井森のラボを尋ねてから1週間ほど経った。
コマンド・アーミーズの件もあり、各々は真剣にトレーニングに励んでいた。
しかし大勢が校庭で修行している中、1人だけ上の空の人物が。
初雪であった。
電「霧切雷!!!」
吹雪「でぃやっっっ!!!!」
余裕を持って躱す吹雪。
電はそれを見て回転を辞めるも勢いが余りあらぬ方向へと向かう。
電「おい初雪ッッッッッッ何してんのです!!!!」
初雪「………。」ぽけっー
吹雪「おい電!!!!速度落とせ!!!!初雪ボッーとすんな!!!!!」
初雪「…………ほぇ?」
バギイィィィッッッッッッ!!!!
初雪の左頬に電の靴が直撃。
オーバーフックパンチ。
なんとか電が上手くコントロールし、刃の直撃は免れた。
初雪は大回転しつつ鎮守府にぶち当たった。
壁をぶち壊し行き着いた先はドッグの湯船であった。
もちろん湯船も壊れてしまった。
初雪「ブェッバッッッガッッッ!!!!!」
天龍「ん!!!」
神通「なんだぁ?」
訓練していた仲間たちが初雪を心配そうに遠目で眺める。
電と吹雪が初雪に駆け寄る。
電「ど真ん中で何ボッーとしてやがんのです!!!大丈夫か!!!?」
吹雪「立てるか?」
初雪「あ……………ん…。」
町田「なんやどないしたんや!!!うわっっっ!!!ドッグぶっ壊れとるやないか!!!」
事を話す電と吹雪。
妖精たちが急いでドッグの修理に取り掛かる。
町田「そうか………………。」
電「お前初雪前も睦月の貫手まともに食らって厨房に直撃したばっかじゃねぇのです。そん時に比叡が持ってた味噌汁司令官が頭から被って全体的に今ハゲてるのです。」
町田「俺は男前やからハゲてても気にせんけども、あれは熱かった…。黒乳首ちゃんの血入ってなかったら大火傷やで…。」
電「名前どうにかしろ。」
吹雪「黒ちゃんねぇ…。で、どうすんだ初雪。ちょっと休むか?」
初雪「……………………ん。」
先程から空返事ばっかり。
しかも今日始まったばかりでは無い。
井森のラボから鎮守府に帰ってからずっとである。
電「……………………。」
ポンッと初雪の両肩に優しく手を置く電。
不思議そうに顔を上げる初雪に告げる。
電「初雪…。別に無理して戦わなくても良いのです。今の自分に合った状況を選ぶべきなのです。」
初雪「ぇ…………。何それ…。私鎮守府から追い出されるの…?」
電「んな事言ってねぇのです。皆まで聞けや。食事だの大淀と筑摩みたいなサポート班だの…やる事は色々あるのです。何も戦闘に拘る必要は無いのです。」
初雪「……………。」
吹雪(随分変わったな電…。昔の電だったらタダ飯喰らいは出ていけって叫んでただろうに…。)
初雪は虚ろな目をしながら軽く頷き、トボトボとどこかに歩き始めた。
町田「……………。初雪ちゃん…。」
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少し休憩を取る艦娘たち。
町田はどうにかして黒乳首に通信できるようどうにか頭を捻っていた。
ピンポーン ピンポーン
鎮守府のチャイムが鳴った。
仕事の依頼かもしれない。
近くにいた龍驤が対応する。
龍驤「はいはーい。どちらさん?」
