ノーブレスオブルージュ~その唇は吐息をしない~   作:雨居神宮

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415 遅れて到着

 

 

 目の前には像があった。

 全身を王白金(オリハルコン)という希少素材で作られた人形の像。芸術的かと言われれば、造形にはやや首を捻る。金属の加工難度からか、体は角張り、まるでレンガでも積み重ねたような外見だ。

 

 しかしながら、その躍動感は素晴らしいものがある。

 腰を捻って大きく拳を振りかぶるさまは、次の瞬間にも殴り掛かって来そうな迫力であった。

 

 それもそのはず。コイツは、ほんの数秒前まで騎士団を相手に大立ち回りを演じていた。まさか死んだふりでは。半信半疑な俺は黒剣の先端でツンツンと金属兵を突く。

 

「動かない。なんで突然止まったんだろう……」

 

(さてな。魔力切れじゃろか?)

 

 戦いの最中だけに不完全燃焼な気持ちがあった。けれど今は助かったと思うべきなのだろう。この硬く四角い、鈍器のような拳で殴られていたと考えれば背筋が冷えるばかりだ。

 

 もはや動かぬ強敵を眺めていると「無事か!」という声と共に、背後に居た魔法使い達が駆けてくる。俺はいけねと慌てた。感傷に浸っている場合などではない。なにせ傍には、その凶器で殴られた人達が倒れているのだから。

 

「うわぁセリューくん死なないでー!」

 

「こらツカサ、怪我人を揺らすな!」

 

 奮闘した騎士達はなんとか息があった。重症ではあったけれど、直前に使用していた魔盾が少なからず緩衝材の役割を果たしたらしい。

 

 幸いにも調査隊は回復薬を持ち合わせていて、怪我はみるみるうちに治っていく。全快とまではいかないが、イグニスの見立てではもう命に別状はないそうだ。ほっと一安心と言ったところか。

 

「それで、これどうするんすか?」

 

「どうって……」

 

 危機を脱したとことで、魔導士団の一人が言った。俺たちはどうしようねと顔を見合わせる。

 

 金属兵士の処遇だ。壊したくても壊れない。しかし放置をして、また動き出したらと思うと怖い。なんとも扱いに困る呪いの人形だった。

 

「今はもう動かないはずさ。拠点に戻っても大丈夫だろう」

 

「今はって。また動く可能性があるって事?」

 

(次は儂やりたいのう。オリハルコンなんぞ両断したるぞ。カカカ) 

 

 ああ、と頷く赤髪の少女に、全員の視線が集まった。まだ顔色の悪いセリューくんが、判断材料を求めて根拠を問う。するとイグニスは、ピンと人差し指を立てて言った。

 

 石の戦士は金髪ドリルさんが魔力を注ぐことで動き出した。ならば、この人形には誰が魔力を注いだのか。

 

「むう。つまり、もう一組の冒険家か、まだ見ぬ者が?」

 

「その可能性も否定出来ませんが、私は別の要因だと考えます。ありますよね、皆さんが魔力を注いできたもの」

 

「あっ、魔法錠か!?」

 

 話が繋がったらしい魔導士団が悲鳴をあげる。なんと捜査隊が頑張って開いていた扉から、白金の戦士にエネルギーが供給されていたようだ。自ら首を絞めていたと知り、頭を抱える人がいた。開錠に苦労してたものね。

 

 そうと頷くイグニス。根拠としては、砂漠にあった足跡がコイツと一致するらしい。この人形は、俺たちが浮遊島に到着した時にはすでに動き出していたのだ。

 

 なのに到着に時間が掛かったのは、魔力が少なかったから。調査隊が活動していた昼に少し動いて、夜に止まるのを繰り返していたのだろうと。

 

「なるほど。今日は手当たり次第に扉を開けましたからね。魔力に余裕が出来てしまったと」

 

 紺髪の騎士は、魔女の推測に納得をしたらしい。他に動く要因も見当たらなかったのだろう。とりあえず、悪戯に魔力を注げないように土壁で覆ってから拠点に帰る。そう結論を出した。

 

 了解と、手早く魔導士団が白金の戦士を魔法で隠していく。俺は月光を怪しく反射するオリハルコンの像を見ながら、ふと思った。

 

「ねえイグニス。王白金って、どのくらいの価値があるの?」

 

「そうだねぇ。素材価値だけでも金の5倍くらい。大体は歴史的価値も付随するし、ランデレシアでは王白金製の短剣に金貨200枚の値がついた事もあるよ」

 

 さては聞き耳でも立てていたか。金貨200枚。その言葉が出た瞬間に、魔法使いたちの手がピクリと震えた。

 

 でもしょうがない。短剣でその値段ならば、この像にはいくらの値がと。俺も頭の中でついソロバンを弾いてしまう。一生お金には困らないだろうな。

 

