獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
始まりの章
小説でオリ主転生云々ありがちハイハイでも大好き興奮しちゃういっぱい読みたい!と思っていた当時の私よ、お前も数年後転生する運命にあるぞと言ったらどう反応しただろうか。まぁたぶんスルーか、あっ……はい……お帰り下さい…^^ ですませていただろう。
原因はよく覚えていないがたぶん死んだらしい『私』は、次に『私』として意識がはっきりしたときにはポケモンの世界にいた。
ああそうだ、ポケモンの世界だった。すずめやハトじゃなくてオニスズメやポッポが飛んでいるし、牧場にいけばケンタロスがいるし、駐在の警官はガーディを連れていて、ドードリオの雄叫びで目を覚ます世界が地球のそれであってたまるものか。
それはそれはポケモンが大好きで、ずーっとゲームもアニメも漫画も追いかけ続けて、購入したぬいぐるみを抱き締めて、ああ現実にポケモンが出て来ないかなぁと思ったこともある私にとって、その事実がどれだけ天国だったことか。しばらく夢じゃないかと何度かほっぺたをひったたいては痛みににやにやする怪しい幼女になっていたせいで両親にはとても心配された。いやほんとすいません。
尚情緒不安定なのは両親共働きで寂しいからでは、と我が家にガーディをお迎えしたのはつい最近のことであるが、最初に撫で回しすぎたせいかあまり近寄ってもらえず、現在一番なついているのは母親であるというのは余談である。
さてポケモンである。ゲームが出る度にプレイしていた我輩、世代ごとに推しポケがいる。まぁ一貫して出てきたら絶対旅パに加えている推しもいるのだが、推しがいる。推しがいる生活がどれだけクオリティオブライフをあげたことか。お金を稼ぎ、家に帰り、ゲームの電源を押し、あるいはテレビをつけてアニメを見、もしくは紙をぱらりとめくれば出てくる推しをどれだけ愛でただろうか。
そしてここはポケモン世界。自分の足で推しに出会うことができるし、なんなら仲間にしてバトルもできる。別の地方だっていけるし、ジムへの挑戦もバトル施設への挑戦もなんだって出来る。
それに気づいてしまったのは、背中にもたれかかって寝ているガーディ様を起こさぬ様、細心の注意を払って薄型テレビで我が地方のリーグ戦トーナメントを見ていた時だった。
ガーディ様は気まぐれにこうして寄り添ってくださるが、騒げば起きるのはもちろん、ほんのちょっと動いても起きてしまうし、そうなると不機嫌になって日に一度か二度やってくる撫で撫でタイムも無しになってしまう。
普段懐かれていない身としては貴重なふれあいの時間をなしにされるのは随分堪えるもので、自然とガーディ様のご希望に沿うよう頑張らざるを得なかった。そんな話を母にしたら微笑ましいものを見る目で見られたのは解せなかったが。普段懐かれているからといってずるい。
そして、私はそんなガーディ様と生活していたにも関わらず、後外でも頻繁にポケモンに直に触れあっていたにも関わらず、どこか夢見がちな子供だった。
当たり前だ、ここは、虚構の世界だったのだから。
ふわふわと浮き世がちで平気で危険に突っ込み、ポケモンに触れる手はどこかわざとらしく、定期的にほっぺたをひっぱたくか思いっきりうでをつねる。
痛いから、夢じゃない。それを定期的に確認しないと不安でしかたがない。そのせいで常に頬はりんごのようにほんのり赤く、腕の内側のところはつねりすぎて常に青黒く染まっていた。
なのに、なのにだ。その、熱狂のリーグ戦終盤、『かえんほうしゃ』と『ハイドロポンプ』がぶつかりあって爆発した光が目を焼き、目を瞑った瞬間、ああこれは現実なのだ、とすとんと納得したのである。そして、そう思った時、背中のあたたかさがやけに重く感じたことは鮮明に覚えている。そして、それ以上にどれだけ心が踊ったことか。
ここは画面越しの世界ではない。私の三次元である。
