神通「アァ………ハァ…ハァ………しんどいいぃ。」
川内「普段酒ばっか飲んでロクに鍛えてないからでしょ。居合切りも天龍に越えられるよ。」
天龍「もう超えてらァ。」
神通「てめぇ天龍うぅぅ……。なめてんじゃ……ねぇぞおぉぉぉ………。」
汗だくで今にも溶けそうな神通を引き連れ、北上たちは高尾山薬王院を目指していた。
既に目と鼻の先まで来ているのだ。
北上「高尾山薬王院…。真言宗智山派の大本山だね。さっきから挨拶してくれる坊さんみ〜んな美坊主だね〜。」
龍田「空気が違うわね〜。美味しい…を通り越して安心するというか、綺麗というか…………こう………なんていうか…。」
川内「気持ちよすぎて眠たくなるよね〜………。ふわぁぁ………。」
可愛らしい欠伸をする川内。
後ろでは妹がバケモノみたく汗だくで苦しんでいる。
もう無理いぃぃと言いつつも着いてきているので神通は神通でしっかりしている方だろう。
階段を上がり目的の寺の目の前まで来た。
北上は疑問に思っていた。
ここは確かに寺であるが、尼寺もあるのであろうか?
犬咬隊の話によると鍛えてくれるのは艦娘のはずだ。
ならば必然的に尼になっている艦娘が居るはず。
さっそく近くに居た坊主に声をかけることに。
北上「すみませーん。ちょっといいですか?」
坊主「どうもこんにちは。どうされましたか?」
北上「私ら艦娘でして、檻巌鎮守府ってところから………」
艦娘と檻巌鎮守府の名前を聞いた途端優しく微笑んでいた坊主の顔がとても真剣な眼差しに変わった。
話が伝わっているのであろう。
すぐに案内してくれる事になった。
本殿から離れた場所にある建物。
そこが特別に作られた尼寺らしい。
少し敷地内から離れては居るが、それほど遠い距離では無いので場所を覚えつつ歩く。
ゾンビのように成り果てた神通も歩く。
坊主「ここでございます。ここから先は男子禁制…。皆様方のこれからに幸せと健康…健闘を心から祈ります。」
すると綺麗な丸坊主の頭を下げ、合唱する。
ここが尼寺本殿である。
北上は静かに戸を叩いた。
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中から綺麗な尼が出てきて挨拶をする。
龍田が経緯を説明しようとするも向こうから中に入るように優しく促される。
靴を脱ぎ揃え、一礼してから中に入る。
その1歩の瞬間であった。
北上「ぁえっ?」
目の前が美しい山になっている。
木々は生い茂げ、花は咲き、小動物が駆け巡る。
太陽が木々の間からさし、木漏れ日は自然のアートそのものである。
綺麗だなぁと思いつつもふと我に返る北上。
北上「いやいやいやいや!!!!何よこれ!!!どういう事よ!!!」
北上(なんで本殿が山になってんのさ!!!!…………ま、まさか…………!!!いや…それ以外考えられない………!!!)
北上(幻術……………!!!!)
北上「ど………どのタイミングでかけられたんだろ………。堂内に入った瞬間……?」
北上「ど……………どうしよ……………。」
佇む北上に後ろから声が聞こえた。
「良く来たにゃ…………北上…。」
北上「………………!!!!!!た………………多摩姉え………!!」
目を瞑り袈裟をかけている丸坊主の美しい尼。
多摩であった。
しかし北上はとある事に気づく。
北上「………………魂子じゃ…………無いか…。」
多摩「そうにゃ。生まれ落ちた年代が違うからにゃ。でも、大事な妹には変わりないにゃ。」
実の姉ではあるものの、やはりというか魂子の姉では無い。
元先代檻巌鎮守府のメンバーだったのだ。
当然である。
しかし北上は姉に会えたのが嬉しかったのか、その美しい空間に魅入られたのか、少しずつ視界が涙で霞む。
多摩「大変だったにゃ……。良く…良くここまで生きてきたにゃ……。立派よ北上…。」
北上「あの……………さ…私………さ………。」
次第に瞳から滴は零れ、頬を伝う。
北上「大井っちを…………実の妹……をさ…………こ…殺したんだよ…………。」
声も涙ぐみ、自然と心の蟠り(わだかまり)を吐露しはじめる北上。
涙は滝のようになり、膝から崩れ落ち溜まっていた悲しみを思いっきり吐き出しはじめる。
