ノーブレスオブルージュ~その唇は吐息をしない~   作:雨居神宮

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魔大陸 進撃編
600 Re:ゼロから始める異世界侵略


 

 

 竜巣の魔王軍幹部、【地吹雪】は俺の手により天へと還る。

 しかし、住人がその事実を手放しに喜ぶかと言えば、そうではなかった。

 

 当然だろう。悪者を倒して、めでたしめでたしで終わるのは物語の中だけ。現実はいつも、そこからが大変だ。

 

 十頭を超える地竜が暴れた後の町は、凄惨そのもので。嵐が過ぎ去った後の草原のように、建物という建物がなぎ倒されている。住人たちは茫然と、自分たちの家があった場所を眺める事しか出来なかった。

 

「どうしたもんかねぇ、これ」

 

「そんな事、お前が考える必要はねえだろ」

 

 狼少女は冷たく言い放つけれど、争いの種火になったのは間違いなく俺の行動が原因。そこに罪悪感が生まれるのは仕方ないだろう。それに、と視線をチラリと下に向ける。

 

 幼女が、勝手にお別れしようとした俺を逃がさんとばかりに捕まえていた。

 苦笑をしながら頭を撫でるのだけど、こうなるとマリーちゃんは頑固である。もう少し一緒に居る事になったが、どこか安全で住みやすい街に腰を据えて欲しいと、つい考えてしまうのだ。

 

「リュカだって、故郷がこんな目にあったら嫌だろう?」

 

「それは……まぁ。でもオレが言いたいのは、ツカサの責任じゃねえってこと!」

 

「うん。ありがと」

 

 どうやら、口が悪いなりに励ましてくれていたらしい。

 灰褐色の髪の少女はツンと唇を尖らせた物欲しげな顔で、撫でられる幼女に目を向けた。

 だが次の瞬間。マリーちゃん5歳の口からは「へっ」と如何にも勝ち誇った下種な声が響く。

 

「このクソガキがっ、潰すぞ!」

 

「子供と喧嘩すんなよ……」

 

 シャーと威嚇するリュカを呆れながらに眺めていると、迷う俺を叱るように女戦士から忠告が飛んできた。

 

「考える時間は無いぞツカサ・サガミ。戦局を見て逃げ出した兵士も大勢居るはず。この町が墜ちたという情報が知れれば、不利になるばかりだ」

 

「確かに。対策される前に動いた方がいいのか」

 

 後手に回っても良いことは無い。今は次の一手を打つ、千金にも値する時間なのである。

 とは言え、俺は軍事に明るくないわけで。貴女ならどうすると、声を掛けてきたマルグリット卿へと顔を向けた。

 

 そこには、デレデレな表情でエルマ少年をお人形のように抱きしめている女戦士が居るではないか。嘘だろ、どの面で真面目な話題を振ってきやがった。

 

「私なら、そうだな。人質の解放を最優先にするか。捕らえられているのは、鬼族を含む軍勢の兵士だ。戦力になるのは間違いない」

 

「分かった。分かったから、一旦エルマを放して。態度と会話で温度差が酷いんだよ」

 

「むぅ」

 

 マルグリット卿はこの場に留まらずに進むべきだと告げてきたけれど、町の復旧も簡単では無い。

 

 此処にはキャパシティーを超える人数が奴隷として集められているのだ。返す場所があるならばともかく、彼らの故郷は滅ぼされているわけで。このまま放置をしてはあっという間に食糧難で荒廃することだろう。

 

 俺に何か出来ることはないか。そう考えて、ふと疑問が浮かぶ。

 食料。巨人も居て奴隷も居て。明らかに供給が不足していそうなのに、露天でも普通に肉が買えたっけ。

 

「ねぇマルグリット卿。なんでこの町は、あんなに食べ物が豊富だったの?」

 

「マルグリットでいい。もはや私はただの戦士。敬称などなんの意味も無い」

 

 そう言いつつ悪の女幹部は竜巣軍の内部事情を語ってくれる。

 この町は生産拠点として奴隷が集められていた訳だが、一重に都合が良かったらしい。周囲が平原であり拡張が容易なこと。なにより。

 

「大森林に最寄りの町だったのだ。ランガの目的が竜種を増やすことならば、オポンチキの目的は巨人を養える食料の安定供給でな。あの森は今、始獣の肉がバラ撒かれ、巨大で狂暴な魔獣の巣になっている」

 

「ははぁん」

 

 魔獣の進化は巨大化する傾向が多い。

 人間が牧場で家畜の数を増やすように、魔族は獣を追い込み進化をさせてから狩るのか。そして地竜が居れば大規模の搬送も可能だったと。

 

「なら話は簡単じゃん。その森があれば、とりあえず食べ物には困らないんだね」

 

「狩りか、いいな!」

 

