星の旅 作:TT
警察はジョルノの話術と、ジョースター邸襲撃(誤報)の報告を受けて飛んできたスピードワゴンの名でしぶしぶ帰っていった。本当に大丈夫なのか、ジョルノが強盗に脅されているだけではないか、むしろかくまっているのではないか、家の中で何かしら暴行か殺人か起きてるんじゃないか、それともお前達が強盗したのか、少なくともただごとじゃないだろう近所の人たちがものすごい音聞いてるぞと大分しつこく食い下がったが、ジョルノは姉弟喧嘩がめちゃくちゃヒートアップしただけです、ご近所の方々もお騒がせしました、今は二人にも反省させてますので、と押し通して、それで一応なんとかなった。
スピードワゴンの方は追い返すわけにもいかず、とりあえずお通ししたが、半壊以上のリビングの状態を目の当たりにして、「ジョースターさぁん……」と唸りながら卒倒した。その根性に思わず拍手してしまったジョナサン以外の三人はきっと悪くない。まぁ、恐らくスピードワゴンだけでなくエリナ・ペンドルトンとジョースター家家長のジョージ・ジョースター二世も卒倒するだろうと予測がつくくらいには酷かった。たぶん母のリサリサことエリザベスが知ったら兄弟諸ともどうなるかわかったもんではないレベルである。
改めてこの惨状を引き起こしてしまったことに分かりやすく落ち込んだジョリーンジョニィの二人のケツをジョルノは蹴っ飛ばして、きりきり片付けを開始した。ジョナサンはスピードワゴンの介抱ついでに事情を説明するため、スピードワゴンをお姫様抱っこして運んでいった。その時、スピードワゴンは二度気絶した。
「ジョルノ坊っちゃんも覚えてたんですかい」
どうしようもない穴はジョルノが壁を植物にすることでどうにか塞いで、部屋の片付けもある程度終わったところで、落ち着いたスピードワゴンの第一声はそれだった。
「前世の記憶が戻ってないのか、そもそも前世持ちではないのか、って話だったんですがねぇ…」
そうか、強かに育ったなぁと思ってたら、覚えてたのか、とうんうん頷いたスピードワゴンにジョルノは口を開いた。
「なにかいけないことでも?」
「いいや、なぁーんにも、なぁーんにもいけないことなんてねぇよ、ジョルノ坊っちゃん。ただ、あんたがとてもお強くて、芯がしっかりしていなさる方だってことがわかっただけの話ですぜ」
ジョルノの頭を撫でようとスピードワゴンが手を伸ばして少しさ迷って、ジョルノの肩をぽんぽんと叩いた。
「気にさわったなら悪かった」
「いえ、そういうわけでは…」
「ジョルノ坊っちゃん、俺はあんたと前世で会ったわけじゃあねぇが、今生のあんたならよく知ってんだ。外面のいい時のディオですら、ゲロ以下のゴミの掃き溜めみてぇないやーな臭いがしたもんだ……でも、あんたにはそれがない。むしろ爽やかなのさ、ジョルノ……。
きっと前世から、もちろん今生でも、あんたはまっすぐ生きて育ってる。記憶があるないを知ろうが知るまいが、あんたが変わりないってことはよぉーくわかってる。
このスピードワゴン!人を見抜く目と鼻だけは一級品だと自負してんだ、そんな怯えた目をしないでくれ」
ジョルノは苦笑した。
「そう見えますか」
「ジョリーンちゃんにこっぴどくくらいかけたんだって?ジョリーンちゃんも落ち込んでたろう」
「わかってますよ。でも、僕だってショックだった」
す、と目線を外して、ジョルノは呟いた。
「僕ね、前世の時、親に育児放棄されてたんです」
育児放棄って言うよりはもうちょっと軽いかもだけど、と言って続ける。