北上「ずっとずっと!!!!私の事探してて!!!!私の事思ってくれてて!!!!鎮守府に来てくれて!!!!!!嬉しかったよ!!!!ずっと一緒に居たかったよ!!!!!」
北上「1日一緒に居ただけで!!!!昔っから一緒だったのかなって思うくらいに!!!!!!!でも!!!でも私は!!!!!!そんな妹を!!!!い………妹を…………………………。」
北上の脳裏には自らの手刀で大井のクビを刎ねた瞬間であった。
最期の大井はとても柔らかい綺麗な笑顔であった。
北上「こ……………殺し…………たんだ……………………。」
鼻水も垂れ、口から涎も伺える。
そんなもの気にもならないほど北上は全てを吐き出していた。
土と草を握りしめ拳はワナワナと震え、その場に蹲る。
その北上に対し多摩はゆっくりと近づき、優しく大きく抱きしめる。
何も言わず、うんうんと頷き話を肯定し聞いてくれる多摩。
背中を摩り、北上を包み込む姿はまるで母と子である。
多摩「よしよし……………よしよし…………。」
北上「うぅ…………………う…………………あぁ………。」
どのくらい時間が経ったであろうか。
北上は落ち着きを取り戻し、ゆっくりとその場で胡座をかく。
北上「はぁ…………………、ごべん多摩姉え…………。なざけない…みっどもない姿みせで……………。」
多摩「北上は優しいんだにゃ。とってもいい子だにゃ。」
頭を撫でる多摩。
目を瞑りながら優しい笑顔を向けてくれる。
北上もボロボロの顔で無邪気な子供のように笑い返す。
多摩「こっちこそごめんにゃ。こうして全部吐き出してからじゃないと中に入れないのにゃ。」
多摩「でも…………もう大丈夫にゃ。次は現実で会おうにゃ。大丈夫。目の前にいるから……………。」
そう告げられると北上は瞼が重くなり、綺麗な山と多摩はまるで万華鏡のように美しく散っていく。
そして遂に北上は目を閉じた。
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北上「あっ…………………。」
目を覚まし、周りを見渡すと堂内に1歩足を踏み入れたその場で崩れ落ちていた。
涙が溢れ、先程の異空間がこちらとリンクしている事を認識。
横を見ると天龍や龍田、神通も同様に泣いていた。
川内はこの中で一番の年長だからか涙は流さず、ゆっくりと微笑んでいた。
川内「素敵な技だね…………。まるでお釈迦様みたい……。フフッ。」
そばに居た尼が優しく先に進むことを促し、案内してくれた。
みんな決して強がっていた訳では無いが、しっかりしなければならない自覚が強すぎてギチギチになっていたのだ。
それをほぐす為に多摩は入口で吐き出させたとのこと。
北上一行はそのまま奥に進み、目の前の座禅を組む多摩たちに初めてのご対面をする。
それぞれの座布団が用意されていたのでゆっくりと正座をする。
北上「多摩姉え………………。…………ん?」
何かを感じ取ったのか、北上は多摩を見つめる。
それに答えるかのようにおもむろに口を開く多摩。
多摩「そうにゃ。多摩は生まれ持って目が見えないにゃ。」
天龍「それだけじゃねぇな………………。」
龍田「盲目どころか…………五感全てが…………。」
多摩は生まれつき、視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚が無かった。
もちろん艤装などはもってのほかであった。
神通「ヘレン・ケラーだっけか?すげぇな…。」
川内「でも六感が凄いね…。いや、七感以上も開いてる。」
多摩「犬咬隊から話は聞いてるにゃ。良くここまで来たにゃ。みんな立派だよ…。でも…………………。」
多摩「あんまりしたくないけど…今から多摩たちはみんなに酷いことをするにゃ。でもそれはみんなを鍛えるため…。これ以上世俗に悲しみを広げないための事だにゃ。」
多摩「着いてきて欲しいにゃ。」
目を開く多摩の瞳は濁っていたが、どこか水晶のような美しさを纏っていた。
多摩の周りには同じく人や艦娘の尼たちが並んでいる。
