ノーブレスオブルージュ~その唇は吐息をしない~ 作:雨居神宮
カカカ流、開けゴマ。別名ライダーキックは巨大な石扉をこじ開けた。
吹き飛ぶ破片が砂埃を舞い上げる。背中の少女たちが急になにをするとボカボカ叩いてくる。俺はそのどれも気にならず、門内の景色に「当たり」とほくそ笑んだ。
時代を感じる石造りの建築は、城のように飾るわけでもなく、ただ武骨。
外からでも分かったけれど、建物は大きく、近くから見れば、さながらに要塞のようだった。
モアイ戦士の背丈の都合だろうか、入口も天井も高い。まるで巨人の住まいにでも迷い込んだようなスケール感がある。まず軍事基地と見て間違いない。
「よっしゃ入口もぶち破るか」
「こらこら。後ろも気にしてあげなさい」
勢いのまま進もうとしたら止められてしまう。背中から飛び降りたイグニスは、すぐさまに魔法の詠唱を始めて。なにをするのかと思えば、調査隊が門を潜ると同時に火壁で塞いだ。
溶岩のような燃える土が魔獣の追従を断つのだけど。俺はあの魔法を見るたびに思う。燃えている必要あるのかな。
「ふう。なんとか切り抜けましたか。まったくエルデムさんには困ったものです」
「お前もな、レルトン」
学者はセリューくんの背でテヘペロしていた。
古代魔法のせいでうっかりピンチに陥った俺たちだが、流石は騎士団と魔導士団といったところか。この程度は朝飯前と言わんばかりにケロリとして敷地内を見回している。
「しかし砂が少ないな。とても砂漠に埋まっていたとは思えない」
「そういえばそうですね」
地面に投げ捨てられていたレルトンさんが言う。潰れたカエルのような格好はともかく、目の付け所はシャープだ。確かに、ここが塀で囲まれた場所ならば、周りの砂が抜けても中には残っているはず。
一瞬だけ理由を考え込むが、狼少女が行かないのかと先を促してきた。一理ある。ここまで来て、入口で立ち止まっているのも馬鹿らしいか。
「けど、そういうのは背中から降りて言えよ」
「……ちぇ」
舌打ちするリュカは名残惜しそうに俺の背を離れた。
どうやら、他の人も不調は落ち着いたようで、もう平気ですわと声が聞こえてくる。
全員の顔色を見渡した紺髪の騎士が、では進もうと言った。その言葉を聞いた学者は、待ってましたとばかり好奇心に目を輝かせ、女冒険家はお宝あるかなと舌舐めずりをする。
「じゃあ行きますよ」
俺は8メートルくらいある巨大な扉の前に立つ。門と同じく力技でこじ開けのだ。とはいえ、重量はかなりあるだろう。魔力を滾らせて、相撲でも取るように勢いよく扉へぶつかり。
(なあお前さん。ふと思ったんじゃが、普通は引かん?)
「だから、そういう事は……」
先に言ってよね。触れる瞬間にジグが言うが、時すでに遅し。
全力のぶちかましによりバキリという音が響く。しかも、なんと大扉には人用の小扉が付いていたらしい。
俺は小扉もろともにドンガラガッシャンと建物の中へと倒れこみ。舞い立つ埃にゲホゲホと咽た。
「まったく、何やってるんだい君は」
「孔明の罠だった」
(勝手に引っ掛かっておいて、よう言うわ)
イグニスが大丈夫かと明かりを向けてくる。うんと体を起こせば、手にツルツルした固いものが触れていた。これは一体。そう思い持ち上げてみると、豚の頭蓋骨であった。いや、薄く皮膚が残っているのでミイラという方が適切か。
……ミイラ?