そんな『生』を自覚したばかりの私が、当時齢5にして、最も身近な『推し』を得ようとして、私にとっての現実の一歩を踏み出そうとしてしまったのは、突拍子もないことではあったけど、必要なことであった、とは、今でも思っている。
私の生まれた場所はカントー地方、マサラタウン。そう、マサラタウンである。レッドとグリーンという二人の伝説達の出身地だ。サトシとシゲルはどうやらいないらしいので、ゲームよりの世界なのであろう。それにしたってマサラタウンに住んでいてくれた両親には感謝だ。バトルの時、マサラタウンの某、と名乗れるのはとてもとても嬉しいことである。
ちなみにレッドは殿堂入りした後随分前から行方不明で、グリーンは隣町のトキワシティ、トキワジムに就任していたがもういない。ほんの少し前に武者修行に出るといっていなくなったそうだ。カントー・ジョウト地方のチャンピオンはワタルで、長年チャンピオンをしているが、未だに強さは衰えず君臨を続けている。ホウエンでの事件の記憶はまだ新しいにも拘らず、シンオウ地方が何やら騒がしくなっている、とはテレビのニュースでやっていたことだ。
トレーナーのお供はポケギアからポケッチに移り変わって数年は経っている。そして、父親のパソコンを覗き見した限りではSNSは黎明期。簡単にいえば、前世のガラケー世代だろうか。
なんともはや、微妙な時代である。恐らくそうたたずにシンオウ地方で何かが起きて収束し、そしてイッシュで何かがおこるのだろう。そのうちライブキャスターが流行るのだろうか。
テレビで見た歴史と近代の事件は記憶にある限りでは赤緑から金銀、ルビーサファイアをなぞっているのだから、きっとそうだ。そのうちダイヤモンドパールもなぞるのだろう。メガシンカやダイマックス、Z技はどうだろうか。テレビで見かけたことはないが、あるのだとしたらバトルの幅は恐ろしく広がっているはずだった。
閑話休題。
まぁ、その。可能性がいくらでもあるとわかってしまったから。
何でもできると気づいてしまったから。
だから、私の、私だけのポケモンが欲しくなってしまった。
私だけがわかる、私の最初の一歩が欲しくなったのだ。
思い立った私は色々と準備を始めた。
まずはモンスターボールの入手からだったが、早速そこでつまづいた。
モンスターボールが貰えなかったのである。ちょうど誕生日が近かったので、親に誕生日プレゼントでねだったら、もう少し大人になってからね、そんなこというとガーディが寂しがるわよ、と言われた。実際ガーディはその日近寄ってきてくれなかった。
入り浸っているオーキド研究所でも親御さんの許可がないのなら、と首を降られてしまって、貰うことは出来なかった。
ならば買おうと思ったが、トキワシティのフレンドリィショップのモンスターボールには対象年齢10歳以上とかいてあって、マサラとトキワ両方を遊び回っていた私の年齢は両方の住民に知れわたっていたから購入は出来なかった。ちょろちょろとそこらを遊び回っても落ちてもいなくて、結局モンスターボールの入手は諦めた。
ならば作戦その2。
この子めちゃくちゃ懐いて私についてきたの!離れてくれないの!飼ってもいい?作戦である。推しと出会えるかはわからないが、トキワの森でのルールを破らなければあそこで遊んで怒られることはなかった。道から大きく外れなければ危険も少ないだろう。
というわけでガーディ様のポケモンフーズをくすね、長袖長ズボンできっちり武装した私は意気揚々と家を出た。
本当はポケモンに相対するのだからガーディ様についてきて欲しかったけど、ガーディ様はガーディ様なので起きてもくれなかった。あいつ中身ニャースかなんかが入ってるんじゃないのか。両親が帰ってくるのは夕方だから、それまでに家に戻ろうと決めてトキワの森へと私は駆けた。
