星の旅 作:TT
「ありがとうジョルノ、ジョルノが喧嘩を止めてくれたのはわかったけど……ジョリーン、ジョニィ、どうしてそんな大喧嘩を?家がこんな有り様になってしまっているんだけど……ジョニィから、話してくれるかい」
ジョルノの記憶があったこと、家の破壊と、常ではないことが降りかかったジョースター家だったが、ジョナサンは何が起こったのかを正確に把握していた。
要は、派手な兄弟喧嘩だ。
なら、ジョナサンがすることはいつもと同じことだった。
まずはジョルノから、とジョナサンはジョルノ視点の話を一通り聞く。こんな派手なものではなしに、小さな喧嘩ならよくある話だ。三人揃って我が強い兄弟であるし、仲が良い分小競り合いもまた多い。ジョナサンが調停に入らなければならないことも多く、そういう時、ジョナサンはまずジョルノから話を聞くことが多かった。兄弟全員とも心が熱するタイミングは早い。ただ、落ち着くのが早いのはジョルノが断トツだった。比較的、という話で、いつもそうと言うわけではなかったが。
もっとも、今回ジョナサンがまずまっさきにジョルノから状況を聞いたのは、ジョルノがジョルノらしからぬ沈鬱な表情を浮かべていたからで、次にジョニィを指名したのは、ジョリーンよりジョニィの方が幾分か冷静であるだろうと見たからだったけれども。
ジョリーンが少しむすっとした表情で唇を噛み締めている横で、ジョニィはジョナサンが見抜いた通り冷静に話し始めた。
「僕が持ち込んだ話が原因なんだ。
今日帰るときに、ディエゴに話しかけられた」
「ディエゴ?」
「ジョルノには知らせてなかったけど、もう言ってもいいだろ。……僕の顔見知りにディエゴってのがいる。前世からの顔見知りなんだけど…、フルネームがディエゴ・ブランドーっていうんだ」
ひどく苦々しくジョニィはその名前を吐き出した。ディエゴ・ブランドー。ブランドーということは、
「今生だと、君の実の父親、ディオ・ブランドーの息子だよ。つまり、ジョルノの本当の兄貴だ」
「……僕に、実の兄弟がいたんですか」
「少なくとも後三人はいるから五人兄弟ってことになるね」
真顔で言ったジョニィに、ジョルノは大きく息を吐き出した。
「……それで?」
「あいつ、ディオの元から当の昔に出奔してるんだけど、それでもたまに交流してるらしくて……、ディオがアメリカに来るっていう情報を僕に寄越してきたんだ。ジョルノ、お前に一目会いに来るんだと」
「なんだいそれ、聞いてない」
唸ったのはジョナサンで、心なしかジョナサンの体が輝いたように見えた。だろうね、とため息をついて、ジョニィは話を続けた。
「こっち側には何も知らせずこっそりアメリカにくる予定らしい……たぶんジョルノが一人でいるところを狙う気なんだろ。何を今さらって話だよ、ジョルノは僕らの家族だ。
でも、もし本当にくるのなら、ジョルノにはディオと会うのかどうか選択する権利があるだろう」
血は血で、血縁は血縁だ、とジョニィは宙を見つめて呟いた。
「ジョナサン、ジョリーン、ジョルノ。それと、ジョージとエリザベス。僕は前世で家庭を持つ身だったし、その記憶を持っていて、前世の家庭がとても愛しい。それでも、僕は今の家族を家族だと、そう思ってる。そう思える現状に感謝してる。血以上に繋がってるって、それくらいのことを思えてるんだ、この僕が。