「やった、欠片見っけー!」

 

「なんだって!?」

 

 さっきまで寝ていたはずの茶髪の騎士が、いつの間にか四つん這いになっていた。その手には宝物のように輝く小さな白金。

 

 思い返せば、黒剣で二度も傷をつけている。破片が散らばっていても不思議ではない。

 男が拾ったのは本当に小さな欠片。大した値段などはつくまいが、あると分かった瞬間に俺はしゃがみ込んでいた。

 

「ツカサ、私はこっちを探す。君は向こうを頼む」

 

「よしきた。ほらジグ、お前も探せ!」

 

(えーいやじゃー)

 

「くぅ無いっすね。俺も欲しい~」

 

 気付けばイグニスも魔導士団も加わり大捜索だった。

 その情けのない姿に老騎士は苦笑いし、セリューくんは頭を抱えている。てへ。でもお宝探すのって楽しいよね。

 

 

「お、戻ってきたな。無事で良かった」

 

「……ああ!」

 

 拠点に戻ると真っ先に狼少女が迎えてくれる。与えられた護衛の任務を忠実に果たしていたのだろう。

 

 他のみんなも心配していたのか、深夜だというのに眠らずに。いや、眠れずに待機をしていてくれた。ポケットにオリハルコンの欠片がある俺は、ややバツが悪く。大変だったよと、キリリとした顔で凱旋をした。

 

 イグニスや調査隊のみなも揃えて強敵だったと口にする。事実なのだが真面目なセリューくんは、何か言いたそうにこちらを見ていた。

 

「いや、すまないね。世話を見てもらっただけでなく、面倒まで押し付けてしまって」

 

「レルトンさん。良かった、起きたんですね」

 

 俺たちが戦いに行っている間に、昏倒していた教授も目を覚ましたらしい。状況はすでに把握済みだそうで、重く表情を曇らせていた。

 

 そしてコレをと。手の平に割れた透明な石を出して来た。どうやら、俺の斬ったモアイ像の中から見つけたようで、レルトンさんはその調査中に襲われたのだとか。

 

「イグニスくんに渡しておこう。恐らく魔法に関するので、私にはさっぱりだ。なにか彼らの正体に近づければいいのだが」

 

「確かにお預かりしました。さて、起きたばかりで悪いのですが、頭の調子はいかがでしょう」

 

「そりゃ絶好調さ。なにせとびきりの美人が看病してくれていたんでね」

 

 イケオジはフェミナさんへ向けてパチンと片目を瞬く。さては散々セクハラされたか、げんなりした顔の淫魔が俺の後ろに逃げてくる。

 

「ずっと口説かれたわ。私、魅了なんて使ってないのに~」

 

 ならまずは谷間を隠せ。そう思うのだが、真面目な話が始まりそうなので視線は前を向く。魔女に学者に教授。いよいよ空に訪れた切れ者達が一堂に会したのだ。

 

「今回の事で、だいぶ見えて来ましたね。あの人形たちは、地下にある魔法陣から魔力を供給していたようです」

 

「えっ、それはおかしいですわ」

 

 さきほどの結論を口にするイグニス。すると金髪ドリルさんが横から反応し、魔導士団の一人も、そうと乗っかった。

 

 分かっていると首を縦に振る魔女。おかしいのは力の流れらしい。わざわざ魔法陣から魔力を拝借するならば、普通は霊脈を使うのだそうだ。確かにシシアさんも、世界樹の魔力で魔法陣を維持していたか。

 

「つまり、霊脈が死んでいた。ここが空にあるからだね。更にはこれだけ大きな町を維持するには資源不足だ。それを魔力で補っていたならば、常に魔力不足だったことだろう」

 

「ふぅむ。そんな中で魔力を徴収する。税金ですか。魔力の格差社会だったのかも知れませんな」

 

 空に浮かんでいたから資源が足りず、結果として魔法大国として発展した。それが彼らの答えらしい。

 

 そしてニチャリと笑みを浮かべる魔女は言うのだ。まだあるかも知れないと。主語が抜けた言葉だが、学者と教授は強くうなずく。

 

「王白金の像が居た所が怪しいか」

 

「いやはや、ずっと探していたのですが。まさかこの町の外だとは」

 

 なんの事だと思えば、兵士の製造拠点のようだ。モアイのサイズは身長8メートルと、かなりデカい。そんな奴らを作り、格納していた場所があるはずなのだと。

 

 軍事施設。すなわち、人体実験の本拠地か。確かにそんな場所があれば、歴史の本丸に近いのだろう。しかし足跡を見つけたのは島の入り口付近。かなり遠かった。

 

「ちょっとちょっと、こりゃ何の騒ぎだい!?」

 

「おや、ちょうどいい所に」

 

 地図でもあればなと考えていたら。戦闘音に釣られたようだ。来た、最後の冒険家達が。

 

 

 

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