幸いに、というか、誰にもそれを咎められることなく私はトキワの森の中へと到達していた。虫取り少年の皆とはよく遊んでいたから、いつも通り遊びにいくのだと思われたのだろう。念のためと持ち出したサバイバルに役立ちそうなものと、むしよけスプレーと、一応持たされているポケッチを眺めた後、辺りを見回して誰もいないことを確認してから、私はそっとトキワの森に敷かれた道から外れた。
草むらには入ってはいけないよ。
森に入ったら道から外れてはいけないよ。
どうしても通りたい道が草むらで塞がっていたら、ポケモンを持っている誰かといくんだよ。
でないと、ポケモンが出てくるからね。
なら───道から外れれば、ポケモンに出会えるはずだった。
トキワの森は、ゲームの世界では序盤のフィールドで、レベルの高いポケモンは出て来なかった。極端な話、ここはガラル地方のワイルドエリアではないのだ。ポケモンほんとは怖い話とかに出てくるようなキテルグマなんかもいない。だからきっと大丈夫だろう。出てくるのは虫ポケモンとかポッポとかピカチュウとか。ゲームではいなかったけど、目撃情報のあるニドラン達はちょっと要注意。毒をもっているから。
そんなことを道が見えるギリギリまで離れながら思って、そっと小さな広場のようなその場に座り込む。背中の木には石で道の方向を刻み付けた。
自分からほんの少し離れた所にポケモンフーズをちょっぴり盛って、待つ。
これで出て来てくれるかはわからなかった。
本当はきのみとかを積み上げたかったけど、きのみは手に入らなかった。
待って、しばらくして。
ガサガサと音がした時は心臓が跳び跳ねたかと思った。
座った状態からそっと膝をたてて、いつでも立ち上がれるように体勢を変える。
しげみから顔を出したのはピカチュウだった。いくらトキワの森での出現報告があるとはいえ、そうとう珍しいポケモンのはずだ。一人で相対した始めての野生のポケモンがピカチュウとは、マサラの子供の運命だろうか。
すんすんとにおいをかぎながら辺りを見回して、私を見てびくっと震える。
後退りしかけたその子に向かって、にっこり笑ってポケモンフーズを指差した。
しばらく動かなかったが、指差したまま動かない私に少しだけ警戒を解いたのか、私を見据えたままゆっくりとポケモンフーズに近づいていく。そして、ひとしきり匂いを嗅ぎ回って、一口。
目を見開いたその子はパッと顔をあげて、いいの!?というような顔をした、と思う。いいよ、と頷くと、目を輝かせてポケモンフーズをがっつき始めた。
やがて食べ終わったその子が恐る恐るこちらを見るので、いくらかのポケモンフーズをそっとその子に向けて転がしてやる。何度かそれを繰り返して、やがてピカチュウは私の側までやってきた。
「あのね、ピカチュウ」
耳をぴくりと動かしたものの、ピカチュウは私の手からポケモンフーズを食べるのをやめなかった。好奇心旺盛なのか、それともお腹がすいていたのか。なんだかずぶとさを感じるピカチュウだった。
「私ね、あいたいポケモンがいるの」
それを聞いて、ピカチュウはゆっくり顔をあげた。
「キャタピーに会いたいの。おくびょうだって、なまいきだって、やんちゃだってどんな子でもいいの。キャタピーに会って、お友達になりたい。だから、あのね、もし、ちょっとでもご飯がおいしかったなって思ってくれたら、それで、ほんのちょっとでも気が向いてくれたなら、お願い、ピカチュウ。私をキャタピーにあわせて」
第一世代から、キャタピー、トランセル、バタフリーと、ずっと推しだった。ポケモン赤でわたしが始めて進化させたポケモンだった。その後のシリーズでも出てきたら必ず捕まえて仲間にしたポケモンだった。
アニメで出てきたときは大喜びして、ストーリーの進行と共に号泣して、総集編が組まれた日にはテレビにかじりついた。ぬいぐるみが発売されればかき集め、フィギュアが出れば飾った。
オタクの“推し”という言葉は、気軽に使うこともあれば、激重感情をその二文字に押し込んで使うこともある。
