ノーブレスオブルージュ~その唇は吐息をしない~ 作:雨居神宮
懺悔とは名ばかりの体罰を受けていると、話は急に真面目な方向へ進んで行った。
俺はジンジン痛む尻を抑えながら、マルルさんの言葉に耳を傾ける。浅葱色の髪をしたお姉さんは、聖女が最後の天啓を受けたと教えてくれて。
「その内容が問題でね。どうにもツカサ・サガミが原因で、国に壊滅的な被害が出るそうなんだ」
「……へぇ。許せませんね、そのツカサ・サガミって奴」
「アンタのことでしょうが!」
ノリ良くつっこんで来れるのは青髪ポニテのお姉さん。はい、そうですね。
聖女様が何故あのとき驚いた表情をしていたのか納得である。大聖堂に居る時に聞かされなかったのは、きっと配慮なのだろう。
「でも、私はツカサくんが進んで人を害することは無いと思うんだよね。あっても事故じゃないかな」
「そうよね。イグニスならともかく」
「お前さては喧嘩を売っているな?」
流れ弾を飛ばしたティアに、赤髪の少女は「オオン?」と睨みつけるけれど、悲しきかな庇うものは誰もいない。むしろウンウンと頷く頭の方が多い。これが日頃の行いというやつである。
しかし、未来では珍しく俺がやらかすようだ。
これでも知性派純情少年で売るツカサくん。自発的に悪事は働かないと思うのだが。さては魔王の暴力に頼る展開でも訪れるのだろうか。
(もしや、占い師が言っていた件かのう)
「それもあったね。大事な人を失うとか言われったけ」
「「大事な人か……私だろうなぁ」」
言葉が重なり、「は?」「あ?」とバチバチ視線を重ねる勇者に魔女。そんな二人を無視するように、リュカがなんの話かと聞いてきた。
偶然にも本日は二度も未来を予想されていて、占い師には将来全てを失うとまで言われているのだ。どちらも良くない予報で辟易してしまう。
「また俺が何かやってしまうらしい」
「いつものことじゃねえか。お前がいちいち気にしてたらハゲるぞ」
「おだまり」
冗談の分からない狼少女に関節技をかけながら、俺の明日は一体どっちだと眉を寄せて考える。
するとフィーネちゃんが、「ふざけるのはそこまで」とパンと手を打ち。それでねと話を纏めた。どうやら既にこれからの方針を話し合っていたらしい。
「私たちで悪魔を討とうと思います。手柄があれば、国からの印象も変わるんじゃないかなって」
当然に俺のイメージ回復のためだけに言っているわけではないようだ。
今回の事件も被害で言えば大きなもの。悪魔をこれ以上野放しにするのは危険だし、なにより好機であると。
「……まぁ、確かに私たちにとってはそうだな。奴は聖遺物を手に入れる為に、かなり手札を切った。今が一番手薄と言えるかも知れない」
勇者の意見を肯定する魔女。しかし騎士団が動けるかというと微妙なところだとか。
なにせ、近場には悪魔の他にもモアが居る。どうしても教皇の住まう城の警備を固めないといけないのだった。
だからこそ自由に動ける自分たちの出番。金髪の少女は任せろとばかりに胸を叩いた。
なるほど。遊撃に回れる戦力としては、勇者一行ほど頼もしい存在はあるまい。俺としても異論はなく、むしろ賛成である。
「よっしゃ、あのパチモンをぶっ飛ばすぜ。……それで、悪魔は何処に居るの?」
「バーカ、それが分かりゃ苦労しねーよ」
ヴァンがやれやれと肩を竦めてみせた。
そうなのだ。敵はかなりの慎重派。モアに伝えられて存在を知ったものの、今日まで尻尾すら見えず。最後の最後にやっと面を拝めたところだった。居場所の情報など、あろうはずも無い
「じゃあ、探すところからふりだしか」
「私はあんがい、事態はすぐに動くと思うのだわ」
イグニスよろしくピンと指を立てる雪女。ほほうと皆の視線を集めるや、少し得意気な顔で、目的の物をモアが持つ以上、悪魔は誘いにのるしかないのだと言う。近いうちに衝突必至と聞き、まぁそうなるかと頷いた。
「とんでもねえ休暇になったもんだな。チャッチャと片付けて、みんなで遊びにでも行こうぜ」