「すいませーん!ここって檻巌鎮守府であってますかー?お仕事の依頼で来たんですけどー!」
龍驤「はいよー!今開けまっせー!」
川内「おっ。お仕事だってさ。」
睦月「有難い事にゃしぃ!」
金剛「今日は私はコンビニ休みだから働けますヨー!」
神通「私は酒飲まねぇと。」
天龍「お前もすんだよバカ。」
首根っこを捕まえる天龍。
物凄くだるそうな顔をする神通だったが川内にも引っ張られ堪忍したのであった。
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町田「ほっかほ艦弁当?ほか弁の事か?」
チラシを見ながら首を傾げる。
吹雪「ホッカホカ亭が艦娘もバイトさせてから名前変えたんすよ。」
尋ねてきたのはほか弁の制服を着た島風であった。
島風曰く、人手が足りなく困っているところを檻巌鎮守府のポスターを見て尋ねてきたのだ。
どうやらこのご時世でも弁当は繁盛しているらしい。
島風「テンチョーさんが言うには…、この金額と賄えをタダで付けるとの事です!」
筑摩「でも…今は深海棲艦に向けて特訓を…。」
大淀「いいじゃないですか!丁度ほか弁食べたかったし、お仕事の依頼は断れません!」
笑顔で手を合わせる仕草をとる。
大淀もこの鎮守府に馴染んできたのだろう。
傍から見ればまぁイカれている。
しかしこのやり方がこの鎮守府のやり方だ。
島風「おぅっ!助かりまーす!ではでは出前いっぱい来てるのでお願いしまーす!!!」
一同「おーう!!!!」
初雪「……………。」
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大淀が皆をお客さんの家までナビゲートする。
筑摩もそれをサポートし、他の皆はそれぞれ足や自転車、バイクなどで出前をするのであった。
ちなみにほっかほ艦弁当は檻巌鎮守府から自転車で15分程度の場所にある。
最近出来た新店舗らしい。
にも関わらずこの繁盛。こんな時代だからこそ美味しいものが食べたいのだ。
睦月「エッホッエッホッ!!これで3件目…。ていうか島風ちゃん足はっや〜…。」
足元がグルグルとアニメのように見えるぐらいのスピードで駆け巡る島風。
ほか弁のエリート社員である。
町田「ちわっ〜す!!!!ほっかほ艦弁当で〜す!!!」
おばちゃん「ありがとうね〜。あらぁ美人さん!新人さん?」
町田「いやぁ、檻巌鎮守府ってとこの提督でしてw色々あって仕事とか受け持ってるんですわ!」(美人…?)
おばちゃん「そうなの〜!この戦争真っ只中にご苦労さんね〜。はいお金!」
町田「まいど!丁度頂戴しますわ!ほなこれからもご贔屓に〜!!!」
自転車に跨り自分が女性に見えていたのだろうかと不思議がる町田であった。
電「ども!ほか弁なのです!」
おっちゃん「おおきになぁ〜。」
龍驤「まいど〜!ほか弁やで!!!」
おっさん「おぉ〜。ありがとうなぁ〜。ついでに姉ちゃんの体もつまみ食いしていいかぁ〜?」
龍驤「しばくぞ。」
神通「うめぇ!!この唐揚げ!!!!」
神通「我慢できずに客の唐揚げ1個食っちまった!!!酒が合うわこれ!ごめんなお客さんよぅ!!!」
川内「何してんのお前。」
神通「あ。」
ドガァッバキィッ!!!!!