残念ながら私がキャタピーとその進化系たちに向ける感情は後者だった。
なので、どうしても、どうしても、始めてはキャタピーがよかった。
これが例えば別の地方のポケモンだったら諦めていただろうし、例えばカントーでもミニリュウとかの生息地がマサラから遠くで見つけづらいポケモンであったなら、やっぱり諦めていただろう。
でも、カントーでのキャタピーの生息地はトキワの森が主だった。
しかも、余り珍しくもない。虫取り小僧の皆さんだって何匹か捕まえているし、なんならトランセルだって見せてもらったことがあるし、触らせてもらう事だってあった。
目の前に最上級の条件の推しの握手券がぶら下げられて、自分はそれを購入できる状態にある。
となれば買うのがオタク心理ではなかろうか。
とはいえ、相手はピカチュウだ。キャタピーへのつてがあるかというと結構微妙なところだと思う。
「でも、キャタピーのお友達がいなかったら、他のポケモンでもいいから、お友達、紹介してくれる?明日、同じくらいの時間にまたこれを持ってくるから、ね?」
もう一度手のひらにポケモンフーズを出すと、チャァ、と鳴いてピカチュウはポケモンフーズを貪った。
次の日、声をかけてもやっぱりうんともすんとも言わなかったガーディ様をおいてトキワの森にいくと(普通ガーディって散歩好きじゃないのか。母が散歩に行くときは滅茶苦茶尻尾振ってるのに)、既にピカチュウが待ち構えていた。
めちゃくちゃ笑顔でジーンズの裾を引っ張ってくるあたり、慣れるのが早すぎというか食い意地がはっているというかなんというか。
昨日の空き地に案内されて、さぁさぁ座って、と促されて腰をおろす。
「ピカ!」
にこにこ笑いながらピカチュウが茂みに声をかけて、おずおずと姿を現したのは、キャタピーで。
初めて見た野生のキャタピーに、湧き上がる感動と、騒ぎまわりたくなる衝動をどうにかこうにか押し込めてにっこりと笑う。
「ありがとうピカチュウ!はじめまして、キャタピー!」
きゅわ、と鳴いたような気がしたのもつかの間、キャタピーは慌てたように茂みへと引っ込んだ。驚かせただろうか。声が大きかった?どうしよう、と思ったとき、脳裏に浮かんだのはガーディだった。最初に距離を詰めすぎて、母ほどにはなついてくれないガーディ。もし、キャタピーもそうなってしまったら。
取り出しかけていたフーズを持つ手がぴたりと止まる。
そわそわしながらそれを待っていたらしきピカチュウが、キャタピーが隠れてしまった茂みと私を交互に見やってため息をつくと、茂みへとダッシュした。
「あっ」
やっと繋ぎをつけれたピカチュウまで、と思ったのも一瞬のことで、ピカチュウは頬をぱりぱりさせながらキャタピーを抱えて戻ってきた。キャタピーは最初はびっちびっちともがいていたが、私と目が合った瞬間目をそらした。
「あの、ピカチュウ…?うれしいけど、嫌がる子を無理やりには、」
「ピカチュウ!!ピカ!!」
ピカチュウが違うもん!と言わんばかりに首を振り、キャタピーをおろすと、こいつ!こいつが!と指をさす。今度は逃げなかったキャタピーが、申し訳なさそうに縮こまった。
「えーっと、いやではない?」
キャタピーが小さく頷く。
「わたし、怖かった?」
キャタピーは首を振った。
「人間がこわかった?声が大きくてびっくりした?急に鞄に手を入れたから?」
それのどれにも首を振られて、ううん?と私も首を傾げた。
くいくい、とピカチュウに袖を引かれて、何?とそちらを見ると、ピカチュウはゆっくりキャタピーを指さす。
「キャタピー」
その次にピカチュウは頬っぺたに手をあてて、くねくねと体を動かした。たまに顔を手で隠して、ちらりとこちらを見るジェスチャーもはさんで。それでやっと合点がいった。
「恥ずかしかった…?」
「ピカ!」
正解!と丸を作ったピカチュウは、フンス、と鼻を鳴らして両手をこちらに差し出した。思わず笑ってしまって、鞄の中からポケモンフーズを取り出して多めに盛ってあげた。
