ノーブレスオブルージュ~その唇は吐息をしない~   作:雨居神宮

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456 罰ゲーム

 

 

 酒に酔ったリュカが言わなくてもよい冒険譚をペラペラと喋る。

 自慢話のつもりなのだろうが、それは困ったことに俺たちが寄り道をしていた証拠。勇者の瞳からはじょじょに光が消え失せていく。

 

「ふぅん。大冒険だね?」

 

「いやぁフィーネ。これはな……」

 

 せっかくの言い訳をしていた魔女は、ソイツを黙らせろとばかり赤い瞳で訴えてきた。

 任せろ。悪いのはこの口かと、俺は狼少女の頬を引っ張ろうとして。だが、同時にぬっと動くカノンさん。

 

「……!!」

 

 無言に机の上に置かれた酒瓶を手にしたのである。

 瞬間、瓶の底が音も立てずに落下した。青髪ポニテのお姉さんは零れる液体を豪快に口で受け止めている。

 

 その切り口を作る手は、まさしく手刀と呼ぶに相応しい。俺は浮きかけた腰を静かに下ろし直した。やだなぁ、抵抗なんてしませんよ。ははは。

 

「で、ベルモアに行ったツカサはどうしたんだ?」

 

「それがにゃー。猫耳を触りたかったみたいで、親分の子供に手を出してさ」

 

 ヴァンが失笑しながら続きを促す。このままでは狼少女は全部を暴露してしまうのだろう。にゃーにゃーうるせえぞこの駄犬が。実はイグニスにも隠している部分があるので、あまり語られると本当に不味いのである。

 

(マタタビを使って子猫ハーレムを作ろうとした事とかか?)

 

 そうだよ。俺がアババと慌てていれば、呆れた様子の雪女が「どう思う?」とフィーネちゃんにお伺いを立てた。金髪碧眼の少女が出した結論は、躊躇なくギルティであったとさ。

 

「んーでもな。誤魔化そうとした点は気に入らないけど、実害が無いか。むしろ到着は私たちの方が遅れてるわけだしね」

 

「けれど詳しく聞けば絶対にもっとボロが出るわよ」

 

「おう。とりあえず全部吐かせようぜ。今日の肴はこれで決まりだ」

 

 肴という言葉に反応して、勇者は「それだ」と剣士を指差した。どれだと思えば、罰として一発芸を披露しろとのことだった。なるほど、扱いとしては罰ゲーム。とても有情な沙汰であろう。

 

 そりゃ良いと場は大盛り上がり。しかし急にやれと言われても困るのもので。出来れば別のことでとお願いをすれば、こう言われた。命令まではしたくないな、と。

 

「やれるよね?」

 

「はい」 

 

(押しに弱ーい!)

 

 くぅ、これがパワハラなのね。すでにワクワクしている美少女の期待を断れなかった。

 一体どうすればと窮していれば、横からは「なんだ、そんな事でいいのか」と声がする。

 

「ま、まさか。持っているのか、一発芸を!?」

 

「ふっ当然だろ。貴族令嬢の嗜みさ」

 

(なんでさ)

 

 知らなかった。貴族令嬢というのは酒の席を盛り上げる作法までも習得しているそうだ。俺がイグニスを尊敬の眼差しで見つめれば、ティアがいやいやと渋い顔で首を横に振っていた。

 

 とにかく先鋒は決まりである。お手並み拝見といこう。

 魔女は髪を紐でまとめながら、「これをやるのも久しぶりだな」と余裕すら漂わせて開けた空間へと移動していく。

 

「あの態度、そうとう自信ありそうなのだわ」

 

「どうかな。この場で利き酒とかやられてもしらけるぜ」

 

 意外や仲良しパーティーでも互いの手の内は知らないようだった。真面目な話も終わった後なので、酒は一気に進み、空気は半ば宴会状態。貴族令嬢にこの雰囲気を盛り上げられる芸はあるのかと、俺が人知れず固唾を飲むなかでイグニスが動き出す。

 

「ほいほいほい」

 

「おっ、おお」

 

 初手は火球のお手玉であった。薄暗い室内で燃え盛る球が宙を飛び交うのは単純に映える。なにより驚異的なのが、地味に魔法として難易度が高いことだろうか。

 

 球シリーズは下級魔法であり形状変化の入門編。しかし、それを5つも同時に作り出して、あまつさえお手玉するなど、初心者の俺には狂気の沙汰だった。

 

「さらに!」

 

「ええ!?」

 

 イグニスはお手玉していた火球を天井すれすれの高さまで投げ上げると、飛ばしたポップコーンを口で受け止めるように、パクリと食べてしまったのである。膨らむ頬が炎で透けて、さながら間接照明の如しだ。

 