だから、ブランドーなんて奴にジョルノを会わせたくない。あの一族はろくなのがいないってそう思う……それでも、親だった身として思うんだ。選択する自由はなくちゃいけない。それはジョルノが決めていいことだって」
ジョニィが思ったより年を経た上に死んだ男であることを、ジョルノは初めて知った。
「それで、帰ったらジョルノはいなくて、ジョリーンがいたから。ジョルノが帰ってくる前にって相談したんだよ。そしたらこいつ、ディオのことをジョルノに知らせるべきじゃない、ディオがくるならジョルノを隠すべきだっていうんだ。そのまま、ちょっとヒートアップしすぎちゃって…」
「……わかった、ジョリーンの言い分は?」
「途中まではジョニィと一緒よ、帰ったら話を聞かされた。ただ、その…」
そこでジョリーンは目をそらした。のどに何かをつかえたような顔をして、僅かに頬が赤らんだその様子は誰が見ても恥らう女のそれだった。
おや、とジョナサンは目をしばたかせて、首を傾げた。はて、今までジョリーンが何かを恥ずかしがったことがあったろうか。いやない。
ジョナサンがあずかり知らぬ事だが、看守の前でストリップをしたって恥ずかしがることはなかったくらいには突き抜けてしまったので、二度目の今生で何をいまさら、というのが今までのジョリーンであった。
むしろ男前すぎて、格好だけでなく中身も女の子らしくなってくれないかなぁ、というのがジョナサンの悩みだったくらいである。
それがこの、恥ずかしがり様だ。ああ、とジョナサンは眉根を寄せた。
「言い辛かったら、ほかの場所で聞くけど……」
そっと切り出すと、ジョリーンの隣でジョニィが呆れ返った顔をしてため息をついた。
「要するにブラコン加速しすぎてジョルノが姉離れしたらつらいって話だったろ。何をいまさら恥ずかしがってんだよ、気持ち悪っ」
ジョリーンの顔が一気に赤くなって、ジョニィにつかみかかる。
「うっせぇなこのデコ広男!ハゲろ!」
「はぁ!?今僕の頭部はカンケーないだろ!?」
「うるっさいバーカバーカ!帽子の中からむれてハゲろ!広いデコから前髪後退してハゲろバーカ!
……なんで言っちゃうのよ…!」
「具体的に言うなよほんとにハゲたらどうすんだよ!?姉貴が黙ってたら始まんないからだろこのブラコン!」
「だからって……あんた……この…っ……!」
顔は真っ赤、若干涙目で言葉も出ない有様でぶるぶる震えるジョリーンを、困り果てた顔でジョナサンが抑える。
「ジョニィ、大人気ないよ」
「確かに一度目含めると僕のが年上だけどさぁー…今は僕のが年下だし」
「そういうの大人気ないって言うんだよ」
本気で困った様子のジョナサンを見て、ジョルノは首を傾げた。
「……僕、席外しましょうか?」
立ち上がろうとしたジョルノを大声が引き止めた。
「待った!!!」
叫んだジョリーンはとてもひどい顔をしていた。
「この際だから全部言ってやるっつーの!
単純にDIOみたいな聞いた話だけでもゲロ以下野郎にうちの弟会わせたくねーし!!っていうか、そもそも五歳になっても文字かけないのは百歩譲るにしても喋れないってそれもう子供に虐待してんのと同じでしょ!?そんなののせいでジョルノが嫌な幼少期すごしたのも癪だし!!子ども虐待するような父親に会わせたくないし!