夕立「ぽいぽいぽーい!」
入れ歯がないおじいちゃん「ふぁうふぇふぇふふふほぉぉ。」
夕立「ぽいぽーい!」
最上「よーっう!ほか弁だよ〜!!!」
綺麗な姉ちゃん「ありがと〜!!!」
雪風「ほか弁ですよ〜!!!!」
インド人「○×△☆♯♭●□▲★※」
雪風「?????」
各々が弁当を運ぶ。
今日は特に忙しいらしく、天龍と龍田のバイクが吹き荒れ龍驤の式神には山積みの弁当。
他のものは走ったり自転車だったり。
艦娘が弁当を運んでくれるという情報が出回ったのか、次第に注文の数は増えていき鎮守府の待機組ですら始動し始める始末。
もちろん初雪も例外では無かった。
町田「いっそがしいの!!何件回ったよ…7~8件は回っとるで…。範囲広いし…。」ゼェゼェ
吹雪「私なんてもう12件回りましたよ。」ハァハァ
利根「吾輩1件じゃ。」方向音痴
霧島「wwwwww」6件達成
利根「何笑うとるんじゃ。」
加古「走りまくって足痛てぇ…。」
北上「いい運動になるっしょ。」
赤城「私もお手伝いしましょうか?」
加賀「先に賄い食べようとしてた人はダメです。」
赤城「ミスですよ。」
比叡「どんなミスですか。」
金剛「誰デース?ウインナー一本だけ頼んだお客様ハー?カワイイデース!」
町田「あかんわ〜。………………、初雪ちゃん!!!初雪ちゃん!!!」
初雪「………?」
町田「自転車まだ1台あるから初雪ちゃんも手伝ってくれ!!!行先は大淀ちゃんが案内してくれるわ!」
初雪「…………………。」
トボトボと歩き始め、GPSと弁当を受け取り自転車に跨る初雪。
これぐらいなら出来ると思いつつ、これごときの仕事で精一杯かとマイナスな考えを浮かばせながら目的地に向かう。
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自転車を漕ぎながら山奥を行く。
周りは少し薄暗くなってきた。
山の中だからか、闇の濃さが深く感じる。
途中行き先が不安になりGPSを確認するもどうやら圏外になってしまったらしく、またもや落ち込む初雪。
まだ安心出来ることと言えば届け先の名前が「海山」という変わった苗字である事だ。
その表札をめざしまた自転車を漕ぎ始める。
気がつくと開けたところに出た。
目の前には小さな村があった。
初雪「海山…海山…。」
初雪「あった…。ここか…。」
ピンポーンとチャイムを押す。
しばらくして40代であろう夫婦が出てきた。
初雪「ども…。ほか弁です。お届けに参りました。」
すると2人は驚いたような顔をし初雪から目線を外さない。
初雪「あの…………お弁当…。」
女性「雪子…………雪子かい……!??!」
男性「雪子!!!!」
2人に抱きしめられる初雪。
初雪「えっ!!ちょっと!!!」
状況が把握出来ない初雪。
抱きしめられた衝撃で弁当を落としてしまうも気にもとめない2人。
初雪「……………………。」
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カチャ…カチャ…
初雪「………あの…。」
雪聖(ゆきみち)「良かったなぁ典子(のりこ)。雪子が生きてたんだ…。こんなに嬉しいことは無い。」
典子「えぇえぇ、生きてるだけでも嬉しいのにかえってきてくれるなんて…。」
雪聖「ほか弁で働いてたとはなぁ…。仕事先には俺から電話しとくから今日はもう暗いしゆっくりしなさい。」
初雪「………。」
初雪はリビングの椅子に座っていた。
持ってきたほか弁と典子が作った料理をを3人で食べている最中であった。
初雪(この人たちも追い詰められてんのかな…。普通働いてる最中なのにこんな事言わないよね…。)
ふと目線を食器棚に移す。
そこには典子と雪聖と少女が映った写真があった。
確かに初雪にそっくりである。
そのあどけない笑顔に初雪は少し心が痛み目が細くなる。
食事が終わると風呂を勧められ、ゆっくりと湯船に浸かった。
風呂上がりには美味しいシャーベットを食べながら楽しく3人で談笑。
雪子という女の子では無いが、なんの違和感も無くスムーズに会話は進む。
その後は自分…雪子の部屋に入りベッドに潜る。
初雪「あ…………。ここにも写真…。」
可愛らしい雪子という女の子。
先程の二人の会話からして恐らくもう…。
2度の敗北を喫しプライドとメンタルがへし折られてしまった初雪は、この空間が少しだけ癒しになりつつあった。
色々と考えたいことや考えたくも無いことが頭に過ぎるも、静かに目を閉じた。
初雪(ごめん姉ちゃん…。みんな…。)