「どうなってるの、熱くないのソレ!?」

 

 これには勇者も大興奮。だが落ち着けとばかりに魔女は手で抑える。どうやら続きがあるようだった。

 

「フン!」

 

「うふっ」

 

「ぬふふ!」

 

 力みながら嚥下された炎は、あろうことか彼女の両耳から噴出されたのである。

 そうはならんやろ。しかし、そう思わせる為に敢えての耳。油断していた俺たちは、変なところから噴き出す火に大爆笑してしまった。

 

「お粗末でした」

 

(カカカ。興が乗ってきた。儂も芸を披露したいところじゃな)

 

「お前は黙ってろ」

 

 さすがはイグニスだ。普通に凄かったし面白かった。

 ただ問題があるとすれば、次にやるハードルが一気に上がったということだろう。皆の期待の眼差しを受けながら、俺はどうしたらと部屋を見渡し。希望を見つけだしてしまった。

 

「ふう。じゃあ、いっちょお見せましょうかね」 

 

「……待った。待った待った、貴方は何を見せるつもりなのよ!」

 

 俺が上半身の服を脱ぎ、腹筋を晒すと顔を赤くした雪女から物言いが入る。もちろん一発芸ですがなにか。

 

 そう、見つけたのは米の入ったズタ袋。ズタ袋といえば、全裸だろう。あの窮地で編み出された妙技をお披露目しようと思ったのだ。

 

 ズボンを脱ぐころにはイグニスも騒ぎ出すのだが、二人まとめて僧侶に黙らされていた。逆にカノンさんの目が真剣すぎて少し怖い。

 

「一応言っとくが、ティアに汚いものを見せるんじゃねえぞ」

 

「そこは安心してください」

 

 いよいよパンツ一丁になった俺は、縁に手をかけスススと鼠径部までずり下げる。

 勇者はひゃあと顔を両手で覆うも、目は隠せていない。さて、緊張の一瞬だ。光るタイミングが早ければ興醒め、しかし遅れれば露出狂。

 

 俺は局部に魔力を滾らせながら、極限まで集中力を高め。ここだぁ!

 パンツからブルンとはみ出す直前に、自主規制による謎の光が股間を覆いつくす。

 

「大丈夫です、見えません!」

 

「「ギャハハハハ!!」」

 

 ヴァンとカノンさんには大受けであった。令嬢の二人は、光以前に直視が出来ぬようだが、肝心の勇者はと言えば。眩しいのだろうか。もの凄く目を細めて睨んでいる。

 

(いや、あれはモザイクを貫通しようとするスケベな目じゃな)

 

 ジグの以前に見たことがあるような口ぶりに、俺は深くは突っ込まなかった。お目汚ししましたと、そそくさパンツを履く。

 

 席に戻れば「バカなのは知っていたけど、ここまでだとは」そう言いながらヴァンが絡んで来た。ちなみに騒ぎの元凶であるリュカちゃんはすでに夢の中のようだ。

 

「そうだ。俺、フィーネちゃんに謝らないといけないことがあるんだけどさ」

 

「えっ、まだあるの!?」

 

 俺たちの一発芸を皮切りに宴会は本格化した。互いの時間を埋め合うように冒険譚を語り合い、知らぬ一面を見せるように隠し芸を披露して。それはとても楽しい時間だった。

 

 けれど、皆が集まる今だからこそ、言わなければいけない事もある。ツカサ・サガミが勇者一行を名乗るのであれば当然の義務だろう。

 

「実はシェンロウに招かれているんだ。もし皆が魔大陸に直行するなら、少し遅れることになると思う」

 

「招かれてるって、ダングスの枢機卿じゃないの!?」

 

 フェヌア教の僧侶は紹介状を見て、いまにもひっくり返りそうであった。

 当然に次に続く言葉は、「なんでよ」であり。俺は勇者への説明も兼ねて経緯をみんなの前で話す。

 

「うん。事情は分かりました。それじゃあせっかくだし、みんなで行っちゃおうか。シェンロウ聖国!」

 

「いいの?」

 

「私もちょうど三教に聞いてみたい事があったんだよね」

 

 勇者はそう言い、パチンとウインクをしてくれた。

 目の前にスッと伸ばされるグラス。見れば剣士が「楽しい旅になりそうだな」と不敵に笑っていて。カロンとグラスをぶつければ、続々と杯が当たってくる。

 

「良かったね」

 

 イグニスの湿った言葉に強く頷く。なんて心強い仲間たちだろう。だが、そう思っていたら、雪女が机をバンバンと叩きながら吠えた。

 

「そろそろ服を着たらどうかしら!」

 

「おっと、いけない」

 

 けれどズボンを拾いにいったところでアンコールが響く。今夜は長くなりそうである。フォー!

 

 

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