北上「当たり前だよ多摩姉え!!!!そのために来たんだから!!!どんな事でもついて行くよ!!!鍛えてよ!!!」
天龍「そうだ!!!!じゃねぇとなんで遥々ここまで来たのかわからねぇ!!!!」
神通「深海どもをぶっ殺して!!!早く平和にしねぇといけねぇんだ!!!」
多摩「…………深海棲艦を殺して………その後はどうするにゃ?」
神通「えっ……………そりゃ………街の復興と人の助けを……。」
多摩「ホントにそこまでする覚悟はあるの?そりゃもちろん深海棲艦は倒さないといけない。それが第一であって、1番難しいにゃ。でも………その後はもっと大変にゃ。」
多摩「ホントに…覚悟はあるの?」
神通「ある。」
多摩「わかった。でも今日はみんな疲れてるにゃ。お風呂に入ってご飯食べてゆっくりして欲しいにゃ。」
天龍はゆっくりなんかしてられるかと伝えるも多摩は首を横に振るばかり。
神通はお言葉に甘えようと天龍に言うものの早く鍛えて欲しいとの一点張り。
天龍「だから1秒でも早く…………………あれ?」
目の前の多摩が居ない。
ずっと見ていたのにも関わらず、目の前には多摩が座っていたザブトン1枚のみ。
すると肩に手を置かれ、「肩肘張ってたら強くなれるものもなれないにゃ。」とゆっくり座らされた。
天龍(見えなかった…………………。)
多摩「みんな北上たちを部屋に案内してあげてほしいにゃ。それに色々と覚えて欲しいこともあるし。」
尼たちはその場から離れ北上たちを案内する。
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寺に入り4日程経った。
神通「んんんんんん!!!!!ぬううぅぅぅ!!!!!」
川内「うるっさいな。何よさっきから嫌らしい。」
神通「なんなんだこれよぉぉ!!!!ここ来てから掃除と洗濯と読経しかしてねぇじゃねぇかよ!!!!!」
神通「酒も一滴も飲んでねぇ!!!!!!なんだここよぉ!!!!!!」
川内「は?何なのこいつ。誰の妹よ。」
北上「川内の妹でしょwww」
天龍「瞑想もしてんじゃねぇか。」
神通「だからなんだってんだ!!!んなもん鎮守府でも出来んだろうが!!!」
龍田「鎮守府でもしなかった人が何を言ってるの〜?」
神通「飯も肉は出ねぇし!!!精進料理ばっかり食わしやがって!!!!」
朝からお寺の掃除をしていた5人。
ここに来てからこれといった修行はしていないように思われる。
神通は最初こそ大人しかったが段々普段のようになってきてしまった。
竹箒を放り投げ縁側で猫を撫でている多摩に向かう。
直談判しに行くつもりだ。
川内「ちょっ、神通!!!こらぁ!!!!」
神通「やい多摩!!!いい加減………」
多摩「お酒飲みたいのにゃ?」
神通「えっ………………そりゃ…飲みてぇけど………。」
多摩「ビールでいいかにゃ?」
そう言うとキンキンに冷えたビールを差し出す。
神通が好きなパッケージの缶ビール。
わかってんじゃねぇかと嬉々としてクルトップを開け喉を潤す。
しかし次の瞬間…………
神通「ンッ!!プッバァァァァァァァッッッッッ!!!!」
思いっきり吐き出す神通。
神通「お前何飲ましたんだ!!!!!」
多摩「?ビールにゃ。好きでしょ?」
神通「こんなクソまずい味してねぇよ!!!!!違うもん入れただろ!!!!!!ウォッッッ!!!??!!」
多摩がいきなり後ろ回し蹴りを放つ。
神通は洗濯物の籠を弄るようにしゃがみそれを回避。
次にアッパーカットが飛ぶ。
それに対し洗濯物を干す動きで回避。
多摩は神通にジャブ。
神通は箒で落ち葉を掃く動きで体を逸らし回避。
ビックリした顔で汗だくの神通。
多摩は二ッ!!と笑う。
多摩「ね?無駄じゃないでしょ?それに添加物だらけのもの取り入れたら気が濁るにゃ。クリアにしないとね。」
多摩「タバコ吸うんだったら山の空気を目いっぱい吸うにゃ。酒が飲みたきゃ水を心で飲むにゃ。」
多摩「そりゃあタバコ吸ってもお酒飲んでも、添加物ばっかり取っても神仏と繋がれる人は繋がれるにゃ。でも北上たちじゃ無理にゃ。」
猫を抱っこしながらその場を後にする多摩。
北上一行はなるほどねといった顔をし、神通は最後まで馬鹿みたいな顔をしていた。