「母親はちっちゃな僕を一人で放置して、遊びに出掛けてしまうような人だった。よこすのは焼き鳥とか酒のつまみの残りの様なのばっかりで、ご飯が貰えなかったり下の世話もやって貰えなかったり、とにかく放っておかれた。それでも美しい人だったから、再婚?DIOとは結婚してなかったと思うのでなんて言えばいいのかわからないんですけど、まぁ、結婚したんです。その父親が、僕に暴力をふるう人でした」
「坊っちゃん、」
「DIOの写真を、実の父の写真を与えられてて、いつか、ここからこの人が救いだしてくれないかなぁ、とか、思った時もありましたよ」
結局、僕を救ってくれたのは違う人だったけれど、と言って、ジョルノは空を見つめたままだった。
「今生、新しい人生を貰えたとわかったとき、今度は親に恵まれたいと思いましたよ。けど、僕は部屋から出してもらえず、くるのは使用人だけで、父と会ったのは一度きり。こういう扱いをするのはどんな親だろうと思ったら、助けに来てほしいと思った人だった。
助けてほしいと思った人が、僕を放置してたんです。一回、使用人が二日三日こなくて死にかけたこともあったし、ああ、こんなところ、と思いました。安っぽい三流ドラマですら見れる親子ってやつを、僕は体験することも出来ないんだろうと。
……でも、ジョナサンが来てくれた」
ジョルノはスピードワゴンを見据えた。
「ジョナサンは僕に家族と親を与えてくれた。普通の生活を教えてくれた。……普通の弟で、息子でいようと思うのはおかしいですか?」
「ジョルノ坊ちゃん」
今度こそスピードワゴンはジョルノの頭をガシガシと撫でた。
「ジョルノ坊ちゃんの思いはなんにもおかしいことじゃない。坊ちゃんはちゃぁんと今の人生と、ジョースターさんと、家族を大事にしてるんだ。できれば、そのまま生きてって欲しかったよ…」
ガシガシと頭を撫で回すスピードワゴンは、ジョルノから目をそらした。
「前世がどうとか、そういうのを気にせずに、今の俺たちのままで生きてくのがほんとは一番いいんだ……それでも、どうしても前世の因縁に囚われちまったまんまの奴がいる……ディオだ」
「僕には、ジョースターという一族もそう見えますが」
「そうだな、そうなんだろうよ…。でも、ディオが暴れだそうとしなけりゃもちっと平穏だったろうし、ディオがちゃんと人を愛するヤツならジョルノ坊ちゃんがこうしてここにくることもなかった。俺たちは来てくれて嬉しいけどよ、坊ちゃんだって、本当は実の父親と家族でいたかったんだろ?」
「そういうわけでは、」
「さっき自分でそういったじゃねぇか、なぁ、ジョルノ坊ちゃん、お願いだからそんな顔をしないでくれ。俺たちは厄介払いをしようってんでもないし、j黙ってたことを怒ってるわけでもない。ただ、あんたを守りたいと思ってるだけなんだ」
だから、ジョニィは今までにない大人の顔を見せたし、ジョリーンは癇癪を起こしたのだ。
だから、ジョニィとジョリーンは家がこんなになるまで大喧嘩したのだ。
だから、ジョナサンはジョルノを引き取ったのだ。
「だからな、そんな、裏切られたみてぇな、寂しがるみてぇな、そんな顔をしないでおくれ……」
ジョルノには、むしろスピードワゴンの方がそう見えた。
別に、ジョルノだって、何もわからないくそガキなんかではない。ただ、気持ちの整理がつかないだけで。恐らく、リビングではジョリーンも同じような状態になっているのだろうと気をやってしまって、姉という家族からの殺意を思い出してしまって、ジョルノはぶるりと震えた。“自分への殺意をまとった家族”という存在は、どうにもあの養父を思い出して仕方がない。そして、それを怪我を負うより何より恐ろしいと思っているのだと、ジョルノは今日始めてそれを知った。
