ノーブレスオブルージュ~その唇は吐息をしない~   作:雨居神宮

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416 地図を広げて

 

 

「ちょっとちょっと、こりゃ何の騒ぎだい!?」

 

 慌てた様子でキャンプ地に飛び込んでくる3人組。どうやら白金戦士との戦闘音を聞いて異常があったと判断したらしい。まぁ派手に魔法をぶっ放したので近くに居たのならば気が付くか。

 

 やって来たのは最後の冒険家。恰幅の良い女性をリーダーに大男と小男がメンバーの凸凹トリオである。これで浮遊島に来た人間が勢揃いしたことになった。

 

「確か、ペリペティアさんでしたね。ご安心を。一件落着した所です」

 

「そりゃよかった。事情くらいは説明してくれるんだろう?」

 

 もちろんと頷くセリューくんは、かくかくしかじかと手短に戦いの経緯を語った。

 敵が希少素材の塊である事は伏せていたが、魔法陣からエネルギーを集めているので、周囲の物に魔力を流すなと注意を添える。

 

 彼女達は道中のモアイを目撃しているのだろう。動くと聞いて、マジかと苦い顔をしていた。

 

 そして今度はこちらの番だ。学者のお爺さんが、なにか発見はあったかいと世間話でもするように探りを入れて。

 

「……ああ。アタシらは島を一周してきたけど、北側にも文明の名残があったんだよね」

 

「なんとっ!?」

 

 餌を垂らした女性は、あまりの食いつきにニンマリとほくそ笑む。いくらなんでもポーカーフェイスが下手すぎだろう。俺を見習って欲しいものである。

 

(そんな前のめりの姿勢でよう言ったものよ)

 

 ともかくだ。お爺さんは本当なのかと真偽を追求する。本当だと言い切る女性は、証拠と言わんばかりに大きな羊皮紙を取り出して、いくらで買うと歯を見せた。

 

「うわぁイグニスの予想大当たり」

 

「誰かはやるさ。必要だし、あるか分からないお宝を当てにするよりも堅実だからね」

 

 浮遊島の地図だ。調査隊が地下を探索している間にも、彼女たちが汗水惜しまず足を使って稼いだ情報である。今後も調査を続けるならば、計り知れない価値があるのだろう。

 

 でも、こうもあからさまに金銭を要求する姿を見ると俺はこう思ってしまう。

 

「なんかセコくない?」

 

「それも簡単。見つけたのは町の残骸だけで、他に新発見出来なかったんだろう」

 

「ああ……」

 

「おだまりガキ共。こちとら商売だっつーの」

 

 納得と頷くと、図星だったかキッと鋭く睨んできた。それで買わないのかと突き出される地図。学者は躊躇わずに購入するのだが、俺は横で額を聞いて吹き出す。金貨12枚。およそ60万円だ。高けえ。

 

 真面目騎士は値段交渉くらいしろと珍しく怒っていた。そうか、調査隊は国から派遣されているから、最終的な支払は税金なのだ。

 

 けれど上機嫌な女冒険家は、自分の仕事を誇るように吐き捨てる。アンタ良い買い物したぜ、と。

 

「ヒュー。なるほど、これは金額だけの価値があるようだ」

 

「確かに出来は良いようですが……」

 

 早速に地面に広げられた地図。その完成度はレルトン教授をして認め、セリューくんも唸るものだった。

 

 島の外形図には詳細に地形が書き込まれている。俺は指でなぞり道程を思い返すが、記憶の限りではかなり正確だ。流石に壁画のあった隠れ家までは発見していないようだけどね。

 

 でも一体どうやってと、作成方法を思案する。一番遅れてやっては来たものの、レルトン教授達とほぼ同着で。ここまで丁寧に島を調べている時間は無かったはずなのだ。

 

(そりゃあ、こう。じゃろ)

 

「あ、そうか」

 

 ジルグベインがふよふよと浮上して俺たちを俯瞰する。つまりは空撮ならぬ、空描。

女冒険家は浮遊島の持つ浮力を利用して上空から地形を探ったのだろう。頭良いな。

 

 すると思考を遮るように背後でカランと音がした。集中していたので何事だと思えば、メイドちゃんがトレーを落としたらしい。

 

 丸いお盆はコロコロと転がり、パタンと地図の上に倒れた。どうやら来たばかりの冒険家たちにお茶を出していたようだ。俺は拾いあげて、はいと手渡す。

 