DIOに会ったせいでジョルノが前世の記憶取り戻してなんか変わっちゃったりとか万が一あったらやだし!……家族に裏切られるって言うか!いなくなるみたいなのあたし一番駄目なのよ!だけどあたしがそういうの色々考えてたの、ジョルノは元々記憶あるんだから全然意味なかったし!?もう馬鹿みたいだし恥ずかしいし、ジョニィには否定されまくるしさ、なんか、もう、もう…!」
「ああ、うん、その辺でいいよ……姉貴、“DIOの息子”そのものが敵だったから僕とは前提が違うんだよなそういや…」
僕が悪かったって、とジョリーンを抑えたジョニィはそれでも難しい顔をやめなかった。
「でも、だけどそれお前の考えだろ?僕が言ってんのは、せめてDIOがくるってことだけでもジョルノに伝えておいて、んでジョルノに会うかどうか決めさせろって言う話だってば」
「そんくらいわかってるっつーの!そんでも腹立つんだよこっちは!それにジョルノに決めさせたらどう考えたってDIOに会うっていうに決まってんじゃないのよ!!」
「ああ、うん、会いたいですね」
ジョルノは頷いた。
えー、と途端にジョナサンが顔をしかめた。どうやらジョナサン個人としてはジョリーンよりの考えらしい。
「とにかく、姉さんも弟も僕のことをとっても愛してくれてるのはわかりましたよ。もちろん兄さんも。普通に、素直に、それがとてもうれしい……ただ、僕はジョニィの言うとおり僕に父と会う会わないを決めさせてほしいし、選択するとしたらジョリーン、あなたの言うとおり、僕は僕の実の父に会うだろう」
ジョルノは首をすくめる。
「今の僕がDIOに会って何を思うか興味がある……、なんだかちょっとぶん殴りたいような気もするし、話だってしてみたい。ジョリーン、大丈夫、僕は変わりませんよ」
「だから!そういう心配してたのが全部無駄になったって話でしょうが!だからくそはずいんだっての!」
「ええ、ありがとうございます」
微笑んだジョルノが珍しくとても幸せそうであったので、ジョリーンは虚をつかれたように固まった。
固まって、そのまま大きなため息を吐きながらずるずるとくずおれた。
「あー、もう……」
うずくまって動かなくなったジョリーンをあわれに思った男衆はそっとしておいてやろうと目配せをしあって、さて、とジョナサンがジョニィを見据えた。
「その、ディエゴ君の情報は本当?」
「あーうん、マジっぽい。取引して教えてもらった情報だし、もし間違ってたらあいつの望みが叶わなくなるってだけだ。もう一個別の筋でもそんな話聞いたし」
「なんだかすごい突っ込みたくなる言い方するなぁ……。できれば取引って何、とか詳しく別の筋がなんなのかとか教えてほしいけど」
「ジョナサンでもちょっと言えない」
「だろうねじゃなきゃ言ってくれるもんね……」
うーん、とひとしきり唸ったジョナサンは、仕方ない、と首をふった。
「なんかあったら困るし、どうしても、ってなったら殴ってでも聞き出すからね」
「げっ……あー、うん、はい……」
「まだディオがくるまで時間ある?そこまで聞けた?」
「たぶん再来月半ばだってさ」
「そうか、それじゃあ……、あー、ジョルノはディオに会ってみたいんだっけ」
「はい」
とても困った表情でジョナサンは腕を組んだ。
「別に連絡ちゃんと寄越してさ、普通に来るなら会わせてあげてもいいっていうか、もちろんジョルノが嫌がらない前提だけど、ちゃんと伝えてくれるならね、僕も構わないよ。でもこういう不意打ちみたいなの企んでるの聞かされるとねぇ……」
前世の因縁でね、こう、色々されたときの嫌な予感がゾクゾクくるんだよね、とジョナサンは死んだ目で言った。
「改心してるのはわかってるし、二人で一つとまで言った相手だけどさ…疑わしきは罰せずって言えるほど僕も紳士になりきれないっていうかなんせディオだから……」
「簡単に言うと?」
「そんな風にくるなら素直に会わせたくなくなっちゃったなぁ、っていう……僕の私情で悪いんだけど」
眉毛をハの字に下げたジョナサンがやっぱり難しい顔をする横でジョニィもうん、と頷いた。
「さっきも言ったけど、僕もジョリーンもそもそも会わせる気ないんだよ。それでもジョルノの意思尊重するっていったのが僕で、意思尊重したら会っちゃうだろうから教えたくないって言ったのがジョリーンな」
結局は兄弟全員お前をDIOとは会わせたくないの、とジョニィは締めくくった。