昨日、さすがに毎度ガーディのご飯をくすねるのはな、と思っておこづかいで一番小さいポケモンフーズの袋を買ったので、量はたっぷりある。やったぁ、と飛びついたピカチュウの頭を、思いついてそっと撫でる。ピカチュウは逃げなかったが、食事の邪魔をするなと言わぬばかりの目で見られたので撫でるのをやめた。後でもう一度撫でさせてもらえないか聞いてみよう。
「キャタピー」
声をかけるとびくびくと震えながらこちらをみたキャタピーは、なるほど、言われてみれば確かに色鮮やかに見えた。虫ポケモンの表情は一見わかりにくいが、興奮すると甲殻で覆われていない部分の体表が鮮やかに色づくのだと虫取り少年に聞いたことがある(実際は照れるとやわらかいところが明るくなるの!とかそういう感じの話だったが)。戦っている最中の虫ポケモンたちは普段より色鮮やかできれいだったのを見たことだってあった。
つまりは、本当に恥ずかしかっただけ、らしい。
「私ね、キャタピーのお友達が欲しかったの。できれば、将来一緒に旅に出てくれるお友達。
ね、キャタピー。私とお友達になってくれる?」
そっとポケモンフーズを持った手を差し出すと、キャタピーはその言葉をかみしめるようにぎゅっと目をつぶった。鮮やかだった体色がさらに色鮮やかになる。額の角のところなんて真っ赤っかだ。
そうしてキャタピーはふるふると首を振って、目を開く。でも、ポケモンフーズじゃなくて、違うものを探すように目線をすっとずらした。目線をたどると、何も持っていない方の手だった。
「キャタピー?こっち、何も持ってないよ?」
そっちがいい、と頷くので、何も持っていない方の手を、期待で震えるのを抑えて差し出した。
ゆっくり歩み寄ってきたキャタピーが、ぐい、と頭をてのひらに擦り付けた、その瞬間を私は生涯忘れないだろう。
私の目の前には、何よりも愛しいと思っていた種族のうちから、その他大勢のキャタピー達の中からただ一匹、私との交流を選んでくれた子がいる。それが、何よりうれしかった。
泣きそうになるのを抑えて、そのままをキープすると、ぐい、ぐい、と頭の動きが地面に押し付けるようなものに変わったので、それにあわせて腕をおろす。
目が合ったな、と思って、その後、笑ってくれたな、と思った。思ったときには、きゅう、と手のひらにひんやりしたものが吸い付いていた。それはゆっくり動いて、また一つ、新たに手のひらに吸い付く。じわじわと距離を縮めてくれるキャタピーに、ああ、キャタピーの足は吸盤状だから、こんな感触がするかもしれない、と思って、目を見開いた。かもしれない、じゃない。
キャタピーが、私の体にのぼろうとしてくれている!
急に表情を変えた私に驚いたのか慌てておりようとしたキャタピーをすくい上げて、そっと胸元に抱き寄せた。
もがくような動きをしたキャタピーと、一瞬で戦闘態勢に入ったピカチュウに首をふる。
違うの、違う、と出た声はもはや震えて言葉になっていなくて、涙まじりだった。
「ごめんね、びっくりしたね、今のもごめんね、あのね、でもね、あの、あの、あのね、私ね、」
ひくひくとしゃくりあげながらそっとキャタピーに触れた。もがくのをやめたキャタピーがじっとこちらを見上げている。ピカチュウは一転して心配そうな顔になって、戦闘態勢を解いていた。
「嬉しいの、あなたが歩み寄ってきてくれたの、すごい嬉しいの。
ごめんね、驚かせて、でも、私、昔から、本当にずっとずっと昔から、キャタピーにあってみたかったの…!」
わっと泣き出した私に何も言わずキャタピーはそのままでいてくれた。ピカチュウだって、まだポケモンフーズは残っていたのに、そっとすり寄って側にいてくれた。
尚、ずっと先の未来、私が泣き出すたびに大丈夫?バタフリーいる?と言わんばかりに腕の中に収まってくるバタフリーが誕生したのは、恐らくこの時のことが原因だったと思う。