 幸いに季節は真冬でも、魔王の天候支配により気温は真夏並み。家が無くても凍え死ぬことはないわけだ。

 

 ならば食事の目途さえ立てば、なんとか持ちこたえられるか。頭の中でソロバンを弾いていると、マルグリットは残念なお知らせとばかりに肩を竦める。

 

「だが、そこはもうオッパーニの支配下になる。形式上は支援を受けていたわけだな。だから我々が踏み込むには先に兵力が必要なんだよ」

 

 赤鬼が首を狙う、裏切り者の三大天か。キトやモアと、その肩書の重さを知るだけに、簡単という言葉は撤回しよう。

 

「しかし妙でな。竜種を増やす方法も、奴から聞いたものらしい。まるで古くから進化の実験でもしていたかのようだ……」

 

 だからこそ信用しなかったと隻眼を鋭く細める女戦士。最後に油断はするなと言われ、俺は静かに首を縦に振る。そんな会話をしているとママが「ごめんなさいね」と気まずそうに割って入ってきて。

 

「あの子、確かツカサさんのお友達よね?」

 

「ああ、キキじゃん。見ないと思えば、何処に行っていたんだ」 

 

 鬼娘がキョロキョロと周囲を見渡しながら練り歩いていた。おーいと声を掛けて迎えると、赤肌の少女はいかにも不満そうな顔で、ちょっと面を貸せと言ってくる。

 

「兄貴が呼んでるぞ、バカ人間」

 

「おっ。偉い人達の話合いは終わったのかな」

 

 俺がどんなに気を揉ももうと、所詮は外部の人間。ここが軍勢の領地であったのならば、キトの考えを聞いてみるのが一番か。

 

 行こう。そう声を掛けて、ゾロゾロと皆で鬼娘の後を付いていくのだが。どうしてこうなった。

 

 広場には各町の町長が集められていて、そこには見知ったウサギさんの姿もある。

 俺は彼らの前にドカリと座らせられ。両脇を固めるように、【赤鬼】と【抱天】の魔王軍幹部が並んだ。まるで俺が一番偉い人だね、ウフフ。

 

「謀ったなキト。積極的に手を出さなかったのは、こういう理由か」

 

「べらぼうめ。何も出来なかったからこそ、俺が偉そうな顔をするのは違うって話だろうが」

 

 赤鬼は町長達に、こう演説をしたらしい。

 お前らは自由だ。竜巣軍に占拠されていた町を解放したのは、軍勢ではなく。ならばこそ、誰に付くかを選ぶ権利があると。

 

「俺は町なんか支配したくないぞ?」

 

「なら、そういう方針でいいじゃねえか。旗だけ貸してやれよ。ここは俺の領地だ、手を出したらただじゃおかねえぞってな」

 

 裏事情を話すならば、軍勢の名を貸すと少なからず年貢を取らなければいけないようだ。

 キトは町にそんな余力が無いことと。一度は魔王連合に奪われた罪悪感から、いっそ俺の手に渡った方がいいと考えるらしい。

 

「奴らは軍に対抗する力を持ってねえ。結局は誰かの下に付かねえといけねえのよ」

 

 豪快な男の声が、妙に小さく聞こえる。

 そうか。鬼族も、激化する争いの中で軍勢の庇護下に入ったと言っていたな。同盟として手を貸すことくらいは出来ると言われ、渋々に頷き。

 

「けど、年貢か。そう言えば、竜王へ渡すはずだった金があったな」

 

 思い返せば、リュカの購入金としてアレに手を出したのが全ての始まりだった。もう咎める相手も居ないのだし、この際、復興資金に使わさせて貰おう。

 

「つまりツカサ・サガミは第三勢力となるわけか。いいな、反逆にはピッタリだ」 

 

 名はどうする。女戦士に問われ、俺はううむと眉間に皺を寄せた。

 勇者一行と名乗るのは、流石にフィーネちゃんの迷惑だろう。なにより、彼女たちは魔大陸での知名度は低い。

 

 考えながら、目に飛び込んでくるのは混沌した街。

 崩壊した瓦礫の山に区分など無く。市民も奴隷も、魔王軍の残党すら一緒くたに、居場所を無くした難民で。

 

 隣には魔王軍の幹部共に、人狼と聖職者と幼女まで。なんて取り留めのないメンバーだと笑いが零れ、俺は彼女にあやかり、こう名乗ろうと思った。

 

「今日から俺等は【混沌】軍だ」

 

「また縁起でもない名を。世界を敵に回すつもりか?」

 

「俺はいいと思うぜ。これ以上ない、馬鹿野郎の名前じゃねえか。よし、いっちょ進撃すっか!」

 

 まずは捕らわれた戦力の解放。そして三大天と正面衝突か。

 勝手に外野が盛り上がる中、大丈夫なのだろうかと一人で白目を剥いていた。

 

 

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