倒的な暴力は、容易くに盾を砕き。男は口から血を吹き出しながら崩れ落ちた。

 

 だが倒れる同僚に目もくれず、同じように盾を展開するセリューくん。目的は、そうか拘束。彼らは自分たちでは勝てぬと悟り、俺に繋げるための捨て石の道を選んだのである。

 

(お前さん)

 

「分かってるよ!」

 

 ぐしゃりと鈍い音と共に、紺髪の男も地へ伏せた。堅牢な檻でも縛れぬ暴力を、人間一人の手で止めるのはあまりに無茶だろうに。

 

 けれども嘆く間は無い。男達の執念は花開く。セリューくんは盾を砕かれながらも反撃していて。大人と子供のリーチの差により、わずかにだが騎士の攻撃が先に届いていた。

 

「暴力を見せてやる」

 

 相手は、ほん一瞬だけ両足が地から離れる。託された千載一遇の機会だ。たとえオリハルコンだろうと両断してやると、黒剣にバリバリと魔力を流し。

 

 無機質な金属に、ニヤリと笑われた気がした。

 まさかの計画的犯行。白金の戦士は闘気を漲らせ、すでに迎撃の姿勢を取っていた。俺は剣を振るのではなく、振らされるのだ。

 

「こんのヤロー!」

 

「――!!」 

 

 拳と刃。闘気と闘気。必殺同士がぶつかり合う。威力は互角か、銅鑼でも鳴らしたような派手な衝突音が響き、剣からはこれまで感じたことの無い強い反動が伝わってきた。

 

 共に弾かれるが、仰け反り踏ん張る。白金の戦士は次は砕くと言わんばかり、もう一度大きく右腕を振りかぶり。

 

 いいぜ、来やがれ。俺は歯を食いしばり、痺れる手をさらに強く握りしめる。ぶっ壊れるまで上げて行こうぜ。

 

「ツカサ、熱くなるな! 一旦引き離せ!」

 

 背後からイグニスの声がした。そうか、魔法使いは俺たちと敵が近すぎて迂闊に攻撃出来ないのである。

 

 いや、きっとこの金属人形は、それすら織り込み済みなのだろう。

 不思議なもので、表情はおろか声すら届かないというのに、合わせた拳から熟練の戦士の姿が想像出来たのだ。

 

「どのみち、もう退けないよ」

 

 互いにもう攻撃モーションに入っている。先ほどよりもっと鋭く重い拳がやってくる。

 俺は全神経を斬撃に注ぎ込み、天をも切り伏せるつもりで振り落とした。

 

「……おや?」

 

 黒剣は吸い込まれるように敵にぶち当たった。やはり両断は出来ないか、手にガツンと強い反動がある。

 

 これで斬れなければ、俺の頭がかち割れる予定だったのだけど。そうはならない。

 金属人形は、腕を振り上げた動作のままに機能を停止していたのだ。

 

 

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