「きゃ~!?」
俺は乙女の様な悲鳴を上げて、後頭部を放り投げてしまう。助手くんが遺体になんて事をと怒りながらナイスキャッチをしてくれた。いや、悪いとは思うのだが心臓に悪すぎる。
「これは
「まぁ、そういう事だろうねぇ」
助手くんの言葉にレルトンさんが相槌を打つ。扉の前で立ち尽くす彼らには、なにが見えているのやら。いやだなぁと思いつつ、室内を光球で照らしながら見渡す。
ひっと息を飲んだ。そこには布の塊が床一面に敷き詰められ並べられていたのだ。
中身など考えるまでも無い。地下シェルターで見かけないはずだ。遺体は全てここに集められていたのである。ふと添えられた枯草を見つけ、もしや花かと目を細めた。
「恐らくは、あの人形の仕業かな。滅びゆく街を一人で看取ったんだね」
「ですね、はい。他の像に動いた形跡がありません。彼は上位権限を持った個体として、最後まで活動していたのでしょう」
壁際には綺麗なモアイ戦士が数体鎮座している。さすがに希少金属の戦士を量産は出来なかったようだ。
光球の明かりをこれ幸いと、部屋の中に入ってくる皆。けれど、俺は並ぶミイラを見ながら思った。彼が、あの白金の戦士が荒ぶっていた理由。それはここで静かに眠る者達を暴かれたくなかったのではと。
墓荒らし。どんな言い訳をしようと変わらない事実に、俺はごめんなさいと祈りを捧げた。
「にしても、遺体を埋めない理由はなんだ。土が浮いてしまうという理由ならば、このような弔い方はしまい」
「単純に風習が違うという可能性はありませんか。いまでこそ火葬が主流ですが、昔は土葬だったと聞きますし」
レルトンさんは歴史学が専攻だけあり、風俗に興味を持ったらしい。聖職者である助手くんを捕まえて、埋葬方法について語り合っている。
「すんげーですわー! この像が魔法で動く理論を解き明かせば、すんげーですわー!」
「むう。私も実際に動く所を見たいですね。しかし、高度な金属の加工技術を持ちながら、なぜあえて石なのか……」
金髪ドリルさんと学者は、完全体のモアイに大興奮だった。奥には製作技術も残っているかもと鼻息が荒い。
「アタシらの勝手さね。別に仲良く団体行動する必要は無いだろう?」
「傍にいてくれた方が守り易くはなるのだが……」
「いえ、彼女たちは冒険家です。成果を上げてくれるならば、言う事はありません」
そして奥では少し揉めている。女冒険家たちが勝手に進もうとしたのを老騎士が見咎めたようだ。リーダーとして真面目騎士が仲裁に入り、3人は手を振りながら基地の奥へと消えていく。
「オレたちはどうすんだ?」
「そりゃあ……」
ギュっと裾を握られたのが分かった。振り返れば、薄緑髪の女性がしかめっ面で。けれども気丈に俺を睨んでいる。そうだね。ミイラ達には悪いけれど、もう止まれないよね。
「セリューくん、ごめんなさい。俺たちもちょっと別行動をします」
「その方が効率も良いでしょう。後で情報共有だけはしますので」
「了解しました。ご武運を」
調査隊の目的はあくまで国の利益。対しこちらはフェミナさんの一族の過去だ。歴史を解き明かすという共通の目的で利害が一致していたがゴールは違う。広く深い闇に向かう俺たちをセリューくんは止めなかった。
「でもさ、イグニス。場所は分かってるの?」
(そこ大事よなー)
あえて主語を抜いて話す。手帳が宝の地図だと言った魔女は、まだだと大袈裟に肩を竦めるが、けれど分かることもあると言う。
「ここは当たりだ。石人形の製造工場まで兼ねているぞ」
すでに女冒険家たちが通った後か。開かれた扉の奥には、組み立てられている途中のモアイがあった。完成品には興味を抱かなかったイグニスだが、どうしてしげしげと部品を観察し始める。
「おい、お前いまなにを隠した?」
「えっ。いや、ちょっと綺麗な石だな~と思って~?」
(カカカ。性根は変わらんようじゃな)
リュカがフェミナさんの手を捻れば、小箱に入れられた宝石が出てきた。俺が逞しさに呆れていると、それだとイグニスが食いつく。思い出した。レルトンさんがモアイの中にあったと言っていた石と同じ物なのだ。
「それ何か分かったの?」
「ああ。というか、最初から検討は付いていたけどね」
その後、幾つかの部屋を捜索し。ある物を見つけた時に、これが正体だと魔女が言った。
いかにも実験台らしき上に乗っかっているのは、綺麗な結晶だった。けれど吐き気を催す代物だった。
「なによこれ」
「こんなものが、石像を動かしていた正体だって」
まるで針金で作った人形のようなアート。あるいは人体の血管だけを忠実に再現した模型。随分と前衛的な芸術である。否。現実を見ろ。右胸がくり貫かれている。これは、つまり。
「そう、結晶化した霊脈。つまり人間の魔石さ」