ノーブレスオブルージュ~その唇は吐息をしない~   作:雨居神宮

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455 帰り道の出来事

 

 

「遅刻したうえに、なんか大事になっちゃってごめんね」

 

「そんな。俺はみんなの無事な顔を見れただけでも嬉しいよ」

 

 なにせ、再びあの三大天と戦ったと言うではないか。全員が揃っているのが奇跡のように思えた。限りない本心を伝えれば、金髪の少女は、はにかみながら「私も会いたかった」と言ってくれた。

 

 そしてお土産だと渡される大きなズタ袋。受け取れば、腕の中でジャリと崩れる感触に、まさかと思い中を覗き込む。やはり日本人のソウルフード、お米であった。俺の好物だと覚えていてくれたんだね。

 

「ありがとう。フィーネちゃん大好き!」

 

「だ、だいっ!?……にゅふ、にゅふふふ」

 

(あぁいけませんね。これは貢ぐ味を覚えた雌犬の顔ですよ奥さん)

 

 勇者とゆっくり話せるのは、もっと遅い時間になってからだと思っていた。

 けれど、俺たちはあっさりと大使館に通されて、今は例のごとくフィーネちゃんの部屋に集合していたりする。

 

 会席に次ぐ会席を想像していたので軽く拍子抜けだ。すると魔女は俺の考えを見透かすように、当然だよと言って肩を竦めた。

 

「あの船の数だ。搭乗人数も物凄いぞ。その衣食住の用意となれば、いまごろ街中が大混乱だろうさ」

 

「そうね。迎える側の気持ちを想像すると同情しかないわ」

 

 船団の数は全部で17隻。シュバール8隻と他3国から3隻づつらしい。確かに大人数だ。急にその分の宿や食事の用意をしろと言われれば、大人は宴会どころではないのである。イグニスとティアの令嬢組は、自分だったらと考えてげんなりとして。

 

「ところで一つ聞いていいかしら。そこの美少年ちゃんはどちら様?」 

 

「ああ。なんか当然のように居るから俺も気になってたんだ」

 

 僧侶の質問を皮切りに、皆の視線が一か所へと集まった。俺の横で良い子におすわりしていたリュカは、やっと聞いてくれたかと鼻息荒く名乗りを挙げる。そういえば紹介がまだだったね。

 

「簡単に言えば、大森林で拾ったんです」

 

「いくらなんでも端折りすぎだろ! あと、オレは女だし!」

 

「ありゃ。ごめんよリュカちゃん~」

 

 早速カノンさんのお玩具にされる狼少女。抱き着かれ、止めろと暴れるが、怪力の前では全てが無意味であった。

 

 緩みつつある空気に、勇者がまずは真面目な話をしようと手を打ちつける。

 僧侶は「はぁい」と素直に止まるのだが、すると目立つのがイグニスだ。いつの間に用意をしたのやら脇に樽を抱えていた。僅かに漏れるアルコール臭から中身は聞くまでもないだろう。

 

「私の話を聞いていましたか?」

 

「ああ、話をするんだろう。飲み物くらいは必要だと思って気を利かせたつもりだ」

 

「確かに、軽くなら悪くないわね。……って、これ火酒なのだわ!?」

 

 ほれとグラスへ注がれる酒にフィーネちゃんは頭を抱え。そして思い出したぞと、火竜が住まう土地でのエルツィオーネ家の振る舞いに抗議する。内容は軽く聞いただけでも酷いものであった。

 

(カカカ。赤い人伝説と来たか)

 

 勇者は睨みを利かせながら、もうしないでねと魔女に釘を刺した。赤い瞳は視線を宙に彷徨わせながら、俺にでも分かるテキトウな返事をする。コイツ、絶対やりやがる。誰もがそう思ったはずだ。

 

「はぁ。もういいよ。ちょうど話も、そのアリファン諸島でのことだしね」

 

「え。目的だった、サラマンダーの加護は無事に貰えたの?」

 

 心配をすれば、フィーネちゃんは、そこは大丈夫と頷いた。手が無造作に掲げられ、親指と人差し指の間にバチバチと電気を流して見せてくれる。

 

 赤鬼との戦いでは封印させられていた雷属性の解放。当初の目論見の通りに、強すぎる水精の力を火精により中和出来たらしい。

 

 だが、問題の三大天と出会ったのは、その帰り道の出来事だったそうだ。 

 

「私たちを先回りするように現れたのは【泡沫】のモア。魔王殺しの元英雄だね」

 

 シュバールの時のように怪鳥に乗って現れたモアは、勇者一行をまだ何も無い島へ誘ったという。アリファン諸島の周辺は海底火山の影響で、そんな土地が多いそうだ。正直、言葉だけではあまり想像が出来なかった。