「何故そこまで会わせたくないんです?」
「単純にブランドーにはろくなのいないから」
即答したジョニィは兄ジョナサンと同じく死んだ目をしていた。
「前世でも今生でもディエゴの噂って真っ黒なのばっかなんだよね……僕あいつに殺されかけたこともあるからそれもかもしんないけど、それにしたってあの噂の数と酷さはないわー」
おーこわい、と身体を震わせたジョニィは続けた。
「たぶん普通の家庭ならディエゴに使い潰されるか乗っ取られるかなんかして跡形もなくなると思うんだよね、でも、そのディエゴがあの父は好かんから家出てきたって言ったのがもうそれだけでDIOこわい」
「ディエゴさんを迎えると財産持ってかれるんですか」
「前世じゃ大富豪の婆さんと結婚して財産掠め取ってた」
「あー、ディオもそうだったなぁ…うちの財産乗っ取ろうとして、うちの父さん毒殺しようとして、阻止はできたんだけど結局殺されちゃったし……最期僕の身体持ってかれちゃったし」
本当に父さんごめんなさい、と虚ろな目をしたジョナサンの側で、むくりとジョリーンが起き上がる。
「私が関わったのはDIOの友人だったけど、父さんのことを植物人間にしくさりやがった挙げ句最後には世界滅亡させたし…」
「世界滅亡ってそれマジ?」
「マジマジ。んでジョルノ以外の息子使って攻撃してきたりとか私と私の仲間殺したのもそいつだし、あー、鬱になってきた……」
どんよりした雰囲気を漂わせた三人を前に、ジョルノはあえて毅然とした声を出した。
「とりあえず、DIOに関わるとろくなことがないのはよくわかりましたんで、落ち着いてください」
ああ、とジョリーンががしがしと頭をかいた。
「あー、ごめん、自分の父親だもんね、あんまいい気しないでしょ……」
「前よりはましな環境で育ててもらったんでDIOのことは嫌ってないんですけれど、正直それ以上に思うこともないっていうのが本音ですかね…。だからこそ、会ったらどう思うのか気になるんですけど。それに、今の僕の父親はジョージ・ジョースター二世とジョナサン・ジョースターだと勝手に思わせてもらってますし」
「なんて嬉しいことを言ってくれるんだ、ジョルノ…!」
きっとジョージも喜ぶよ、とジョナサンが感動に震え、隣でジョリーンがくしゃみをした。
はっ、とジョナサンが我に返る。
「そうだ、理由はわかったけど、家がこんなになってしまったのはどうにかしないと…」
「「それは本当にすいませんでした」」
アメリカ風アットホームないい雰囲気のリビング、だったものがビュォォオオオ、とそこらじゅうからすきま風が吹き込む戦場跡に成り果てていた。ジョニィのタスクによる弾痕がそこいらに散らばっているのも相成って、強盗入られた!?と聞かれるレベルである。というかこれご近所さんに警察呼ばれるレベルじゃないか、とやっとジョナサンが思い当たった。実際遠くからサイレンが聞こえてきている。
「えっこれやばくね?」
「姉弟喧嘩で家破壊しましたって言って警察信用してくれるかな!?」
「ていうかうち銃なかったじゃん!?明らかに銃撃戦の跡になってんだけどどーすんだよ!」
「先に手を出したのそっちだろ!?僕のスタンドにケチつけないでくれる!?」
「とりあえず警察誤魔化しましょう、強盗いる前提で強行突入されてもおかしくない状況ですし、まず弾痕をさらに破壊することで少なくとも殴り合いの喧嘩に見えるように」
「部屋崩壊する喧嘩ってどんなんだろ……うちの子おてんばなんです大丈夫ですからって言えばいいのかなどうしようこれジョージにも顔向けできない」
「ガタガタ言う前に動くわよ!」
ジョリーンがスタンドの拳を弾痕に向かって振り上げた時、ファンファンファン、と迫るサイレンが近づいてきて止まった。止まってしまった。
「これ今更破壊したら逆にやばいわよね…?」
音外まで響くわよ、とジョリーンが固まった。
「…玄関から出て行って、普通に外の片付けから始めます?むしろえっなんで警察来てるの?なんかありました?作戦の方が上手くいくかも」
「………そっちの方がいいかも」
そこまで姉弟が喋ったところで、外から、ピーッガガガッと、マイクのハウリング音が聞こえてきた。
『おい、キミ、何を『ジョースターさぁん!ご無事ですか!!ジョースターさぁああんん!』ちょっうるさっ!』
「「「「………」」」」
四人は無言で顔を見合わせた。