考えてみれば当然だった。あの養父との問題は、ジョルノが自分で解決したわけではなくて、ジョルノを助けたあの人が解決してくれたのだから。あの養父に自分で勝った訳ではなかった。確か、自分は自分で養父に勝つ前に、寮生活へと移ったのだった。そもそも、事態が落ち着いてから、養父とかかわり合いになることの方が少なかったのもあったのだけれど。幼い身体に刻まれた恐怖とはいえ、新しい生を受けた今でも尚ひきずっていることが酷く悔しかった。
スピードワゴンも同じく何かを考え込んでいるようで、お互いに黙りこくって、数時。
「ジョルノ坊っちゃん、一つ聞いても?」
「…?ええ、どうぞ」
「坊っちゃんは、全部覚えていらっしゃるわけではないと聞いたんですが」
「ああ、ええ、はい。簡単にいうと、死因と、僕と関わった人の顔と名前を。それと、人生後期の記憶が大分曖昧なことになってます」
「そりゃあ……」
うーん、とスピードワゴンは唸った。
「全員?ディオのことは覚えてますよね?」
「そういえばそうですね、実父のことは何故かわかったんですが…。そうですね、例えば4が嫌いな知り合いがいた事は覚えてるんですけど、そいつの顔と名前だけ、ぽっかりわからないんです」
「はぁ…、そりゃまた面白い方ですね…」
「僕をギャングに入れてくれたのは、とあるチームのリーダーでした。そう、確か、スコップ使いの下っぱをうっかり僕が成敗しちまったんで、そのけじめをつけにきた。麻薬嫌いで、芯の通った、言い方は変ですがそう、正義をもった人だった。ここまで覚えてるんです。でも、名前と顔がわからない」
さっき気づいたんですけどね。そう言ってジョルノは自嘲した。
「僕の記憶力が悪いんでなきゃ、ここまでくると、人為的なもののようにも思えてきますが。最期の記憶が無いっていうのもどうにも…」
「言いにくいんですが、ジョルノ坊ちゃん、俺は財団を設立してからずっと前世を持つ色んな人たちの話をまとめてきた。もちろん、今の世界が人為的なものなんじゃないかってぇことも含めてな。だが、皆、自分の最期は覚えてたし、知人を忘れてる人もいなかった」
「本当に?スピードワゴンさん、本当に、忘れてない人はいませんか?」
ふと、ジョルノの目がスピードワゴンを射抜いた。
「案外、人って忘れてる相手のことは、直接会いでもしない限り忘れたままだと思うんですが」
は、とスピードワゴンは体を震わせた。そういえば、チンピラ時代の舎弟、その顔と名前はなんだったか、と、そう思いを巡らせた事があったような。その時は別段気にもしていなかったのだが、ここまで前の記憶を保持しているのなら、逆に覚えていないことが不自然にも思えてくる。
「そうですね、坊ちゃん…もう一度、確認し直してみましょう。最期の話に関してですが、」
言いにくそうにスピードワゴンは唇を震わせた。
「もしかしたら、坊ちゃんの最期が酷すぎたのかもしれません。それで、思い出したくないとか」
「それか、もしかしたら僕が何かの鍵なのか、元凶なのかもしれませんね」
笑って、ジョルノは肩をすくめた。
「だから思い出せないとか…そうでなければいいですが。そうだったら僕は自分を許せないところだ」
それはない、とスピードワゴンが力強く否定した時だった。
『サンライトイエロー…!』
「「ん?」」
リビングから、ジョナサンの声がした。
『ダブル!オーバードライブッ!!』
ガッシャァアアアアン!
とんでもない破壊音と一緒になんだかとんでもない大技が発動されたかのような音がして、二人は固まった。
「はっ…今のはジョースターさんの
嵐のようにスピードワゴンが走り去って、ジョルノはゆっくりまばたきした。
「え?ジョナサン?」