珍しく若竹髪の少年がそんな事を呟いた。
最初は目的も無く、暇を持て余し気味だったシェンロウ聖国。しかしモアの訪れを知り、悪魔の話を聞き。気付けばこんな大事態に転がっている。
「そういえば、俺まだ温泉街に行ってないや」
「やっべ、私もだ。すっかり忘れるところだったわ」
ヴァンは偶には良いこと言うとカノンさんに絡まれて、鬱陶しそうに跳ね除けた。
平穏が恋しいのは皆同じか、いいねと頷き意見に賛同している。目下の敵は、モアよりも周囲に被害を出す悪魔。勇者一行の長期休暇は後半戦に突入をし。
◆
「……は?」
それは翌日の早朝のこと。
まだ家に居る時間を狙ったのか、館にはゾロゾロと客人が訪れていた。その数は10名を超え。包囲、または威圧をするのが目的に見える。
軽鎧の上から白のマントを付けた格好は、マルルさんと同じ聖騎士のものだった。
教皇からの正式な使者を名乗る集団だが。問題は彼らが持参した一枚の書類で。
「この国は、まだ犯していない罪で、ツカサくんを拘束しようというのですか?」
「い、いや。勘違いをしないでください勇者様。一行揃い、安全な城での逗留をと言うのが猊下の意思であり……」
吠える勇者の姿に聖騎士の男はたじろぐ。そう、ざっくり言えば教皇が出したのはツカサ・サガミ拘束指令であった。
天啓でやらかす事が予言された俺だ。本当は牢にでもぶち込んでしまいたいところだろうが、体面もある。妥協して管理しやすい城へ誘ったというあたりか。
「まぁ、それで不安が晴れるっていうなら。俺は2~3日くらい拘束されてもいいんだけど……」
(無理じゃろなぁ)
日食の時期も近づいている。異世界転移の日になっても身動きが取れないのでは困ったものだった。だからフィーネちゃんもNOと突っぱねてくれているのだけど、はいそうですかで退けるならば、彼らも人を集めまい。
「天啓の件はご存じでしょう。多少監視の目は付くかも知れませんが、それで不満は抑えられるはず。どうかご一考を!」
勇者一行は昨日の事件でも活躍をし、現場では人気があった。騎士団や教会からも高い評価があるのだと言う。しかしそれで納得が出来ないのが貴族だそうだ。
天啓の失敗は、聖遺物を奪われるという形で、ある意味誠になってしまっている。
不安の芽があるのならば刈れ。まだ犯していない罪の責任を、俺に背負わせようとしていた。
「ハッ、この国は未来を知れたからこそ、危険を予知する能力が衰えていたのだ」
イグニスはハッと鼻で笑い悪態をつく。ノーコメントを貫く聖騎士だが、その表情は耳が痛いとばかりにしかめっ面で。魔女は人の心を覗くように、本当のことを言えよと口元を歪めている。
「ええ、嘘が見え見えですよ」
「お、俺だって。こんな事をしたいわけじゃない。けれど王命で、我々には信仰もある。正義のためだと信じるしかないだろう!」
抵抗をするならば力ずくでくるようだ。男はなんと剣を抜く指示を出し、シャラランと部屋中で凶器が構えられてしまう。
話についていけなかった。俺の拘束が目的でなければ、彼らは何のためにここまでするか。チラリとイグニスを見れば、順番の話だと相手にも聞こえるように言い放つ。
「要するにさ、いま悪魔を討たれると困るんだ」
モアは聖遺物を持つことで自身を餌にしている。ならば悪魔を先に倒すとどうなってしまうか。宝を持ち逃げされてしまうだろう。
なんだよそれ。つまり、優先順位はモアからの聖遺物の奪還が優先で。その間の悪魔の被害は許容するというらしい。
「教皇は、勝手に動く勇者一行が邪魔なのさ。天啓にかこつけてツカサを人質にし、フィーネを制御したいというのが本音とみたね」
「!?」
「あっ、正解みたいです」
500話まで読んでいただきありがとうございます。
いよいよ話のストック尽き、今日で毎日の更新は終わらせていただきます。
週二回、木曜日と日曜日くらいの更新頻度になると思いますが、これからも楽しんでいただけたら嬉しいです