「ありがとうございます。驚かせてごめんなさい」

 

「もう、しっかりなさいメイル」

 

「てへへ」

 

 メイドちゃんは皆さんもお茶をどうだと言ってくれて、ありがたく貰うことに。湯気立つカップを隣のイグニスに回すのだけど、声も届かぬくらい深く集中しているようだった。

 

「むむむ。北の町か。個人的には凄く興味がありますね……」

 

「しかし、この町もまだ調査の途中ですよエルデムさん」

 

 みんなで地図を眺めていると、優柔不断なことを言いだす学者に助手くんが呆れていた。さもありなん。さきほどまで白金戦士の居た場所を突き止めようと言っていたばかりだ。

 

 俺もあの戦士には興味がある。というか闘気法を見せられたら無視は出来まい。

 奴の足跡を見つけた場所は砂漠でも少し西よりのはず。この辺りかなと地図を目で追う。やはり情報が視覚化されていると分かりやすいのだけど、近くに目立った建物はなさそうだった。

 

「ふむ。レチスコ山脈と接している部分は、みなが浮遊島に入島した場所だ。そこから各々が別方向に散っているのだし、巨大建築を見落としたとは考えづらいだろう」

 

(確かにモアイが収まる大きさなら目立つわな)

 

 考えを見透かすようにレルトン教授が意見をくれる。思えば、俺たちは誰も進んでいない道を選んだ。金髪ドリルさんも含めれば、入り口から全方向を捜索したことになるではないか。

 

 ならば基地はどこに。その答えを考え込んでいると、教授は無邪気な笑顔で「だからここだよ」と砂漠を指で叩いた。

 

 俺は分かりたくなかった。けれど悲しきかな。普段から隣に無茶を言う奴が居るので、発言の意図をすぐに理解してしまう。

 

「レルトンさん、もしかして砂漠の下に埋まってるって言ってます?」

 

「そうとも。調査隊の魔力で動き出したならば、逆算すればおおよその行動範囲が分かる。

君たちの発見した足跡を考えると、その付近から活動を開始しているはずだ」

 

 意外や理詰め。いや、だからってさ。言っている事が当たっていたとして、砂漠の下に埋まる建物をどう探せと。

 

 狼少女も同じこと思ったのだろう。教授の相棒ペルロさんに、「いつもこうか?」と聞いていた。猟犬は「そうなんだよ」とこぼし、とても悲しんでいた。

 

「さすがに砂漠の下を探すのは現実的では無いというか。どう探す気なんですか?」

 

「そうですわ。魔法を使っても、どれだけの日数が掛かるか分かりませんことよ」

 

 俺はすっかり調査する気になっている教授を諭そうとした。金髪ドリルさんも加勢してくれて、酷使されるのがみえみえな魔導士団がそうだ止めろと応援してくる。

 

 イケオジは顎髭を擦りながらむぅと頭を捻るのだが、面白いと賛成する馬鹿がもう一人。困ったことに学者のお爺さんだった。

 

「多分いけますね、はい」

 

 そりゃ正攻法で砂漠を掘るのは無理だろう。けれどここは浮遊島。ならば、風呂のお湯を抜くように。砂時計の砂を落とすように、全部下に流してしまえばいいのだと。

 

 おお、クレイジー。浮遊島の下には、すぐそばにラシアスの町があるのだけど。俺でも思いつく二次被害を考えないようだ。

 

 握手をする教授と学者。まさか本当に砂漠の砂を抜いちゃいました、する気なのだろうか。そこで気付く。こんな話題に真っ先に加わりそうな奴が、妙に静かだなと。

 

「ねぇイグニスはどう思う?」

 

「ん……ああ、私も砂漠の下が怪しいと思う。思うんだけど、なぜそんな場所にあるのかが気になってね」

 

 早くから基地の場所を想定していた魔女は言う。モアイの巨体から、建てるならば町の外周付近が妥当だろうと。だが地図を見ればどうか。砂漠は町からあまりに離れすぎていた。

 

「けれど、こうするとどうだい」

 

 イグニスはメイドちゃんからトレーを奪い、先ほどのように地図に重ねた。円の縁には、ちょうどこの町と北の町が重なる。すると、砂漠はいい感じの場所に収まるではないか。

 

「えっ。つまり二つの町ではなく、元は一つの巨大都市だったと」

 

「……そう考えると辻褄が合うよな」

 

 

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