 

「鎧さん、か」

 

 ゴブリンの繁殖爆発事件で会ったきりの鎧の男。彼からは悪の気配を感じなかったので、魔王軍の大幹部と知った時は驚いたものだ。少なくとも赤鬼と同格の敵。本当に、良くぞ全員で帰ってきてくれたものだと思う。

 

「まぁ相手が本気だったら全滅だったぜ。なにせマキナを相殺されてるしな」

 

「相殺って、あの力をかよ……」

 

(しょせんは大きな魔力じゃしな。儂とて何度も撃ち込まれとるぞ、カカカ)

 

 話が拗れるので魔王は少し黙っていろ。

 デウス・エクス・マキナは勇者が使える最強能力である。その力には上限が無く、特異点さえも破壊出来る人類の希望で。

 

 剣士の話では、フィーネちゃんは出会い頭にぶちかましたらしい。

 遠慮なく放てる場所というのもあったのだろうが、えげつない話だ。しかし平然と打ち破るのが、魔王をも殺す実力者であり。

 

「流石だよね。だから戦いになる前に私は聞いたの。人類の英雄が、なんで魔王の味方をするのかって。彼はこう答えたよ」

 

『無論、終わりなき物語の幕を閉じるためだ。ああ、お前はまだ、そんな事も知らんのか』

 

 意味は分からないが、その言葉に嘘は無く。男に確固たる信念を感じたという。

 モアは実力差を見せつけるように勇者一行を叩きのめし、フィーネちゃんに責務を自覚しろと言い残して去っていったらしい。

 

 この接触が大船団を率いる由来に繋がるのだとか。

 すでに活発に動いている魔王軍。再び大陸が攻め込まれる前に、魔大陸と隣接するクリアム公国に防波堤を築き、支援するべく集結してくれたと。

 

「ナハルさん、本気だったんだね」

 

「凄いわよね。被害にあったから一番痛みは理解しているんでしょうけど、即行動を起こせるのは感心するわ」

 

 僧侶がただの尻好きでは無かったと頷いている。いや、尻好きではあると思うな。

 

 勇者一行はそんなナハルさんに協力し、各国の首脳陣と対話を重ねてきた。

 もちろん一筋縄では行かない国もあったり、ハーフェンという国では特異点の開放もしてきたそうな。

 

 だから予定より遅れてしまったと、改めて頭を下げられてしまう。

 こちらはたかだか三日待っただけなので、大袈裟だよと笑い飛ばせば。ティアが黄色い瞳を真ん丸にさせて首を傾げた。

 

「三日って、それはおかしくないかしら?」

 

「あっ、このバカ!」

 

 失言に気づき、慌てて口を塞いだ。これでは自分も遅刻しましたと言っているようなものなのだ。俺はウフフと微笑み、無難に会話を打ち切ろうとする。

 

 だがフィーネちゃんが濁った瞳で、アゴをクイと動かす。瞬間、よいせと俺とイグニスの間に割り込んでくる僧侶の姿。

 

 青髪ポニテのお姉さんは、逃がさぬとばかり俺たちと肩を組むや、「ちょっとお話しようぜ」とドスの聞いた声を響かせた。

 

「そうだね。こっちの話は切りが良いし、今度はツカサくんたちのお話を聞かせてよ」

 

 勇者様は目が据わっておられた。さながら、少しの嘘も見逃さんと言わんばかりだ。

 黙秘権の行使はできまい。俺は余計なことを言わないうちに、魔女に目配せでバトンを渡す。

 

「多少遅刻したことは認めよう。だが、私たちも遊んでいた訳じゃない。大森林ではエルフとの確執を解消してきたし、すでにクリアム公国での人脈も作ってきた」

 

 物は言いようである。遅刻を認めたうえで、ちゃんと勇者一行として活動していましたと報告をする。「悪意は感じるけれど」と眉をしかめるフィーネちゃんではあるが、発言に嘘が無いことは分かってくれたようだ。

 

 これはいけるか。お叱りは最小限で済みそうだと気を抜いた途端に、けれど横から否定の声が聞こえてくる。

 

「ニャハハ。足りないだろツカサー。ベルモアと浮遊島での活躍も聞かせてやれよー!」

 

「ベルモアに浮遊島って、テメェらなぁ……」

 

 ああ、なんてこと。リュカちゃんは懲りずに酒を飲み、すっかり出来上がっていた。

 そして上機嫌に武勇伝をお漏らししてくれて。へぇと頷く勇者は有罪の二文字を俺たちに突き付けるのだった。

 

 

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